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その1話①

***注意***


この作品は作者の脳内妄想を


そのままだらだらと、書き綴った


とんでもない駄作です。


ちゃんとした小説を読みたい方は


ご覧にならない事をお勧め致します。

 

 キキィーー!(トラックのブレーキ音)



(うげ、我ながらグロいな・・・・・。)


 交差点を横断中にトラックが猛スピードで突っ込んで来た。


 避けようと、思えば避けることは可能だった。


 だけど、俺は動かない。動けないのじゃない。


 動かず、壁になる事を選んだ。


 何故かって?


 さーね。だけど、俺は・・・・。


 プルプルの生肉や、肉汁がコロモを突き破りほとばしる。


 一秒を1000倍に引き伸ばした様にゆっくりと流れる時間。


 歩道に群がるサラリーマン。女子高生。OL。母親と幼女。


 誰もがこちらを見つめ、青白いトーチを灯す。


 路上にぶちまけられた色鮮やかな赤い血肉。


(ああ。死んだ。死んだねコレ・・・・。)


 幼女の顔面にこびりついた肉筒の残骸は、異臭を放ち、油でぎとぎとに濁ったスープを吐き出している。


(ごめん。豚骨ラーメン大好物なんだ・・・。)


 ピンぼけした記憶のスナップが天空からしんしんと降り積もる。


(ああ。・・・・・・くだらねぇ。)




(こんな人生、無意味だった・・・・。)


 遠くからサイレンの音が冷たい空気を引き連れ近づいてくる。


 視界が狭まり、やがて意識は完全なる暗闇に飲み込まれた。


(まったく、夢も希望もありゃしねぇ・・・。)


『初めから、夢や希望なんて信じちゃいないクセによく言うねぇ(笑い)』


 ひどく間の抜けた、若い女の声が言った。


(違いねぇ・・・・。)


『うんうん。違いねぇーちすあめりかーんだョ』


 再び若い女の声。


(うん・・・・・・?)


『ん?んー?んん~。んこぉ~?はい。次、ぉ~だよ~ぉだよ?』


 人が死ぬ瞬間、その人が歩んできた人生の記憶が走馬灯のように頭になだれ込むというが、この声にまったく聞き覚えがない。


(誰だ?俺の記憶に、こんなハイテンションなヤツは登場しなかったはずだけど?)


『おお?私の声聞こえるの?mjd?テンションーあがてきたぁ~!ヒーハーァー!ふぉぉ~!』


 それにしても、この若い女の声はよく響く。


(うるせぇな。もう少し、声のトーン落としてくれ)


『これは失敬、しっけぃ。まさか、こんな簡単にサルペイヤに出会えるなんて思わなかったものだからつい、テンションあがっちゃってやね。』


(サル?なんだって?)


『そそー。しかもこんな恐竜のうんちみたいな大物なんて、そーやすやすと出会えやしない」


(意味は解らんが、なんとなく馬鹿にされているのはひしひしと伝わってくるぜ・・・。)


『あーあ。いやいや、まさか。その逆だよ。僕、全力で褒めてますます、スーパーマスヲデラクッスだョ』


(テメェ。それ以上しゃべったら、ぶっ殺すぞ!)


『ありゃりゃ?もしかして怒っちゃった?重ねて失敬、台形、三角形だよ。ああ、そうだ。こんなウジの沸きそうな頭の中で会話するのもなんだし、ちょっと場所変えよぉ』


 パチン!(指を鳴らす音。)


(痛っ・・・・!)


