親衛隊隊長=愛玩動物 5
竜一君に告白されてからしばらくが経過した。
竜一君は返事も出せない僕に優しい。優しく笑って、僕の頭をよく撫でる。
というか、告白されてから竜一君ってば、凄いなんだろう愛情表現を露骨にしてくるようになって、恥ずかしい。
「幸は、可愛いな」
「幸、好きだ」
「幸―――」
甘い声で、いとおしいとでもいうように僕の名を呼んで、僕に言葉をかける。
そんな竜一君に、返事を返せないことが心苦しく感じる。好きってなんだろうって、その気持ちがわからない。
僕は高校生にもなるのに初恋なんてまだで。
「好きってどういう気持ちかなぁ」
『ぶぶぶぶっ、ゆ、幸、好きな人できたのか!?』
電話でお兄ちゃんに相談をしたら、お兄ちゃんの噴き出すような声が聞こえた。あ、お兄ちゃんとはいっても近所に住んでいる仲が良いお兄ちゃんで、血のつながったお兄ちゃんではないけど。
「ううん、僕、告白されて、大事なお友達に。嫌いじゃないんだ。でも恋愛感情で好きなのか、僕わかんない」
『男からの告白か。友達なら悪い奴ではないだろうし、ためしに付き合ってみるとかは……』
「そんなの、竜一君に悪いよぉ」
そんなお試しだなんて、竜一君に悪い。竜一君は真剣に告白してくれているのにそんなこと言えるわけがない。
竜一君の事大切に思っている。
大事な人だとは思っている。
でも恋愛感情が何か、僕は知らない。
だから、お兄ちゃんに聞いているのに。
『そうか』
「うん……、ね、おにいちゃん。お兄ちゃんは彼女さん居るでしょう? 好きってなあに?」
『ずっと一緒に居たいとか、渡したくないとか、あー、欲情しているかとか…?』
「欲情?」
『あああ、すまん。幸にははやかったな。まぁ、待っててくれるっていうのならじっくり考えればいい』
お兄ちゃんは結局そういった。
結局、答えは出ないままに時間だけが過ぎていく。
竜一君は待っててくれるといったけれども、やっぱりこのままではなんだかいけない気もした。
僕はわからない。わからないことにもやもやする。きっぱりと答えられない。
嫌いじゃない。好きだけど。優しい竜一君の事、大好きだけど。でもわからない。わからなくて。僕は―――。
そうやってずっと悩んでいた。ずっと、ずっと。
「幸ちゃん、ずっと悩んでるね。可愛いけれどさ」
「あゆちゃん……」
「竜一様の事、ずっと悩んでいるんでしょう? もう、悩んでいる幸ちゃんが可愛すぎるし、自分で気持ちをはっきりさせてほしいと思ってたけどさ。あまりにも悩んでいるみたいだから」
あゆちゃんは、僕が竜一君に告白されたことを言ってもただ「ちゃんと考えてね」と笑うだけだった。親衛隊のメンバーたちは僕が竜一君に告白されたって聞いても笑ってくれた。
怒られるかと思ったのに。
僕は親衛隊の隊長なのに告白されてしまって。それなのに。
寧ろ「ようやくですかー」、「竜一様、ヘタレ卒業」とかそんなよくわからないことを言っていた。
「ね、幸ちゃん。俺の事好き?」
「うん。大好き」
「じゃあ、竜一様の事は?」
「好きだよ」
「それが、恋愛かどうかわかんないんだよね?」
あゆちゃんと僕はベンチに座ってそんな会話を交わす。あゆちゃんは僕の幼馴染で、だから僕の事を僕よりも知っていたりする。
「うん」
「じゃあ、俺に対する好きと竜一様に対する好きって一緒?」
もう世話がやけるなぁ、仕方がないなぁとでもいうような笑みを浮かべて、あゆちゃんは問いかける。
「………えっと。あゆちゃんは大好き。ずっと僕と一緒に居て、ずっと助けてくれて、大事なお友達だよ」
「じゃあたとえば、俺が告白したらゆきちゃんはどうする?」
「へ?」
「たとえばだよ、例えば。俺は幸ちゃんの事弟みたいなものとしか思ってないから」
あゆちゃんは突然、そんなことを言った。
あゆちゃんが例えば、もし僕に告白してきたら。僕の事をそういう意味で好きだといってきたら―――。
それを考えて僕は答えた。
「……そういう風に見れないって僕は断ると思う」
「――それが、答えだよ。幸ちゃん」
「へっ?」
「だから、俺だと断って、竜一様だと悩んでいるんでしょう? それって、そういうことだよ。
竜一様の事恋愛感情で気になっているから、悩んでいるんだ。そもそも好きじゃなければ悩まないだろう?」
あゆちゃんにそう言われて僕ははっとなった。確かにそうだ。
僕は竜一君の事は悩んだけど、もしあゆちゃんに告白されたら断った。それってそういうことなんだ。
僕は、竜一君の事、わからないとか言っていたけど、好きだったんだ。
「あゆちゃん」
自覚した僕は、あゆちゃんの名を呼んだ。
「竜一君の所いってくる」
「うん。いってらっしゃい」
それならすぐに言いにいこう。そう思った僕の言葉にあゆちゃんは笑って見送ってくれた。
そして僕は竜一君に気持ちを告げて、竜一君と付き合うことになった。
竜一君はそれはもう幸せそうに笑ってくれて、僕も幸せを感じた。
end
―オマケ(付き合ったことに対する親衛隊の反応・会話のみ)―
「いやー、しかし幸先輩は鈍感で可愛いですねー」
「見ている分には竜一様の事大好きなのバレバレだったんですけどね」
「竜一様もそういう所は察しが悪いというか、わかってなかったみたいですし」
「あゆ先輩ナイスです。悩む隊長も可愛いですが、やっぱり隊長には笑顔が良いです」
「当たり前、幸ちゃんの笑顔は国宝級のものだよ。幸ちゃんの笑顔のために、俺らはこれからも精進しなければ」
「そうですね。これから隊長の可愛さが露見していくならば悪い輩でも現れるかもしれません」
「可愛いですからね。あんなに可愛いから襲われる心配も多いですし」
「だから竜一様ともども幸ちゃんを守るからね」
「はい! 隊長の幸せのために。あとついでに竜一様も」
「ええ。隊長の笑顔のために。竜一様はついでに」
一応これでこのシリーズは終わりです。あゆちゃんのお話は多分書きます。
恋愛シーンを書くのが苦手すぎてこんなのでいいのかわからないけれど、一応こうなりました。