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いーらない

アンチ王道です。

 「いらない、いらない、いーらない」

 食堂に突然入ってきたそいつ――生徒会会計を務めている崎本藍瀬サキモトアイセは歪な笑みを浮かべていた。

 いつもの誰にでも浮かべる、ゆるい笑みはそこにはない。

 何処か、狂ったような、見るものを震わせる笑みがそこにあった。

 それを見て、藍瀬の友人である俺はとうとう来たかと特に騒ぎもせずに藍瀬と、藍瀬の向かう先――季節外れの転入生とそれに惚れたバカ共に視線を向ける。

 唖然としたように藍瀬を見つめる姿はひどく滑稽だった。

 真っすぐに、彼らの元へのやってきた藍瀬は相変わらず笑みを浮かべている。

が、その目は冷たい光を持っていた。

 仕事をサボっていた生徒会の連中も、風紀委員長や副委員長も、転入生に惚れて堕落していったスポーツ特待生や、一匹狼と呼ばれる不良たちも、言うなれば、誰も知らなかったのだ。

 崎本藍瀬という人間の本質を。

 彼らからすれば、藍瀬はヘラヘラ笑っているだけの、サボっている人の仕事まできっちりやる。

 人を見捨てない甘えた存在に見えたかもしれない。

 はむかってこない、そう見えたかもしれない。

 でも、藍瀬はそんな大人しい人間ではない。

 「無能も、バカも、全部いらなーい」

 そんな藍瀬の楽しそうな声に、俺を含む藍瀬をよく知る面々はああ、始まったとただ納得する。

 それ以外の生徒達はわけがわからない様子で、藍瀬を凝視していた。

 ガシャンッ、と音が響く。

 転入生達の集まっていたテーブルを、藍瀬が思いっきり蹴りあげたのだ。

 机に乗っていたオムライス、定食、ジュースなどが、零れ落ちる。

 食器が音を立てて、バラバラに割れていく。

 藍瀬をよく知る俺らからすればああ、ようやくかと思う程度だ。

 だけど藍瀬の内側に入っていない存在―――要するに親しくない人間からすれば驚愕に値するものだったらしい。

 特に転入生や信者たちの青ざめた顔は滑稽だ。

 「な、何してんだ藍――」

 「うるさい毬藻もいらなーい」 

 喚きだした転入生の顔に思いっきり拳を繰り出す藍瀬。

 容赦ないそれに転入生は対応できずに吹き飛ぶ。

 「バカはいらなーい。無能もいらなーい」

 にっこりと笑う藍瀬の顔は普段のゆるい笑みではない。

 そこに存在するのは、何処か歪んだ歪な笑み。

 「いらないものは、すてーなきゃ」

 「さ、崎守何を――」

 「いらない、いらない、無能は要らない。バカはいらない。壊しちゃおー」

 話しかけてきた声なんて藍瀬は聞いちゃいない。

 壊しちゃおうと口にして思いっきり殴りつける。

 バキッ、ボコッと勢いよく藍瀬は奴らを殴り、蹴り、踏みつける。

 何処までも圧倒的に彼らを蹴散らしていく姿に誰もが動けずにいた。

 学園内での藍瀬の評価は緩くてお人好しだ。

 役員の方々を信じて、一人で仕事をこなすお痛わしい人が学園でいう藍瀬だ。

 全くそんなんじゃないのに藍瀬をわかってない奴ってのは本当に滑稽だ。

 「ふふふ~ん」

 鼻歌を歌いながらも暴力をふるう藍瀬は学園の評価とは全く異なる。

 俺は血だらけになる奴らを見ながら、そろそろ止めなきゃやばいかと立ち上がる。

 「藍瀬」

 俺の言葉に藍瀬は止まった。

 そして俺の方を見て、笑った。

 「祐大じゃん。なーに? 俺今忙しいんだけど」

 「そいつら死ぬぞ」

 「えー、だって無能なんだよ? いらなくない?」

 「同意はするけど友人が殺人犯になるのは嫌だ」

 「そっかぁ、じゃあやめる。友達を困らせるなんて俺はしたくないもんねー」

 藍瀬はそんな風に笑う。今まで暴力をふるっていた生徒会や転入生たちなんてどうでもいいとでもいう風に。

 いや、事実どうでもいいのだ。藍瀬にとって。

 藍瀬の友人になるのは簡単だ。――この場合、藍瀬の本質を知らずに友人になるのはという意味だが。藍瀬は基本的に誰の事も受け入れる。だから知り合いは沢山いるし、誰にでもにこにこしていて愛想の良い藍瀬の事を皆好いている。

 でも、誰とでも仲良くなる藍瀬の交友関係というものは基本的に広くて浅いのだ。

 藍瀬は、誰でも受け入れる代わりに、いらないと感じたら誰でも捨てる。いらないと思ったら、本当に徹底的に捨てる。我慢の限界だったら、今みたいに暴走だってする。藍瀬はもう、目の前でボロボロの連中の事をどうでもいいと思っている。何も感じていない。

