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0.永遠のはじまり

「大丈夫。次こそは失敗しないからから、待っててね──── 」


 上手に生きれなかった少女は、ひっそりと死に、空の星になりました。世界の片隅で誰の目に映ることもない、小さな小さな星に。


彼女は死なない。幾度も死んでは繰り返す。

彼女が死んでいれば幾つもの命が失われていただろうし、逆に幾つもの命が助かっただろう。


それでも神は彼女に『生きろ』と言った。


 彼女の名前はシャナ。またの名を、レティシア・ラ・アルカディアという。


...............................


タッタッタッタッ...


 白く長い廊下を一人の幼い少女が弾むように駆けていた。大きな窓から差し込む初夏の太陽の光と、清々しい空気に薄い金の髪をふわふわとなびかせながら、目の前を歩いている人物の背にトスンと跳びつく。


「お姉ちゃん...! 」


 そう呼ばれた人物は前方によろめき、衝撃で手に持っていた紙の束と筆記具らしきものがバサりと床に散らばる。踏みとどまりながら妹を振り返り、少しばかり恨めしそうにその名を呼ぶ。


「もうっ、ティア...! 」


姉からティアと呼ばれた少女は姉の視線をスルーし、碧に緑を少しばかり混ぜたような瞳を輝かせ姉を見上げる。


「お姉ちゃん、遊ぼう...! 今ね、アリアとお庭で花冠作ってるの。お姉ちゃんにも作ってあげる! 」


早口でまくしたてながら、姉の黒いレースの袖をクイクイと引っ張る。

すると、姉は困ったように眉を寄せながら苦笑し、妹と視線を合わせるようにゆっくりとしゃがみ込んだ。


「ごめんね、ティア。今、お姉ちゃんお勉強で忙しいの。また今度でいいかな? 」


 申し訳なさそうに、妹の頭を撫でながらそう言う。それを聞いたティアはぷくーっとほっぺを膨らませて不満そうに姉をジトッと見つめた。


「そればっかり! 前もその前もずーっとおんなじこと言ってる! 」


ティアはそれは聞き飽きたと言わんばかりに腕を組んで不満を叫ぶ。少し前から姉はいつもこうだ。最初は忙しいのかと我慢していたが、最近は一緒に食事をすることすらも減ってきている。

目にはくまが浮かび疲れた様子で、こうしてたまにすれ違っても、のらりくらりとかわされてしまう。


でも、だからこそ今回ティアは妹のアリアと秘策を練ってきていた。


「ごめんね。私も遊びたいけどお勉強が...」


姉がここまで言うことは予想済み。次の言葉が重要なのだ。


「...お姉ちゃんは私やアリアよりもお勉強が大事なの...? 」 


ティアは姉の言葉を遮り、「ヴーっと」唸りながら上目遣いで見上げる。その瞳には大粒の今にも零れそうな涙が浮かんでいた。研究に研究を重ねた、見た人が一番罪悪感を抱く表情で。


すると、姉はそれを見るやいなやカッチーンと固まり顔を青くさせ慌て始めた。無意味に手をあわあわと動かしながら必死に言葉を重ねる。


「ち、違うのよティア。ティアやアリアが一番大事だもの...。ね、だから泣かないで...! 」 


 ティアはそれを聞いてそっと俯く。前髪に隠れた顔には────ニヤリとした笑みが浮かんでいた!


(罠にかかった...! )


 予想通りの行動に騙せたということに対する、こみ上げてくる嬉しさをなんとか噛み殺しながら、ティアはバッと顔を上げ、上目遣いで再度姉を見上げる。そして、少しだけ首を傾け胸の前で手をギュッと組み合わせるポーズをとる。


(くらえっ必殺、おねだりポーズ! )


「...じゃあ、遊んでくれる? 」


 首の角度や声音、潤んだ瞳まで、完璧に追求された究極のおねだり攻撃に、姉は───激しくダメージを受けた! 「はうっ」と奇声を上げ心臓を押さえてうずくまる。 


「ぅ、で、でも...べんきょ」


「だめなの...?」


 それでも踏みとどまろうとする姉に、ティアはトドメだ! と言わんばかりにさらに瞳を潤ませ頬を紅潮させ、ジ〜ッ姉の瞳を見つめた。

 姉はそれを見て、あぅあぅと葛藤かっとうし────────ティアの前に崩れ落ちる。


「わ、わかったわ...一緒に遊びましょうっ。」


カンカンカ〜ン! 勝利の鐘が鳴り響く。


「やった〜! ありがとう、お姉ちゃんっ」


ティアはニッコニコの笑顔で姉にギュッと抱きついた。その顔には先ほどまでの悲壮感は微塵も感じられなかった! 女優顔負けの演技である...。


(ふっふっふ...作戦成功っ )


