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ぼくら

作者: 木下了



「グッド・ラック」



照れくさそうに彼女は言った。

ふんわりと、存在が空気のような彼女は、笑い方までもが空気だった。

僕はそれに見とれて、思わず×しそうになった。

そして振り払う。×が無いから僕たちは苦しんでいるのに。あったって、彼女となら辛いだけ。

僕はこう返した。



「ユー・トゥー」



そうして僕らは別れた。

祈らなくても結構だ、そう心の中でつぶやきながら。





——平行世界・イギリスにて


僕は売られた。



「ごめんな、これも仕事なんだ。分かってくれ。今年は飢えが特にひどかった。そりゃあもう、ジジババがくたばっちまう程よ。お前もそれくらい分かるだろう?学校でやったもんな。それに、お前のおかげで村にいる、お前の母親は助かる。生きれる。きっと誇りに思うだろう、自分の息子が親孝行したんだ、これを喜ばない親はいない・・・。・・・だから嫌なんだ、この仕事は。穢れてる。だが俺には金がない。だからこんな人身売買の仲介役もやれる。つまりはな、そんなもんなんだよ、世の中は。お前の母ちゃんも金がなかった。そんだけなんだ。×がない訳じゃない。金があったらうまくやっていけた。・・・・・・最も、今頃は金に埋もれているだろうがな」


馬鹿馬鹿しい。


無意識につぶやいてしまったそれに、仲介役のお兄さんは泣きそうな顔をして笑った。

そうだな、お前は正しいな、俺は間違っているな。と。

でも、そうじゃなきゃ×と共に在れないんだよ。と。

馬鹿馬鹿しいな。と。

×に飢える彼は×故に×のために涙を流した。

僕は泣かなかった。だって、×だなんて何処にも無かったから。最初から最期まで、きっと、ずっと。

だから、僕は泣かなかった。



僕が人売り人の馬車に入って数日後、人身販売パーティーが行われた。

仮面をつけた人、人、人・・・。同種を売ってましてや買うだなんて、人間くらいしかいないだろうな、なんて当然の事を檻の中から人々を眺めて思った。

今売られているのは、いわゆる『おつとめ品』『傷物』『格安品』。体の鞭の痕が痛々しい(しかしそれは、例えば苛ついた時なんかに叩いても死なない事を意味する)。それに比べ、どうやら僕は幸運らしい。人間として扱われていないと言えど、少なくとも鞭で叩かれたりされた訳ではない。もしや、僕は『観賞用』なのか?


『淑女』『実験適合者』『元貴族』が売られていく最中(さなか)、突然、僕が入っている檻に黒い布が掛けられた。

急の視力の無力化に、しかし僕は納得した。嗚呼、つまりはお呼びがかかったという事か。

浮遊感にドキリとする。どうやら、僕の心臓も働くという事を知っていたらしい。忘れているものかと思っていた。

何故か、昔の事を思い出す。

若き日の至りとやらのミスで生まれた僕に言った、母の言葉。「お前の心臓は冷たいだろうよ」

それは人形とどう違うんだ?聞いたら母は、×せる、とだけ言った。

嗚呼、・・・もう、本当に、


馬鹿馬鹿しい。


何処かに置かれる。しかし、いつまでたっても黒い布が外される時が来ない。

横に誰か居る気配が出来た。

軽くスッという音がして、声。



「レディース・アンド・ジェントルメン!」



嗚呼、さっきの太った司会者だ。体に触ったらきっとベトベトだろうに、声ばっかり透き通っている。



「さあ皆様、大変長らくお待たせいたしました。本日のメイン商品の登場でございます。本来ならばここで取り扱い方法等の説明と参りたい所なのですが・・・いいえ、これ以上お客様を焦らしはしません。さあ、とくとご覧下さい!

