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第02話

「まだ目を覚まさないの?」


 アネットの問いにリーリスは頷くしかなかった。

 ここはアルミス教会の奥にある女子修道棟宿舎の一角だ。


「司教様が連れ帰ってもう三日よ?」

「そう言われても……、飲まず食わずだから少しは痩せるはずなんですが。肌ツヤなんかひょっとしたらあたしよりもいいかも。

 司教様から何か聞いてませんか? 司祭長って、司教様に継ぐナンバー2の地位なんでしょ?」

「この際、地位は関係ないわよ。私にも黙って司教様は出かけられた訳ですし。

 あの時、急にいなくなるから肝を冷やしたわ、まったく」

「ヴィジョンであの子の場所が分かっていたら、後は私達に命じて下さればよかったのに」

「まぁ……、ヴィジョンは言わばアルミス様からのメッセージですからね。人任せという訳にもいかなかったのかも知れないわ」

「はぁ、そんなもんですか」

「あなたもビジョンを受けるようになると分かりますよ」

「何年後になるやら」


 ふいに悲鳴のような叫び声が聞こえて来た。


「噂をすれば起きたようでね」

「ですね、じゃないでしょうっ」

「わたた、はいっ!」


 リーリスは悲鳴の元へ、そしてアネットは報告すべき人物の元へ急いだ。



*---*



 まどかは自分が目覚めているという事に気付いていなかった。

 ただ、ボーっと見慣れぬ天井を見つめていた。

 突然乾いた音が鳴り響いた。

 一気に意識が覚醒する。

 バネ仕掛けのように身体を起して音の元を見やる。

 予想通り、床に棍が転がっている。

 恐らく壁に立てかけてあったのだろう。

 壁?

 所々にヒビが入り年季を感じさせる漆喰の壁。

 改めて自分が見つめていた天井を見やる。

 むき出しの梁が見える。

 自室は勿論、道場の住まいにそんな部屋はなかった。

 いや、何より自分が寝ていたのはベッドだ。

 道場の住まいは全和室でベッドのある部屋などない。

 だったらここはどこだ?

 ベッドからそろりと降りる。

 軽く床がきしむ音を立てた。木造の床だが、材質は良く分からない。棍の探求の一環として木の種類については色々と調べてはいたのだが。

 床に落ちている棍を拾い上げて改めて部屋を見やる。

 抱いた感想は古い洋風の部屋だった。

 ベッドの脇の小机には聖書のようなものが置かれている。

 試しにページをパラパラとめくるが、そこに書かれているのは日本語でも英語でもなく、少なくともまどかが知らない言語で埋め尽くされていた。


 ここはどこ?


 不安に駆られた。

 本を閉じると、横の燭台に気付いた。

 ロウソクが立てられている。LEDで火のかわりをするイミテーションではない。本物のロウソクだ。

 棚に置かれた彫刻や小物。壁に貼られたタペストリー。どこか統一され宗教めいた感じを受ける。

 いまさらながらに自分が着ているものが稽古着ではない事に気付いた。

 ぶかぶか、というよりは恐らくフリーサイズのワンピースタイプの寝巻き……だと思われる。

 まどかはまず深呼吸をして落ち着こうとした。

 思い出せ。

 なぜ、ここに自分はいる?

 そう、師範代との試合の後、兄とすれ違い、池で……。


「っ?!」


 鋭い何かが突き刺さるように頭が痛んだ。

 それでも思い出した。まどかを襲った奇妙な現象。

 そこから先の記憶がない。


「……いえ」


 微かに、本当に微かに。夢だったのかも知れない。

 朽ちた森、滝のような雨。そして、その雨から庇うように自分を抱いて、こちらの視線に気付くとまるで何もかも安心してまかせられる、そんな笑顔を向けた男性。

 夢? 現実?

 いや、少なくとも今自分が見知らぬ部屋にいる、それは紛れもない現実。


「あ、窓」


 田の字状の細い角材の隙間にガラスが嵌っている。

 外は明るい。

 まどかは考えるのは止めて、窓を開け外を見る事にした。

 少なくとも道場の近くかどうか分かるかも知れない。

 内開きの窓を一気に開いて身を乗り出すように外を見た。

 まず目に入ったのは教会のような建物。いや、部屋の様子からすると教会そのものかも知れない。ただ、まどかの思い込みかもしれないが、教会にしてはその屋根の上に十字架がないのが気にかかった。

 そして、教会より先、主に木造の様々な様式の家。それに市場らしきもの。目の良いまどかには馬車が行き交っているのが見える。

 遠くには田園風景、そして見知らぬ山。

 もう道場に近いかどうかの問題ではなかった。


「ここどこよーっ?!」


 気付けば、声にして叫んでいた。


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