狼は牙を隠してそこにいる 3
その日、俺は前に約束した通りに冬季と一緒に街に降りていた。
――暴れよう、という誘いに乗って。
うずうずする、わくわくする。
体中が疼いてる。俺は、喧嘩が好きだ。
スカッとして、やるときは思いっきり暴れてしまうのだ。
『赤狼』と呼ばれた俺と、『銀猫』と呼ばれた冬季。
俺たちは、周りから見ると、戦闘狂っぽいらしい。それにしても通り名とか本当にBLでよくあるよね!親衛隊隊長が実は生徒会の連中が探してた奴だとか、王道だと転入生がそうだし。通り名とかあるって何かわくわくする。
「一雅、楽しみだな」
「うん、凄い楽しみ。ついでに萌え展開探すよ、ばっちりと!」
冬季の言葉に、俺はわくわくした表情を隠せないままに頷く。
ちなみに猫田君の恋人の鎌田君はFクラスが怖いのか縮こまってる。
全く、もっと根性見せないと猫田君他の奴にとられちゃうぞって感じ。
奪略愛も、結構読むよ、俺。
浮気攻から健気受を奪うとか読んでてなんかいい。
でも現実であんなアホな浮気攻に友達が浮気されてたら俺ブチギレルかなー。どうでもいい奴はどうなろうと知ったことじゃないけどね。
「冬季と一雅と一緒に暴れられるとか、俺も楽しみだ!」
俺の隣をなぜか陣取ってニコニコしているのは、紫苑である。あと他にもFクラスの連中もひきつれているよ。この中で俺と鎌田君はアウェーなのだ。俺らだけFクラスじゃないし。まぁ、一番アウェーは鎌田君だろうけど。
「で、冬季、どうすんの? 誰に喧嘩うる?」
「俺をカツアゲしてこようとしたチームつぶっていっただろ。それにしても一雅は昔の恰好しているし目立つな」
「冬季もね。わざわざ銀に染めているし」
「こっちの方が楽しいだろ? 昔を思い出すし」
「だな」
「それに銀に染めたらゆきがすげぇ可愛い事言ってたんだよな」
「……冬季、もしかして一戦やってきた?」
「おう。寧ろ二戦やってきた感じだ。ゆきは可愛い」
「うおおおお、見たかったああああ!!」
「誰が見せるか。可愛いゆきを見せるわけないだろうが」
俺の内心、うおおおおだよ。確かに今日の冬季なんか機嫌いいなぁとは思ってたけど、やってきたのか。凄い、見たかった。見せてくれないのはわかっているけど、見たかった。
それにしても会長様の可愛い反応か。会長様は冬季のこと凄い好きだからな。冬季のことをかっこいいって口にしたのだろうか。そして我慢できずに襲い掛かる冬季。いいな、見たい。冬季に内緒で覗き見とかしたら本気でぶち切れられる事はわかっているし、俺も友人の嫌がることしたいわけではないから7自重するけどさ。
さてさてそんな会話を交わしながら俺たちはマイペースに夜の街を進んでいく。
で、冬季をカツアゲしようとしたチームの元へ直行した。
彼らは俺と冬季の姿に襲い掛かってくる。俺たちはそこそこ有名だし。そして乱闘に突入する。
拳をふるって、俺は高揚する気持ちを感じた。
基本的に俺は自分で温厚な性格だと思っている。だけど、こうして喧嘩をすることには興奮する。暴れられるとわくわくして、すっきりする。うん、俺、普通に一般クラスにいるけど、こういう自分の一面を感じると、Fクラスの方が性に合っている気がする。
「楽しいなぁ、『赤狼』」
「だねー、『銀猫』」
俺も冬季も特に夜の街で本名を露見させていたわけでもないため、互いにそんなことを言いながら背中合わせで喧嘩をする。冬季と一緒に、こうして喧嘩をするのは何だか楽しい。高校入学してから喧嘩なんてほぼしていなかったけど、こうして中学時代のように喧嘩をするのはわくわくする。
気づけば、俺たちとFクラスのメンバーたち以外は地面に沈んでいて……って、鎌田君、ノックアウトされてるし! 気にしてなかったけど、早々にやられちゃっていたらしい。でも思ったより怪我はなさそうで一安心。猫田君の恋人がボコボコにされてたら猫田君は落ち込みそうだもんね。良かった良かった。
「鎌田君、大丈夫ー?」
「うぅ……だ、大丈夫だが。も、もう終わったのか?」
「そうそう、もう終わったよ。鎌田君ってば、弱いねー」
「弱いって、お、俺は!」
「まぁ、鎌田君が強くても弱くてもいいや。でも猫田君には心配かけないようにね。あと、俺らが弱くないってことは分かったー?」
鎌田君に手を伸ばして、起き上がらせる。
「あ、ああ」
戸惑ったまま、鎌田君は答えた。
そんなこんなしていたら紫苑が俺に近づいてきた。
「一雅! やっぱ、一雅の喧嘩は見ていていいな!!」
「そうか?」
「ああ。やっぱ、俺一雅が欲しい!」
「……それは却下な」
俺は相変わらず戯言を言い始める紫苑を適当にあしらう。
「よし、俺今から萌え探ししてくる!!」
「一雅、俺も行く!!」
「……まぁ、勝手にしろ」
俺はついてくるといった紫苑にそう言い捨ててその場を後にするのであった。
end