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Ist  作者: こごえ
第一章
3/30

プロローグ 享楽主義者

「阿藤梨絵さんを探しています……」

 時を同じくして、情報統合サイトにアクセスしていた荻月梨穂(おぎつき りほ)は、そんな書き込みに目を止めた。

 噂の流れる鈴帝学園大学に通う彼女も、当然のごとく「阿藤梨絵」の噂を耳にしたことがある。このサイトでもしばしば話題になったし、裏サイトなどに行けば、知り合いが阿藤梨絵の呪いで怪我をしただの、事故に遭っただのという話で持ち切りになることもあった。そういった口コミがこの噂の伝播に拍車をかけたことは言うまでもない。その結果が現在の学内に広がる見えない疑心だった。

 梨穂も以前から阿藤梨絵の正体に興味があった。しかし数日前に女子が一人行方不明になったという噂が流れて以来、多くの人間がこの話題に触れたがらなくなってしまっているのが現状である。この質問にも恐らく回答は来ないだろう。来てもせいぜい忠告がいいところか。そのくらい、皆噂を忌避し始めていた。

 だが逆に、荻月梨穂という人間はよりその興味を強めていた。何故なら彼女は愉快なことに対して目がない享楽主義者(ヘドニスト)だから。呪いへの恐怖などこれっぽっちも持ち合わせていない。問題は面白いか否か、それだけである。

 だから今、この質問に遭遇できたことは彼女の好奇心を一層加速させた。彼女は未だ誰の回答もない質問にすぐさま回答することに決めた。


 私も阿藤梨絵さんを探しています。良かったらお会いしませんか?連絡先は本文に


 さて、梨穂が今現在いるのは学内で最も古い校舎、三番校舎一階最奥の教室である。以前は美術系のサークルが活動していたそうなのだが、いつの間にやらその姿を消してしまったらしい。その当時の名残と思われる美術道具は教室に放置されたままとなっていた。こんな所に好き好んで訪れる者などいない。梨穂は持ち前の変人さ故に、時たまかような場所を訪れては時間を潰すのだが……。

 そこへ突然、一人の女子がやって来た。

 想定外の出来事は愉快な未来を予感させ、梨穂の好奇心を刺激する。彼女は女子を上から下まで観察した。

 体躯はやや小柄。肩口あたりまで伸びた髪の毛は茶色がかった黒で、それが不安げな面持ちの少女をどうにか明るく見せている。しかしながら自信なさげに俯くその様子から、全体的に暗い雰囲気を漂わせる少女だった。

「何か御用ですか?」

女子の観察を終えた梨穂はにこやかに話しかける。それでも表情の優れない女子は遠慮がちに口を開いた。

「荻月梨穂先輩ですよね」

確認するような女子の言葉に、はいと短く肯定する梨穂。それを聞いた女子は勢いよく頭を下げて

「お願いです!友達を、阿藤梨絵の落し物から救ってください!」

と言った。大きく、切実な声だった。その唐突すぎる申し出を梨穂は

「いいですよ」

二つ返事で了承していた。あまりにもあっさりとした返答に女子は言葉を失う。既に梨穂の中では予感が確信へと変わっていた。これは面白いことになる、と。梨穂は口元をますます愉悦の形に変えて

「ただし。面白くないとだめですよ」

享楽的な一言を付け足した。

現「次回登場するのは――」

合理主義者「私だ」

享「誰です?」

現「次を読めばわかる」

享「わー、現実的」

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