番外編2:レティシアの休日
「よし、今日は『カロル・バーガーズ』は全店休業! 創業者命令よ!」
バーガー連邦の総帥として多忙な日々を送るレティシアは、ある日、唐突にそう宣言した。行き先は、全ての始まりの場所、カロルの森。集まったのは、創業当初からのメンバーであるルオ、ミリィ、ガルドの三人だけだ。
「レティシアさん、いきなりどうしたんですか?」
「ふふ、原点回帰よ」
レティシアが持ち出してきたのは、あの懐かしい手押し屋台だった。今は記念品として1号店の倉庫に保管されていたものだ。
「今日は、昔のやり方で、昔の味を再現してみましょう。レシピも、今の洗練されたものじゃない。あの頃の、あり合わせの材料で作った、最初のカロルバーガーをね」
四人は、まるで子供の頃に戻ったかのように、森で食材を集めた。ルオが猪を狩り、レティシアが野生のキノコや木の実を探す。ミリィは不揃いな葉野菜を洗い、ガルドは昔ながらの石窯で、少し不格好なバンズを焼いた。
ジュウ、と鉄板で肉が焼ける音。立ち上る香ばしい匂い。
それは、何百万個と作ってきた今のバーガーとは違う、どこか荒削りで、不器用な匂いだった。
出来上がった「最初のカロルバーガー」を、四人は森の切り株に腰掛けて頬張った。
「……うん、今のよりずっと大味ね」とレティシアが笑う。
「ああ、ソースも単純だしな」とルオが応える。
「でも……なんだか、すごく美味しいです」とミリィが涙ぐむ。
「この味があったから、今があるんですよね」とガルドがしみじみと言う。
味は、今の完成されたものには及ばない。だが、そこには、お金では買えない特別なスパイスが効いていた。
希望、不安、情熱、そして絆。
何もないところから、必死に未来を掴もうとしていたあの頃の全てが、その一口に詰まっていた。
四人は、夕日が森を茜色に染めるまで、昔話に花を咲かせた。
それは、巨大な組織のトップとしてではない、ただの仲間として過ごす、かけがえのない時間。
レティシアにとって、この「昔の味」こそが、自分が何のために進み続けるのかを思い出させてくれる、最高のコンパスなのだった。




