貴女
貴女と知り合って、僕は幸と不幸を同時に知った。
貴女に会えない夜、それは絶望しかない夜。
貴女の顔を思い浮かべては、溜息をつく。
今、貴女は誰と過ごしているのだろう。
考えても出ない答えを、それでも考え続けてしまう。
貴女は僕だけのために笑ってくれる。
しかし、明日は違う誰かの為に笑うだろうし、昨日は違う誰かのために笑っていたのだろう。
貴女は、決して僕だけの貴女にはならない。
貴女と過ごす夜、それは幸福しかない夜。
今、この時だけは、貴女を独り占めできる。
今、この時だけは、貴女の笑顔は僕に向けられている。
貴女を抱きしめ、貴女に抱きしめられ、優しい夢を見ながら眠る。
身体から力が抜ける。
この瞬間に死ねたら幸せだろうなと感じるほどに。
また朝が来る。
一番鶏が鳴き、僕達の時間の終わりを告げる。
タイムオーバー。
二人は、また他人に戻る。
僕は途端に怖くなる。
もう二度と、この幸せは無いのではないかと恐怖する。
泣き声で君に聞いてみた。
僕達に、次はあるのかと。
君は曖昧に笑うだけ。
そう。
二人の次は、約束されていないのだ。
僕は幸せを噛み締めながら、絶望と戦い、そして次の機会を待つしかない。
貴女の事しか考えられない。
貴女の夢を見るために、
絶望を抱きしめながら、
今日も、独り、眠る。