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天使と寵愛者

 ある閉鎖された学園にそれは美しい少年が居ました。

 黒い艶のある髪に、中性的な顔。真っ白な肌に、大きな瞳。

 音楽科に通っていた少年は、美しい歌声を持っていました。

 歌う姿はそう、まさに天使のよう。

 麗しい外見に、美しい歌声。

 少年は誰からも愛されている、天使と呼ばれた存在でした。

 皆が彼を見て笑います。

 皆が彼に優しくします。

 いうなればそうです。その学園は、天使と呼ばれた彼にって楽園と呼ぶにも等しい、居心地の良い場所だったのです。

 でも、あるとき、楽園に新たな訪問者が現れました。

 金髪の輝く髪に、女とも見れる顔立ち。正義感が強く、優しい少年。

 というのが、表向きの彼でしたが、少年は愛されたがりの性格をしていました。

 美形に愛される事を望み、ちやほやされる事を望み、、誰もが自分を見つめる事を望み、自分が一番である事を望んでいました。

 少年は許せなかったのです。

 自分以上に愛されている存在が居る事を。

 そうして、その少年はあらゆる手を使って、天使を追い詰めていきました。

 時には嘘を吐き、泣き真似をし、味方をどんどん増やし、天使の傍から徐々に人が消えていきました。

 天使を愛していた楽園の者達は、天使を見なくなりました。

 天使を信じていた楽園の者たちは、少年の嘘に騙されました。

 少年の計画は順調に進みました。

 誰もが、天使を疎ましく思っています。

 誰もが、天使をないがしろにします。

 誰もが、天使を苛めています。

 天使は、おとされました。

 もう、美しい歌声を響かせ、優しい笑みを浮かべる事はできないのです。

 翼を無くした天使は美しく羽ばたく事はできません。

 天使にとっての楽園は地獄へと変わり果てました。

 無常にも、少年は天使が逃げることも許しませんでした。

 ――自分より愛されている存在を壊したい。

 少年の、そんなみにくい思いに染まった黒い心に誰も気付きません。

 ――地に落として、二度と輝けないように、壊してしまおう。

 そんな思いに駆られていた少年は知りませんでした。

 楽園の外に居る、天使の大きな光を――。







 *



 どうしてこんなことになったんだろう。

 わからなくて、僕は思わず自分に問いかける。

 視線の先にはボロボロになった僕の学用品。机には落書きがされている。

 「死ね」「消えろ」などといった言葉が、マジックで書かれているのを見て、胸が痛んだ。

 チクチクと周りから刺さる視線。

 あざけるような笑い声。軽蔑したような僕への目。

 ほんの、一か月前まで僕は幸せだった。

 優しい生徒達。優しい先生たち。

 僕が歌えば、皆が笑ってくれて、嬉しかった。

 幸せだったんだ。何気ない日常が僕の心を満たしてくれていたんだ。

 ――でも、それは変わってしまった。

 真中妃茄乃マナカヒナノという、転入生の存在によって。

 元々この学園へ中途半端な時期にやってくる転入生という事で、真中君は転入してくる前から噂になっていました。僕もあたらしい仲間がやってくるのだと思ってとてもわくわくしていた。

 転入してきた真中君はとても可愛い見た目をしている子だった。

 会長さんたちにも気に居られて、沢山の人の人気者になって、僕は新しい仲間がこの学園になじめたことが嬉しかった。

 僕がよろしくねって言ったら、笑って返事をしてくれた。嬉しいなって思っていた。優しい学園が大好きだった。

 だけど、いつの日かおかしくなった。

 最初は小さな違和感だった。――だけど、壊れていった。周りの人たちが冷たくなった。真中君が嫌がらせをされたって。それが僕のせいらしい。僕は猫かぶっていて、真中君を許せなかったってそんな風に言われた。わけがわからなくて否定した。けど、何も変わらなかった。

 真中君に違うよって言いに行った。真中君は、嗤ってた。はめられたんだって気づいた時にはおそくて「なんでっ」っていったところを見られて、真中君が泣いて、僕は悪者になった。

