守護者
短編かと疑うほど長いです。
視点はころころ変わります。ちょっとごちゃごちゃしています。
主人公はド直球です。
場面は王道学園。
いつも夢を見る。
それは、昔の自分とどうしようもなく愛していた人との夢。
中世にも似た景色が、浮かび上がる。
壮観な面立ちの大きな城の中に俺とあの人は居た。
あの人はお姫様だった。
その王国の三女として生きた美しく優しいお姫様。
そして俺は騎士だった。
王国を守るための、騎士。
『ねぇ、カース』
柔らかく俺の名を呼ぶあの人が好きだった。
いつだって優しくて、柔らかく笑っていた彼女が好きだった。
守りたかった。
触れたかった。
愛してた。
愛してますとはいえなかった。
身分差があったから。
だけれどもある時ユウナ様に告白された。
『好きよ』
そんな風に笑われて、愛しそうにこちらをみるユウナ様に俺は答えてしまった。
幸せだった。
ずっとずっと、この人を守っていきたい、そばにいたい。
そう思ってならなかった。
初めてユウナ様と繋がった時は死んでもいいとさえ思えた。
ユウナ様が他国の王家と婚約が決まった時、俺は――………、逃げようといった。
自分がユウナ様のそばにいたいと思ったがために。
『私も、カースと一緒にいたい』
ユウナ様がそう言って笑ってくれて、逃げた。
だけど……、結局王国の兵士に追いつめられた。
捕まったらユウナ様は他の男へと嫁がされ、俺は殺される。
ユウナ様が、誰かのものになるのは嫌だった。
それはただの、独占欲。
結局俺たちは一緒に身投げした。
捕まりそうだったから、海に飛び込んだ。
『愛してる――……』
ユウナ様の最期に響いたユウナ様の声が忘れられない。
*
時はかわって山奥の男子校の一室――俺はぶざまに倒れ伏せているバカを足で踏みつけた。
「七緒様に手を出そうなんざ、できると思ってたのかよ」
ぐりぐりと足で踏みつけ、悲鳴をあげる男を一瞥する。
「な、なんだよ、お前!」
「あ? 俺か、俺は一条七緒様の親衛隊隊長だぜ? 非公式だけどな」
俺―――鍋島亮は生徒会補佐をつとめる一条七緒様の親衛隊隊長を努めている。
「じゃ、お前らそいつ風紀にさしだしとけ」
「はい、隊長!」
「了解しました、隊長!」
親衛隊隊員達に声をかければ奴らは勢いよく返事を返した。
そして俺は一息はいて、その場を後にするのであった。
突然だが、俺には前世の記憶がある。
俺はとある王国の騎士だった。
姫であったユウナ様を守れなかった事を悔いた俺は大切な人を守る強さを求めた。
大事な人を養う力がほしい、守れる力がほしい。
願ったから権力と純粋な力を求めた。
貪欲なまでに知識を求め、力を求めた俺は元々中流企業だった父親の会社にプロジェクト案などをだした。
――……それが大当たりした。
小学生の考えた案をいけるかもで案を提出する兄貴にも問題があると思う(精神年齢はとっくに大人だが)。
まあ、それで運もあって大企業の仲間入りをはたし、ホモのあふれる全寮制男子校に入ったのだが……、そこでみつけたのだユウナ様もとい七緒様を。
一目みて気づいた。
直感であの人がユウナ様だとわかった。
最初は半信半疑だったけど、見ていてわかったのだ。
ユウナ様が男である事に驚いたし葛藤したけれど、みた瞬間胸が高まったのは事実で。
俺はまた恋をしてしまっていた。
でも七緒様はノンケと公言していてきれいな顔立ちから隠れファンがいる程度の人気だった。
とはいってもねらってない奴がいないわけではない。
だから、守るために親衛隊を立ち上げた。
七緒様を思っている面々に声をかけて。
非公式なのは七緒様がノンケだといっていたからだ。
男に騒がれるのは迷惑だろうと思ったから陰で守る事にしたのだ。
はじめの親衛隊の奴らはともかく、後から入った奴らには不埒な考えの奴もいた。
でもうちの親衛隊は他の親衛隊とは違う。
『俺は、七緒様を愛してる。だからこそ非公式なんだ。
七緒様はノンケだと公言しているだろう? 俺は七緒様を不愉快にさせたくない。
そして、七緒様を守りたいだけだ。
うちの親衛隊を他の連中の親衛隊と一緒とは思わないでほしい。
俺らの存在する意味は七緒様を守る事だ。七緒様に不埒な真似をする不届きものをつぶす。ただし交友関係にまで口をだす事は許さない。
あくまで俺たちがやらなければならない事は七緒様を無理矢理おそう存在や七緒様に迷惑をかけている存在をどうにかする事だ』
新しい親衛隊隊員が入る度に俺は勘違いしないようにそんな事を言っている。
―――ま、話せばわかる奴ばかりなのかみんなそれで俺は顔は平凡だってのにいう事を聞いてくれている。
中にはなぜかその後俺に告白してくる奴もいるのだが…、丁重にお断りしている。
*(風紀委員長side)
「風紀委員長様! これ七緒様をおそおうとしてた不届きものです!」
「処罰をお願いします」
風紀室にノックをして人を引きずりながら入ってきたのは風変わりな親衛隊――一条七緒の親衛隊メンバーであった。
そもそも隊長が誰かがわからない。親衛隊メンバーの口が固すぎて誰だか特定できない。
一条七緒の親衛隊は、この学園の親衛隊として彼らは異色だった。
親衛隊は美形を崇拝し、崇拝対象を騒ぎ立て近づく者に制裁をするものだ。
もちろん。対象を守ってもいるが、崇拝対象が親衛隊を雑に扱うために過激派が多い。
しかし生徒会補佐の一条七緒の親衛隊は違う。
今から三年以上前中等部の時に突然現れ、崇拝対象を騒ぐわけでもなくむやみに制裁するわけでもない。
寧ろ、一条の前にさえ姿を現さずただ守っているのだ。
そもそも存在は俺たち風紀や一部の者しか知らないという不思議な存在で、一般生徒には噂しか回っていない非公式な親衛隊だ。
一条をおそう事をたくらんだ生徒を突き出したりやたまたま見かけた強姦をとめたりと一条の親衛隊は風紀に勧誘したくなるほど優秀だ。
「…また隊長はこないのか」
それもあって俺は隊長に会いたいのだが、会えない。
「隊長は面倒な事嫌いですから」
「隊長は七緒様の事以外興味ありませんから」
正直、親衛隊を纏め上げている隊長に興味がある。だが、親衛隊メンバーにばっさりと言われた。
「…強姦をとめたりとしているからお礼をいいたいんだが」
「隊長は強姦嫌いだからとめてるだけらしいですからお礼いらないって前にいってました!」
「お前ら、親衛隊隊長と俺を会わせたくないのか」
「「はい!」」
思いっきりうなずかれて俺は結局深く聞く事ができないのであった。
*(鍋島亮side)
「ねえねえ今日も亮は愛しの七緒様のために見回り? 愛だね、溺愛攻いいよ!」
寮室に帰ると同室者が息を荒くしながら俺を迎えた。
彼の名は健といって腐男子という男同士の恋愛を見るのが好きらしい。
「ああ。七緒様に不埒な真似をしようとしたバカがいたから風紀に差し出した」
「亮って七緒様大好きだよね! もう俺亮と同室で良かった! 噂の七緒様の非公式の親衛隊隊長が男前平凡とか!」
「七緒様の事は大好きというより愛してる」
それは心からの本心だ。俺はあの方を、愛している。前世の事を抜きにしても、一条七緒っていう存在に恋焦がれてならない。
「きゃー、男前! それ七緒様に言っちゃえばいいのにー。
男前平凡×儚げ美人とか素晴らしいのに!」
「七緒様はノンケだと公言している。男に口説かれるなんて気持ち悪いだけだろう。俺は七緒様に不快な思いはさせたくない」
正直な思いを言えば、また健は騒ぎ出した。
「きゃー、男前! 普段は無口で興味ないのに七緒様のためなら口も開くし見回りまでするって! ああ溺愛素晴らしい」
なんて言いながら健は鼻血を出し始めた。汚い。いつものことだけど、こいつ、鼻血出しすぎだろ。
「鼻血とめろよ」
鼻血をとめるためにティッシュを手に取る健を見据えながら七緒様の事を考える。
七緒様――前世で俺が守れなかった人。
