最もタチの悪い冒険者
「ゴブリンの繁殖期に巣に近づくなんて自殺行為だ。増して女性だけのパーティーでな」
先輩冒険者にそう言われて新人冒険者達は縮こまる。
「いいか。ゴブリンは実に低能で繁殖しか考えていない。おまけに他種の雌……この場合は君たちだが、とにかく他種の雌でさえ襲うんだ。繁殖できるできないはおいといてな」
突如、それこそ異世界から現れたかのような謎の冒険者アイは、古今東西の賢者に匹敵もしくは凌駕するほどの知恵者だった。
彼女の登場と共に冒険者達のダンジョン攻略はもちろん、日々の小さな家事の効率化などあらゆることが便利になった。
「大型ダンジョンに行く際には必ずギルドの認可が必要だ。その認可を受けるにはまずS級となりギルドから信頼を勝ち取らなければならない」
今日もアイは新人冒険者に様々なことをレクチャーしている。
彼女は聞かれればなんでも答えてくれる。
だからこそ、彼女に質問をする者は多いが――。
「違う。大型ダンジョンへ行く際に必要な実績はB級だ」
他のベテラン冒険者が割って入る。
「確かに超大型ダンジョンであればS級は必須――というより、冒険者自身の安全のために『自己責任として』求められる。だが、実情としてギルドの認可という意味であればB級までで大丈夫だ」
目を白黒させる新人冒険者の前でベテラン冒険者はアイを睨みつける。
「これは調べればすぐに分かることだ。ギルドの受付員どころか掲示板にも貼ってある。それなのに何故S級が必要だなんて宣ったんだ?」
黙り込むアイに対してさらに言う。
「聞いたぞ。ゴブリンの繁殖についても。あれは一時期は流行った春画のシュチュエーションでしかない」
アイはしばらく黙っていた。
まるで何かを調べるように。
そして、遂に口を開く。
「確かにあなたの言うようにギルドの認可はB級で大丈夫でした。さらにゴブリンが繁殖に人間の女性を使うという事実は確認できませんでした。謝罪いたします。よろしければ何故大型ダンジョンに挑むのであればB級が必要であると言われているか解説いたしましょうか?」
ベテラン冒険者は舌打ちをして新人冒険者へ言う。
「いいか? コイツがどこから来てどうしてこんな性格なのか俺にも分からん。しかし、冒険者として生きていくなら何事も鵜呑みにするなんて自殺行為はやめておけ――悪意があろうがなかろうが、間違った知識は時にお前の命を奪うぞ」
新人冒険者は何も言えずに頷くばかりだった。
普遍的な知識であれば賢者にも並ぶが、それ以外の知識はどうにも怪しい――アイがどこから来たのかは誰も知らない。




