第4章:人気爆発と黒い影
カロルバーガーの噂は、風のように速く広まっていった。
「森の入り口に、とんでもなく美味いメシを売る屋台がある」
「一度食ったら忘れられない、革命の味だ」
口コミは最高の宣伝となり、私たちの屋台には連日、長蛇の列ができるようになった。客層は冒険者だけでなく、商人、近隣の村人、果ては噂を聞きつけた町の衛兵まで様々だった。
売上は日に日に増え、私たちは稼いだお金で設備の増強に乗り出した。より大きな鉄板、より多くの食材を保管できる保冷箱(氷魔法が使える魔石を応用した私の発明品だ)、そして、雨の日でも営業できるように、屋台の幌も頑丈なものに新調した。ルオは狩りの傍ら、信頼できる村の若者たちと契約し、安定した食肉の供給ルートを確保してくれた。
「レティシア、注文が追いつかねえ! 明日は倍の量を用意しないとダメだ!」
「分かってるわ! ルオ、パティのストックお願い! パンは私が焼く!」
嬉しい悲鳴を上げながら、私たちは毎日へとへとになるまで働いた。だが、その疲労は心地良いものだった。自分たちの手で何かを生み出し、それが人々に喜ばれ、正当な対価となって返ってくる。公爵令嬢時代には決して味わえなかった、確かな手応えと充実感がそこにはあった。
しかし、光が強くなれば、影もまた濃くなる。
私たちの成功を、快く思わない者たちが現れ始めたのだ。
ある日のこと。営業を始めようとすると、屋台の周りにガラの悪い男たちが数人、たむろしていた。胸には、見慣れない紋章のバッジがついている。
「お前らか。ここで勝手な商売をしているってのは」
リーダー格の男が、侮蔑的な視線で私を見下す。
「ここは、俺たちが仕切る領主様の街の管轄だ。この街で商売をするには、俺たち『料理組合』の許可がいるんだよ」
「料理組合……?」
聞いたことのない組織だった。おそらく、街の飲食店の寄り合いのようなものだろう。既得権益を守るために作られた、排他的な団体。前世でもよく見た光景だ。
「許可が欲しいなら、売上の半分を上納しろ。それが嫌なら、とっとと店を畳むんだな」
あまりに理不尽な要求。私はきっぱりと首を振った。
「お断りします。私たちはあなた方の街の中ではなく、この森の入り口で商売をしています。組合に加盟する義務も、上納金を払う義理もありません」
「……なんだと、このアマ!」
私の毅然とした態度に、男は顔を真っ赤にして怒鳴った。だが、その時、背後から静かな声が響く。
「うちのボスに何か用か?」
ルオだった。彼は弓こそ持っていなかったが、その身から発する狩人特有の鋭い気配は、チンピラ風情の男たちを怯ませるには十分だった。男たちは一瞬たじろいだが、リーダー格の男は虚勢を張って言い返した。
「ちっ……覚えてやがれ。領主様のお墨付きを得ている俺たちに逆らって、ただで済むと思うなよ!」
彼らは捨て台詞を残して去っていった。しかし、嫌がらせはそれで終わりではなかった。
翌日には、私たちが契約していた村に圧力がかかり、小麦粉の供給が止められた。またある時には、営業中に「食中毒が出た」というデマを流されたり、屋台にゴミを投げつけられたりもした。陰湿で、執拗な妨害だった。
「くそっ、あいつら……!」
悔しがるルオをなだめながら、私は冷静に次の一手を考えていた。このまま屋台で商売を続けるのは限界だ。彼らの手の届かない、もっと強固な拠点を築く必要がある。
「ルオ。私たち、お店を持つのよ」
「店? 本物の店をか?」
「ええ。屋台じゃない、しっかりとした店舗よ。幸い、資金は十分にあるわ。このカロルの森の中に、私たちの城を築くの」
私たちの強みは、このカロルの森そのものだ。新鮮な食材、豊かな自然。街の組合が手出しできないこの場所に、私たちの本店を作る。それは、妨害に対する最高の対抗策であり、未来への大きな一歩でもあった。
私はすぐに設計図を描き始めた。前世のファーストフード店の記憶を元に、効率的な調理動線、客席の配置、衛生管理のための設備などを盛り込んでいく。厨房は私の戦場。最高のパフォーマンスが発揮できる設計でなければならない。
ルオは森の木を知り尽くした木こりたちを、私は街から腕のいい大工を(もちろん、組合とは関係のないフリーの職人だ)高給で雇い入れた。建設は驚くべきスピードで進んでいく。
そして、料理組合の妨害が始まってから一ヶ月後。
カロルの森の、街道沿いで一番見晴らしの良い場所に、一軒のモダンな山小屋風の建物が完成した。大きなガラス窓からは森の木々が見え、開放的なテラス席も備えている。
看板には、私がデザインしたロゴと共に、こう書かれていた。
――『カロル・バーガーズ 1号店』
妨害は、私たちを終わらせるどころか、次なるステージへと進化させるための試練に過ぎなかった。黒い影が迫る中、私たちの革命は、ここからさらに加速していくことになる。