 全身を脱水機にかけたみたいな強烈な遠心力と重力に、胃があった場所が締め付けられ、意識が見えない小さな穴に吸い込まれる。


 薄れゆく意識のオヒレに吸い付くように、若い女の声が追いかけくるが、聞き取れやしない。


『・・・・・・。;お。。。・・い・・・・・・・て・・・・お・・・・・・・・・・・れ・・・う・・・・・・・・・・・・。』










 漆黒の闇に針の穴から差し込む光の糸が垂れ下がり、やがて巨大に膨れ上がり、それと同時に機能を一時的に停止していた俺の意識が再生されて行く。









「てめ~!マジで、ぶっ殺すぞ!」


 無意識に吐き出した自分の声の大きさに、驚愕しつつも、突然の環境の変化になんとか順応しようと、周囲を見回して呼吸を整える。


 最初に目についたのはシミ一つない天井とそして、机の上には愛用のmp3プレイヤー。


(あれ?ここは俺の部屋・・・・。妙にリアルな夢だったな・・・。)


 汗でグショグショになった額を左手の甲で拭い、安堵感から思わず深いため息を漏らす。


「ふぅ・・・。なんか、だりぃし、もうひと寝入りするかな・・・。」


 一瞬、冷蔵庫の影に謎の生物の存在を確認したような気がしたが、敢えてその正体を目視ピントからはずし、瞼を閉じる。


「こりゃぁ!放置するにゃ~!イジッってなんぼだべぇ~?」


 わぞとらしい、どこぞの方言とも知れぬ若い女の声が間髪入れずに、突っ込みをいれてくる。


 まぁ。気づいてはいたさ。だが、面倒だから無視するのが一番。


「うぉーい。もすもす~?あれ、寝ちゃいました?」


「・・・・・・・。」


 こちらを覗き込もうとする気配を察し、くるりと寝返りをうって、謎の生物に背を向ける。


「そぉーれすか!無視ですか!知らないよ?泣いちゃうよ?泣いちゃうからね?!」


「・・・・・・・。」


「しくしくしくしくおよよよしくしくしく37・・・・。」


 無視されたことが、よほど悔しいのか、悲しいのか。くるりと踵を返して泣き出す、謎の生物。


 だがしかし、これは・・・ハイレベルにうざい。しかも、ダジェレ掛け算まちがってるし・・・。




「しくしくおよよよ~んしくしくしわ31・・・・。」


「だから、掛け算まちがってるっつーの!」


 たまらず、突っ込みを入れる。


「おやおや、お目覚めれすかぁ~?」


 そう呟き、体育座りの姿勢のまま反転して、こちらに近づく謎の生物改め、へんな恰好をした女。


 と、いうより声の感じではもう少し年上の女性を想像していたのだが、見た目はかなり若く、自分より年下か同級生ぽい。


 へんな恰好をした女改め、全力で変質者な少女は目を充血させて、鼻孔をひくつかせている。


「(ち。面倒くせぇな・・・。)すまんな。大した実力も無いくせに前に前に出ようとする若手芸人だと思って、ついな。」


「なあんだ!もう、にぃさん辛口でんなぁ~かないまへんわぁ~」


「(うあ。下手な関西弁でうざポイントMAX!)ははは。おいおい。兄弟子を肘でつつくなよ」


「うほぅ!これは失敬、谷啓、田中邦・・・ケイ!」


「(うげ。コイツ最後、言葉尻が合わない事に気づいて、無理やり同一に押し込めたよ)ははは。所でキミ。その恰好はどうしたの?と、言うか誰?」


「うぉっとぉ!気づいちゃった~?へへへ!」


 変質者な少女は薄気味の悪い笑い声をあげて、すくりと立ち上がり、


「ぅおっす!オラおっさん!久々に下界にふぉふぃて来たらあっ。つおいおっさんにおゴホゴホ!ぶおgふぉって。・・・・オラわくわくすッゾ!・・・」


「(コイツ、ネタ噛みしやがったよ。しかも、無理やりセリフを繋げようとしたからゴタゴタになっちまってるし・・・。)そうか!おっさんか!おっさんなら仕方がないな!」


「うん。うん。仕方が無い。仕方が無いじぇりあ!飛んでイスタンブール!さね」


「(ダメだ俺もう限界だ!)わははは!オマエ面白いなぁ!」


 ベシベシ(変質者な少女の額にチョップする音)


「あはは!にぃさんの突っ込みが痛い!」


 ベシベシ!