 宇宙色の男の子です!・・・・・・どうぞ?」



目の前が突如カラーになる。息をのむ音がする。男の叫び声がする。



「お静かに、お客様。我々は闇の人間でございます。光の人間に、何処も穢れていない者たちに気づかれてはならないのです。ですから、なにとぞお静かに・・・」



客の大部分から笑いがこぼれた。きっと『闇の人間』っていうのに酔っているんだろう。なんだ、分かった。要するに、此処に居る人間は皆々『ガキ』なんだ。『おもちゃ』が欲しいんだ。でも強請(ねだ)れないものだから、だから余計に欲しがっちゃう。手に入れるにはどうすれば良いのかな、って考えて、で、思いつく。



「さあ、それでは参ります!まずは1000000000Gから!」


『そっか、買えば良いんだ!』

「____」

「______」

「__________」

「_____________」

「__________________』


「他には?いらっしゃない?それでは、宇宙色の男の子、落札されました!

 次は、皆様お待ちかねでいらっしゃるヤク漬け儀式へと移ります」



僕は聞くという行為をやめた。見るという行為をやめた。感じるという行為をやめた。

ただただ、待っていた。時が満ちるのを。ずっと、ずっと。

まるで、人間に調教されている人外が、人間を征服し、服従させ、所有する日を夢見ているかのように。

そして、今。



「さあ、坊や。お口をお開け?」



夢は、覚める。




「 馬鹿馬鹿しい 」




口の中に渦巻く鉄の味に、僕は安堵した。

やった、死ねた。

後はまた、いつも通り———世界が回ってくれるだろう。






「またですか」


「ええ、またです」


「何度目ですか」


「幾度目です」


「死ねばいいのに」


「現在進行形でそれです」


「・・・・・・・はあ・・・」



溜め息をつかれたなんて、多分僕くらいのものじゃないか。

天使様に。


どういう訳か、僕は『死んでも死なない』。つまり輪廻転生の中に落とされた。

ある人はこう言った。「きっと君は神様に愛されているんだ」

かの人はこう言った。「きっと君は神様に嫌われているんだ」

当事者として言わせてもらうと、どうだっていいんだ、そんな事は。

確かに小説に出てくる輪廻転生をする人々、彼ら彼女らの多くは苦しんでいる。が、僕はそんなに辛いものではないと思う。

確かに最初は悩んだりした、気がする。辛かった気がする。神様っていう奴を憎んだ気がする。

実を言うと、最初の元となった人生を覚えていない。

ただ、幸せだった.

幸せで幸せで幸せで幸せで、×があったような、そんな気がする。


だから僕は、生き続けて死に続ける。


いつかまた、×の中で生きれますようにと。

いつかまた、×の中で死ねますようにと。

そんな夢物語、信じて。


女という設定を神様から貰い受けた天使が、物思いに耽る僕を見た。

そういえば、この天使と結構話しているな、僕。名前すら、名前が在るかどうかすら知らないけど。

天使——彼女は言った。



「それで、どうでしたか?・・・×は、あった?」



僕はどう返すかちょっと考えてみたけど、面白い科白が思いつかなかったので当りきたりなのにしといた。



「そうだなあ・・・まあ、歪んだものなら。いつでもどこでも」


「そうですか」



彼女が何処か嬉しそうに見えた。ちょっと頬を赤く染めて、まるで年頃の乙女のようだ。

・・・何となく貶された気がする。



「何か良い事でも?」


「強いて言うなら・・・私が自分の体を青で塗ったら、この人はようやく気づくのかなあ、と。そう思ったら何だか笑ってしまって。すいません」


「あなたの白い肌はなかなか良いと思いますよ。日に焼けた肌も好きですが。だから、血迷った事は辞めましょう?ね、ね?」


「・・・・・・イッツ・ア・ジョーク」


「奇遇ですね、僕もです」



チッ チッ チッ チッ



夜は特に際立って聞こえる時計の針の音。これは僕のリミッターだ。

鐘が鳴ったら天界にさようなら。そして世界にこんにちは。

いつもいつも、いつも通りの音に、リミッターだとは知りながらも僕は安らぐ。

嗚呼、永遠は在る!それの何ともまあ素晴らしき事よ!


時計の音と共に現れた、世界への扉。

それを一瞥して、彼女を見て、僕は言う。



「それじゃあ」


「それじゃあ」




————そして、冒頭に戻る。




処女作。

人身売買の実態を全く知らない作者が書いています。

ですので、あまりこの小説の内容を鵜呑みにしないようご注意ください。


それじゃあ。

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