彼は思った事を告げているだけです。
「親衛隊は駄目な奴らだ! こいつらを孤独にさせる! 親衛隊さえいなければきっとあいつらも孤独にはならない!」
さて、そんな事を言い出しているのは、いわゆる王道学園と呼ばれる閉鎖的な学園である。男子生徒しか存在せず、全寮制というその場所では、同性愛が蔓延していた。その学園に転入してきたぼさぼさ頭の生徒は、生徒会や風紀その他の親衛隊もちの人気生徒たちと仲良くしている。
その結果、親衛隊もちの人気者たちから話を聞いて転入生は怒りに燃えていた。
彼は友達を苦しめる。親衛隊なんていう変な存在がいるからだ、親衛隊さえいなければあいつらは幸せになれる。孤独になんてならないと思っているのである。
「……えーっと、親衛隊がもしいなかったとしても生徒会や風紀の皆様も、他の人気者の人たちも孤独なままなんじゃないかな?」
「なんでそんなことを言うんだ!」
「いや、だって逆に人気者の皆様って、なんというか人を近づけないじゃんか。僕何て落し物されたから落としましたよって言ったら、なんか近づこうと思ってわざとやったんだろみたいにいわれて睨まれたよ? どうやって物を落とさせるんだって意味わからなかったけど」
転入生に対して疑問を口にしているのは転入生の同室である背の小さな眼鏡をかけた地味な少年である。
「え」
少年の言葉に転入生は驚いた声をあげる。
親切にしてそういう態度をされたらと考えたのだろう。そんな転入生に少年は続ける。
「その経験から僕は思ったんだよ。あの人たちは一般生徒が親切心で声をかけてもそういう目でしか見てないんだって。親衛隊がなくなったとしても皆様がそういう下心ない人もいるんだってわかって接しなきゃどうしようもないよ。親衛隊がいるから孤独だっていうけど、いなくてもきっと孤独だよ」
少年はばっさりいう。少年には、学外にちゃんと異性の恋人がいた。恋愛対象も男ではなく、女である。だから同性愛にそういうものもあるんだなーと少年は受け入れているけれども、男を好きになる感覚はよくわからない。
幾ら、綺麗な顔をしていようとも、恋愛対象ではない。
「……それにさ、異性愛者の人にまで皆様は牙を剥くというかさ、『俺に媚を売っているんだろ』とか、『抱いてほしいんだろ』とかいってくるんだよ? 君、女の子の方が好きでしょ? なのにそんな言われたらどう思う?」
「……嫌だな。それは、あいつらも、悪い」
親衛隊がいなければ孤独になんかならないと叫んでいた転入生は、少年の言葉に納得を示す。転入生は、今の所異性愛者であった。時々、友人たちにドキリとすることが増えているので同性愛者への道に突入しかけているともいえるかもしれないが。
「だよねー。だからさ、まず君は皆様の孤独をどうにかしたいっていうなら親衛隊をどうこうするとかより、そっちの方が重要じゃない? あとね、僕が主観的に感じた事なんだけど、皆様って親衛隊に対する態度酷いよね」
「ひどい?」
「うん。俺を好きなんだから何してもいいんだって態度で、セフレ扱いしたりしているじゃんか。そうやって他人をものみたいに扱っているから、人がよってこないんじゃない? 君は皆様を友達だ―っていっているけど、友達なら、こう……人を物みたいに扱うとかさ、利用しているとかって、どう思う?」
「……酷い、奴だと思う!」
「だよね。あと親衛隊ってさ、過激派の連中の親衛隊たちって基本的に酷い対応されたのちああなっているのあるみたいなんだよね。穏健派の親衛隊って、親衛隊もちの方から親衛隊に歩み寄っているっていうのがあるんだよね」
「へぇ……」
転入生、感心している。人気者の友人たちは転入生に一切そういう後ろ暗い事は話していなかった。
転入生がこうして素直に少年の話を聞けているのは、少年が反論するとか、転入生を否定するとか、そういうことをせずにただ自分の意見をのんびりいっているからというのもあるだろう。言い方次第で、人の言葉を受け入れられるか、受け入れられないかというのは変わるものである。
「あとさ、親衛隊ってね。一応利益も人気者の皆様に与えてるのわかっている?」
「利益?」
「うん、そう。利益。皆様って凄い狙われているんだよ。色々な意味で。好き勝手にしていたのもあって恨みもかっているから……。そういう人気者の皆様を狙っている危ない輩から皆様を守ったりとかしてくれているから、ある意味……親衛隊いなくなったら危険だと思うよ」
「……そうなのか」
「うん。君も、友達なら皆様に忠告とかしたほうがいいと思うよ。君の言葉なら皆様もききそうだしさ。あと本当に忠告も皆様が聞かないっていうなら友達やめて離れた方がいいよ。きっと君も危険になるよ」
「………そう、だな。俺頑張る!」
「いや、でもね。僕の主観的な意見だから他の人にも意見聞いてね? 皆様と僕の意見を君は聞いたでしょ? だったら他の人の意見も聞いてから何が正しいか自分で判断して動いた方がいいよ。僕が考えていることも間違っているかもなんだから」
なんだか少年の言葉を全て受け入れてしまっている転入生に少年は思わず忠告をした。
少年は人の話を信じすぎてしまう転入生の事を心配になった。
「……うん、そうする。ありがと! 俺、頑張る」
「うん、頑張れ」
転入生の宣言に、少年はそうのんびりと答えるのであった。
――――彼は思った事を告げているだけです。
(少年は思った事を告げ、転入生はそれを受け入れたのでした)