「そうか!痛いかぁ?!だがな。俺はお前の兄弟子では無い!むしろ俺はフォースの暗黒面に飲み込まれて生き別れになったお前の、父だ!!」


「ふぇ~?父さん?という事はキミもおっさん?!てか、ちょっと痛いよ。」


 ベシベシベシ!


「そうだ!おっさんだ!おっさん、ど・お・し!仲よく親睦を深めあおうでわないか!」


 ベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシ!メリメリベシベシ・・・・


「痛たたた・・・・!」


「あははは!」


 ベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシ!メリメリベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシ!メリメリベシベシ・・・・・・・。


「ちょ。マジで痛いちゅうの!」


 目に大粒の涙を浮かべて、額に出来た巨大なコブを両手で抑えて叫ぶ変質者な少女。


「おっと。さすがにやり過ぎた。すまん。」


「突っ込みで本気チョップとか馬鹿なのじゃ無いかなカナ!?」


「馬鹿だと?こっちはオマエの糞つまらねぇコントに無理やり付き合わされてるんだ!いい加減にしねぇーとマジでぶっ飛ばすぞ?だいたいオマエは誰なんだよ?」


 俺の怒りは叫ぶだけでは収まらず、再び渾身の力を込めたチョップの態勢!


「ひぃーごめんなさい!謝るからチョップは堪忍して!ボク、女の子なんだよぉ?」


 女の子。その言葉の響きに、挙げた手の掌を引っ込める。


「くっ。卑怯者めが!」



「へっへっへ!ごめんよぉー。そんな事よりもこんな状況なのに、キミは驚いたりしないのだにぇ?普通キミと同じ状況に陥った人々は、泣き叫ぶか、状況を受け入れられず呆けてしまうものなのに」


 きょとんとした表情の変質者な少女に呆れと、苛立ちを込めて、


「何に驚けと?その禿ヅラにか?ステテコか?蛇腹の腹巻にか?」


 そう。目の前には絵に描いた様なおっさんのコスプレをした変質者な少女がいる。


「いやいや。それはもう、驚いちゃっても構わないけどさ。それよりも・・・・。」


「(コイツの言わんとしている事はナントナク解る。だが・・・)・・・・・。」


「なんなら、ボクの胸で存分に泣き叫ぶがいいぞよ」


 茶色いおっさんの肌着の上からでも張りのある、丁度良い大きさの胸を差出して、変質者な少女が言う。


「おっさんのコスをした変態少女にだけは同情されたくないね。笑えない冗談だ。」


「ノンノン。ボクはそんなつもりじゃ・・・。それにコレはコスプレじゃなくて、ボクの戦闘服なのさ。勘違いしてもらっては困っちゃうぞい。」


「ふん。あのな勘違いしているのは、むしろオマエの方だ。」


「ふぉぇ?」


 虚を突かれて、へんてこな声を上げる変質者な少女。


「ここは、あの世で、オマエは天使か死神の類なんだろ?」


「うーん。属性で分類すると、それに近しいけれども、ボクはその類の種族ではない。それに、君はまだ完全に死んだ訳では無いよぉ」


 歯切れ悪く返事をする変質者な少女に構わず、続けて、


「そーかい。まぁ。どっちにしても俺にとっては無意味でどうでも良い事だ」


「ふぉぇ?」


「泣いたり、喚いたりした所で、現状が変わる訳では無いし、俺は死んじまったなら、それはそれで仕方がない事だと思っている。だから、今更、騒いだ所て無駄だ。第一、恰好が悪いぜ」


「それはキミの本心なの?」


「もちろん。俺はもう、この世の不条理さに飽き飽きしているのさ、だから地獄でも何処でも連れて行きやがれ」


 