 優しかった人たちが手のひらを返した。

 特にこの学園の人気者たちが真中君に惹かれて、真中君の言う事を何でも聞くようになって、そういうのもあって僕はこの学園で何をしてもいい存在になってしまった。

 ……外へ、逃げる事も許されない。

 この学園の権力者が僕を疎んでいて、僕は自由が利かない。僕はスマートフォンも取られて、外にも連絡が出来ない。外に出たくても出れない。

 僕のスマートフォンを勝手に操作したって真中君は笑ってた。僕の味方を全員なくしてやるんだって。ああ。皆、僕が嫌いだって。僕は、僕は誰にも好かれないんだって。僕みたいなの生きていない方がいいんだって。何度も何度も、声が浴びせられて。

 学園の外の、皆も、そうなのかなって。

 学園の、ずっと仲良かった皆が変わってしまって僕は不安になってしまう。外の皆も、あの人も、もしかしたら―――って。僕は歌を歌うのが好きだった。あの人が好きだと言ってくれた歌。ずっと歌ってくれと望まれた歌。

 学園が変わってから、僕は歌を歌えていない。僕は……、声が出なくなってしまった。おそらく精神的なものであると思う。けど、病院にも行けなくて理由はわからない。僕の声が出ないと知った時、真中君は笑った。

 僕が喋れなくても彼らは気にしない。

 僕は……、どうすることもできない。

 どうしたらいいのだろうか。どうしたら、この場から―――。

 

 そんな風に考え、焦り、どうしたらいいかわからなくなっていた時、恐れていた場面がやってきた。




 「まさか、天使ちゃんをヤれるなんてなぁ」

 目の前に男たちが居る。僕を犯そうとしているらしい男たち。思えばこの一か月無事だったのが不思議だった。この学園にはそういう輩がいる。それは露見次第生徒会や風紀によって制圧される。だから少なかった。

 でも、僕は彼ら権力者にとって取るに取らない存在になってしまった。僕が何をされようとも誰も何も思わない。だから、これは想定が出来た事だ。

 身体が震えた。嫌だと叫んでいる。でも、声は出ない。

 僕の服に手をかけようと手が伸ばされる。

 「……っ」

 声が出ない。嫌だ。嫌だ。嫌だ。あの人以外が、僕に触れようとしているというのがおぞましい。服が脱がされる。押し倒される。

 目をつむる。

 身構えた。けど、それはこなかった。

 打撃音が聞こえた。僕の上に居たらしい男が殴り飛ばされる音。

 それと共に聞こえてきたのは―――、「かなで!」と僕を呼ぶあの人の声。こんな場所にいるはずがないのに。これは幻なのかな。

 「………が、く」

 声が出た。久しぶりに。目を開ければ楽が怖い顔をしている。視界の隅に学外の友人たちの姿が映る。

 「奏! 大丈夫か!!」

 「………ゆめ。が、くが………い、るなんて」

 僕の言葉と同時に抱きしめられて、安心して僕は気を失った。







 *真中妃茄乃side



 「妃茄乃、これを――」

 「妃茄乃君、災難だったね」

 「妃茄乃様」

 僕は沢山の人に囲まれている事実に、嬉しくて笑ってしまう。この場所はつい一か月前まであの忌々しい少年のものだった。この僕が学園に転入したというのに、僕を優先せずにアレを優先し続けていた学園。

 それを奪ってやろうと考えて、ここまで上手くいくとは思わなかった。本当にこの学園の奴らは馬鹿ばかり。そして、アレも、もう壊れている頃だろう。

 日に日に絶望して、沈んでいくアレを見るのは本当に愉快だった。アレを本当に壊すために、手引きをしたものがアレを犯している頃のはずだ。

 鞄に入っているスマホをちら見する。アレの持ち物。アレは外でも愛されているらしい。外からの連絡がいくつも入っていた。その中で一番多く連絡を入れていたのは、楽という男。写真も入っていた。その男は、美しい。アレよりも僕に相応しい。アレから奪ってやろうと思った。

 だからもう布石は巻いている。

 アレへの不信感を持つようにもしている。アレが他の男に犯された事を知れば……そう考えて細く微笑む。

 ああ、本当に愉快だ。アレを本当の意味で落とすことが出来るなんてっ!!