前世でも現世でも俺の心をいつだって占めているのはあの人だけだ。
愛してる。
愛してる。
誰よりも愛してる。
そう思うからこそ、俺は……あの人に笑っててほしいと思った。
ノンケだと公言しているあの人を男の俺が幸せにする事はできないから。
――…せめて俺か七緒様が女であって、男女であれば良かったのに。
最も俺は、七緒様なら同性だろうと何も気にしないけれど。
いつも通り七緒様を陰から守る日常を過ごす。
そんな中で転入生がやってきた。
その転入生は一言で言えば最悪だった。
人気者達を惚れさせ、あれる親衛隊。
挙げ句の果て七緒様と会長以外は仕事を放棄…。
転入生は1-S。それで隣の席の主席の一般生徒を連れ回してるらしかった。
親衛隊のとばっちりをその子は受けているらしく、その子を保護するようには親衛隊連中に命令を下してある。
ちなみに俺は2-Aで、七緒様は2-Sだ。
俺は主席だが、二年には金持ちが多くて、教師にAだと言われたのだ。
俺の家は大企業になったのはいえ成り上がりだからな。
それで俺が今、どこにいるかというと職員室だ。
「小山先生、あんた生徒会顧問ですよね?」
突然職員室に押し掛けてといかけてくる俺に怪訝そうな顔をする小山先生。
彼は疲れたようにこちらを見ている。
去年俺の担任でもあった小山先生は今あの転入生のクラスなのだ。
せっかくSクラスの担任だってよろこんでたって聞いていたのに、あんな転入生が来るなんてご愁傷様である。
「そうだが…、何の用だ、鍋島」
「俺を生徒会補佐にしてください。主席だからその位通るですよね? 資格はあるはずです」
俺の言葉に小山先生の顔が驚きに染まった。
「は?」
「だから補佐にしてください。無能どもより役にたつ自信はあります」
「いや、ちげえよ! お前が使える事はわかってる! でも何でお前がそんな事いいだすんだ」
怪訝そうな表情を浮かべる小山先生。
そりゃ、そうだろう。
基本的に俺は他人に無関心であり、担任だった小山先生はその事実を知っているのだ。
「理由ならありますよ」
「なんだよ…。俺にはお前が生徒会補佐をやる理由なんてさっぱりわからねえ」
「…まあ、どうせ挨拶するつもりだしいいか」
俺は小山先生の言葉につぶやく。
今まで非公式だった。
転入生が来て学園があれるまでは表立つ必要がなかったから。
だけど…、七緒様を守りたいからそのためなら俺は表立って動く。
隠れてこそこそと七緒様を守るのも、七緒様を手伝うのにも限界がある。
だからこそ、正々堂々と挨拶をすることにした。
「―――俺は、一条七緒様の非公式親衛隊隊長です。
七緒様と会長しか仕事してないという状態なのは知っています。だから、力になりたいと思っているだけです」
大きく息をはいて俺は告げた。
「……は? 今なんて?」
小山先生は耳を疑っているようだ。
「だから俺は一条七緒様非公式親衛隊隊長だといっているんです」
「はあああああ!?」
呆けて聞き返してくる小山先生に再度そう言えば叫ばれた。驚きすぎだろ。周りがこっち見てるぞ。
「おま、お前が? ちょ、待て何でお前が…?」
「七緒様を愛してるからに決まってるでしょう? だから親衛隊なんてものの隊長やってるんです」
「あ、愛して…? え、お前そんな熱い奴だったのか!? いつも誰にも興味なさげに一人でいたのに!?」
何だか凄く驚愕した目で見られてめんどくさいと息を吐く。
「熱いかどうかは知らないが、俺は七緒様の力になりたいと思っているんです。
小山先生の言うように俺は他人に興味は基本ないですよ。でも七緒様の事だけは別なんです」
俺にとって七緒様は唯一だ。
はじまりは、ユウナ様だと気付いて、胸が高まったけれど、それからずっと見てて一条七緒様自身も愛してると断言できるようになった。
ユウナ様だった頃も、今の七緒様の頃も、ずっと俺の心をいっぱいにするのはあの人だけだ。
あの人のためならなんだってする。
「…ええ、ああ、ううん、よし、一応納得はした。補佐になってくれるのは助かるが、お前見た目は平凡だから反発があるんじゃないのか…?」
「ああ、大丈夫です。俺武道一通り出来ますし、それに七緒様の親衛隊の子は少なくとも話せばわかってくれましたし、制裁してくるなら話しますから」
「…話せばわかってくれる?」
「はい。七緒様を愛しているから守りたいと、交友関係にまで口を出すなと、俺達のしなきゃいけない事は七緒様を守ることだと説得したら皆素直でいい子です」
「……そ、そうか」
何故かどもっている小山先生。
もちろん俺は小山先生が、え、こいつ愛してるとかこんな断言できるキャラだったの、なんて戸惑いを見せている事は知らない。
それから小山先生は会長に電話をして、
「あーっとな、信じられなんだが、一条の非公式親衛隊隊長っていう奴が…」
「いや、マジだと思う。俺元担任だし、こいつが冗談言う奴じゃないって知ってるし…」
「あー。平気平気、主席だし十分使える。だから生徒会室に――…」
「って、ば、バカ野郎! 何いってやがる!!」
そんな事をいっていた。
しかし会長の声は聞こえないが、小山先生って会長と親しいのか。なんか顔を赤くして照れているんだが。
正直、七緒様以外の男が顔を赤くしてても基本前世でノ―マルだったからかノンケな俺からすれば気持ち悪い。
七緒様の事は愛しているから、寧ろそんな顔見れたら可愛いと断言できるけど。
「ほら、行くぞ。鍋島」
「はい」
電話を終えて声をかけてきた小山先生にうなずく。
そうして、俺は話し声が聞こえていたのか、職員室の教師たちに何処か注目されながらも小山先生についていくのであった。
七緒様と、きちんと顔をはじめて合わせると思うと何処か緊張する。だけれどもそれよりも嬉しさが増す。
守れるだけで嬉しい。笑顔で笑っててほしい。傷ついて欲しくない。無理をしてほしくない。
ノンケな七緒様に気分を害してほしくない。だからずっと裏でこそこそやっていた。
それでいいんだっても思ってた。
でも、いざこうして表だって動く機会が出来て七緒様に会えるかと思うと頬が自然と緩む。
七緒様の姿を間近で見れる。七緒様の声を間近で聞ける。
それだけで、俺は幸せだって思えるぐらい七緒様を愛してる。
廊下を歩いて、生徒会専用フロアに上がる。生徒会は人気者で、性的な目で襲う奴らもいるわけで専用フロアが設けられているのだ。
生徒会の専用フロアに来たのはもちろんはじめてだ。
無駄に豪華に飾られた廊下を歩いて、生徒会室にたどり着く。
小山先生がノックをして、中へと入っていく。
それに、俺も続く。
扉を開ければ七緒様と会長が視界に映る。
七緒様は俺を見て何処か驚いているようだった。
まあ俺は仮にも主席で、毎回ほぼ満点か満点しか取らないから、そこらへんで知られているのかもしれない。
俺はまっすぐに七緒様の前にくるとそのまま跪いた。
そして口を開く。
「お初にお目にかかります、七緒様。七緒様の親衛隊隊長を勤めている鍋島亮です。本当ならば七緒様が騒がれるのはきっと嫌いでしょうから、ご挨拶にくる予定はなかったのですが、会長と七緒様以外で仕事をしてない状況に力になりたいと出てきてしまいました。
この事で不愉快な思いを感じられたら申し訳ありません。七緒様が無理をなさるのを黙って見ている事のできなかった俺の責任です」
「え、あ、あ、あの……」
俺の言葉に七緒様の戸惑ったような声が響く。
「何であいつ跪いてんだ…」
「さ、さあ。というか鍋島があんな奴とは…」
「なんだ知ってるのか」
「ああ。あいつ去年の俺のクラスの生徒だから… 」
なんだが会長と小山先生は後ろでこそこそ話しているけど、とりあえず放置だ。それよりも七緒様の言葉の方が俺には大事だから。
「え、えっと鍋島君」
「どうか亮とお呼びください、七緒様」
「え、えっとじゃあ亮君。な、何で人と関わり持たないらしい亮君が、僕の親衛隊隊長なんて…」
