守護者 3
一条七緒side
僕の通う学園は不思議な学園だ。
全寮制の男子校。それだけいうのならば、一般的にあってもおかしくないだろう。だけど、おかしいのはその学園の中で同性愛が蔓延しているという事実だろう。
男が男に黄色い声援を上げる、そんな親衛隊が存在している。
僕は男同士の恋愛は正直そういうものはあるんだなと理解はできても、自分は異性に興味があった。
僕も、生徒会に入って、顔がそこそこ良かったみたいで親衛隊もできた。ただ、僕の親衛隊はちょっと色々おかしかった。
僕の前には現れず、ただ存在がささやかれていた。
僕を守ってくれている事は確かだけど、僕に何も望んでいない。
そんな親衛隊の存在に僕は興味を持っていたし、ありがとうって伝えたいとずっと思っていた。
そんな親衛隊の存在が露見し、僕の前にその親衛隊隊長が現れたのは転入生騒動が起こってからの事だった。
学園にやってきた転入生は、僕と生徒会長である宝院先輩以外が仕事をしなくなって、学園が荒れて、僕はいっぱいいっぱいになっていた。どうしたらいいかわからなくて、不安だった。そんな時に現れたのが、僕の親衛隊隊長である鍋島亮君だった。
亮君の事は知っていた。
学年で一番の成績をいつもとっていて、一度もその座を誰にも譲らないって有名だった。普通親衛隊もちより目立っていたら何かしらされそうなのにそういうこともなく、淡々と生活をしているようなそんな人だった。
亮君はそんな感じでちょっと有名な人ってぐらいの人で、僕は生徒会なのもあって学年一位の成績の亮君を知っていたけれど、一般生徒は亮君の存在を知らない。そんな立ち位置に居た。
そんな亮君が、僕の親衛隊隊長だなんていって現れた時にはそれはもう驚いた。
『お初にお目にかかります、七緒様。七緒様の親衛隊隊長を勤めている鍋島亮です。本当ならば七緒様が騒がれるのはきっと嫌いでしょうから、ご挨拶にくる予定はなかったのですが、会長と七緒様以外で仕事をしてない状況に力になりたいと出てきてしまいました。
この事で不愉快な思いを感じられたら申し訳ありません。七緒様が無理をなさるのを黙って見ている事のできなかった俺の責任です』
そんな言葉と共に跪いた亮君は、顔が整っているわけでもないのに様になっていた。なんというか、仕草とかがきちっとしていてかっこよく見えた。
亮君は、僕を愛しているなどと言った。まっすぐに、何処までも熱を帯びた瞳で。
この学園に入学してそういう感情を向けられた事がなかったわけではない。だけど、ここまで熱っぽく、ここまで真っ直ぐな気持ちを向けられたのははじめてだった。何より亮君はこの学園でよくいるような自分の思いが届いて当然とか、何でこんなに愛しているのに反してくれないんだとかそんなことは言わなかった。
寧ろ、僕の意志を何処までも尊重してくれていた。
亮君はとても有能な生徒だった。成績が上位でも仕事が出来ない人って世の中にいるけど、亮君はあの宝院先輩よりも仕事が出来るってぐらい仕事が出来る人だった。
僕の事を第一に考え、僕の事を心配してくれて――。そもそもこうして隠れていた親衛隊隊長である亮君が出てきたのも僕が大変だったからで。亮君は何処までも他人のために動ける人だった。
僕は亮君の言葉にいつも顔を赤くしてしまう。亮君の言葉は何処までも本気で、本当に僕を好きだとわかるような言動で。
誰かに告白をされたことはあっても、こんな本気の思いを言われた事はなかった。亮君は転入生たちの対処もしてくれて、本当に亮君が居なかったらどうなっていたかわからない。
亮君は僕を守ってくれた。助けてくれた。正直僕だって男なのにって思うけれど、本当に僕は守られていた。
僕を守るために転入生の投げた皿を庇ったりして、亮君は自分が怪我する事にも全然躊躇いなんてない。
僕が無事で良かったって、ただ笑う。
僕は、そんな亮君と過ごすうちに亮君に惹かれてしまっている。
「亮君、おはよう」
「ああ。おはよう」
あの一件以来、亮君はこの学園の有名人になった。
顔はこの学園の基準でいえば普通なんだけれど、言動がかっこいいとかで抱かれたいランキングも宝院先輩に続く二位になっていた。
でもそんな亮君には親衛隊はない。亮君は「自分に親衛隊作るより一緒に七緒を守ってくれた方が嬉しい」って言ってたって矢吹君が言ってた。恥ずかしかった。けど、そんな亮君のまっすぐな気持ちが嬉しいと思っている僕が居る。
それにしても矢吹君といい、僕の親衛隊は亮君の事が大好きだ。亮君に本当に惚れている人だって多く居て、ちょっともやもやする。
「亮君、あのね、今度勉強教えてもらっていい?」