 同じ生徒会の仲間だったはずなのに、他の転入生の取り巻きとも友人だったはずなのに。それでも、だ。

 藍瀬は人と仲良くなるのもはやいが、人を見限るのもはやい。

 藍瀬を友人だと思う人間は数多くいるが、藍瀬が友人だと思っている人間っていうのは少ない。それに藍瀬っていつも笑っているけれど、その実は冷たい人間だし。

 馬鹿も見捨てられないお人よしとか、藍瀬の本質を知っていたら誰それ、って感じだよ。

 「でもさー、こいつらいらないよね? 無能だもんね?」

 「うんうん、俺もいらないと思う。でも殺人はダメだろー? そんなにこいつらが嫌だったのか?」

 「うん。嫌。視界に入ってほしくない。消えてほしい。声も聴きたくない。なんだろうね? もう邪魔だよね? 無能な権力者ほど邪魔な存在いないと思わないー? しかも周りに迷惑かけすぎだしさー」

 周りは藍瀬が毒を吐いていることにそれはもう驚いている様子だった。まぁ、藍瀬ってこういう黒い部分親しい人にしか見せてなかったしなぁ。今回は本当に我慢の限界だったのだろうとは思う。

 「そうだな」

 「だってさー、ね、俺は別にね、この馬鹿たちが恋愛しようとどうでもいいわけ。特に興味なんて欠片もないもんね」

 あ、実は藍瀬の事が好きだったけれど、転入生に興味を持って思いがシフトチェンジしてしまったっていう会長が情けない顔をしている。ついでにほかの連中もあの藍瀬に毒を吐かれていることがショックのようだ。

 いいぞ、藍瀬、もっとこの馬鹿たちの傷をえぐってやれ。

 「仕事さえしてくれれば別にいいんだよ。なのにこの猿を生徒会室に連れ込むでしょー。で、なんかイチャイチャしているでしょ? なんだろうねー。俺も偏見はないよ? 少なくともこの学園にずっと通っているし、でもさー、正直男同士のイチャイチャとか好んでみたいとは思わないよねー。いやもう、男女のイチャイチャでも、そんな見たいとも思わないじゃん? なのに、こいつらさー、何、公開プレイでもしたいの? 変態なのってぐらいイチャイチャしててさー、しかも、男のくせに猿ってもう、ありえないほどビッチすぎて俺もう気持ち悪いー」

 まぁ、いくら同性愛が蔓延している学園に通っていようが男同士のイチャイチャとかそういう性癖とか、そういうのを見るのが趣味な人以外みたくねーな。

 猿ってのは転入生の事だろう。幾ら可愛い顔しているからって、周りに美形をはべらせて悦に浸って、プラスして藍瀬の話からすると体の関係を持っていたとかそんな感じなんだろう。引くぞ。幾らこの学園に通ってようが、顔がよかろうが。

 「仕事しないしー。仕事してくださいって忠告した親衛隊の子たちを罰しようとするしー。転入生が嫌がらせされたぐらいで退学させようとするしー。なんなの、馬鹿なの? としか言いようがないよねー。第一さ、散々今まで親衛隊の連中食っといて、転入生に言われたから解散とか自分勝手なこといいだしたら怒るの当たり前じゃんか。人の気持ち考えられない無能って本当嫌だよねー。もうこんなふざけた連中と仕事とか、本当やってらんないよねー。あはは、俺ってば今までよく我慢した! こいつらが転入生来てから無能になり下がるから俺の過労がやばいことになってんだよー。もう、最悪ー」

 藍瀬はよっぽど鬱憤がたまっていたらしい。ああ、面白すぎる。藍瀬の言葉に唖然としている周りに笑ってしまう。

 「ってわけで、俺は無能はいらないし、馬鹿はいらないという結論に至ったんだよ、祐大」

 「うんうん、藍瀬はよく我慢したなー。お前の事だからもっとはやくぶちぎれて会長たち殺すんじゃないかと思ってた」

 「いや、殺したいなーって気分にはなったよ? 殺意はわいたよ? 殺すまでいかなくても闇討ちするとかさ、色々しようかと悩んだよ? でも俺我慢したの。偉いでしょ」

 「偉い偉い」

 物騒な発言をする藍瀬に周りはぎょっとしているが、俺はそんな藍瀬に偉い偉いと褒めるように頭をなでてやる。

 「とりあえずー、はい、同意したら手ぇ上げてー。はーい、この無能ども生徒会や風紀にいらないと思う人ー」

 藍瀬がにこやかな様子で問いかければ藍瀬への恐怖心からもあるだろうが、その場に居たほぼ全員が手を挙げた。

 「はい、じゃ、次、こいつら学園にいらないと思う人ー」

 それにもほぼ全員が手を挙げた。

 「はーい、じゃ、いらないものはすてましょー」

 藍瀬はそんな調子で笑うと、生徒たちにいらないといわれたり藍瀬の変貌でショックを受けている彼らをさっさと学園の敷地から追い出したのであった。

 その後転入生は「怖い」と藍瀬への恐怖から自主退学し、目を覚ましたほかの連中は必死に藍瀬からの信頼を取り戻そうとするが、相手にされないのであった。





 ―――いーらない

 (いらないものは捨てましょう!)





崎本藍瀬

生徒会会計→生徒会たちをリコールしたあと会長になったりします。

ヘラヘラしているけれど、怒ったら怖い人。あれからほかの生徒にも怒らせてはいけないという認識にされます。

基本的に冷めてはいるので藍瀬自身が友人認定している人とか以外は簡単に捨てられます。


祐大

藍瀬の友人の一人。藍瀬の本質を知ったうえで楽しんでいる人。


取り巻きたち

役職もちはリコール、特待生は退部、一匹オオカミにもそれなりの措置が与えられました。藍瀬からの信頼を取り戻したいけど戻せません。


転入生

ビッチ。美形好き。自主退学しておとなしくしてます。



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