「七緒様を愛してるからです」
跪いたまま言葉を発せば、七緒様の戸惑ったような声が聞こえてくる。戸惑った顔がかわいらしい。
「あ、愛し…?」
「はい。愛しています。でも御安心ください。交際を迫るような真似はしませんし、気持ちに答えてほしいわけではありません。
ただ俺は七緒様に笑顔で、健やかな高校生活を送ってもらいたいだけなのです。
ですからどうか、俺が……、俺たち親衛隊が七緒様を守る事だけを許してほしいのです」
下げたままの頭の上で、息をのむような声が聞こえてくる。
そして後方では会長と小山先生の内容は聞こえないが、話し声がする。
「なんていうド直球」
「…聞いてるこっちが恥ずかしいな」
「俺様もいってやろうか?」
「な、は、恥ずかしいからやめろ!」
会長と小山先生はどれだけ仲良いのだろうか? まぁ、とりあえず放置しよう。
「り、亮君。か、顔あげて。というか、座っていいから」
「はい」
七緒様の言葉に俺は顔をあげる。
そうすれば顔を真っ赤にした七緒様が目に入って、胸が高鳴った。
なんて可愛らしい方なんだろう。俺をいつだって夢中にさせられるのは、七緒様だけ。
こうしてこんな可愛らしい表情をみれただけで俺はうれしくてたまらない。
その後俺、会長、小山先生、七緒様でソファに腰掛ける。
「鍋島、お前が一条の力になりたいのはわかるが、一条の他の親衛隊メンバーや俺様達の親衛隊メンバーが黙ってると思うか?」
会長がむずかしい顔をしていった。
「うちん所は大丈夫ですよ、会長。
ちゃんと入隊する時に、俺が七緒様を愛してるから守りたいだけだって言ってますから、他の親衛隊と一緒にしないでください。
俺らの目標は七緒様が笑顔ですごせる日常を守る事ですから。現に七緒様のご友人関係に口を出した事は一度もありません。
それに親衛隊の子達はこんな平凡な俺を慕ってくれる優しい子達ばかりですから。
会長達の親衛隊に関しては話し合います。無理なら実力行使です。俺武術一通りできますし、滅多な事じゃ負けません」
はっきりと思ったままに告げる。
反応はそれぞれ違った。
ぼっと顔を赤くして、真っ赤に染まった顔を背ける七緒様。
何だが俺をあきれたような目でみている会長。
小山先生は俺を凝視している。
小山先生が、主席で武術一通りできる点で平凡じゃない気が…なんて考えてる事はもちろん俺は知らない。
無言になった彼らを放置して、七緒様の方を向く。
「それで七緒様。俺は非公式とはいえ七緒様の親衛隊隊長を努めています。
こんな俺ですが、七緒様の力になりたいので補佐をしてもよろしいですか」
「う、うん。寧ろ宝院先輩と二人だと大変だし、手伝ってくれたら助かるから」
そういって七緒様が顔を赤くしたまま笑ってくれてほっとした。
いやがられてないみたいで安心した。
…七緒様にご迷惑のかからない程度に行動しなければ。
七緒様に笑っててほしいのに不愉快にさせてしまうのは本末転倒だ。ちなみに宝院は会長の事だ。
「それは良かったです。それでは小山先生、補佐の手続きをお願いします。さっそく手伝いをしたいので」
「ああ、わかった。じゃあ職員室に一旦戻る」
小山先生がそういって立ち上がれば、会長が小山先生に声をかける。
「海路、あのバカにからまれんなよ」
「ああ、善処する」
会長の言葉に小山先生はうなづく。
名前呼びか、小山先生と会長は俺が知っている以上に親しいのかもしれない。
まあ興味ないけど。
小山先生は会長に答えると生徒会室を出て行った。
それを見届けて会長はこちらをむく。
「それじゃあ、鍋島。これ会計の仕事だが、処理できるか」
「はい。できます」
書類に目を通して、俺は答える。
家の仕事もちょくちょく手伝っているし、割とこういう仕事は得意なほうだ。
――七緒様の負担がへるように精一杯仕事をしよう。
そう思って俺は仕事に取り組んだ。
「…………お前、有能すぎだろ。俺様より仕事はやいとか化け物か」
仕事を開始して、一時間後、俺は会長にあきれたようにそう言われてしまった。
学園は、会社経営の経験を積ませるために生徒会に学園運営を任せている。だから生徒会の仕事は多い。
俺は幼い頃から前世の記憶があったから、経済力や権力、そして武力がほしくて黙々と取り組んでいたから仕事がはやいのだろう。
「化け物とはひどいですね、会長。
俺は七緒様の負担を減らしたくてなるべく迅速に仕事を終わらせようとしているだけです」
「まあ、お前が補佐になって助かる。この分なら俺様も一条少しは休めそうだ」
会長はそういって、俺に礼をいう。
偉そうな人だけど会長はお礼とかをちゃんといえるできた人だ。
これが転入生に夢中な副会長とかだとプライドが高すぎてお礼なんていわない。そういうところは好感が持てる。
「七緒様」
「な、何?」
「やっぱり顔色が最近優れてないと思っていましたが、あの転入生のせいで休めてなかったんでしょうか」
そういいながら、俺は書類を手にして俺の方を見ている七緒様の顔をじっと見つめる。
顔色は少し悪い。
一目見ただけじゃわからないだろうけど、俺はずっと七緒様を見てたからわかる。
「うん…。ちょっと仕事が多くて。でも亮君が入ってくれて本当に助かったよ。ありがとう」
「当たり前の事をしているだけです。七緒様が困っているようなら力を貸すのは。俺は七緒様の親衛隊隊長ですから」
「本当にありがとう。お礼でもしたいぐらいだよ」
「いえ、七緒様をこんな間近で見れて、会話を出来るだけで至極幸せであり、俺にとってのご褒美なのでいりません」
「……っ」
ぼっと七緒様の顔が一々赤くなって本当可愛らしい。
そうして笑う俺を呆れたように会長が見ていることなどもちろん俺は知らない。
*(会長side)
一条七緒に非公式親衛隊隊長がある事は昔から知っていた。
一般的な親衛隊とは違う存在。
穏健派や過激派で親衛隊は分かれるけれども、一条の親衛隊はそれのどれにもあてはまらない。
寧ろ表だって今まで行動する事はなかった。
ちらりっと、非公式親衛隊隊長だと名乗った鍋島亮と、一条を見る。
聞こえてくる会話からして何て恥ずかしい奴なんだとしか思えない。
初対面でひざまずき、平凡な顔立ちなのに男前というか、素直というか。
”いえ、七緒様をこんな間近で見れて、会話を出来るだけで至極幸せであり、俺にとってのご褒美なのでいりません”だなんて本気で口にする鍋島。
それに赤面する一条。
「鍋島…。一条を苛めないでやってくれ」
思わず口にすれば、ばっさりとした返事がかえってくる。
「俺は本心をいっているだけなのですが…」
「本心だろうとド直球すぎるだろ。一条が照れて使い物にならなくなるからよせ」
本心から、あんな恥ずかしい台詞を言っていることにも驚く。
普通、高校生ぐらいの人間がんないわねぇよ、と思う。
そもそもこの学園は男同士で付き合ってる人間が多いとはいっても、本当に好きあってなければ卒業してからは関係は切れる。
男女の、普通の高校での恋愛と一緒だ。
高校を卒業してそのまま、結婚なんて滅多な事じゃない。
それなのに、他の生徒会の連中ときたら、本気の恋だのわけのわからないことをいって転入生に構いっきりだ。
一条なんて顔は真っ赤だ。
ド直球の言葉だ。そしてその声や顔が何だか一条が好きで仕方がないとでもいっているようで、見ていて恥ずかしい。
一条だって男に軽く口説かれた事はあったかもしれないが、こんな風に愛してますなんて真顔で言われたのは初めてだろう。
少なくとも俺でも少しは恥ずかしくなると思う。
真剣な表情でそんな言われたら。
「わかりました」
一条が頷いて、そうしてその後は黙々と仕事を続けるのであった。
……鍋島は一条を裏切る事は絶対ないだろう。この短時間だけでそれが理解できた。
この荒れた学園が、何か変わる気がした。
*(鍋島亮side)
