暴食のヴァオワアル
20120310
ヴァオワアルの貫手が連邦のメタルドールに突き刺さる。胸部中央から外れ、肩口に近い。コックピットは貫けていないし、粘土状の金属フレームを直接伸縮させて動かすメタルドールには動きを遮るほどの損傷ではない。
だが、ヴァオワアルにはそれで十分なのだ。
「ふふ、いただきます」
ヴァオワアルの操作水晶に優しく触れ、キリルは歌うように告げた。同時にヴァオワアルの指先から様々な金属が混ざり合った合金がドロリと垂れ、メタルドールのフレームを構成する金属に触れた。それで終わりだ。
「くっ! ちぃ」
貫手の衝撃から回復し、気を取り戻した連邦の操士が目の前の銀盤を見る。
「くく……」
肩を貫いただけで動きを止めた敵に、安心したのか繰士は舌なめずりをし、操作水晶に力を込める。
確かに操作水晶は繰士の力に反応し、仄かな光を放つ。手応えがない。
「ん、うん?」
外界を写す銀盤には確かに敵であるヴァオワアルが目前にいると教えてくれる。だが自分のメタルドールが、攻撃してくれないのだ。
「な、なんだ?」
この位置なら手のセラミックソードを前に突き出すだけで終わるハズだ。いや、目の前の敵が、大きくなっている?
「う、うわあああああああ!!」
金属を粘土のように柔軟に操る錬金。通常それは他人の支配圏にある金属を操る事は出来ない。ヴァオワアルは、通常のメタルドールではないのだ。
ヴァオワアルの支配圏にある金属が敵のフレームメタルに触れた瞬間、支配権を簒奪した。金属はフレームを構成する金属と融け合い、吸い取り、ヴァオワアルのメタルプールへと吸い出していく。連邦の繰士が僅かに気を失っている刹那に近い間に、ヴァオワアルは暴食を始めていたのだ。既にヴァオワアルの支配圏にあり、繰士が操れる物は何もない。
食事を終えたヴァオワアルの腕から長い紐状に金属がにゅるりと出てきて、生きている蛇のように連邦のメタルドールに巻き付く。抜け殻になったメタルドールはセラミックの人形も同然だ。不要なのだ。
悲鳴を聞きながらゆっくりと、中身を吸い尽くして、人形と繰士だけになったメタルドールを、ヴァオワアルは物凄い力で締め付け、砕いた。悲鳴は、気にしなかった。
今年の1月27日に制作した「暴食のヴァオワアル」のショートシーンです。
http://blog.livedoor.jp/tohka_1day1chara/archives/5783999.html
深刻なネタ不足




