第12章:女王ではなく、創業者として
数年の歳月が流れた。
『カロル・バーガーズ』は、ロードランド王国、ギュスト帝国のみならず、大陸のほぼ全ての国々に店舗を構える、巨大な組織へと成長していた。
私の名前、レティシア・アルディナ・グレイスは、もはや一人の女性の名前ではなかった。それは、高品質な食事と、公正な雇用、そして革新的な精神を象徴するブランドそのものとなっていた。
私は、各国の支店や農場、工場をまとめる統括組織として、『バーガー・ユナイテッド』――通称“バーガー連邦”を設立した。これは、特定の国家に属さない、独立した経済・文化共同体だ。食糧の生産から加工、流通、販売までを自社で一貫して管理し、国境を越えた物流ネットワークを構築した。
このネットワークは、食糧危機に瀕した地域に迅速に援助物資を送ったり、災害時には移動販売車を派遣して炊き出しを行ったりと、人道支援の面でも大きな力を発揮した。各国の王や皇帝たちも、もはや私の活動を無視することはできない。むしろ、自国の安定のために、バーガー連邦との協力を模索するようになっていた。
ある晴れた日、私は全ての始まりの場所、カロルの森にある1号店を訪れていた。テラス席に座り、懐かしい森の空気を吸い込む。テーブルの向かいには、すっかり逞しく、頼もしい青年に成長したルオが座っていた。
「まさか、あんたが世界をここまで変えちまうとはな。あの頃は、夢にも思わなかったぜ」
ルオは、少し照れくさそうに笑いながら言った。彼は今、バーガー連邦の資材調達部門の最高責任者として、世界中を飛び回っている。
「ふふ、私もよ。あなたがあの時、私に肉を分けてくれなかったら、今の私はなかったわ」
「俺だけじゃねえ。ミリィも、ガルドも、あんたに出会って人生が変わった奴らが大勢いる」
そう、ミリィは今や全店舗の接客サービスを統括するマイスターとなり、ガルドは新しい調理器具や店舗システムを開発する研究開発部門のトップだ。かつて貧しさや差別に喘いでいた者たちが、今や組織の中核を担い、世界を動かしている。
私は、改めて自分の歩んできた道を思う。
もし、あのまま王妃になっていたら? もし、国王の提案を受け入れて女王になっていたら?
きっと、これほどの達成感と自由は得られなかっただろう。誰かの決めたルールの上で踊るのではなく、私は自分の手で、新しい世界への扉を開いたのだ。
私は、空に浮かぶ雲を眺めながら、静かに呟いた。
「私は、王妃ではなかった。女王にもならなかった。私は、創業者。国や王政に仕えるのではなく、食の未来に、そして人々の笑顔に仕える者」
それが、私が選び取った生き方。
レティシア・アルディナ・グレイスという、一人の人間の答えだった。
私の革命は、まだ終わらない。
このハンバーガーが、まだ見ぬ土地へ、まだ救われていない人々の元へ届くまで。
美味しさと効率が、世界を平和にすると、私は信じているから。
物語はここで一つの区切りを迎えるが、彼女と仲間たちの挑戦は、これからも未来永劫続いていくだろう。食が人を繋ぎ、世界を豊かにしていく、その最前線に立ち続けるのだから。