生徒会補佐を引き受けた次の日、俺が補佐になったことと七緒様の非公式親衛隊隊長な事が学内新聞にデカデカとのってあった。
大方、職員室の会話でも聞かれてたんだろう。
クラスメイトに問い詰められたが、そこらへんは素直に答えた。
「何でお前が親衛隊を、にあわねぇ!!」
「七緒様を愛してるからに決まってるだろ。そうじゃなきゃ誰が親衛隊なんてやるか」
「お前キャラちげぇ! そんな奴だったのか…」
「ああ、そうだ。俺は七緒様が今にも倒れそうなほど顔色が悪くしているのが嫌だったあら、主席で問題ないだろうと補佐に立候補したんだ。
このクラスの親衛隊の奴らも、一応、そう隊長に伝えててくれないか」
ちらりっと騒ぐクラスメイトや顔を赤くするクラスメイトを放置して、親衛隊であろう生徒に視線を向ける。
頷いてはくれたから、とりあえず、いいとしよう。
会長の所は制裁はないはずだ。少なくともあそこは会長が仕事をしていることをちゃんと信じて、力になれないかとなんとかできないかと動いてはずだ。
情報は、一つの武器である。
七緒様をお守りするために、情報収集は欠かせない。
そして一番制裁に走るのはおそらく副会長の親衛隊。
あそこは、副会長に制裁指示を出されたこともあるはずだ。
噂では、副会長達は転入生を補佐にして会長と七緒様をリコールしたいだなんてアホな事を企んでいたらしいし、俺に制裁は少なくとも来るだろう。
全部、返り討ちにしてやる。七緒様に迷惑をかけるわけにはいかない。
俺の当面の目標は、転入生の事をどうにかすることだ。
七緒様の親衛隊の子達は、俺が補佐をすることに反対するものはいなかった。
中には何故か、
「折角隊長の事隠してたのに!」
「七緒様の事になると隊長って一段とかっこいいのに…」
「僕らの隊長なのに」
とかわけのわからないことで騒いでた子達居たが、まぁ悪い奴らではないからいいだろう。
一応一度、教室に顔を出したが生徒会補佐になったために授業免除がある。
俺はその許可証をもらって生徒会室に向かっていた。
生徒会室をノックして中へと入る。
そうすれば七緒様と会長が視界に入った。
「七緒様、おはようございます。ついでに会長も」
「おはよう、亮君」
「俺様はついでかよ鍋島」
朝から七緒様に笑いかけられて俺は幸せである。
会長はあきれたように俺をみてるけどどうでもいい。俺の第一は七緒様だ。
七緒様の顔をじっとみつめる。顔色がまだ悪くて心配になる。
「まだ、顔色悪いですね。昨日はきっちり寝れましたか? 朝食はちゃんと食べましたか?」
「うん、亮君のおかげでいつもより寝れたよ。朝食は…、食欲なくて食べてないんだ」
「それはいけませんね。食べないと体こわしますよ?」
「んーでも疲れちゃって朝はつい抜いちゃうんだ」
「そうですか。では軽い朝食でも明日から用意してきますね」
「え、そんな悪いよ…」
「いえ、遠慮なさらないでください。俺も生徒会の仕事で忙しいのでその場合は親衛隊の子に頼みますし、俺たちは七緒様のお役にたてるだけで幸福ですので」
俺の言葉に頷きながら照れているのか、少し顔を赤くした七緒様は可愛らしい。
幸せだ、と思い胸が暖かくなっていれば突然生徒会室の扉があいた。
そして入ってきたのは、
「親衛隊を補佐にするなんて!」
「「どういうこと~?」」
「おかしいしー」
「親衛隊なんて最低だ!」
無能連中と転入生だった。
本当に、許可なく生徒会室につれてくるとはどういう事だろうか。
七緒様もびくついていて、ああ、俺が守らなきゃって庇護欲にかられる。
「七緒、健一!何で親衛隊なんて最低な奴を補佐にすんだよ!」
明らかにカツラを被っているとわかるもじゃもじゃの髪の転入生は七緒様と会長に近づこうとわめき散らしてくる。
「七緒様がおびえているだろ、転入生。近づくな」
「なっ、親衛隊のくせに! お前らがいるからこいつらが孤独に…」
「戯言はよせ。いつ俺が七緒様を孤独にした?俺たちは七緒様の交友関係には口はださない。
俺たちが、俺が望むのは七緒様が安心して暮らせる生活を作る事だ」
話を聞かない転入生の目を真っ直ぐに見て告げる。
そうだ、俺たちは他と違って交友関係には口を出さない。
望むのは七緒様の平穏。俺にとっては七緒様以外はどうでもいい。
七緒様は孤独なんかじゃない。友人だっていらっしゃる。
「親衛隊のくせに調子にのらないでください!」
「親衛隊のくせにだって? 仕事を放棄してまで転入生と遊んで生徒会の特権を乱用する副会長には言われたくないですね。やるべき仕事をやらない人間が、何をえらそうにいってるんですか」
ちなみに七緒様は転入生が怖いのか俺の後ろでびくついていて、会長はおもしろそうに会話を聞きながら仕事をしている。
よくうるさい連中がいて仕事できるなと思わず感心してしまう。
「なっ、こいつらは仕事してる!」
「いつやってるんだ、転入生。
それにやってるというならなぜ今日締め切りの会計の仕事を今俺がやる必要がある?
生徒会の授業免除の特権は仕事をやるからこそのものだ。それを仕事もせずにサボりにつかっているような連中が仕事をしてる? バカを言うな」
「「な、光を苛めないでよ!!親衛隊のくせに」」
「煩い。親衛隊の癖になんて関係ない。バカみたいにそれしか言えないのか?仕事もしてなのにそんな風に喚くな。
大体お前らが仕事いてないから七緒様が休めないんだぞ。嘆かわしい事にお前らが仕事をしないから七緒様の顔色は悪いし、あまり寝れてないご様子なんだぞ」
あー、苛々する。
そもそも何が苛めるだ。誰も苛め何てものはしていない。本心を口に出しているだけでいじめだなんて。それにはむかう人間に対しこいつらは酷い態度をしているというし。
どれだけ頭が残念なんだ。
「大体、お前みたいな平凡が親衛隊とかー、何、体でも使ったのぉ?」
「バカか。七緒様の前でそんな愚かな事を口にするな。
第一うちの親衛隊を過激派と一緒にしてもらっては困る。そもそも俺は七緒様以外の人間に欲情なんてしないし、頼まれたって体だけの関係なんて持たない」
体だけのむなしい関係なんて悲しいだけじゃないか。
人それぞれ事情だってあるし、セフレ持ってる奴らに転入生みたいに「セフレなんて駄目だ!」なんてお節介を言う事はしないけれど。
親衛隊の子に告白されて「抱いてください」って言われたこともあったけど、普通に七緒様以外無理だって断った。
俺が愛しているのは七緒様だけだ。
「何でそんな事言うんだよ! 最低だ!!」
「黙れ転入生。それと退出してもらおうか。副会長達も仕事をしないなら此処にいる意味なんて何もないだろう。邪魔をしているだけの生徒会なんて必要ないだろう?」
「なっ――最低だ!!」
バカみたいに切れて拳を振り上げる転入生。
すぐに暴力に走って、何て言うバカだ。
あー。苛々する。こんな奴らのために七緒様が苦労しているだなんて…っ。拳をがしっと受け止めて、転入生を見る。
「むかついたらすぐに暴力か?失せろといっているのが聞こえなかったのか?」 「なっ、は、離せ」
「離してほしかったら失せろ」
わざと痛くなるように掴んでいる拳をぎゅっと握ってやると痛みに転入生が喚きだす。
「わ、わかった痛いから離せ!!」
そうして離せば転入生は、
「叔父さんに言いつけてやる!!」
何てバカみたいな言葉を言い放って取り巻きを連れて去っていった。
「ふぅ、七緒様、転入生は聞いていた以上に煩いですね。大丈夫ですか?」
「うん…。それにしても亮君凄いね。あの転入生追い出して。でも、理事長が出てきちゃうけど、大丈夫なのかな」
「大丈夫です。その時はその時でどうにかしますので」
権力を向こうが使ってくるというなら、こっちだって使える限りの権力を思いっきり使えばいい。
そもそもそんな風に職権乱用しているなら不満だって下から湧いてきてるはずだ。
