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第12話

 宿舎の自室に入って、修道服を脱ぎ始めた。


「ああ、棒術を教える事とと言い、なんだか伝統ブレイカーになっている気がする」


 棒術と言えば、カミスに作ってもらった棍はミガの店に置きっぱなしになっていたが、崩れた天井から無傷で発掘出来たとの事で、今日の夕方、外に出ている司祭達が手分けして持ち帰る事になっていた。


「あれ?」


 修道服を脱ぎ、着替えようと箱から出した司祭服だが、それが通常のそれとは違う事に気付いた。


「もしかして、これって……」


 しかし、どうやって? 一見しただけでは内側の構造まで分からないはずである。

 いくら夫妻の腕が神がかり的であったとしても、カミスのように実物を手にしない限りは……。

 そこまで考えて心当たりに気付いた。


「リーリスね」


 少し前、誤って汚してしまったので洗濯していると言って、リーリスが稽古着を返さない時があったのだが。

 嘆息して着替え始める。



*---*



 女子修道棟宿舎から夫妻の待つ礼拝堂前までの道すがら、周りの視線が痛かった。

 やっぱり、目立つよね。これは。

 ただでさえ、助祭が司祭服を着ているのに、その司祭服も特別仕様なのだから。

 中にはこっそりとついて来ている助祭もいる。

 いまさら、引き返す訳にもいかないので早足で歩いた。


「わー、マドカ、かっこいい」

「ん、ありがとう」


 夫妻の娘が褒めてくれたので、心がいっぱいいっぱいなのを悟られないよう笑顔で返す。


「マドカ、すごいじゃん」


 いつの間に帰って来たのか、リーリスが夫妻の隣にいる。

 よく言う。知っていたくせに。

 リーリスが着ている司祭服はスカートであったが、マドカのそれはズボンのように両足に別れており、裾口にいくほど広くなっていく。まるで袴のようである。

 袖も同様の作りになっている。

 それだけではなく、服の内側も肉体の稼動部位に余裕を持たせて、かつ補強もされている。

 これは特定の目的を想定して作られた司祭服。

 つまりはこういう事。

 マドカは棍を軽く回す。

 弧を描き円を描き線を描く。そして線は弧へ帰る。

 まるで、稽古着のように服が邪魔にならない。

 当然だ。これはマドカの稽古着をベースにして作られた司祭服なのだから。

 簡単な演舞だったが、夫妻は拍手をしながら満足そうに頷いている。


「すばらしい服を頂き感謝しています。

 今はまだ助祭の身ですが、この服で街へ出られるよう精進いたしま――」

「明日からそれがあなたが着る服ですよ」

「……あの司祭長、どういう事でしょうか?」


 どこまでサプライズは続くのか。恐る々々、アネットに聞いた。


「あくまで助祭という階級はかわりませんが。あなたには今後、司祭の仕事の一部。街で祝福の務めについてもらう事になります」

「り、理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「あなたは他の助祭達と違って、異界のマレビトという特殊な存在のせいで街、いえアースとの関わりが薄い。

 幸いあなたは他人の感情を受け取る才能に恵まれています。このまま教会の中だけで過ごすより、より多くの人々との交流を深める事があなたの為であり、ひいてはエスファの為になる。

 リーリスと相談し、そう判断しました」


 またリーリスかっ。

 リーリスの方を見やると彼女は明後日の方を向く。


「マドカ」


 アネットが優しい口調で言った。


「夫妻の事であなたの世界はさらに広がりました。

 しかし、アースはもっと広い。あなたはもっと多くのものを見聞きするべきです」

「司祭長……」


 エスタークの方を見ると彼はいつもの笑顔で頷いている。

 固辞できるはずもない。


「分かりました。私にどこまでの事が出来るか分かりませんが、精一杯やらせていただきます」

「期待していますよ」


 そして、マドカは夫妻に向き直った。


「この服に恥じないように務めに励みます。ありがとうございます」

「これからは時々、店に来てください」

「娘も喜びますわ」

「はい」

「マドカもウチに来るようになるのー?」

「ええ、よろしく」


 夫妻に娘に笑顔でそう言った。



*---*



 夕刻。


「おーい、取ってきたぞー」

「きゃー、待ってました」

「やっと来たか」


 外の務めから帰って来た司祭達に助祭達が群がる。


「ちょ、慌てるな。とりあえず中庭だ、中庭」

「結構重かったんだぞ。ちょっとは手伝え」


 ミガの店で預かってもらっていた棍を司祭達が取ってきたのだ。

 さっそく中庭に人が集まる。

 話を聞いて、マドカとリーリスも中庭に出た。

 袋に詰められた微妙に長さが違う棍が置かれている。


「とはいえ、どれが誰のだろ? これって個人別に作ってるって話だろ?」

「見てみたら早いかも」


 女性司祭が袋から一本引き抜いた。一瞬、金属的な光が見えた。


「あ、これ。中央に名前が金属で埋め込んである」

「どれどれ。あ、これあたしのだ」


 次々に司祭達は棍を取り出して名前を確認していく。


「はい、リーリス」

「ほえ?」


 突然投げられた棍を反射的に受け取るリーリス。埋め込まれた金属のプレートには見間違いでもなんでもなくリーリスとあった。


「えー、なんでっ。私、希望してないじゃんっ」

「司祭長曰く、精神修養もかねて参加させなさいとの事。ちなみに司教様承認済み」

「マ、マドカッ。知ってたのねっ。酷いっ」

「人の知らない所で色々話を進めていたリーリスに言われたくない」


 なおも文句を言うリーリスの言葉を聞き流しながから、明日から色々と大変になりそうだな、とマドカは思った。



第二章 完

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