籠の中の鳥は学園に転入する。
籠の中の鳥はかく思うの続き
「あのさ……、僕が幾ら外に出た事なかったとしても、転入初日って言っても入り口までいって帝と落ち合うだけでしょ? ここからあの門までぐらい一人でいけるよ、僕」
「……ダメです。緋色様。貴方は帝様がどれだけ貴方様を大切に思っているか知っているでしょう? ここからあそこまでとはいえ、緋色様は今まで外に出た事もなかったのですから不安にはなります。そもそも緋色様に何かあったら……あの方どうなるかわかりません」
あー……と思いながらその言葉を聞いている僕は、伊集院緋色。昔は苗字は違うものだったのだけど、もう帝と同じ苗字になっている。帝っていうのはあいつの名前。僕を外に出さないようにして、僕に独占欲を抱いている奴。で、何で僕が外に出ているかというと、帝の世界を知りたい、学園生活を一度でいいから送りたいといった僕の願いを帝が叶えたからだ。
……ヘリで屋敷から通っていたくせに、生徒会長権限で僕と生活するための二人部屋の寮室を急遽整えたらしい。いや、知ってたよ。帝が僕を普通に転入させるつもりもないって。というか、あの帝が僕と誰かを同室にするわけもないし、僕を一人にするわけもないし。うん、知ってはいたけど、あいつ本当僕の事好きだなーってただ思う。
知識としては知っているし、画面越しに外の世界を見たりはしていたけれど、外にいざ出てみると色々不思議な気分になる。僕の世界はあいつと、あいつが僕の世話をするために許したもの達しかいなくて、うん、正直人が一杯いるんだなって車の中から外を見て事実としては知っていたけれど不思議な気分になっていた。
あいつの秘書の猿渡さんと共に門まで向かう。……っていうかさ、車から降りて門までって距離そんなないのにさ、どれだけ過保護なんだと思わずにいられない。
「緋色!!」
しかもついた瞬間あいつきたし、別に一人で良かったと思うんだけど。
飛びつかれた。
「制服姿の緋色もいいなぁ。いつもの普段着もいいけど、この緋色もまた……。はっ、でもこんな緋色を見たら絶対誰かが狙う。俺もう寮室いって緋色食いたい」
「……帝、離れて。あと僕は、授業を経験したりしたいから、それは放課後」
男同士だが、肉体関係というものが僕と帝には普通にある。帝は僕が大好きでたまらないし、僕も別に帝の気持ちが嫌なわけじゃない。寧ろ心地よいとさえ思っている。
「緋色は俺の隣の席だから!」
「……調整したの?」
「当たり前。緋色は俺の隣以外ありえない。緋色は俺の物なんだから」
「うん。まぁ、僕は帝のものだね」
「だから、緋色。緋色が外を見たいっていうから出したけど、俺を知りたいって可愛い事言うから許したけど、でも、緋色は俺のものだからな?」
離れてって言ったのに帝は僕から離れず、寧ろ顔を近づけてそんなことを言われた。怖い目してるなぁ。僕がこれで帝のものなんかじゃないなんていったら速攻監禁コースだなと呑気に思いながらも苦笑を浮かべる。
「あのね、帝。僕は帝のものであることをとっくの昔に受け入れているよ? だから心配はいらないよ」
帝しかいなかったから、帝を見ているとかそういうのではないと、自分で思っている。寧ろ帝じゃない人に閉じ込められていたら僕はさっさと抜け出していたと思う。というか、抜け出そうと思えば抜け出せるのに抜け出さなかったのが僕なのだ。というか実際許可を取らなくても僕は学園にこっそり通うぐらいは出来る。でもしなかったのは、僕は帝の許可を得てからしか外に出る気がなかったからだ。
帝は心配性で、僕の事をいつも過大評価している。僕を見たら皆が惚れるだとか、僕が他の所にいったら嫌だとか。最初に僕が屋敷から出れなかったのは家の事情があったからだけど、それが落ち着いてからも外に出れなかったのは、帝が僕を外に出したくないと言い続けたからだ。
というかさ、僕だって嫌いな相手からの独占欲ならもっと嫌がっているよ? 外に出たいというのは興味もあるし、帝の世界を見たいというのもあるけど、帝を安心させたい気持ちも少なからずあるのだ。
僕は外に出ても、帝の傍から離れないんだよって。
こんな風に僕を籠の中のように閉じ込めてくる相手を安心させたいなんて感情が出てくる時点で、僕が帝に嫌悪感を欠片も抱いていないていう証なのだけど、言っても帝は僕がどこかいくんじゃないかって心配している。
「緋色、可愛い」
なんかキスされた。
……屋敷で散々されているし慣れているから別に嫌でもないけど、こいつは外でもところ構わずこんな感じなのだろうかと思った。事前情報として猿渡さんとかに学園での帝がどんな奴か聞いているけど、正直それは誰だ? みたいに僕はなった。
だって平等で完璧で不遜で、カリスマ性抜群の生徒会長。
誰も寄せ付けない孤高の存在で、人気者なのに誰のものにもならないとか言われてるらしい。
こいつのどこが孤高なのだろうか。あと学園では冷静沈着な感じらしいけど、僕の前だと帝はアホだ。学園でも僕に接する態度のままだと、色々騒がれそうなのだが、帝は気にした様子もない。
「……帝様、時間なのでいってください」
猿渡さんにそう言われて口を離した帝は僕の手を握って、「わかっている」といって歩き始めた。
……嬉しそうだ。心配症で僕を外に出したくない癖に、僕と一緒に手をつないで歩けることが嬉しいみたいで、笑っている。
職員室に向かうまでの間散々、二度見いや、四度見ぐらいされた。
しかし帝に声をかけられないのか、それとも自分の中の帝像とかけ離れすぎているのか驚愕に声をかけられないみたいだ。そのまま職員室について、また職員室も騒然とした。
「い、伊集院!? お、お前本当に伊集院か?」
「俺は俺だが。それより、近藤、緋色は転入生だ」
「緋色って、その隣の?」
「緋色の名を呼ぶな」
帝、教師を睨むな。そして教師を呼び捨てでいいのか? 僕は学園というものに実際通った事はないが、学園ものの物語は結構読んでいた。あと話を聞いたりはしていた。教師にはもっと態度をちゃんとすべきではないのか。
「そ、そいつは、伊集院という名だったが、お前の……」
「ああ、緋色は俺の嫁だ」
紹介それなんだと思って僕は呆れた。いや、まぁ、そういうものなんだろうけど、事実。でも海外で挙式するって帝は言い張ってて、まだそれしてないだろと言いたい。
「よ、よめえええええええええ?」
そして職員室はさらなる騒ぎに包まれたのは言うまでもない事だ。
職員室の騒動を鎮圧するのにも時間がかかるのであった。
―――籠の中の鳥は学園に転入する。
(閉じられた世界から一歩、外に出る)
僕
伊集院緋色
ようやく外に出る。帝の事は普通に受け入れている。
あいつ
伊集院帝
僕が大好きすぎてちょっと頭のおかしい人。
猿渡さん
帝の秘書の一人。
学園に転入したけど職員室についた段階で色々大変。
続きも書く予定です。