 俺の答えを聞いて、一瞬、変質者な少女の口元に笑みが浮かんだように見えたが、確認する前には笑みは消えていて、代わり真顔で、こう切り返した。


「そうそう。言い忘れてたけど、ボクの名前はプリッツ。夢機関の凄腕エージェントさ」


「どうした?藪から棒に?まぁ、その夢機関とやらは初耳だが俺の名前は・・・・。」


「「嘉藤 正太郎。(かとう しょうたろう)」」


 俺の言葉に被せてプリッツが言った。


「なんで俺の名前を?」


「ボクはキミの言う天使や死神の属性に近しい存在だよ。名前をあてるくらい造作ないさね」


 得意げに鼻を高くするプリッツ。


「おっさんのコスで自信満々に言われてもギャグにしか見えないな」


 すかさず突っ込みを入れてみる。


「にょぁぁ!茶かすの禁止ぃ!それに、コスじゃなくて戦闘服だっちゅぅ~の!」


 心底悔しそうに両腕をグルグル回して抗議するプリッツに、少しだけ親近感が芽生える。


「気を取り直して、夢機関の『凄腕』←(ここ大事)エージェントである僕からの提案を聞いてくれないかなカナかな?」


「は?どうしたんだ突然改まって?そういうの似合わないと思うぞ?」


「・・・・・。」


 自己主張のこもった発言にプリッツの顔を覗き込むと、その瞳から真剣さがヒシヒシと伝わって来た。だから俺もそれ以上に茶を濁すのを止め、


「なんだ。言ってみろよ」


「おっけぃ。あまり時間も無さそうなので、手短に言うね。」


「おう。分かった。」


 プリッツは妙に勿体つけた口調で口を開く。


「キミを僕の助手として迎え入れたい」


「はぁ?俺に変態の一員になれと?」


 おっさんのコスを差し、気怠さを存分に込めて問うて見る。


「失敬なぁ!ぷんぷん!ボク達は世界平和の礎を担う、素敵集団なんだぞ!凄いのだから!」


 禿ヅラの一本だけやたらに長い毛を揺らして力説するプリッツ。


「具体的にどう素敵で、どう凄いのか知らんが、そのセリフだと怪しげなカルト集団にしか聞こえないな。それに、おっさんのコスを着た集団が世界を救うとか想像できねぇー」


「おっさんを馬鹿にしないでョ。それに、これはボク専用の戦闘服であって、エージェントがみんなこんな恰好している訳じゃないよ。まぁ、ボク的には仕事と趣味を兼ね合わせた最強の形態だと思うので、制服としての起用をボスに進言したのだけど、あの石頭が・・・・。」


「いあ。それが正常の判断だと思うぞ。」


「むぅ!?その言い草だと、まるでボクが異常な変質者みたいジャマイカ?!」


「あん?違うのか?」


 殺気だった目で俺を睨むプリッツ。


「ふん。キミにはいずれ、おっさんの神秘について講義させてもらいますわマスワ・・・!」


「全力で拒否させてもらうぜ。」


 しばらく、キリキリと奥歯を噛みしめるプリッツだったが、続けて、


「まぁ。ボクの趣味はしばらく置いといて、キミがボクの助手になった時の待遇面について述べても

 いいかにゃ?」


「俺は一言もオマエの助手になるとは言って無いけどな。まぁ、参考までにどうぞ。」


「まず、キミが助手を宣言した瞬間から、キミの死亡フラグを一時的に解除します。」


「それってつまり、セーブ前データーから引き継いで復活するっつー事か?」


「ノンノン。その方法だとボクとの出会いまでデリートされてしまうので意味が無い。ので、死亡分岐を二股に差し替え、新しいチャートを構築するでぇす」


「なんだか、チートみたいで気が引けるな・・・。」


「大丈夫、ミッション終了と同時にちゃんと死亡エンディングに導くから」


「単なる延命処置って事だな。まーどうでも良いけど」


「で、全てが終わった日には(ここ重要)→『賞与』もちゃんと用意してあるのだぁ!」


「ほー。それは遣り甲斐があるな!」


「でしょぉ?ちなみに、賞与の内容は『おっさんの詰め合わせ5年分』と『生まれる所からやりなおしチケット』です!きゃっきゃっ!出血大サービスの太っ腹ぁ!」


「断る!!」


 一人で盛り上がるプリッツに即答する俺。


「えー?えー?これだけの好条件を断るなんて、意味わかんない!」


「どこが、好条件だ。むしろ罰ゲームじゃねーかよ。5年分のおっさんってどんなだよ!?生まれる所からやり直して、おっさんに囲まれた子供時代を過ごすなんてごめんだぜ!」


