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風の如く(どら猫のララバイ)

〈冬の空怒號渦卷く家並みよ 涙次〉



【ⅰ】


鎌鼬の子・ぴゆうちやんには日課があつた。每日午后2時から4時に掛けて、風と戲れる事だ。特に冬は北風が吹き荒ぶので、ぴゆうちやんには遊び甲斐がある。今日は生憎小春日和だつたけれど、ぴゆうちやん、「行ツテ來マ〜ス」と元氣に出て行つた。* 小六が現れたのは丁度その時間帯だつた。小春、と云ふ事で、事務所のポーチで(たまには外光に当たらなくては、佝僂病になつてしまふ!)谷澤景六ことテオとタイムボム荒磯は** 漫画『リトルリーグ血風録!!』第2話の打ち合はせをしてゐたのだが、其処にひよつこりと現れたのが***「もう一匹の天才猫」袴田小六だつたのだ。



* 當該シリーズ第26・27話參照。

** 當該シリーズ第24話參照。

*** 前シリーズ第199・200話參照。



【ⅱ】


「谷澤先生、僕にPCと* 猫用グローブを貸して下さい」-谷澤「きみ、小説界にカムバックしたいのか?」-「カムバックだなんて烏滸がましいですよ。だけど書いてみたいんです。あ、あと厚かましいやうですが、僕が來た事はぴゆうちやんには内緒にして置いて下さい」。こゝでテオお得意の推理が働く。(はゝあ、小六の奴、この一作でまた消える積もりだな。その時「心友」のぴゆうちやんが悲しまないやう...。)だが、と云ふかなんと云ふか、ゴシップ週刊誌が大々的に、「放浪の天才猫作家、谷澤景六氏の許で第2作めを執筆中!!」と喧傳してしまつた。荒磯が誤つて口を滑らして、その情報をリークしてしまつたのである。カンテラ、「いかんな、これでは『ニュー・タイプ【魔】』を呼び寄せるも同然だ。原稿が上がつたら、取り敢へず、直ぐに『猫nekoふれ愛ハウス』に小六を匿ふぞ」-カンテラには、未だ「ニュー・タイプ【魔】」逹が、小六誘拐を諦めてゐない事が、分かつてゐた。



* 安保さん製作の、猫がPCに入力する時用、筆談する時用(筆記具を持ち易くする)のグローブ。



※※※※


〈人権と口走つたら俺の負けこのゲームには終はりはないよ 平手みき〉



【ⅲ】


で、谷澤=テオのお蔭で、小六は無事に小説「どら猫のララバイ」を書き終へた。先のゴシップ週刊誌版元の大衆文藝誌がそれを買ひ上げたのだが、移送先の「ふれ愛ハウス」には偶然、小六と見掛け瓜二つな(左耳がない、白毛の♂猫)保護猫、假に「大五郎」としやう、がゐた。攫ひに來た【魔】には、どつちが本物の小六か區別が付かず(まさに玉石混淆)、ぴゆうちやんを拷問して訊き出さうとした。風のパワーを得て活動するぴゆうちやんを、無風狀態の密室に幽閉したのである。「さあ、本物はどつちなんだ、吐け」。大分ひもじい思ひをしたけれど、ぴゆうちやんは口を割らなかつた。さうかうしてゐる内に、カンテラ、その【魔】を斬つた。「友情をダシに使ふなんて、言語道断だぞ。しええええええいつ!!」ぴゆうちやん、無事救出された。



【ⅳ】


小六、自分の小説の稿料を一味に進呈した。「だうせ僕は野良猫で、おカネなんて持つてゐたつて、役には立ちませんから」。で、彼は風の如く再び消えた。ぴゆうちやん、彼と再會し、舊交を温める事は叶はなかつた。「小六クン、水臭ヒヤ。グスン」



【ⅴ】


小六の去り際に、* 敬虔なクリスチャンであるテオは、「だうか彼に神のご加護を、アーメン」との祷りを捧げ、十字を切つたとか。ゴシップ週刊誌版元、「天才猫作家、袴田小六氏の幻の名作」として、彼の過去作「人身御供」と「どら猫のララバイ」を一冊に纏め、緊急出版。猫逹、そしてぴゆうちやん- の氣も知らず、商魂逞しいのは、人間逹のみであつた。



* 当該シリーズ第29話參照。



【ⅵ】


「私の野良猫としてのピークは過ぎた。嘗ての左耳を喪ふ程に喧嘩に明け暮れた時期は終はりを告げ、今では、猫をぢさん・をばさんに餌を貰ふべく、近所を彷徨くだけの存在に成り下がつた。私の自立心、活力の衰へは、老兵は去るのみだと云ふ事を示してゐる。だが猫には自死は有り得ない。老殘の身を曝す事に、私はすつかり慣れてしまつたのだ。これは取りも直さず私が、人間中心社會を受け容れた、その私の喪はれた「どら猫性」に捧げるララバイである。」



【ⅶ】


上記は云ふ迄もなく、袴田小六著「どら猫のララバイ」の導入部拔粋である。小六は印税はぴゆうちやんに入るやう、手を打つてゐた。然しぴゆうちやんにもカネは特に必要なかつたのだ。ぴゆうちやんは印税収入がある度、それを一味に差し出した。莫迦にならない金額である。風と戲れる事- それは無料で濟むぴゆうちやんの生き甲斐であつた。お仕舞ひ。



※※※※


〈霜柱土なる物にご無沙汰し 涙次〉


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