 この学園で天使などともてはやされていたアレ。そんなアレがいまや、この学園の最底辺にいるのだ。

 「ひ、妃茄乃様!!」

 優越感に笑みをこぼしていれば、慌てた様子で生徒が入ってくる。全く、僕が気分よく笑っているというのに邪魔をするなんて。

 「邪魔するぜ」

 「ふーん、アレがそうなの?」

 「奏ちゃんの方が可愛いね」

 「楽様ってば本当人使いあらいよね。でもま、奏様の敵なら仕方ないかー」

 慌ててやってきた生徒を押しのけるように四人の男たちが入ってくる。四人とも美形であり、僕はほくほくした。しかし、アレの名前を口にしているのはいただけない。それにこの学園の生徒にこんな連中はいないはずだ。となると、外部から?

 少し厄介だけど、僕に惹かれない奴なんているわけがないな。

 「奏って……あ、あの、奏君?」

 怯えた演技を見せれば、生徒会や風紀の皆が僕を庇うように前に出る。

 「大丈夫、俺らが居るから」

 「あの奏の手の者だろうと守って見せるさ」

 「あ、ありがとう。で、でも僕は頑張るよ。それにこの人たちも奏君にだまされて、勘違いしてしまっているのかもしれないもん」

 「妃茄乃!!」

 楽って名前が出ていたから、多分アレに連絡をよこしていた男の関係者なのだろう。でも、それも奪えば問題はない。ここに音夜が居ないのは残念だけど、順序が大事だもんね。

 涙目で彼らを見上げる。

 「……しらける」

 「この茶番劇はなんなの?」

 「やっぱ、奏ちゃんの方が可愛い」

 「引く」

 だけど四人は僕に冷めた目を向けている。

 「な、なんでそんなひどい事を……」

 「うっせ」

 「命令なんだっけ」

 「捕獲。制裁。とりあえず主犯は主君の分も取っておかなきゃだから、捕獲はしなきゃかな」

 「マスコミへの流出、各家への手回しはもう準備はできてる」

 僕を無視して四人組は何かを言っている。僕の声も、周りの声も気にした様子は全くない。

 「とりあえず、そこのビッチは捕獲」

 「取り巻きもだねー。奏さんがこの状況になるの助長させた馬鹿だからさ」

 「一般生徒たちは?」

 「あとからどうにでもなるから、とりあえず奏様に被害を与えた馬鹿たちを」

 ビ、ビッチ? こ、この僕に向かって!! それに周りの皆にも手を出すみたいな事を言うなんてっ。

 「み、皆にひどい事するなら許さないんだから!」

 「……性悪は黙ってろ」

 「貴様、妃茄乃に向かって!!」

 「俺たちに何かする気か! そんなものは許さない」

 ふふふん。僕を愛してくれる皆は権力者だもん。たった四人の男たちが居るところでどうにもならない。得意げに、皆にばれないように笑う。

 しかし、彼らは顔色を変える事さえもしない。

 「我が主――桐谷楽の名において、俺たちはお前たちをどうにでもしよう」

 「俺らの行動は全て楽さんの名において行使されている。この意味わかるかなー? 許さないとか許されないとか、関係ないんだよね、正直さー」

 「主君が望めばそれだけでオッケーだよね」

 「もう根回しはすんでいるから、この学園は楽様のものだしね」

 四人の男たちの言葉に意味がわからない。桐谷楽という男が望んだからってなんだというのだ。アレに沢山連絡を入れていた男がなんだというのだ。

 僕はそう思った。だから言い返そうとした。

 だけど―――、

 「……きり、たに、楽!?」

 「な、何故、その男が出てくる?」

 皆は違った。顔色を変えた。

 「何故も何も、主の特別に手を出したから」

 「奏さんに手を出したのが悪いよねー」

 「主君の唯一無二の金糸雀ちゃんに手を出したのが悪い」

 「桐谷楽様は、二階堂奏様を愛している。それで説明は十分かな?」

 ばっさりといわれた言葉に、周りが顔色を悪くする。何で。たった四人だよ。皆はどんな奴が来ても大丈夫なのでしょう? どうしてそんな顔をしているのか僕にはわからなかった。

 「か、奏が……ぐはっ」

 アレの名を呼んだものが殴られた。

 「……姫の名を呼ぶな」

 アレの名を呼んだ事に不機嫌そうな顔をしている。

 「な、なんで殴るなんてこと……」

 「ひ、妃茄乃!! た、頼むちっと黙ってくれ」

 「も、申し訳ありません!! お、俺たちは、その」

 「知らなかったとはいえ、すみません!!」

 僕の放とうとした言葉は、ふさがれた。意味が分からなかった。どうしてたった四人の闖入者に、頭を下げているのか。自信満々で権力を持っている皆がなんでとわけがわからない。