「もちろん」
亮君は、本当に有能というか、基本的になんでもできる人だった。親しくなって見ればそれが良くわかる。
頭が良くて、さらっとなんでもこなしてしまって、強くて。宝院先輩が生徒会に欲しいというのも無理はなかった。
僕だって亮君がそのまま生徒会に入ってくれたら、一緒にお仕事が出来たら嬉しいなって思ってたけど、亮君は親衛隊だからって断っていた。
亮君は僕を見ていつも笑っている。
矢吹君が「……一条の事は正直気に食わないけど、亮様が幸せそうに笑っているからいい」って言ってた。僕の前じゃないと、こんなに表情が崩れないらしい。……僕はノーマルだったはずなのに、男同士なんて理解出来ないって思っていたはずなのに、だけど、亮君から与えられる好意が嬉しくて、亮君にとって僕が特別だというのが心地よくて。
「……僕は、亮君が好きなんでしょうか?」
「それは一条自身が決める事だろう。見た感じには両想いにしか見えないが」
宝院先輩に生徒会で相談をしたらばっさり言われた。
「え」
「はたから見たら一条は鍋島にほだされて陥落した状態だな。生徒たちなんていつくっつくかってそういう話ばかりしているぞ」
「え!?」
言われた言葉に驚愕した。
ま、周りからそんな目で見られているなんて。は、恥ずかしい。
「何を恥ずかしがっているんだ。あの転入生の騒動で鍋島に散々告白まがいの事されていただろ」
「こ、告白まがいって」
「寧ろあれを告白と思っていない鍋島がおかしいんだがな。鍋島は一条がノンケだからって見守るだけでいいって宣言しているらしいから、一条から告白すれば問題は解決すると思うが」
「え、ええと」
「つか発現からしてノンケだから見守るだけでいいって言っているだけで、一条が男もイケるならがんがん責めてくるって事だろ。それってあいつ真面目に見えてなんだかんだで一条を抱きたいって思っているってことだよな」
「だ、抱きたいって……ほ、宝院先輩!?」
宝院先輩の言葉に僕は動揺を隠せなかった。そ、そりゃあ恋人とかになったらそういうことあるんだろうけれど、そ、そんな言われても。亮君がそんなこと……。
「鍋島がそんなこと思うわけないみたいな顔しているが、好きなら思っているだろうな」
「……ほ、宝院先輩」
「鍋島は人前でも一条を愛しているとかいうぐらいの奴だからな。当然思っているだろう」
からかうように笑って、宝院先輩は断言した。それから仕事に身が入らなかった。
亮君が僕を抱きたいって思っている。男同士でも出来るらしいけど、もちろんそんな経験もないし。亮君がそんなこと思っているなんて、僕は――ってあれ、僕結局亮君がそんな事を思っていても嫌だとかは感じない。
他の人ならって思うとなんとも言えない気分になるけれど、亮君が思っているならって。
これってやっぱり僕が亮君を好きって事なんだろうか。
そんなことを思いながら歩いていたら誰かにぶつかった。
「一条じゃないですか。何をぼーっとしているんだ? あんたが浮かない顔をしていると亮様が悲しむんですけど」
僕がぶつかってしまった相手は矢吹君だった。矢吹君とは親衛隊関連で最近時々喋る。
「えっと、あの、矢吹君」
僕はどうしようもないもやもやを矢吹君にぶつけた。
「はぁ」
そうしたら溜息をつかれた。
「それあんたが亮様に惹かれているってだけしょう。というか、あんなにかっこいい亮様に一途に愛情をぶつけられてなびかないとかありえないし」
「……矢吹君って本当に亮君好きなんだね」
「当たり前だよ。俺は亮様になら抱かれたいって思っているぐらいだし」
「ぶっ」
噴き出した。あ、あの矢吹君が亮君になら抱かれたいって。
「何吹き出してんだよ。俺は亮様が好きなんだから当たり前だろう? それより亮様が好きだって思うならさっさと告白しろ。亮様は一条がノンケだからってあきらめているんだ。でも亮様は両想いになれたらうれしいと思う。俺は亮様には幸せになってほしい」
「……ずっと聞きたかったんだけど、矢吹君は亮君が好きなのにどうして僕を応援出来るの?」
「亮様は一条以外興味ないし。大体俺が迫ったぐらいでなびく存在ならまず亮様に俺は惚れなかった。俺はあんたの事なんて好きじゃないけど、でも亮様には幸せになってほしいんだよ」
矢吹君は本当に亮君が大好きだ。でも矢吹君も亮君と一緒で好きな人の気持ちを尊重しようとしている。そのことを思って言ったら、
「俺らは亮様にほだされただけだよ。亮様があんなんだからな」
そんな風に言われた。
そして矢吹君に亮君が居る場所を言われた。言って来いと。
ええええ、亮君を好きかもって自覚したばかりなのにこ、告白しろって。