「鍋島がアイツ相手にしててくれて助かった。こっちは仕事出来たからな」
「それは良かったです、会長。そうそう、あの転入生の情報今親衛隊の子達に集めてもらってます。中途半端な時期に転入してきた原因とかも。
それと、もし理事長が権力を使ってきた際には会長や七緒様もご協力お願いします」
「それはいいが…、何をする気だ?」
「幾ら転入生の家が権力を持っていようと沢山の企業を敵に回せばやってられないでしょう。七緒様の親衛隊に入ってるメンバーの両親達にも話を通して孤立させるのが一番だと思います」
そもそもこの企業の子息たちのあふれる学園であれだけ好き勝手に転入生達はしているのだ。
この学園でそういう子息が集められるのは、関係を作ってこいという事である。
この学園は未来のトップばかりだ。
将来互いが企業を経営する中での信頼関係を築く場所ともいえる。
生徒会として真っ当に仕事をこなした生徒の評価は高いし、転入生の評価はどん底だろう。
理事長も例外ではない。その名を語るという事は、会社などの代表としてこの学園にいるという事なのだ。
どっちにしろ将来孤立するだろうが、七緒様のためにそれをはやめるだけだ。
「孤立させるか…。確かにそれなら権力はふるえないな」
「あとは理事会に報告するのも一つの手ですね。会長と七緒様以外の生徒会はリコールさせるべきでしょう。
そしてクラス落ちさせて反省させるために不良クラスにぶちこむとかどうでしょうか」
「ぶちこんだぐらいでおとなしくなるか?」
「転入生はともかく副会長達は権力も何もなくすればおとなしくなるでしょう。
副会長達の家にこれまでの行いを告げれば少なくとも当主候補ではなくなりますし、悪くて勘当されるでしょうね」
「で、でもそんな事できるの?」
あたふたとしている七緒様はかわいらしい。
そりゃあ向こうは当主候補数人と理事長だしやりにくいだろうが、やろうと思えばできるはずだ。
第一家の権力や理事長としての権力で好き勝手にやってるから不満もたまってるわけだし。
「出来るか出来ないかではなくやるんです。
このままじゃ、七緒様がつらいでしょう? 俺はあなたのためなら、出来ない事でもありとあらゆるものを使ってでもやり遂げますよ」
後悔なんて前世で充分だ。俺はもう後悔なんてしたくない。
必ず、七緒様を守ってみせる。
学園を卒業したら七緒様を守る事が出来なくなるかもしれないけど、せめて守れる間だけは七緒様の事を守ってみせる。
また七緒様はぼっと顔を赤くして、会長は俺をあきれたように見る。
それにしても本当他の男が顔を赤くしててもかわいいなんて思わないのに、七緒様だと何でこんなにかわいいんだろうか。
七緒様を、こんなに間近でみれるだけで幸せで仕方ない。
生徒会室を後にして七緒様と会長の分も含めて購買にかいにいってる最中に、親衛隊に絡まれて裏庭につれていかれた。
「何であんたみたいなのが!」
「生徒会に入るなんて! それに一条様の親衛隊なのに」
「僕らは副会長様に見てもらえないのに!」
嫉妬に満ちた目を向ける、副会長の親衛隊メンバー達。
まあ、確かに自分は近づけないのに俺みたいなのが近づいたら嫉妬するよなとは思う。
俺だって七緒様がノンケだから諦めてはいるけど、少なからず七緒様にふれたいとかそういう感情だって持ってる。
「気持ちはわかるが、俺は七緒様と会長以外が仕事をしてないから手伝いたかっただけだ。
七緒様も会長も他の生徒会が仕事をしないから体調を崩してしまいそうだったから」
「そんな事いって下心があるんでしょ!」
「ない、とは言い切れない。
確かに俺は転入生がこなければ七緒様の前にでる気はなかった。
だが、いざ七緒様とはなせると、七緒様を間近で見る事が出来るとうれしくて仕方がない」
素直な俺の言葉になんともいえないのか沈黙する親衛隊メンバーに俺は続ける。
「俺は、あの方を、一条七緒様って存在を愛してるんだ。
笑っててほしいと思う。幸せになってほしいと思う。
七緒様の雰囲気が好きだ。優しい性格が好きだ。
七緒様の事はずっと見ていたいと思うし、七緒様の声はずっと聞いていたいと思う。
七緒様が笑っているって事実が、俺を幸せにしてくれる。
七緒様の幸せが俺の幸せで、七緒様のためなら俺は何だってやる。
お前らだって、副会長にそう思ってんだろ?」
制裁なんてほめられた事じゃないけど、元をたどれば好きだって思いが暴走したって事だ。
崇拝対象の態度次第で親衛隊は穏健派にも過激派にも変わる。
穏健派でも過激派でもなんだかんだいって対象に尽くしているのは一緒だ。それで報われないから嫉妬する。
「………そうだよっ。ぼ、僕らは!副会長様を愛してるよ!」
「でもあの方は! 僕らを嫌ってるんだ!」
絞り出すような声に、副会長の親衛隊への態度を思い出す。
軽蔑しながら利用したい時だけ利用する。それが副会長。なんだか本当最低すぎる。
泣き出しそうな表情を浮かべる子達の頭を思わずなでる。
「副会長に見て欲しかったんだな? それでも副会長が見てくれないから嫉妬したんだな?」
頭をなでれば泣き出す親衛隊メンバー。
「でもな、制裁なんてしちゃダメだ。親衛隊の本来の目的は守る事だろう? それに今の副会長は生徒会の職務を放棄してる。
応援してるなら、本気で愛してるっていうなら間違いはただしてやんなきゃダメだ」
諭すように頭をなでながら言い聞かせる。
「甘やかすだけ、いいなりになるだけじゃその人のためにはならないだろ?
時にはただしてやる事もその人のためになる事なんだ。
今副会長は恋愛に現を抜かして間違った方向にいってるのは君たちにもわかるだろ? 認めたくないかもしれないけどそれを事実として受け止めて、どうしたら大好きな人のためになるか考えて行動してみなよ」
諭すように告げれば、その子達は頷いてくれた。
やっぱり同じ人間だし、話せばわかってくれるもんだな。
そうして会話を話す中で、
「なぁ、まだか? そいつやっていいんだろ?」
「こんな普通な奴じゃヤる気もおきねぇよな」
大柄な男が数名現れる。
どうやらこの親衛隊メンバーしょっぱなから俺に暴行をする予定だったらしい。
まったく……。
「あ、え、っと、や、やっぱりなし!」
俺の言葉をじっと聞いていた子が慌ててそういうけれど止まるはずもない。
「何だよそれ!」
「憂さ晴らしにてめぇらをヤってやろうか!!」
何だかむかつく事を計画しだした生徒達。
俺は、ふぅと息を吐いて不安そうに脅えている子達に声をかける。
「俺がなんとかするから風紀呼びにいってくれるか?」
「え、でも」
「大丈夫、なんとかやるから」
俺の言葉に不安そうだけれども頷く親衛隊の子。その子達が去っていこうとするが、
「逃がすかよ!」
「待て!!」
男達は喚く。伸ばされた手をガシッと掴んで、行く手を阻む。行かせるわけにはいかない。
「お前らの相手は俺だ」
そういって、じっとそいつらを見据えてお腹に拳をいれる。
強くなりたいと思って武道は一通りやってたんだ。こいつらに負ける気はしない。
「てめぇ!」
向かってくる他数人に次々と拳や蹴りをいれる。
一発で仕留める他ないだろう。一気に来られると俺だってやりにくい。
次々と5人居る男達をぶちのめす。
倒れ伏した男達を、無理やり立たせると俺は正座させる。足がしびれたとか知るか。
「なぁ、お前ら。もう二度とこんなことするんじゃねぇよ。強姦も暴行も後で後悔することになるぞ?」
「なっ…」
文句を言おうとした一人には無言でけりをくらわす。
思いっきり吹っ飛んだそいつを見て黙り込む他四人。
「考えろよ、お前らがもし好きな奴ができた時の事でもさ。
好きな奴が、いや、親しい友人でもいい。それが暴行されたり強姦されたらお前らだって嫌だろ?
それに好きな奴ができた時に、そういう過去があったらその人だって傍には居てはくれないだろ。
誰がそういう事する奴を好きになる?