「はぁ~?何いってるの?ああそうか。心配しなくてもダイジョーブ。おっさんは1個づつアルミパックに梱包されているから使う分だけ取り出せて経済的!しかも合成着色料は一切つかってなくて安全だよ」


 そう言って親指を立てるプリッツ。


「梱包されてる時点で死骸じゃねーか、そもそもおっさんの人権も尊重してやれよ」


「失敬な!ボクはいかなる時もおっさんを無下にしたりはしない。ちなみに、ボクのお勧めは旅行先にも携帯できる、おっさんダブレットだよ!噛まずに飲めて便利なんだぁ。」


「箱詰めされるは、切り刻まれるは、散々だなおっさん・・・。」


 工場で加工される、おっさんの集団を想像して呟く。


「話は戻すけど、一時的とはいえ、キミは少しでも生きながらえたいとは思わないの?」


「思わないね。」


「にょにょー?言い切っちゃうのか!キミって本当に人間なの?」


「さーな。俺もたまに自分で自分を疑う時あるよ。本当はミジンコやアメーバーなのじゃ無いかってな。そもそも、生きることに意味なんてあるのか?」


 俺の質問に目を丸くするプリッツだが、俺は嘘は付いていない、純粋にそう思っている。


「キミってば、初めから死んでいたのかも知れないケロ!」


「誰が、うまい事言えって言ったんだよ」


 そう、切り返してプリッツに突っ込みを入れようと、右腕を掲げた所で、俺は初めて異変に気づく。


「なんじゃこれ?俺の手が消えてる、というか、脚はいずこへ?」


「それは、キミの脳細胞が壊死して行ってるからだよぉ。さっき言ったでしょ?時間が無いってさ。ここはあの世じゃなく、ボクがキミの脳に取付いて、キミの記憶を利用してキミと対話しやすい空間を作りあげていたのさ。」


 プリッツはそう言って蛇腹の腹巻から、タブレット型端末を取り出して、俺に確認できるように画面をこちら側に向けた。


 すると、スクリーンに俺が事故に遭った直後で静止した動画と、その右上に円形のウジェットグラフがあり<生><死亡>の目盛り軸は限りなく<死>の値に近づき、赤く点滅していた。


