ビランド
20120303
カリン・エマージェはビランドを作戦宙域に近づいたことで緩んだ気を、立て直すためにパックのコーヒーをストロー越しにすすった。
ネロスーツというプラスコートに換装したビランドはずんぐりしており、背負った超長距離ビームシューターも背中に埋まってしまっている。軟質素材を使用してるが故の埋まり方だが、重心が中央により安定性が増すという効果もあった。
今回の任務は単純。所定位置からのビーム狙撃一撃。砲台を一つ潰すだけというシンプルさではあるが、遠距離まで観測できる目を持った要塞が相手だ。いつその潤沢なエネルギーを背景とした攻撃が飛んでくるか分からない。スラスター光が見つかるのを避けるために、推進剤を燃焼させるスピードの出るスラスターは小惑星やデブリに隠れる一瞬しか使えない。通常はガス噴射を使い、慣性で届くようデブリの少ない宙域を選ばなくてはならない。作戦時間も一週間という長スパン。オートパイロットも外界監視と障害物を避ける程度の設定だ。とはいえ予定より早く現在四日目。到着次第狙撃しろとの命があるため相当な猶予だった。
敵の斥候や監視衛星が近づいた場合に止まって身を潜める必要があるための余裕だったが、斥候とは会わなかったのだ。頑丈で分厚い装甲で固め、多数の艦隊とファイタノイドを有するが故の油断なのだろうか。そこまで考えてカリンは頭を振って思考を飛ばした。予定ポイントに到着した。余計なことを考えるのは後だ。
カリンがボタンを押すと、ビランドはプラスコートの前に付いた6カ所のスナップボタンを指を使ってぱちんぱちんと外す。コックピット内では電子合成されたその音が聞こえるのだ。余計な機能を、と思う。この音の所為で余計緊張する。そう思いつつ手順を頭の中で繰り返す。
ビランドは6つのボタンを外し終えると、ボタンで留まっていたカバーを外し、機体正面中央を上下に分けるジッパーの引き手を摘み、上から下に引く。
プラスコートは軟質素材を用いたファイタノイドの「服」だ。といってもビランド専用に作られているため他のファイタノイドには使えないが。ビランドはこの「服」を着替える事によって性能を大きく変える事ができる。そしてなにより、人間がコートを着たり脱いだりするが如く手早く着替える事ができるのだ。
ビランドはふとくもっこりした腕で片側を抑え、腕を抜く。特殊な液体に塗れた継ぎ目の目立たない滑らかな腕が外界に現れる。液体は凍りにくい物を使っているが、それでも宇宙ではゆっくりと凍っていく。ビランドはプラスコートから出した腕を振ると特殊溶液の氷が機体から剥がれ、薄片となって散っていく。様々な星の光に照らされ、小さな欠片がキラキラ輝く光景を、カリンは何度見ても綺麗だと呟いてしまうのだ。
カリンの感想を他所にビランドはもう片方の腕もプラスコートから抜き出し、続いて両足も同じように脱ぎ、振って氷の微粒子を散らした。
プラスコート“ネロ”を脱いだビランドはそれまでとは正反対に華奢で、起伏が少ない。そのフォルムはまるで少女の様。
続いてカリンはビランドにプラスコートからビームシューターを外し、エネルギーラインをビランドの後腰当たりにある端子に接続した。
プラスコートに供給しているエネルギーを一時的に断ち、生命維持と狙撃用カメラへの供給を除いた全てのエネルギーをビームシューターに回しているのだ。
「目標、……確認」
ビームシューターへのチャージはあと10秒。画面に表示されたゲージが力強くゆっくりと確かな実感を持って右へと満たされていく。
今年の1月23日に制作した「ビランド」を使用したSSです。
http://blog.livedoor.jp/tohka_1day1chara/archives/5762607.html
設定語りが強い感じもしますがまぁよし。
時間が無かったにしては設定で語られるアクションが多かったからなのか、非常に書きやすかったです。久しぶりに筆が乗った。
もうちょっと書きたかったくらいです。
が、明日が早いので断念。残念。