この閉鎖された学園の中だけならともかく、この学園の外に出てもそれをする気か? この学園は外から見たら異常だ。だからこそ、『当たり前』としてそういう行為が存在しているけど、外からは異常だ。
外の連中と仲良くなりたいと思った時、そういう事をしたって過去は弊害になる。それにヤられる相手の気持ちを考えろ。お前らだってヤられたら嫌だろ? ヤられた方が悪いとか抜かしたらぶちのめすぞ? ヤった方が悪いに決まってんだろーが」
全く、バカなのかねと思う。
強姦も暴行も、元騎士として許せる行為ではない。
前世から、俺にとって女子供や助けを求める存在は守るべき存在だ。
優先順位は七緒様が最優先だけれども、そんな暴行や強姦なんて俺は大嫌いだ。
「考えてもまだヤるっていうなら喜んで俺がぶちのめして病院送りにしてやる」
「ひっ…」
ニヤリッと笑ってそういったら悲鳴を上げられた。
全く…そういう事をやろうとするのが悪いだろうが。
そんな事をしていれば、
「これは、どういう状況だ」
駆けつけた風紀委員長にそんな事をいわれた
*(風紀委員長side)
「バカな真似しようとしたからとりあえず説教しました」
「……五人相手でいけたのか」
「舐めてもらっちゃ困ります。このくらいできなきゃ七緒様を守る何て口だけになるでしょう?」
目の前でニヤリッと笑う、鍋島亮。
ずっと出てこなかった。あの、一条七緒の非公式親衛隊隊長。
今朝張り出された新聞で後に会いに行く予定だったが、副会長親衛隊メンバーが何故か助けてくれとかけこんできて(どうやってたらしこんだか不明だが)、此処にかけつけた。
確かに外見は平凡で、何処にでもいる顔だ。
でもこいつ、運動神経も、主席な事もそうだが中身は普通ではない。
七緒様、と呼ぶその声は何処までも柔らかくて、ああこいつ本当に一条が好きなんだなってそれだけでわかるぐらいだ。
「…じゃあ、そいつらは連れていく」
「あー、事情は副会長の親衛隊メンバーにでも聞いてください。別に悪い子達じゃないっぽいんで話してくれると思いますよ」
「…お前はこないつもりか」
「俺は購買にいって七緒様の昼食を購入するって使命があるので無理です」
真顔でそんな事を言うものだから何とも言えない気分になる。こいつにとって何よりも優先事項は一条らしい。
「あ、あと風紀委員長。もし七緒様の親衛隊の事知りたいなら副隊長に聞いてください。俺は生徒会補佐として七緒様を支えるので忙しいんで」
「…わかった。だが、副隊長は誰だ」
「二年の矢吹征司」
「は? あいつが…!?」
「そうです。だから矢吹に聞いてください。俺がいったっていったら素直に風紀委員長の質問に答えますから」
そういってそのまま鍋島は去っていく。
後ろ姿を見据えながら俺が思う事は、矢吹が何故親衛隊に入っている、というその一点だ。
矢吹征司。
それは親衛隊持ちでもおかしくない可愛らしい顔立ちをしているのと正反対の強さを持つこの学園でもトップ5に入るであろう強者だ。
親衛隊は気にいらないのか潰していると聞く。
…それが何故だ。
俺も、そして矢吹征司が副隊長だと聞いていた他の面々も思わず唖然としてしまった。
*(矢吹征司side)
―――♪
あの人――亮様からのメールに思わず頬が緩んだ。
メールを開けば、『風紀委員長がそっちいくだろうからいいと思った範囲で質問には答えてくれ』というそれだけだった。
亮様は、活動しだした。全ては一条七緒のためだけに。
『2-D 矢吹征司。風紀室に来るように』
放送がなったのはメールが届いたすぐ後だった。俺の呼び出しの放送に、生徒たちがざわめいているが、どうでもいい。
さて、行くか。
一条のためではない、亮様のために俺は行くのだ。亮様から頼まれた事を無視する事はできない。
廊下を歩いて、風紀室にたどり着く。
そしてノックをして中へと入る。
「2ーD 矢吹です」
そういって中へと入れば、風紀委員達に、親衛隊らしき子、そして所々に怪我をした男達が居た。
制裁でもあったのか。
いや、亮様があんなメールを行ったって事は亮様に対しての制裁を行ったのか。なんて馬鹿な真似をと呆れる。
「来たか、矢吹。座れ」
「それで、何の用です?」
「……鍋島がお前が一条の親衛隊の副隊長だと言っていてな。聞きたい事があるならきけと」
「亮様はどうなされましたか」
「様付け…? ああ、と一条の昼食買う使命があるからとかいって去っていった」
風紀委員長の言葉に、亮様らしいと純粋に思う。
中等部からの付き合いだし、亮様の事はよく知ってる。
あの人の最優先事項は一条なのだ。一途で、まっすぐで、かっこいい人。それが、亮様だ。
「なるほど、理解できました。それで何を聞きたいのですか」
「……あー、個人的な疑問だが、何故親衛隊嫌いで有名なお前が親衛隊に?」
「亮様が居るから以外理由はないでしょう。ぶっちゃけ話を言えば俺は一条を崇拝なんてしてません。
俺は亮様が居るから一条の親衛隊の副隊長なんてやっているので」
そもそもうちの親衛隊は、一条を崇拝してたり恋愛感情を持っているものはもちろん多く居るが、同時に亮様を尊敬したり恋慕を抱くものも多い。
俺もその一人だ。一条の事はどうでもいい。でも、一条は亮様の大切な方なのだ。
「鍋島が居るから…?」
「そうです。亮様はかっこいいです。それで他に質問は?」
今でも初めてあった時の事思い出すと惚れ惚れする。
生意気だって先輩の不良に囲まれて、乱闘してそのまま抑えつけられてヤられそうになった所を爽快に助けられたのだ。
それから俺は亮様を崇拝してる。親衛隊を作りたいなんていったら、一条の親衛隊を創るから入ってほしい何て頼まれてびっくりしたけど。
一条を守りたいから、手伝ってくれないか。そうしてくれたらうれしいって亮様が頼むから俺は一条の親衛隊に居る。そういうやつは以外と多い。
「それではなぜこの時期まで表だって出なかったかだ」
「それは亮様が一条の事大好きだからですかね」
「…大好きだから?」
「そうですね。あの人は本当に一条の事愛してるって断言するぐらい思ってますから。
ノンケな一条が親衛隊に騒がれるのは嫌がるんじゃないかと思ってこそこそ裏でやってたんです」
そうだ。亮様は何処までも一条の事を思ってる。
俺だって初対面の時で亮様に惚れかけたけど、見ていたら無理だってわかる。
あの人は一条しか見てない。
親衛隊の中では亮様に強姦とかから助けられて入ったメンバーもいる。元々一条を慕っていたのに亮様に惚れた奴も居る。
全部きっぱりと断って、一条を愛してるっていう亮様は真っすぐで、揺るがなくて益々かっこいいって親衛隊内で人気上がってたけど。
「そうか。じゃああと一つ、何で鍋島は…、親衛隊をあんなにまとめられるんだ」
「何でって、亮様だからですかね」
他の親衛隊は穏健派と過激派で分かれてて、なんだかんだで近づく人間に制裁したり色々するけどさ。
一条の親衛隊に入ってると、トップ次第でこうも変わるのかと感心した。
「亮様は一条を愛してるけど、答えてもらえるなんて思ってないんですよ。
答えなんていらないと思ってる。ノンケな一条からの答えは期待してない。
見返りなんて求めないで、ただ、一条に笑っててほしいっていつも言ってますよ」
そうだ。あれこそ無償の行為であり思いであるとも言えるのかもしれない。他の親衛隊みたいに尽くして尽くして、報われない事に妬んだり亮様はしない。
返ってこないのは当たり前と思っているから。ただあの人は一条を守りたいって、笑顔でいてほしいって思って勝手に行動しているだけなんだ。
「俺が潰した自分の親衛隊の奴らとか、他の奴らと違って見返りなんて亮様は最初から求めていないし、何て言うか、真っすぐで一条を好きだって奴らも亮様にほだされているんです。
一々、新しく入ってきた子に他の親衛隊とは違う、守ることだけ考えろって、『俺は一条七緒様を愛してる。だから守りたいだけだ』って本当にまっすぐ言ってるんです」
本当に何処までもまっすぐで、何処までも強い思いを持っている。今まで向けられた事もないような、情熱っていうかそういうものがある。
あの人は本当に、一条のためなら何だってする。
「亮様は本当に、一条の事大好きでたまらないんですよ。真っすぐに思ってて。誰に告白されても揺れません。
そんな亮様に俺たちは絆されて、亮様のために何かしようって思うんです。
うちの親衛隊がまとまっているのは、亮様が真っすぐに心変わりもせずに一条だけを思っているからですかね」
