マススナイパー
20120222
20120222 マススナイパー
カール・シュットランは30mの体に風を感じていた。背からは大地のぬくもりを、腕には得物の重みを感じていた。
自分のためにあつらえられた巨大ロボット、そのコックピット内に座るカールは、30mの体を感じ、神経がオーバーヒートしそうな錯覚に陥る。右手の親指を口元で滑らせ、錯覚から抜け、開きそうにない唇を忌々しくなぞる。
『シュットラン。準備は良いか』
頭の中に響くのは不遜な中年男の声。カールを呼び出し、巨大なロボットの狭いコックピットに押し込めた男の声だった。
『準備は良いです。こいつの目もよく見えています』
機械の体は生身に比べて硬いが、狙撃には十分だ。
空の向こう、大気圏手前の雲を構成する粒を写している。
『ちょっと見えすぎる嫌いもあるけどな』
カールの体となったロボットの横には金属製の筒がある。ただの筒ではない。途方もなく長く、途中を湾曲しながら地平線の向こうまで続いている。電磁加速式マスドライバーのレールだ。それがカールの手にあるロボットに合わせた大きさのライフル後部に繋がっている。
『では、初めてくれ』
『了解』
カールは短く答えると、自分の体を動かすようにロボットを動かす。寝転がった状態で、両手に持ったライフルを顔の前に。
スコープが覗けるような位置にライフルを持つと、視界が切り替わった。目を模したカメラは赤い星を写す。
『タイミングばっちり。火星が見えた』
『ではそのまま的を探してくれたまえ。赤道上にある。現在の時間は』
中年男の声が途切れ、クリック音と短い電子音がカールに届いた。
『中心より右側にずれているハズだ』
端末を操作して情報を見たのか、中年男の声に自信は無い。
『ズーム――』
カールの呟きに合わせ、火星が大きく大きく、視界に収まり切らなくなり、地表を写す。
『ストップ!』
拡大が止まる。
『見つけた』
丸く、紅白が交互に同心円状になった的だ。視界の中心にあるドットが的の中心に当たるようにライフルを動かした。
『地球と火星の自転、大気の抵抗などは全て計算され、サイトの中央を正確に貫くそうだ』
中年男の補足。だがカールは既に聞いていた内容だ。これならスナイパーである自分でなくても良いじゃないかと何度も言ったが、結局自分はここにいる。
『じゃ、撃つぞ』
ロボットと一体化したカールは、巨大なライフルのトリガーを引いた。同時ではなく、コンマ10送れてライフルから弾が天を向け疾走した、のだろう。カールには分からなかった。ただ手に感じる反動だけが実感としてあるだけだ。
発射速度が余りにも早い。ゲームみたいに派手なエフェクトがあるわけじゃない。実銃みたいに心地よい発砲音とマズルフラッシュもなかった。
『結果が出るのは5分後だ』
カールはますます何故自分がここにいるのか、分からなくなった。
マススナイパー自体は去年の2月28日に作った物です。
ブログにも乗せてません。