ティアは姉から身を離すと、その手で姉の手をガシッと掴み、庭の方向へと引っ張る。


「アリアが待ってる、早く行こう! 」

 

「え、ちょちょっと待ってよ! 」


 姉はティアにずるずると引きずられるようにして立ち上がる。


「べ、勉強道具落としたまま〜! 」


 ティアは姉の言葉をガン無視し、そのまま姉を引きずって外へ駆け出して庭へ飛び出した。広大な庭には幾種もの花が咲き誇り、かんばしい薔薇の匂いや清々しい緑の匂いが二人の鼻を優しくくすぐった。

 

途中ですれ違う庭師や使用人と何度もぶつかりそうになりながら庭園を進み抜けると、葉が青々と茂った林が見えてくる。二人は木々の間を縫うようにして奥へ奥へと進んで行く。

夜であれば、一度入れば出られないような場所だが、今は上から昼のサンサンとした太陽の光が木漏れ日としてチラチラと降り注ぎ、周囲を明るく照らし出していた。


 手を繋ぎながら走り進んでいると、不意にティアは自身の服の袖あたりがクイッと強く引っ張られる感覚を覚えた。ん?っと立ち止まり振り返ると、姉がティアの袖を掴みながら、当たりをキョロキョロと見回している。


「どうしたの、お姉ちゃん? 」


何かあったのかと姉を見上げながら不思議に思い尋ねると、姉は辺りをジッと見回してからティアを見て尋ね返す。


「ティア、道間違えた? 」


「へ? そんなことないと思うけど...ってあれ? 」


ティアもキョロキョロと辺りを見回して違和感を覚える。


「いつもと違う...」


(道間違えた? でもさっきまで確かにあってたと思ったんだけどな...。)


どこで間違えたんだろう? と首を捻っていると、不意に姉に手をギュッと強く握られ、抱き寄せられる感覚を覚える。再び見上げると、姉は険しい表情である方向をじっと見つめていた。

ティアがつられて視線を向けると、そちらは先程ティアたちが進んできた方向だった。ティアもじっと見つめてみるが、青々とした葉を茂らせた木々しか見えない。


「何見てるの? 」


抱きしめられたまま、姉の背中を片手でポンポンと叩きながら問いかけると、姉はハッとしたようにティアを見つめる。


「あ...ティア...。」


姉は困惑した表情でギュッと一度目を閉じると妹を抱きしめたまましゃがみこんだ。今まで息を止めていたのかティアの肩越しで大きく息をつく。


「大丈夫...? 」


再び問いかけると、姉は顔を上げてニコリと微笑んだ。いつもよりぎこちない笑みと突然の不可解な行動に首を傾げていると、姉はそっと立ち上がり口を開く。


「ごめんね、何でもないよ。このままこっちに進もうか。」


こっち、と言って元々進んでいた方向を指さす。


「でも、いつもと景色違うよ。戻った方が...」


「ううん、そっちはダメ。」


何故か少し強い口調で遮りながら立ち上がり、ティアの手を掴んで走り出す。

ギュッと強く握られた手からは何かに焦っているような雰囲気がティアには感じられた。不安で自分の表情も少しこわばっているのを感じる。

戸惑いながらも姉に手を引かれたまま示された方向へずんずんと進んでいく。


しばらく進んでいくと、少し先から光が見えてきた。少しほっとしながら光の方向へと進むと視界がパッと開ける。 林を抜けると先程まで妹のアリアと遊んでいた場所に出ていた。


広い草原が広がり、中央部には少し大きいなだらかな丘がある。てっぺんには大人三人が手を繋いで輪っかを作っても足りないほど、太く大きな木が鎮座しており、広場全体に根を張り支えているように見える。

風が吹くたびにサワサワとその葉を揺らし、陽の光を受けてキラキラと輝いている。木の下の広い木陰にも木漏れ日が優しく差し込み、草花を照らしていた。


その巨木の下に、一人の金髪の少女が木に背を預けるように座っており、花かんむりを編んでいるのが見えた。ティアは咄嗟にその名を呼ぶ。


「アリア...! 」


アリアと呼ばれた人物はふっと顔を上げ、ティアより少し先を歩く姉の姿に気づくと、花かんむりを片手にパッと立ち上がり駆け寄ってくる。遠目に見ても嬉しくてしかたなさそうにそうに微笑んでいるのがよくわかるその姿に、ティアは自身の緊張がほぐれていくのを感じた。

姉も、ティアと同じように感じたのだろう。握っていた手が少し緩んだのを感じた。





ご覧頂きありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)

初めてなので、誤字や感想などがありましたら教えてくださると助かりますm(_ _)m

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