 

 僕は何が何だかわからないうちに、気絶させられた。

 そして次に目が覚めた時には地獄がまっていたとだけいっておこう。









 *赤谷京太side


 さて、楽様の命令を遂行して俺たち四人は学園を後にした。俺たち四人は桐谷楽様の下についている、四人衆とかよくわからん呼び名で呼ばれている。

 白谷暉也。

 黒谷爛。

 青谷茂義。

 赤谷京太。

 それが俺たちの名だ。ちなみに楽様の家である桐谷家の分家筋で、同年代なのもあって楽様の側近として動いている。

 そう、側近である。楽様はまだ十代だが、学園には通っていない。もうお仕事を立派にされている方だ。学園に通っているお坊ちゃまたちとは違い、楽様はもうその父親と十分に渡り合える方なのだ。

 上級階級への影響力は誰よりもある方で、有言実行をなす方。正直あんな馬鹿たちに奏様が辛い目を会わされたかと思うと、俺たちだって許せない。

 「主の元で姫が休んでくれればいいが」

 「楽さんの元なら休めるでしょう」

 暉也の言葉に、爛が告げる。

 楽様は奏様に馬鹿をやらかした連中の制裁には乗り出さなかった。奏様を放っておけなかったからだ。全く、奏様にあのような真似をする馬鹿がいて、それに同調するアホがあれだけいるとは思わなかった。

 本当に、奏様の存在は逆鱗のようなもので、「奏の様子がおかしい」と楽様がいってきた時の顔はおかしかった。

 メールの内容も、ラインの内容も、なんだかおかしいと。俺にはわからなかったが、楽様がそういうならって調べた結果がこれである。

 幾ら閉鎖的な学園だからって、一生徒を学園から出さないように監禁しているなんて頭がおかしい。あの閉じられた世界の中では問題ないと思っているのかもしれないがそれは馬鹿の考える事である。

 生徒も教師も、皆奏様に対して見て見ぬふりをしていた。寧ろ何をしてもいい存在としていた。

 ……そんなのとんでもない。

 奏様は楽様が望んでいる方だ。あの、他人に興味のない方が唯一求めた金糸雀。

 奏様の歌を聞いたあの日から、奏様の前では表情を楽様は豊かにする。それが嬉しいと思っている俺たち側近からすれば奏様に何かあるのはいただけない。

 それにそういうの抜きにしても奏様の事を俺は気にいっているのだ。

 あのフザケタビッチは奏様を落とそうとしていた。錯乱する中でそれを暴露していた。ビッチに晒されて奏様を疎んだ連中の顔には笑った。幾らだまされても奏様にひどい事をする道を選んだのはあいつらである。

 まったく、そんなの楽様が許すはずないのに。

 それにしてもしばらく奏様は外にも出してもらえないだろう。傍においておかなかったからこんな目にあったと楽様も過保護になっているわけだしな。

 俺たちとしてもその方が奏様を守りやすいしいいと思っている。

 「京太、さっさと片付けて奏ちゃんに笑ってもらおう~」

 「ああ」

 奏様が笑えば、楽様も笑う。

 奏様と楽様が幸せそうにしているのを見るのが俺たちはすきなのだ。

 さて、そのために楽様に報告をして、さっさとこの件を片づけようとするか。






 end






色々書いていると次にどんな設定の話書くか正直悩みます。どんなの読みたいでしょうか?


中途半端な気もしますが、こんな感じで書いてみました。

途中から四人の側近が出てきて少しごちゃごちゃしたかなと思います。


かなで

歌が上手な可愛い少年。

学園で愛されていたけど貶められる。

でも学園の外に味方がいたため助かる。


奏の歌を聞いてから表情豊かになった天才。

人にあまり興味はない。奏の事は大好き。

妃茄乃が奏を装って返信してくるメールなどにも違和感を持つ。

今回の件で学園をつぶし、主犯たちを地獄に落とす気満々。


暉也、爛、茂義、京太。

桐谷家の分家出身の楽の側近で友人。

昔からの仲。楽とは上下関係はあるけど普通に仲良し。

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