「これは凄い装置だな。お前が夢機関とやら、謎の集団のエージェントってのも、納得できたぜ。」


「ふぉっふぉ。ただのエージェントじゃないヨ。凄腕だよ!」


「へ、そうかい。」


 俺はものすごく、背中を反って得意になるプリッツに関心したように切り返した。


 だが、実のところ、俺の関心はタブレット装置やプリッツに向けられた物ではなく、現場で恐怖に引きつった表情で固まる幼女であった。


「それじゃ、ボクはこれで御暇するヨ。それじゃ、良い死を!」


「ちょっと待て!待ってくれ!」


「ふぉえ?ボクとの別れが惜しくなったのかにゃ?」


「ちげーよ!そうじゃねー」


「そんなに、いきり立って否定しなくても、いいじゃんーじゃん。凹むにゃぁ~」


「なぁ。そこに映っている、幼女はどうなる?」


「幼女?もしかして、キミってばてばそっち系の趣味だったにょ?人のこと言えにゃいじゃん」


「ちげーよ。ここは俺の頭の中なんだろう?だったら、聞きたい事は既に分かってるはずだ!焦らすのは止めてくれ!」


 苛立ちをプリッツにぶつけて怒鳴る俺。


 こうしている間にも、俺の体は胸から下が完全に消滅し、徐々に上へと死滅の広がりが攻めてくる


「目の前で、年上のお兄さんが、臓物さらけ出して死んじゃうのだから、当然そのトラウマは深く、その子の心に、記憶に、身体にまで影響を及ぼすだろうね。」


 さっきまでと別人のような乾いた口調でプリッツが言う。


「うぐ。お前の仲間になれば、その結末は回避できるのか?」


「そりゃ、もう。回避どころか事実さえ完全に抹消できますよぅ」


 すでに、頭の半分が消滅し、プリッツの表情は確認出来ない。だが・・・・。


(へ。夢や希望もありゃしねぇ・・・。)


『その発言は肯定と、とってもいいのかにゃ?後で騒がれても困っちゃうんだからね!だからね!』


(・・・・・。ああ・・・・好きに・・・しろ・・・。)


 その言葉を最後に、俺の意識は光る点となって、消滅した。









 廻る廻る廻る、廻る廻る廻る。


 青空の空に、羊がふわりと跳ねた。


 羊飼いはラッパを吹き、小鳥が躍る。


 鐘が夢と浮世を繋ぐように。


 月が常夜を照らすように。


 おやすみなさい。おやすみなさい。






 次に目を開くと、俺は沢山の人々に囲まれて、冷たいアスファルトの上に横たわっていた。


 救急車の赤色灯が妙に眩く明滅し、周囲の空気を凍らせる。


 逆再生されたような、雑踏の音に交じって人々が口々に何かを言っているようだったが、覚醒仕切れていない俺の脳には判別出来ない。


「たらら~♪たーら~ん♪」


 やけに能天気な少女の声が頭に響く。


(この声には聞き覚えがある。コイツは確か・・・・)


 脳細胞のひとつひとつに記録されたバラバラの記憶が微弱な電流を発生させ、脳内スクリーンに禿ヅラを被った美少女のイメージを投映させた。


(プリッツ・・・・。)


