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第06話


 リーリスの言う通りカミス雑貨店の売り物はかなり変だった。

 これは前衛的と言うべきなのだろうか?

 彫刻類はなにやら4つ足の動物がラジオ体操してるようなものだったり、何人もの火星人がマイムマイムを踊ってるらしきもの。

 家具はといえば、なにやら触手が延びて来ている姿見。目のような模様が多数彫りこまれたドレッサー。

 まぁ、見た目はさておくとして。

 マドカは手近にあった引き出しを引いて見た。

 軽い。

 押し込むとぴたりと収まる。

 木の種類はわからないが、触ったたり、軽く叩いた感触ではかなり良いもの、というよりも相応しい材料を使っているのが分かる。


「どうだい、お嬢さん。気に入ったものがあったかい?」


 熱心に品物を吟味している客が珍しかったのだろう。奥にいたコボルトの店主が出てきた。


「あ、カミスさん」

「おや、リーリス。ああ、そう言えばこちらのお嬢さんも修道服だな。

 何か? とうとう教会もうちの芸術品を買ってくれるのか?」

「いや、それはまた別の機会に……、それとは別にちょっとお願いしたい事があってきたの。親方の紹介なんだけど」

「親方? ああ、鍛冶屋の奴か。とすると」


 カミスはマドカの手の棍を見る。


「あの武器がらみかな」

「え? 親方もカミスさんもなんであれが武器ってわかるの?」

「なんでといわれても。あれだけあちこちへこんでいたら、普通武器だと思うが。

 両端が細くなっているし、バランスが中央だから、槍などの柄でもないだろうしな」

「え? へこみ? 細くなってる?」


 リーリスはカミスとマドカを交互に見る。

 一方、マドカはカミスの言葉に感嘆していた。

 たしかに木製武器である以上、棍同士の衝突や硬い武具への打ち込みをすればへこみもするし、また長い年月握り続ければクセと呼ばれる触って分かる程度のへこみが出来る。

 材質により、それらは軽減、あるいは少々のものなら自然に戻るものだが。

 それをたった一目で見抜いたのである。

 両端が細いのも僅かであって、石龍寺流派に慣れ親しんだ者ならいざ知らず、何も知らなければ遠目に意識して見て分かる程度のはずなのに。

 たしかにこの人なら信用してお願いできる。そうマドカは確信した。


「実は私。この武器、棍と呼ぶのですがその技を修めた者です。

 教会で希望者にその技を教える事になったのですが、仰った通りただの丸材ではありません。

 カミスさんに棍の作成をお願いしたいのですが」

「ふむ、棍ねぇ。ちょっと拝借しても?」

「はい」


 カミスに手渡すと、表面を撫でたり力を加えたり、軽くまわしたりと色々と試している。

 リーリスがこそっと耳打ちしてきた。


「ね、大丈夫なの。壊されるんじゃ」

「大丈夫だと思う。棍の機能と性能を測ってるんだと思う」

「そ、そうなの?」


 マドカがいた世界では、使う木材は直接取り寄せてからミリ単位で加工に出していたのだが。


「まぁ、モノがあれば同じものは作れるとは思うが……」


 カミスの返答は、少し困ったような言葉だった。


「えー、何か自信なさそう。親方は木材の事ならエスファじゃ右に出るものがいないって言ってたのに」

「そうは言ってもな」


 マドカにはカミスが困っている事に心当たりがあった。


「樫」


 マドカの声に二人は怪訝な顔をする。

 やっぱりそうか。

 エスタークから与えられた知識は、マドカの言葉を意訳する。

 例えば人間と喋ろうとすると、この世界での呼び名であるヒューマンという言葉になる。

 同様に今の言葉が食べる「菓子」のつもりで言ったなら二人にはちゃんと聞き取れていただろう。


「アースにはないんですね? その棍と同じ木材が」

「そうかっ! 異界のマレビトが司祭になったと聞いていたが、お嬢さんがそうじゃったか。道理で分からんはずだ。これは異界の木なのか」


 カミスは目を輝かせて棍に見入った。


「そうなの?」

「もし存在するなら、司教様の知識がアースでの言葉に代えてくれるはずだもの。それにカミスさん程の人が分からないはずがないわ」


 そして、マドカはカミスに問うた。


「代替となる木材はありますか?」

「そうだな。模様や色にこだわりは?」

「いえ、とりあえず弾性と剛性を再現できる材質があれば」

「そうだな、いくつか思い当たるものがあるが。何しろ異界の物の再現など始めてだからな。

 数日中にサンプルをいくつか教会にもっていくから確認してもらえるかな」

「数日で出来るんですか?」

「ああ、幸い鍛冶屋から柄の注文がいつきてもいいように丸材をたくさん用意しているからな。

 加工にそんなに手間はかからん」


 そう言って、カミスは棍をマドカに返した。


「え、これが必要じゃないんですか?」

「いらんよ。覚えたから。いや、忘れてたまるものか。異界の木の感触など」


 やや、興奮気味のカミス。


「さっそく、これから作業にかかるとするよ」

「お願いします」


 カミスが店の奥に消えてからリーリスが尋ねた。


「それって、そんなに凄いものなの?」

「私の世界ではありふれた木材なんだけど。アースでは希少かも」

「でも、ただの木なんだよね」

「まぁ、はっきり言えばそうなんだけど」


 リーリスはきっぱりと言い切った。


「やっぱり、カミスさんって変!」




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