何処までも真っすぐなあの人に惹かれているのだ、要するに。何かしてあげたいって思って、それで亮様が望む事は一条の幸せで。
一条を思って親衛隊にいる多くのメンバーも、誰よりも一条を思って居ながら見返りなんて求めずに行動してる亮様を知ってるから過激な行動に何て出ない。
寧ろ亮様の思いが報われればいいって思ってるメンバーだって沢山居る。
亮様が補佐をする件だって、亮様なら許せるって、皆頑張ってくださいって思うだけだった。
「ところで、そこに居る親衛隊達は亮様に制裁を?」
「ああ。ただどうしたか知らないが、暴走したそっちの生徒達を止めてくれって呼びにきたのは親衛隊の奴らだったがな」
「へぇ。流石亮様です。話して味方にでもつけたんですね」
本当に、流石だと思う。
「じゃあ、風紀委員長もういいですか。俺、今からやることあるんですよね」
「ああ」
そうして立ち上がって俺は風紀室を後にするのであった。
*(鍋島亮side)
親衛隊に呼び出しを受けて、数日が経った。
その間に荒れてる親衛隊の説得にいったり、転入生に絡まれたりしながら情報やこちらの味方をしてくれる面々を集った。
あと、リコールの署名活動も行った。
親衛隊のメンバーだろうと、このままじゃ副会長達も駄目になるからと説得しまくって署名を集めた。
俺が生徒会補佐をしている間に、矢吹達に転入生の情報などをしっかり集めてもらったし準備はもうできている。
副会長達のリコールの集会を明日にでも行おうと思いながら、俺は会長と七緒様と共に昼食を食べに食堂にきていた。
ちなみに新生徒会メンバーも既に選出してあってもう今から生徒会の仕事をしてもらっているから、仕事はもうすっかり終わっている。
会長に俺もやらないか誘われたけど、非公式な親衛隊を承認してもらう事になっているし、他の生徒会親衛隊メンバーが同じ親衛隊なのに生徒会に入るのは納得しないだろうから騒動が終わったら補佐はやめることにしている。
矢吹なんかは「亮様なら別に誰も文句言わないと思いますけど」って言っていたけどあくまで俺は親衛隊だから。
転入生は相変わらずで風紀は忙しくてならないらしいが、生徒会の方はすっかり落ち着いているのだ。
「亮君、いよいよ明日だね」
「そうですね。転入生の裏口の証拠も掴んでいますし、明日は理事会からも来てくれるそうなのでうまくいくでしょう」
緊張した面立ちの七緒様を安心させるように笑う。
「本当仕事早いよな、本気で生徒会はいらねぇか?」
「入りません。俺はあくまで親衛隊ですから。緊急でもないのに生徒会に入ってるのはおかしいでしょう?」
「そうか…」
「そういえば、亮君。親衛隊を承認するのはいいんだけど、宝院先輩の所みたいに親衛隊と仲良くしたいんだ、僕。
慕ってくれるのは嬉しいし、今まで守ってくれてありがとうって皆にいいたい。
だから食事会とか亮君に日時とか決めてもらっていい?」
「はい、もちろんです。七緒様他のメンバーも喜ぶと思います」
七緒様は優しい方だって、七緒様の言葉に実感して何だか胸が温かくなる。それに七緒様と食事ができるのは俺も嬉しくて仕方ない。
「それにしても鍋島って本当仕事早いよな。リコールの件も新生徒会の件もそうだけど」
「生徒会の各親衛隊には説得しに行きましたけど、他は親衛隊の子達に調べてもらったんですよ。
矢吹とか情報収集に関して優秀ですからね」
「僕、矢吹君が副隊長って知って驚いたんだよね」
「でもあれ、一条の崇拝じゃなくて鍋島の崇拝者だろ」
「……矢吹って何故か俺の事ずっと様付けなんですよね。様付けじゃなくていいっていってるのに」
それに中等部の時、俺の親衛隊作りたいとかいってきてびっくりしたんだよな。
それでそれよりも七緒様を守ってくれた方が嬉しいっていって入ってもらった。
「あ、そうだ。亮君。僕ら同じ年だし、様付けと敬語よければやめてほしいな」
「七緒様が望むならやりますけど…、すっかり敬語と様付けなれてるので少しずつでいいです……いいか?」
「うん!」
七緒様が笑って頷く。
ちなみに今居るのは生徒会専用席だ。
ちょうど、頼んでいた昼食をウェイターが運んできた。そして昼食に手をつける。
七緒さ…七緒の食べ方は綺麗だ。前世から礼儀は正しくて、動作が綺麗なのだ。
それにしても今まで様付けと敬語だったから呼び捨てとため口がしづらい。
でも七緒さ…七緒を呼び捨てにできたり仲良くできるのは純粋に嬉しい。
昼食をのんびりと食べる。穏やかな時間で、一緒に席についているって事実がただ俺を幸せにしてくれる。
「あのね、亮君」
七緒様が笑って話しかけてくれて、嬉しくて仕方がなくてずっと笑っててほしいという思いばかりが胸を支配する。
そんな幸せな中で、奴らはやってきた。
「早く食べようぜ!!」
それは転入生の声だった。
煩い声に誰もが顔をしかめているのがわかる。後ろからは生徒会の声も聞こえてくる。
なんで、こいつらはそんな非難される目に気づかないんだろうか。
「七緒、健一!!」
七緒と会長に気づいた転入生はこちらに向かってくる。
ああ、また七緒様の顔が以前転入生に遭遇した時のように困った表情を浮かべている。
「俺がなんとかするから、笑ってくだ…いや、笑って。七緒」
不安は全て取り除いてあげよう。だって俺は七緒の事が大好きでたまらないから。
「あー。お前!! まだそこにいるのか!! 駄目だぞ!! 親衛隊なのに」
「転入生、俺はあくまで補佐だ。それに近いうちにやめるさ」
「ようやく俺の言ってることがわかったのか!! 親衛隊が生徒会何ておかしいもんな! 俺が補佐になるんだ!!」
何だか満足気に笑う後に続けられた言葉に、思わず俺や七緒に、声を聞いていた面々も何言ってるんだこいつとでも言う風に転入生を見る。
「それは誰がいっていた?」
「こいつらだ!!」
そうして転入生が指をさしたのはもちろん副会長達。
明日リコールされる予定の連中に何の権限があると思っているんだか。それかリコールされると思っていないのかもしれない。なんて馬鹿なんだろうと呆れた。
「親衛隊よりこの子の方が補佐した方がいいに決まってます」
「「ずっと一緒だもんね」」
「ね、会長。親衛隊より光の方がいいよねー」
思った事は一つだ。てか、周りの生徒ほとんど思ってるだろう。
こいつらバカかという事を。会長なんて頬を引きつらせてめんどくさそうだ。
「誰が転入生を補佐にするかよ。大体てめぇら俺様と一条と鍋島が仕事してるから学園回ってるけど仕事してねぇだろ。バカか」
あ、会長がおそらくこの場にいるほとんどの生徒の思いであろう事を告げた。
副会長達は何故か賛同してもらえるとでも思っていたのか固まっている。
そして真っ先に反応するのは転入生だ。
「な、何でだよ!! そいつか、そいつが、脅してるんだろ!!」
「ちょ、転入生君。亮君はそんな事してないよ!!」
思わずと言ったように、反論したのは七緒だった。
「なっ、最低だ!!」
転入生は七緒の言葉に反応したかと思えば、いきなり違うテーブルの料理の入った皿を掴んだ。
そして、七緒に向かって思いっきり投げたのだった。
真っすぐに七緒に向かっていくお皿。
びっくりしたように目を瞑る七緒。
俺は、皿が投げられると同時に七緒の前に飛び出た。
―――ガシャンッという音と共に、皿が俺にぶつかって、バラバラに砕けていく。そしてそのまま床へと落ちていく。
手で庇って払いのけたものの、破片が刺さっているのがずきずきと痛む。
でもそれよりも、
「てめぇ、七緒を怪我させる気か」
俺の最優先は、七緒の事だ。
「りょ、亮君、ち、血、出てる!!」
「鍋島、大丈夫か!!」
「なっ、最低なお前の味方する七緒が悪いんだ!!」
上から、七緒、会長、転入生の台詞である。怪我させておきながら責任転嫁とか本当にお前が最低だと転入生には言いたくなる。
「大丈夫だよ、七緒。ちょっと待ってて」
血が出てるのはわかってるけど、安心させるように七緒に笑いかけて転入生を見る。
「俺は悪くない!!お前が――」
「お前が悪いかどうかなんてどうでもいいんだよ、転入生。
俺が聞いてるのは何、七緒に皿なんて危ないもん投げてんのかって事だ」
「だ、だって七緒が――」
「だってじゃねぇよ。大体お前は何だよ。
取り巻き増やしてそいつらが仕事しないせいで七緒に負担になってんのが何でわかんねぇんだよ。
寝不足で七緒がふらふらしてたのにも気付けねぇのかよ?
