第3章:革命の味、カロルバーガー誕生
「ビジネス? 何言ってんだ、あんたは」
私の唐突な提案に、ルオは心底呆れたという顔をした。無理もない。昨日会ったばかりの、見るからに世間知らずな女が、いきなり事業を始めようなどと言い出したのだから。
「簡単に言えば、商売よ。あなたには最高の食材を調達してもらう。私がおいしい料理を作って、売る。利益は、もちろん折半で」
「料理? あんたにできるのかよ」
「ええ、見てなさい」
私は自信満々に宣言すると、早速行動に移した。まず必要なのは、ハンバーガーの主役である「パティ」と、それを挟む「バンズ」だ。
パティの材料は、目の前にある。ルオが仕留めた猪の魔物――私はこれを「森の恵みポーク」と名付けた――の肉だ。私はルオに頼んで、一番柔らかい部位を細かく挽いてもらった。前世のようにミンサーはないから、二本のナイフでひたすら叩いてミンチにする。そこに、森で採れる香りの良いキノコと、野生の玉ねぎのようなものを刻んで混ぜ込み、塩と、これもまた森で採れた胡椒に似たスパイスで下味をつけた。
次にバンズ。これは一番の難関だった。幸い、ルオの小屋には非常食用の小麦粉と、パンを焼くための簡素な石窯があった。私は前世の記憶を頼りに、イースト菌の代わりになりそうな、甘い果汁が染み出た樹皮を使い、発酵を試みる。何度も失敗を重ねたが、三日目の朝、ついにふっくらとした、理想に近い丸いパンが焼き上がった。
「できたわ……!」
完成したバンズを手に、私は歓喜の声を上げた。ルオは半信半疑といった顔でそれを見ている。
いよいよ、全てのパーツを組み合わせる時が来た。
私は熱した鉄板に薄く油をひき、丸く成形したパティを置いた。
ジュウウウウウウッ!
食欲をそそる音と共に、肉の焼ける香ばしい匂いが小屋中に立ち込める。ルオがゴクリと喉を鳴らすのが分かった。パティの両面に焼き色がついたら、火から下ろす。半分に切ったバンズの内側を軽く炙り、そこに焼き立てのパティを乗せる。ソースはまだ開発できていないので、甘酸っぱい木の実を潰して作った即席のジャムを塗り、シャキシャキとした食感の葉野菜を挟んだ。
「さあ、召し上がれ。これが、私たちの最初の製品。『カロルバーガー』よ」
目の前に差し出された、見たこともない料理を前に、ルオは戸惑っていた。
「なんだこれ……パンに肉を挟んだだけじゃねえか」
「いいから、食べてみて」
促されるまま、ルオは大きな口を開けてカロルバーガーにかぶりついた。
その瞬間、彼の目が見開かれる。
「なっ……!?」
ふっくらと柔らかいバンズの甘み。直後に、ジューシーな肉汁が口の中に溢れ出す。肉の旨味とキノコの香り、スパイスの刺激が渾然一体となり、最後に木の実ソースの甘酸っぱさが全体をまとめ上げる。一つの料理とは思えないほど、複雑で、それでいて完璧に調和した味。
「う……うまい……! なんだこれ、めちゃくちゃ美味いぞ!」
ルオは夢中でバーガーを頬張り、あっという間に一つ平らげてしまった。その満足そうな顔を見て、私は確信する。イケる、と。
「これを、売るのよ。まずは、この森の入り口で」
問題は販売方法だ。店舗を構える金はない。そこで私が目をつけたのは、ルオの小屋に放置されていた壊れかけの手押し車だった。私たちは協力してそれを修理し、小さな調理台と日よけの幌を取り付け、移動販売用の屋台に改造した。
準備は整った。
私たちは完成した手押し屋台「カロル・バーガーズ0号店」を押し、森の入り口へと向かった。そこは、森に潜る冒険者や、近隣の村へ向かう商人たちが行き交う場所だ。
「さあ、いらっしゃいませ! 焼きたて、出来立て! 新発明のカロルバーガーはいかがですかー!」
最初は、誰も見向きもしなかった。得体の知れない屋台と、聞き慣れない料理。しかし、鉄板でパティを焼く匂いが風に乗って漂い始めると、何人かの冒険者が興味深そうに足を止めた。
「嬢ちゃん、そりゃなんだ?」
「カロルバーガーです! 腹ペコの冒険者さんにぴったりの、歩きながら食べられるご馳走ですよ!」
一番屈強そうな、髭面の冒険者が「試しに一つくれ」と銅貨を差し出した。私は手際よくバーガーを作り、彼に手渡す。彼はそれを無造作に口に放り込み――そして、動きを止めた。
「……こ、これは……!」
彼の驚愕の表情が、何よりの宣伝になった。仲間たちが「どうしたんだ?」と集まってくる。
「ば、バカうめえ! 肉汁がすげえし、パンもふわふわだ! なんだこの食いもんは!」
その一言で、火がついた。
「俺にも一つ!」「私にも!」と、冒険者たちが次々に殺到する。私は休む間もなくパティを焼き、ルオはストックの肉を運び、屋台は大混乱に陥った。
用意していた五十個のカロルバーガーは、わずか一時間で完売した。
疲れ果てて座り込む私たちの手には、ずっしりと重い銅貨の袋が握られていた。
「おい、レティシア……これ、マジですごいぞ」
「ええ。言ったでしょう? これは、ビジネスだって」
一人の冒険者が、去り際にこう叫んだ。
「嬢ちゃん、この味は革命だ! 明日もまた来るからな!」
革命。その言葉は、私の胸に深く突き刺さった。そうだ、これはただの商売じゃない。この一口から始まる、食の革命なのだ。
カロルの森の小さな屋台から始まった伝説は、この日、確かに産声を上げたのだった。