そんな風に戸惑いながらも矢吹君に亮君が居る場所に連れて行かれた。
「りょ、亮君」
「七緒?」
亮君は寮の自室にいた。同室の子はいないみたいでほっとする。
「どうしたんだ?」
優しく問いかけてくる亮君。僕がこうして亮君の部屋に来る事はあまりない。
「あ、あのね」
勢いのままに矢吹君に押されてきてしまったけれど、ど、どうしよう。こ、告白なんてしたことない。
「ぼ、僕ね」
でもこうして亮君と対峙すると、いつも温かい気持ちが溢れてくる。やっぱり僕は亮君に惹かれている。
「亮君の事、好きになっちゃったんだ」
「え」
亮君が驚いた顔でこちらを見た。亮君は僕がノンケだって断言していたから、隠れて守る事を選んだ。
だからはっきり言わなきゃ多分、わからない。亮君がこんな動揺するのを見るのははじめてで、見た事のない表情の亮君を見れることが嬉しかった。
「亮君は、僕がノンケだからって見守ってたんだよね? 僕は男に興味はなかったし、男の人好きになったこともなかった。でも……、僕、亮君に惹かれている」
僕は男の人を好きになったこともなく、そんなことは想像もしていなかった。だけど、亮君の気持ちは驚くほどにまっすぐで。僕も、矢吹君と同じように亮君に絆されたってことなのだろう。
そう考えると亮君は人たらしというか……、人を味方につけるのが上手い人なんだと思う。僕には出来ない事だ。やっぱり、亮君は凄い。
「これが好きって思いなのかはわからなかった。でも僕は亮君に惹かれていて、亮君が僕に笑いかけてくれたりすると嬉しくて、誰かが亮君を好きだともやもやして。やっぱり、僕は亮君が好きなんだろうなって思って……。だから、言いに来たんだ」
下を向いてそう言い切って、顔を上げたら―――、
「えっと……」
顔を赤くしている亮君が居た。
ちょっとなんていうか、それみた瞬間きゅんというか、心に来たというか、衝撃だった。
りょ、亮君が照れてる! 僕に散々恥ずかしい台詞を言っても平然としていた亮君が……っ。な、なにこれ、凄くレアなんだけれど。というか……、亮君ってもしかして言うのは平気だけど、言われると恥ずかしい人なの? あれ、でも亮君は告白されても平然としているって矢吹君が……。ぼ、僕が言ったから? ってことに思い至って、そして改めて亮君を見て。……顔を赤くして、手で押さえて動揺している亮君って、ちょっと可愛いなって思った。
「……亮君、照れてるの?」
「ごめん、七緒、ちょっと見ないでくれると嬉しい」
「……僕は見たい」
「……動揺しているから、俺本当に」
「亮君、散々僕に言っていたのに」
「だって、七緒が、俺にそんなこと言うとか、思ってなかったから」
亮君が立ち直れないほど動揺している。なにこれ、凄く、可愛い。って、ちょっとニヤニヤしてみてしまった。
「七緒、さっきの、本当?」
「うん」
って頷いたら、思いっきり抱きしめられた。
「俺は、愛している」
「……っ」
耳元で囁かれて、ドキッとした。し、心臓に悪い。な、何であんなに熱っぽい目でそ、そんなこと。
と、というか、宝院先輩が亮君が僕を抱きたいって。いや、というか、僕がノンケって断言していたから押し込めてたってだけで、それなのに僕が告白したから、りょ、亮君よ、欲情してたりとかするんだろうか?
「七緒、キスしていい?」
「……う、うん」
問いかけられて、頷いた。そうしたら何回も唇を落とされた。い、一回かと思ったのに。
「すげぇ、嬉しい」
さ、流石にいきなり襲われたりはされなかったけれど、何度も唇を落とされた後、抱きしめられたまま言われた。
「七緒が、俺の事好きだっていってくれるなんて」
何処までも甘い声。何処までも優しい声。心の底から亮君は喜んでいる。
「――――七緒」
「うん」
「俺は七緒を愛している。絶対に七緒の事を守って見せる。悲しませたりしないから、七緒が俺の事を好きだっていってくれるなら、俺と一緒に歩んでくれ」
「……うん」
なんだかプロポーズみたいで恥ずかしかった。でも、嬉しくもあったから僕は頷いたのだった。
僕たちはまだ高校生だし、未来の事なんてわからない。だけど、僕は亮君とならずっと、ずっと一緒に居れるとそんな風に思った。
その翌日、僕と亮君が結ばれたことで学園中が騒がしかったのは別の話である。
一応守護者はこれで終わり予定です。ただもしかしたら矢吹のお話を書くかもしれません。
七緒は前世の事は欠片も覚えていません。
七緒sideはどうかこうか悩み、こんな感じになりましたが、読者様に楽しんでいただければいいなと思います。
個人的に亮みたいなキャラは書いていて好きです。