第5章:秘密のレシピと集いし仲間
『カロル・バーガーズ 1号店』の開店は、まさにセンセーションを巻き起こした。
これまでの薄暗く、不衛生な食堂のイメージを覆す、明るく清潔な店内。木の温もりを感じさせる内装。そして、ガラス張りの厨房では、私たちが効率的にバーガーを作り上げていく様子が見える。この「オープンキッチン」という概念自体が、この世界にはなかったのだ。
「すげえ……料理してるところが全部見えるぞ!」
「なんて綺麗なお店なんだ。床もテーブルもピカピカだぜ」
お客様は、味だけでなく、その空間と体験にも価値を見出してくれた。店舗化したことで、屋台では不可能だった様々な革新も導入できた。
その一つが、「食材の長期保存と加工技術」だ。私はまず、地下に大きな貯蔵庫を作らせた。氷の魔石をふんだんに使い、内部を常に低温に保つ巨大な冷蔵庫だ。これにより、肉の鮮度を格段に長く保てるようになった。
さらに、私は前世の知識をフル活用し、新たなメニュー開発に着手した。
「ミリィ、この野菜を薄く切って、塩と酢、それからハーブと一緒に瓶に詰めてみて」
「はい、レティシア様!」
私が声をかけたのは、ミリィという名の少女だった。彼女は、近くの町で不当な扱いを受けていた奴隷だったが、私がその身柄を買い受け、解放したのだ。最初は怯えてばかりいたが、今では私の右腕として、厨房で懸命に働いてくれている。
彼女が作っているのは「ピクルス」。酸味とハーブの香りが、肉の脂っこさを見事に中和してくれる、ハンバーガーの最高の付け合わせだ。
「ガルド、この芋を棒状に切って、二度揚げするのよ。一度目は低温でじっくり、二度目は高温でカリッと」
「なるほど! 温度を変えることで食感が変わるんですね! さすがレティシアさん、奥が深い!」
目を輝かせているのは、職人志望の少年ガルド。彼は元々、店の建設を手伝っていた大工の弟子だったが、私の作る合理的な調理器具や、科学的な調理法に魅せられ、弟子入りを志願してきたのだ。今では、フライドポテト――私が『カロル・フライ』と名付けた商品の開発責任者だ。
そして、最大の挑戦は「チーズ」だった。この世界にもチーズに似た乳製品はあったが、保存食としての硬いものが主流。ハンバーガーに合う、とろりとした食感のものは存在しなかった。私は村の酪農家と協力し、何度も試作を重ねた。発酵温度、熟成期間、凝固剤の種類。失敗の連続だったが、ある日、パティの上に乗せると絶妙にとろける、理想のチーズが完成した。
「これを挟んだ『チーズカロルバーガー』、最高傑作よ!」
新メニューのチーズバーガー、サイドメニューのピクルスとカロル・フライ。これらをセットにした『カロル・コンボ』は爆発的なヒット商品となった。お客様は、メインのバーガーだけでなく、それ以外の選択肢があることに熱狂した。
「この酸っぱいキュウリ、バーガーにめちゃくちゃ合うぜ!」
「なんだこの揚げた芋は! 手が止まらねえ!」
店の成功と共に、仲間も増えていった。
ミリィやガルドのように、私の元で働きたいと志願してくる若者たち。彼らの多くは、家が貧しかったり、厳しい徒弟制度に嫌気がさしたりと、社会からはみ出した存在だった。私は彼らの出自を問わず、意欲と能力だけで評価し、採用した。きちんとした給金を払い、衛生管理や接客マニュアルを教え、一人前のスタッフとして育て上げた。
元狩人のルオは、今や食材の仕入れから品質管理までを統括するマネージャーとなっていた。彼はぶっきらぼうな態度は相変わらずだったが、その仕事ぶりは的確で、私が最も信頼を置くパートナーだった。
「レティシア、隣村の農家が、あんたのレシピに合うトマトを作ってみたいと言ってきてる。会ってみるか?」
「ええ、もちろんよ! ガルド、新しいソースの開発を始めるわよ!」
レティシア、ルオ、ミリィ、ガルド。そして、多くのスタッフたち。
私たちは、単なる店の主人と従業員ではなかった。同じ目標に向かって進む、一つのチーム。一つの家族のような存在だった。
カロル・バーガーズは、もはや私一人の店ではない。ここに集った仲間たちの情熱と努力の結晶なのだ。
そして、私たちの生み出す「美味しさと効率」は、やがてこの辺境の地を飛び出し、王国の常識そのものを揺るがし始めることになる。




