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Ist  作者: こごえ
第一章
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告白(2)

そう。まずすべきは

「逃げよう」

「ですよね」

短いやり取りの刹那、現実的に判断して身を翻す宮史に、それを察していた梨穂が素早く続く。二人は前方の扉から廊下へと飛び出した。

「待て!」

 あの状況からよもや背中を見せるとは思いもよらなかった男達は咄嗟に動き出すことができなかった。その中でいち早く冷静さを取り戻したリーダー格の男の一声に反応して、連中が走り出すのを宮史たちは感じる。

 宮史は扉を出てすぐに踵を返す。閉じた扉の向こうには今まさに男たちが迫ってきている。両開きになっているドアに備え付けられているのは縦長の取っ手。その取っ手とドアの間に宮史は手にしていた武器、もとい自在箒を通した。扉に到着した男たちが開けようとしても、自在箒がつっかえるせいで扉は開かない。宮史と梨穂はそれを見届けてから駆けだす。

 あまり長く時間は稼げなかったようで、男たちは入ってきた後方の扉から廊下に出てきた。宮史たちの後ろから男たちの声が聞こえてくる。

 宮史たちは廊下をまっすぐ進んだ先、左手にある階段に転がり込んだ。そのまま一段飛ばしで階下へと駆け下りる。一階に辿り着くと、梨穂は鞄から何かを取り出しながら宮史の手を引いた。

「朝倉君、こっちです」

 梨穂の手から放り投げられたのは二本のペンと一冊のノート、いずれも梨穂が持っていた阿藤梨絵の落し物だった。それらは下降線を描いて一階階段前の廊下に転がる。

 宮史と梨穂はそれを見送りながら地下一階に向かう階段の踊り場まで走り、息を潜めた。開いたペースをものともせずに、男たちの声がすぐに迫ってくる。しかし男たちは一階廊下に落ちた阿藤梨絵の落し物を見てそちらへと向かっていった。どうやら撒くことができたらしい。息を整えながら二人は安堵の息を漏らす。そのとき宮史の携帯電話が鳴った。

「もしもし。……どうしました?千弥子さん」

電話の相手は千弥子らしい。

「ああ、大丈夫ですよ。追いかけっこは予想の範囲内ですから。ええ。……わかりました、ではまた」

いくつかのやり取りの後、宮史は電話を切った。それを待っていた梨穂が口を開く。少し疲れて見えるが相変わらず愉快そうな口調である。

「何だか明確な敵意を感じますね」

それに同意を示しつつ宮史は今の状況から導かれた事実を述べた。

「わかりやすくて助かるよ。阿藤梨絵の落し物を回収されると困る人間は、やっぱりきちんと実在するわけだ」

 宮史たちが阿藤梨絵だ、などと風紀課に告げ口をした人物が果たして誰なのか。それはわからないが、少なくとも実在する何者かが悪意を持って告げ口したことだけは明白だった。事態が一つ前進したことを確認しつつ宮史は次の一手を考えるが、そこで梨穂が再び口を開く。先刻とは裏腹にえらく真剣な声である。

「ところで朝倉君。さっき追いかけっこは予想の範囲内って言ってましたけど……」

「言ったね」

しれっ、と肯定してみせる宮史。そんな彼を梨穂は問い詰める。

「こうなることがわかっていて私を誘ったんですか?」

 梨穂は表情からも愉しげな様子を消していた。仮にも令嬢の名を負う彼女らしからぬその雰囲気には、誰もが恐れ慄くに違いない。だが宮史はこの怒り方が示す梨穂の本心に見当がついた。

「ひょっとして怒ってる?」

確認するかのように訊ねる宮史に、梨穂は

「いいえ、むしろ感謝してるくらいです」

「だよね」

にんまり笑って答えた。予想通りの答に宮史は渇き気味の笑いを返す。

「こんな愉快なことに巻き込まれる経験なんて滅多にないですから。逃亡劇なんて映画みたいじゃないですか。それに……」

 夢見心地でそんなことを言い続けている梨穂を無視して、さっさと宮史は現実を見据えることにした。

「とりあえずここからどうやって逃げるか考えようか」

ツレナイ宮史の言葉に不服そうな顔をしながらも梨穂は現実に回帰した。

「千弥子さんによると、どうやら校舎の出入り口には見張りの人間がいるらしい」

「となると、気付かれないで校舎から出るのは難しいですね……」

二人で頭を捻っても良い方法は思い浮かばない。少しして宮史が提案する。

「ここもいつまでも安全じゃないな……。一旦地下のどこかに身を隠そう」

「あ、それならいい場所がありますよ」

 そう言って、梨穂が先に立って階下を目指す。地下一階において、授業が行われている教室の数はわずかである。そのため空き教室は容易に見つけることができるが、梨穂が案内したのは物置状態の小さな教室だった。置いてあるものから察するに、演劇サークルが使用している教室だろう。身を潜めてすぐに、梨穂が口を開く。

「ところで朝倉くん。今のうちにどっちが阿藤梨絵の落し物を多く拾えたか、勝敗をはっきりさせておこうと思うんですけど」

「異論はないよ」

 勝敗を決するにしては緊張感もなく極上の笑みを浮かべる梨穂に、宮史も決着の場にそぐわない冷静な声音で答えた。

「一つずつ同時に出しましょうか」

「いいよ。でもその前に、まずはさっき荻月さんが投げた三つ」

梨穂の提案を承りながら、鞄から三本のペンを取りだす宮史。いずれにも阿藤梨絵の名前が記されている。

 一先ずイーブン。そしてここから本当の勝負が始まる。宮史は相変わらずの不機嫌そうに見える無表情で、梨穂は喜悦に満ち満ちた表情で臨む。

 一つ、二つ、三つ……。阿藤梨絵の名前が記された落し物が次々並べられていく。

「そういえば朝倉くん。私が勝った時に所望するもの、具体的に言ってませんでしたよね」

 四つ、五つ、六つ……。落し物を取りだす手は止めず、宮史を見ながら梨穂が言う。宮史は視線だけでそれに応え、続きを促した。梨穂はあくまで平静を保ち続ける宮史の瞳を見つめて

「私と付き合ってください」

と大真面目に言った。

現「りほからのとつぜんのこくはくに、みやしはいったいどんなはんのうをみせるのか、じかいへつづく」

享「もうちょっと頑張りましょうよ……。所長さんも何か、あれ?……いない」

現「出番がくるまで休んでるって」

享「一周まわっちゃったんですね」

現「果たして、そんな合理主義者の出番は訪れるのだろうか?次回に続くっ……!」

享「なんでそこだけ迫真なんですか」

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