第11章:国境を越えるバーガーの波
国王から全面的な支援の約束を取り付けたことで、『カロル・バーガーズ』の事業は、さらなる飛躍を遂げることになった。国内の主要都市に次々と支店がオープンし、私たちの確立したフランチャイズシステムによって、多くの人々に成功の機会を提供した。
もはや、私のハンバーガーを批判する者はいなかった。それは、ロードランド王国の新しい国民食として、完全に定着したのだ。
そんなある日、王都本店の私のオフィスに、意外な客人が訪れた。隣国である「ギュスト帝国」の特使だった。ギュスト帝国は、ロードランド王国とは長年、緊張関係にある軍事大国だ。
「レティシア・グレイス殿。我々の皇帝陛下が、ぜひ貴殿にお会いしたいと仰せだ。我が国にも、その『ハンバーガー』の店を出してはくれまいか、と」
特使の言葉に、私は驚いた。まさか、敵対国から出店の依頼が来るとは。
話を聞くと、ギュスト帝国にもカロルバーガーの噂は届いており、国境付近の商人たちが持ち込んだバーガーが、一部の貴族や軍人の間で大変な評判になっているらしい。特に、皇帝自身がその味と、手軽に栄養補給ができるという合理性に惚れ込んでいるという。
「……面白いお話ですわね」
これは、大きなチャンスだ。食に、国境はない。私のハンバーガーが、長年の緊張関係にある二つの国を繋ぐ架け橋になるかもしれない。
私は、ルオやガルドといった主要メンバーと共に、ギュスト帝国へ渡ることを決意した。
帝国は、王国とは全く違う文化を持っていた。質実剛健を旨とし、食事も味より量を重視する傾向が強い。しかし、私たちが皇帝の御前で披露したハンバーガーは、ここでも絶大な支持を得た。
「素晴らしい! 美味い上に、戦場でも素早く食べられる! これは、我が国の兵士たちの士気を大いに高めるだろう!」
皇帝は上機嫌でそう言うと、帝国全土での店舗展開を許可してくれた。
ギュスト帝国での成功は、想像以上だった。特に、労働者や兵士たちから熱狂的に受け入れられた。彼らにとって、安くて美味くて、すぐにエネルギーになるカロルバーガーは、まさに理想の食事だったのだ。
しかし、私はただ店を増やすだけでは満足しなかった。
帝国を旅する中で、私はこの国の、そしてこの世界のより根深い問題に直面することになる。
一つは、深刻な「食糧問題」だった。一部の地域では、凶作によって人々が飢えに苦しんでいた。私は、カロル・バーガーズで培った食材の保存技術や、効率的な農業のノウハウを現地の農民たちに提供した。乾燥に強い品種の小麦を紹介し、輪作や堆肥の作り方を教えた。それは、単なる慈善事業ではない。現地の食糧生産が安定すれば、私たちの店もまた、安価で質の良い食材を安定して仕入れることができる。Win-Winの関係を築くための、未来への投資だった。
そしてもう一つ、より深刻な問題が「奴隷制度」だった。
ギュスト帝国では、奴隷の存在が合法化されており、多くの人々が人間以下の扱いを受けていた。かつてミリィを救った時のように、私はこの非人道的な制度を看過できなかった。
私は、奴隷を買い、解放し、従業員として雇用するという活動を、帝国でも始めた。最初は「偽善だ」「奴隷市場の相場を乱すな」と反発も受けた。しかし、私は揺るがなかった。
帝国支店の店長に抜擢した、元奴隷の青年に、私はこう語った。
「あなたの仕事は、ただバーガーを売ることじゃない。かつてのあなたと同じように、希望を失っている人々に、働く喜びと、尊厳を取り戻す機会を与えることよ。一人の人間が立ち直る姿が、何よりの証明になる。人は、生まれや身分ではなく、その意志と努力によって輝けるのだと」
私の活動は、少しずつ、しかし確実に帝国社会にも変化をもたらし始めた。カロル・バーガーズで働く元奴隷たちの姿は、人々に「奴隷も同じ人間なのだ」という当たり前の事実を気づかせた。
国境を越え、文化を超えて、レティシア・バーガーは広まっていく。
それは、単なる食の伝播ではなかった。食糧問題の解決、奴隷制度への挑戦。私のハンバーガーは、世界の構造そのものに切り込む、静かで力強い革命の象徴となっていった。




