仕事の邪魔をしないでほしい
王道学園
仕事のある主人公
邪魔なアンチ君
「あー! みなとなんで俺の事待ってないんだよ!」
「なんでって、なんで俺がお前を待たなきゃならないの?」
俺の名前は岸川みなと。漢字ではなく、ひらがなの名前だ。親がつけてくれたこの名前を俺はなかなか気に入っていたりする。
で、俺は今この学園にやってきた転入生に絡まれていた。
というのも同室で、隣の席というなんとも面倒な関係であるからだ。正直もじゃもじゃとした髪の、ダサいメガネをかけているこの転入生には欠片も興味はない。
大体俺はこんな奴に構いたくない。
一人でやりたいこともあるというのに、こいつは俺の部屋にも許可なく入ってくる。しかも鍵かけていたら壊そうとばかりに開けようとするし、「あけろよー」とどんどんと扉をたたいて超煩い。
なんなの、こいつと思いながらも怒鳴るのも色々とめんどくさい。大体こいつそんな態度取ったら余計に面倒そう。実際に転入生に注意した人間は色々と面倒そうなことになっていたしな。
俺は面倒なことは大嫌いだから。しかも話も聞かない、通じない奴と一々会話をしても時間の無駄である。
それよりも俺にはしなければならないことがある。
こいつに構っている暇は正直ない。
しかしだ、こいつはなかなか面倒である。俺がやらなければならないことがあるというのに、邪魔ばかりして、あー、間に合わないかもしれないとそのことを思って遠い目になっていた。
でも、そんな生活をしていたら一人の生徒が俺に近づいてきた。
それは親衛隊もちの美形の一人で、阪上ひなたという。俺と同じくこいつもひらがなの名前だから珍しいなと覚えていた。髪は栗色で、どうやらハーフらしくてそれは地毛だっていう話だ。
親衛隊の連中が「ひなた様は美しい」などと騒いでいて、それで教えてもらったから覚えている。
「みなとくん、あいつ邪魔でしょう?」
「……あいつって、転入生? それは、まぁ、邪魔だけど」
なぜわざわざそんなことをいって近づいてくるのか正直さっぱりわからなかったけれど、友好的な笑みを浮かべる阪上に俺は答える。
ちなみにあのうざい転入生、理由はわからないけれど美形に好かれる体質なのか親衛隊もちに好かれまくっている。あんなのに同性でありながら求婚しているらしく、正直意味がわからない。
親衛隊たちに転入生は制裁されているらしい。同室だけど幸いなことにとっばちりの制裁はない。なぜか知らないけれど。
だから阪上が近づいてきたとき、少しだけあの転入生関係かなと思ったのだけれども、なんだかそうではないっぽい。だって転入生に求愛している連中って俺の事が気に食わないのか色々暴言吐いてくるし。阪上は今まで転入生の傍にもいなかったし、あの転入生の事「あいつ」なんていっている時点で取り巻きと化しているとかそういうことはないんじゃないかなーって想像できたりする。
「だよね。みなとくん一人好きだし」
「ん? なんで阪上がそんなこと知っているんだ?」
「なんでっていうか、まぁ、そこそこ有名だしね、みなとくん」
「そんなことないと思うけれど……」
そこそこ有名とか言われても正直意味わからん。しかも阪上みたいな本当に有名な生徒に言われても嫌味なのだろうかとかそんな風に考えてしまう。
でもまぁ、阪上が俺の事を知っている事を気にしても仕方がないかなどと考える。
「それで、俺が一人が好きだからなんなの?」
「あいつのせいで一人の時間とれていないんでしょう? 俺一人部屋だから俺の部屋使っていいよー? 邪魔しないからさ。パソコンも持ち込んでいいし」
「本当か?」
阪上の少しアレ? と思う点がある言葉に、すぐに食いついたのは、一人で作業をするスペースがほしかったからである。だってこのままでは確実に間に合わないのである。
そういうわけで食いついた俺は、阪上の部屋にパソコンを持ち込んでしばらくこもることになった。
なぜかっていうと、締切が迫っていたからだ。俺は学生だけど、既に自分で収入を得る仕事をしている。その仕事が何かっていえば、小説家である。
小説を書くということはそうである、締切があるのだ。
締め切りを破ると色々な人に迷惑をかけてしまう。俺は今まで締め切りを破ったことなど一度もなかったのだが、あの転入生があれだけ煩くするせいで小説を書く暇など正直言ってなかったのだ。
一応部屋を貸してくれる阪上に、「俺こもるから」って告げれば、「うん、頑張って」と笑顔で告げられた。
阪上はあまり他人に優しくないって噂だったのだが、実際に接してみるとこれだけ心が広い奴だったのかとびっくりした。
そんな心が広い阪上のおかげで、数日間部屋にこもり(授業はさぼることになったが)、小説は完成した。
「よっし、終わったー!!」
柄にもなく、嬉しくなって思わずガッツポーズをして声をあげてしまったほどである。
今回は結構良い出来のものができたと思う。最も書いている方がどれだけ良いものって思ったとしても読者の人たちが面白くないって思ったら終わりだけどさ。
「お疲れ様、みなとくん」
阪上はにこにこと笑って、手作りのデザートをくれた。
俺の好きなイチゴのケーキとかだった。俺はイチゴが好きである。
「おいしいー」
「ふふ、良かった気に入ってもらえて。ああ、そうそう、みなとくん。みなとくんがこもっている間に転入生は退学して生徒会は失脚したから」
さらっと言われた言葉に食べていたデザート噴き出すかと思った。
「え」
「だからもうみなとくんが困る必要はないからねー。思う存分執筆できるよ」
「あれ、俺いったっけ?」
思わず職業の事いったっけと首を傾げれば、
「俺の部屋であれだけカチカチやってたり、ネタがぁとか叫んでたりしたら流石にわかるよ」
って笑われた。
それはそうだな。
「みなとくん、部屋帰る?」
「帰る……って言いたいけどここ居心地いいんだよな」
「ならここ住んでもいいよ? どうせ俺一人部屋だし、寮長さんに言えば出来るよ?」
実際ここは居心地がいい。なんていうか、俺にとって好みのものとか、落ち着くものとか沢山あって、なんかすごい執筆しやすいし、ずっと住んでいたいほどだった。
あっけからんとして阪上が告げた言葉に驚いたけれど、まぁ住んでいいなら住むかと俺は頷くのであった。
そしてそんな俺は、
「ふふ、みなとくんと同棲ー」
などと楽しげに微笑む阪上の声をもちろん聴いていなかった。
end
岸川みなと
美形だけど自覚はあまりない。
マイペースで面倒なこと嫌い。
小説家をしていたりする。ファンはそこそこいる。
阪上ひなた
実はみなとの事が大好きでずっと狙っていた人。
みなとが居心地良いと感じていたのはすべてこの人がストーカー並にリサーチ済みだから。多分そのうち恋人にまで昇格する。
王道話をいじる話は書くのがやっぱり楽しい。考えるのも楽しいです。