自分の意見が通らないからって暴力に走るのも餓鬼か。幼稚園児からやり直してこい」
「な、ひどいぞ、そんな事言う何て!!」
あー、苛々する。俺の事はどうでもいいんだよ。七緒に皿を投げたって事実が許せないんだよ。
七緒に迷惑かけてるってこいつが許せないんだよ。
「ひどいじゃねぇよ。大体七緒に怪我させてみろ、てめぇの事死んだ方がましだって目に合わせてやるから。
そもそも七緒がお前見る度に脅えてんのわかんねーのかよ。
俺は七緒に笑っててほしいんだよ。お前が絡むと七緒が笑えねぇだろうが」
許せない。もしこいつが七緒に怪我をさせるっていうなら絶対に許せない。まぁ、幸い俺が守れたからよかったけど。俺がいなかったから七緒に皿が直撃しているところだった。
「なっ、し、親衛隊なんて顔だけしか見てない癖に」
「ふざけんな。顔だけなんてそこの副会長達のバカな意見だろ。ちゃんと中身を好きな奴だっている。大体見た目しか好きじゃないとか何でんな事言われなきゃいけないんだよ」
「で、でも、お前だって、七緒の外見が好きなだけだろ!! 俺はこいつらの中身を――」
あー、ウザイウザイ。
ちなみに副会長達は流石に皿を投げる行為は規格外だったのかちょっと唖然としてる。
その後に俺と転入生の言い争いが始まったから何も言えないでいるようだ。全く馬鹿だろ。
俺は転入生に対して一気に口を開いた。
「外見だけ? バカな事を言うな。
あの困ってる人を放っておけないような優しい性格も、見ているだけで幸せになれる笑顔も、人を安心させるような穏やかな雰囲気も、何事にも一生懸命に取り組んでる姿も、甘い物が大好きで幸せそうに笑っている所も、ノンケなのに真剣な思いに真剣に答えようとする真面目な所も、図書室で読書や勉強をしてつい眠ってしまう何処か無防備な性格も、甘い物を食べると幸せそうに笑ったりさ、ころころと変わる表情も、ちょっと優柔不断だけど迷っておろおろしてる可愛らしい所も、その全てが俺を惹きつけて、俺を夢中にさせて、好きだと思わせる。
それを外見だけ、何て言うんじゃねぇよ。
見た目がよければ誰でもいいわけじゃねぇ。七緒だから俺は愛してんだ。他の奴なんていらねぇ」
長所も短所も全部ひっくるめて、好きなんだ。
何処か違えば、駄目で。
七緒だから、俺は好きなんだ。
それを外見だけ、なんてふざけんな。
というか、血を流しながらこんなこといってるって大分カオスな気がしてきた。
「……なっ」
転入生の顔がぼっと赤くなっている。てめぇにいってねぇよ。
見れば、転入生だけではなく周り全部の顔が赤い気がする。
七緒に限っては耳を真っ赤にして机に突っ伏している。顔は見えない。
副会長達も何故か顔が赤い、というか何も言えない様子である。
何だか静寂が支配する中で真っ先に立ち直ったのは会長であった。
「あー、鍋島。告白ならよそでやれ」
「告白? そんなつもりではありませんけど。七緒はノンケですからそんな告白する気はありません。
ただ、ちょっと転入生の言葉にむかついて本心を言ってしまっただけです」
「…お前ってそう言う奴だよな。わかった。とりあえず、保健室いってこい。一条に付き添わせるから」
会長がそう言うと、七緒はまだ顔が赤いままに顔を上げる。顔が真っ赤で、恥ずかしがってるのが見てとれて可愛いなぁと思わず思う。
「りょ、亮君、いこっか」
「ああ。行くか」
そうして転入生達(というか食堂に居るほぼ全員)がフリーズしている間に俺と七緒は食堂を後にするのであった。
*(会長side)
「…ふぅ」
去っていった一条と鍋島の後ろ姿を見ながら思わずため息が漏れた。
何て言うか、まさに砂糖吐きたい気分というか…、アイツなんて恥ずかしい奴なんだというか。
自分に向けられてないってわかっていても、あんなに愛していて仕方がないって表情で、声で、あんなこと言うから食堂の生徒達の顔は見事に赤い。
そもそも普通の会話でも、一条相手だと鍋島の表情や声は甘くて胸やけしそうになるのだ。
それをあんなド直球に言う何て、言われた本人である一条からすればたまったものではないだろう。
それに鍋島は告白のつもりではなく、転入生にむかついて思わず出た言葉らしいし。
「おい、転入生。そしてお前らも。フリーズしてるとこ悪いけど。
転入生は退学、他の奴らは当主候補権利はく奪、生徒会リコール、クラス落ちが決まってる」
バカな事をいっているこいつらに、一日早いけど現実を見てもらおうか。
「なっ――」
「ど、どういう事です」
「「り、リコールなんて親衛隊が…」」
「な、何でー?」
あー。本当バカじゃねぇのかこいつら。
やることちゃんとやって、恋愛に現抜かしてるならともかく、遊びまくっててそのままの地位にいられつと思ったのか。
「転入生は裏口だと判明しているし、理事会に報告してあるから理事長でもどうにも出きない」
一々説明しなきゃわかんねぇのかよ、と思いながら最後の義理だと思って俺様は説明をする。
「で、お前は職権乱用、職務をサボる、暴力沙汰を起こしたり、問題ありすぎだろ。
リコールの署名はしっかり集まってるから安心しろ」
こっちも怒ってるんだ。散々仕事押し付けて、反省もしてないから。
転入生が来る前は仲間と思ってたが今の状況で仲間と思えは無理だ。
そもそもこいつらのせいで忙しくて、海路と一緒にいられなかったんだ。反省しろ。
「なっ、横暴だ!!」
何だか転入生は騒ぎだしているが、他は唖然として固まっている。何だか魂が抜けたかのようなふぬけた顔である。
「横暴じゃない。裏口が学園に居るのがおかしいだろ。もう荷物の準備しておけ。
正確に理事会を呼んでの集会は明日だけどな」
それだけいって、騒ぐ転入生を食事をとっていた風紀に渡す。
他の連中は本当にしんだ魚のようだ。
ついでに他の連中も風紀に引きとってもらった。
此処でそんな表情でいられたら食事がとりにくい。
あー、落ち着いたら海路を思いっきり可愛がろう。
*(鍋島亮side)
先日の集会で転入生騒動は幕を閉じた。
会長が言ってくれたみたいで、副会長達はびっくりするぐらい大人しかった。
そういえば、怪我の事で七緒に怒られた。
守ってくれたのは嬉しいけど、亮君が怪我するのは嫌だって。もっと自分を大事にしてって怒られて。
何だか、前世の事を思い出して、ああ、もう変わらないこの人が好きだと、愛してると益々実感した。
そして現在――、
「亮君、おはよう」
「おはよう、七緒」
七緒と挨拶をかわしたり、喋れるだけで俺は幸せでならない。
食事をしたり、一緒に勉強をしたりそうした一連の俺の態度により、『姫』と『騎士』なんて呼ばれるようになるのは別のお話である。
―end―
オマケ(生徒たちの二人を見た声)
「なんつーの、砂糖吐きたくなる甘さ。見ていて恥ずかしくなる」
「あいつら付き合ってないのに影響されてカップル増えてんだよなー。俺にも恋人できた」
「何て言うか、あんなに愛されたくなるっていうか…」
「見た目は平凡だけど、亮様かっこよすぎる(ぽー)」
「鍋島君と一緒に居る一条様って照れてたりしてなんか異常に可愛い」
「鍋島は一条の事となるとかっこよく見える。てか男前すぎる」
「というか、一条様揺れてるよね、絶対」
「うん、あんなに愛されたらなんか僕ならすぐ好きになっちゃうなぁ」
「七緒様の相手亮様なら何だか純粋に応援できる」
「もう付き合えって言いたくなる」
男前平凡隊長×中性的な美人な補佐。
常識人会長×生徒会顧問。
会長は顧問と付き合ってます。
鍋島亮。
見た目は平凡だけど中身は非凡。昔から努力しまくってるせいで何でもできる。
運動神経抜群、喧嘩も強く、学年首席。書類整理の仕事に関しても会長より早い。
一条七緒親衛隊隊長。七緒以外ぶっちゃけどうでもいい。前世は騎士。記憶あり。
一条七緒。
中世的な感じの美人。真面目で、何事も一生懸命取り組む。
ノンケで、亮の言葉が恥ずかしくて仕方がない。
前世は王女。記憶なし。
会長。
常識人。俺様と自分を呼ぶけれど真面目な人。顧問と付き合ってる。
亮の事はなんて、恥ずかしい奴なんだと呆れてる。
顧問。
顧問の先生。会長と付き合ってる。こちらも常識人。転入生大嫌いだった。
矢吹征司
一条七緒親衛隊副隊長。亮の信者。可愛い顔して喧嘩は滅茶苦茶強い。七緒の事はどうでもいいけど亮が望むから守ってる。
転入生。
裏口。宇宙人。
他生徒会。
クラス落ち。Fクラスで反省してるかも。