 そう呟いた瞬間、遠くでぼんやりしていた俺の意識が急激に呼び戻され、上半身が反射的に跳ねた。


「ぶはぁゴホゴホ!!」


 乾ききった喉の奥に熱い空気が流れ込み、むせかえってしまう。


 何故か、白衣を着たプリッツが腋におっさんプリントが入った枕を抱えて、俺の腹の上に馬乗り状態で、見下ろしていた。


「はぁはぁ、う、俺はどうなった?成功したのか?俺は!・・・」


「落ち着くよろし~。私にまかせるアルヨぉ~」


 アドレナリンの大量分泌によって、興奮状態である俺をなだめる様に、プリッツが耳元で優しく呟く。


「何故に在日っぽい喋り方?ものすんごく胡散臭いぞ?」


「くすくす。ソレ、いちぱん、大事ネ」


 禿づらに、この喋り方だ。突っ込み所が満載なのだが余裕綽々な彼女の表情を見て、とりあえずコイツに委ねる事にした。


「分かった。頼むぜ」


「あいあい~」


 ニンマリと返事をするプリッツは離れ際にシャンプーの良い香りを残して、俺はなんとなく照れくさい気分になり、目を閉じる。


 ざわざわと群衆がどよめく中、プリッツは居丈高に短めのスカートの衣擦れをたてて、立ち上がり群衆を挑発する様なまなざしで睨みつける。



「先生。その少年の容態わ?」


 群衆の中の一人がプリッツに問いかけ、一同が静まり、固唾を飲む。


「ふふふ。彼は・・・・」


「彼わ~?」


 今度は群衆全員が妙な一体感で、一声にプリッツに問いかける。


「彼は・・・いません・・・募集中でぇぇぇす!」


 プリッツは叫ぶのと同時に抱えていた枕を群衆の頭上高く放り投げて、人々は枕の行方を目で追いかけた。


 天高くまで、舞い上がったソレはゆっくりと回転しながら、万有引力の法則に従って静かに群衆の間に

 着地する。


 時間にして、およそ30秒位だろうか?周囲から音が消え、不安に駆られた俺が目を開きゆっくりと上体を起こすと、それに気づいたプリッツがこちらに駆け寄って来る。


「しょうちゃーーん♪」


 テケテケと、聞こえて来そうな駆け足で、俺の真横を位置取ると、そのままちょこんとしゃがむ。


「ぐうぐう・・・俺は寝てます。変態は話しかけないでください。」


「アレアレあれ?おかしいな。改変は滞り無く、完了したはずだけどもケドモ?」


「ぐうぐう・・・。」


「ありゃ?ああそうか!最後はお姫様のチュウで、〆ないとね!」


「ぐあ!やややや止めろぉ!」


 慌てて起き上がる俺に、プリッツはしゃがんだままにっこりと微笑んでいた。


「あひゃひゃひゃ!冗談ヤネ。びっくりしたアルか?」


「何故ゆえに在日?ってか、俺を放置したまま一体何をやってたんだ?」


「あれ?しょうちゃん。もしかして拗ねてるのかにゃ?やっぱりチュッチュしちゃおうかにゃー?」


 ペシペシ(禿ヅラにチョップする音)


「っ痛たた・・チョップやめてーな」


「これは単なるチョップでは無い。これは殺人チョップだ」


「ひぃー。今日からボクはキミの上司だよ!もっとボクを敬ってョ」


 プリッツは涙目で俺の右手を握りしめながら訴える。


「ち。それじゃ、上司様は一体何をしやがって、いらしたのですか?」


「おほん。コレだよコレ!」


 得意げに枕を掲げ、ぽんと叩いて見せるプリッツ。


「枕?其れが死体を蘇らせたり、時間の流れを変えてしまうような便利アイテムなのか?」


「いんやー。コレはボクが愛用している普通の枕だよ?」


 きっぱり否定するプリッツを怪訝な目で睨んでみる。


「あにゃ?仮にもボクの助手になろうと言うものが、全く理解出来てないってかんじだねー?」


「むぐ。しょうがねーだろう。俺はさっきまで死んでたんだ大目にみろよ」


 チッチッチと舌を鳴らして、人差し指を左右に動かすプリッツを本気でぶん殴ってやろうかと衝動にかられたが、寸前の所で彼女が口を開く。


「ボクは不確定の要因を軽くプッシュして扉を開いただけだよ。」


「はぁ?まるっきりワカンネ。もっと簡単な説明をプリーズ」


「うーん。今のが一番、ボクが興した事象を説明するのに、もっとも適格な回答だったのだけどにぇ」


「むむむ・・・。」


「扉の中の猫の話し、知っているかにゃ?」


「あん?猫がどうしたって?」


「にゃー。内側が見えない箱の中に猫を入れて毒ガスを流したとき、箱の中の猫は生きているのか死んでいるのか?ってハナシ」


「はぁ?そんなの死んじまってるのに決まってるじゃないか!馬鹿にしてんのか?」


「それはキミの思い込みであって、キミは実際に猫が死んでいる所を見たのかなカナ?ツマリはそういう事なのにゃ」


「すまん。まるっきり分らん。」


「あはは。まぁ。そのうち理解出来る時が来るョ。兎に角ボクは約束通り、キミの死亡事実そのものを抹消してあげたのだから、今日から馬車馬の様に働いて貰うよ」


 事実そのものの抹消。か・・・。俺はその言葉に言い知れない冷たさを感じた気がした。


 だけど、プリッツがそう言ったように、あれほどの騒ぎを起こして起きながら、何事も無かった様に人々は俺達の間をすり抜け、俺の先には母親に手を引かれ、嬉しそうに歩く幼女の姿。


「へ。夢も希望もありゃしねぇ・・・。」


 そう呟いて、右手の感覚を確かめる俺の横を、本来であれば俺を死に追いやる筈だったトラックが通り過ぎて行った。

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