エピローグ 現実主義者と悲観主義者(2)
その真意のほどを確かめようとする伽弥子に、宮史は平然として答える。
「といっても、飛び込まないことには助けられなかったし」
現実主義者らしい、当たり前の返答だった。だが伽弥子が言っているのはそういう問題ではない。
「……そうですけど。普通、その……。自分が死ぬかもしれないって、……躊躇しませんか?」
「助けられる、助けなきゃいけないと思った。なら、わざわざ躊躇して助けられる可能性を低くすることもないだろう?」
またしても当たり前のように宮史は言ってのける。さながら正義漢か善人が吐くような台詞である。だが宮史は、正義感や善性からこのようなことを言っているのではなかった。
朝倉宮史という人間は、現実に必要を迫られれば自分の命さえ無頓着に扱える現実主義者なのだ。
そのことに未だ気付かない伽弥子は、宮史に対する言いようのない違和感のようなものだけを抱えて次の質問をすることにする。
「でも、どうしてそこまで祥子ちゃんを……?」
「実は阿藤梨絵絡みで、祥子さんに聞きたいことがあったんだけど……」
宮史はそこで言いさして、困ったような顔をしながら呟いた。
「まさか、阿藤梨絵のことを何もかも忘れてるとは思わなかったよ」
意識を取り戻した祥子は、何故自分が病院にいるのか全くわかっていなかった。それを聞いて不審に思った宮史は阿藤梨絵についても質問をしてみたが、案の定彼女は首を傾げるばかり。峰祥子は阿藤梨絵の名前も、落し物の噂も、呪いに見せかけた計画も、何一つ覚えていなかったのだ。
「あんなことってありえるんでしょうか……。ひょっとしたら本当に阿藤梨絵は存在して、祥子ちゃんを操っていただけなんていうことは……」
「ありえない、……と言いたいところだけど。それは一つの解釈の仕方だね」
伽弥子の想像は、はっきり言って現実的ではない。だが、それを絶対にあり得ないと否定できる事実が存在しないこともまた現実なのだ。こればかりは宮史も、何らかの不思議があったとしてもおかしくはないと判断していた。
だが事実はどうあれ、事件は終わったのだ。学内の落し物もほとんど全てを回収し終え、密告サイトも閉鎖済み。もう二度と、阿藤梨絵の呪いが話題になることはないだろう。
「あ、そうだ。朝倉先輩……。これ、頼まれてたものです……」
別れ際に、伽弥子は宮史を呼びとめて一冊のノートを差し出した。
「今日までかかっちゃってすいません。ずっと渡そうと思って持ってたんですけど……」
きっとこちらに不都合があるといけないと悲観したのだろう、と受け取りつつ、宮史は推測する。
とはいえそれもそのはずか、とも事情を知っている宮史だからこそ感じる。
「いや、こっちこそ悪いね。事件は終わったのにこんなものを頼んで」
「いえ……。でもこれ、何に使うんですか?」
「ちょっと野暮用に、ね」
事件は確かに終幕を迎えた。
だが宮史には、一つだけ。今回の事件における後始末が残っていた。
合「次回更新は四日後ー」
現「出番のときくらいやる気出しましょう」
合「これでも全力だ」
現「全力で驚きです」
合「嘘を吐け」