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小鳥と泉 〜あいのひかり〜

作者: sowaka
掲載日:2026/01/21

挿絵(By みてみん)


春に生まれた小ちゃな小鳥の子は、他の子たちよりも、ずっとずっと小さくて、空飛ぶ羽も少ししかありません。


だから、みんなにくっ付いて行くのが、やっとでした。


でも、木の実や種を見つけるのは上手で、小さな身体を弾ませて


「みんな!

ここに食べ物があるよっ!」


小ちゃな小鳥の子は、 嬉しくなって鳴くのでした。


太陽がだんだんと高くなっていくころ、小鳥の群れは、食べ物がたくさんある南の森を目指して飛んでいきます。


大人の鳥たちが先頭を飛び、子供の鳥たちは、遅れないように後を元気に追いかけます。


小っちゃな小鳥の子も、みんなのいちばん後ろを一生懸命について飛びました。


すると、北からの冷たいイタズラ風が、小っちゃな小鳥の子の羽を吹き飛ばし、あっという間に、みんなから離れてしまいました。


「あっ、みんな、まってーー!!

わたしを置いていかないでー!」


小さな声でも精一杯(せいいっぱい)鳴きましたが、みんなは気がつかずに行ってしまいます。


(どうしよう、、

どこに行ったのかな?

みんな、いなくなっちゃった)


小っちゃな小鳥の子は、心細くなって、泣きたくなりました。


(きっとみんな、わたしのこと、忘れちゃう、、

わたしも、いつの間にかいなくなった子のこと、はっきりと覚えてないもの。

ちょっと悲しいなって思ったくらい)


そんなことを考えていると、すっかり飛ぶ元気もなくなって、森の中の目立たない小枝にとまりました。


ひとりぼっちになった小っちゃな小鳥の子は、丸い目をつむって、泣くのを我慢しながら、怖くて震えていました。


(どうしたらいいのかな?

私に立派な羽があったら、良かったのに、、

そしたら、この大きな空を、自由に、気持ちよく、風を切って飛んでみたい。


どんな気持ちなんだろう?


きっと楽しくて歌い出すに決まってる)


小っちゃな小鳥の子は、ほんの少し、怖いのを忘れていました。


――― 


大きな森には水が静かに溢れ出す、小さな泉がありました。


いつからそこにあるのか、どうしてそこにあるのかも知りません。


大きな森の、深い深いところから湧いてくる、はるかな生命の水をたたえている泉でした。


この小さな泉から(あふ)れ出した水の流れは、小川となり、大地を(うるお)しながら旅をして、色んな冒険を始めます。


でも、小さな泉は動かずに、ただ、やって来る動物や虫たち、まわりの草や木を、(かがみ)のような水面に映して、静かにしているだけでした。


ずっとそのままで、時間も何も感じることもなく、穏やかに続いていたのです。


ところが、小さな泉の静かな奥の奥のほうに、何かがザワザワする感じかしました。


(なんだろう、、


これは、なにが震えているんだろう?


どうして、僕は震えるんだろう?


あれっ?


どうして僕は僕だって知ってるの?


もう今までの静かな泉じゃない。


僕は知りたい、、


この震えがどこから来るのか)


小さな泉の水面(みなも)が揺れると、温かな光がキラキラと生まれて、天の空に向かい走り出します。


「僕はここにいるよ。

ずっとここにいるんだ。


君はだれ?

僕はだれだったのかな?」


どうしても思い出そうとして、小さな泉は静かに揺れていました。


―――


小ちゃな小鳥の子が葉っぱの間から、遠い空を見上げていると、あたたかい風が森を()らしました。


風は(やわ)らかく葉を揺らし、小ちゃな小鳥の子の身体も、そっとくすぐります。


(とっても優しい風さんね。


この風さんに乗っていったら、わたしをみんなのところに運んでくれるかも、、)


「えいっ!」


小ちゃな小鳥の子は、考えるよりも早く翼を広げ、風に身をまかせて飛び出しました。


(わぁ〜〜!


こんなにふんわり飛んだの、初めて。


なんていい気分なんだろう!)


いつも仲間たちの後ろを離れないように追いかけていたので、小ちゃな小鳥の子は、気ままに楽しく飛んだことはなかったのです。


今は、ひとりでも、胸を大きく広げて、風になっていました。


すると、遠い雲の隙間(すきま)から、まっすぐに光の柱がさしているのがみえます。


光の柱は、森の木立ちの中を(つらぬ)いて、まるで、小ちゃな小鳥の子に、ここに来て!と言ってるようでした。



(あれは何かな?


わたし、行ってみたい!


何があるのか、知りたいな)


「風さん、ありがとう!


わたし、あそこに行ってみる。


また一緒に飛ぼうね!」


小ちゃな小鳥の子は、風にさよならを言って、温かな光の(みなもと)に、自分の(くちばし)を向けて、ヒラリと舞い降りて行きました。


―――


小さな泉は、自分の水面(みなも)に、キラキラした真っ白の小鳥が映ると、嬉しくて踊りたくなりました。


でも、一度も踊ったことはないので、頑張っても、水の底から泡をポコポコと増やしただけです。


小さな泉のふもとに、ちょこんと降り立った、小ちゃな小鳥の子の()んだ瞳は、小さな泉をしっかりと見つめます。


「わぁ〜〜!


なんて綺麗な光なんだろう、、


ここは、どんな音や光も優しく、静かにしてくれる場所なんだね。


ここ来てよかった」


小さな泉はそれを聞いて、小ちゃな小鳥の子を安心させるように、静かに優しくなろうとしました。


―――


小さな泉を(のぞ)き込んだ、小ちゃな小鳥の子は、きちんと挨拶をします。


「こんにちは。


あの、、わたし、ここにいてもいいですか?


みんなと離れて、ひとりなの。


すこし疲れちゃった、、


お水を飲んでも大丈夫かな?」


小鳥の子の問いかけに、泉は、ポコポコと、水の底から返事をして、水面にキラキラの輪っかを、いくつも描きました。


「わぁ~!


飲んでもいいのね。


泉さん、どうもありがとう!」


小鳥の子は、そっと泉を覗き込んで、水に顔を近づけると、なめらかな水面に自分の姿が映りました。


(わたしって、こんな姿なんだ!


みんなより小さいし、羽も少ない、、)


いつも、仲間たちの元気な姿を見つめていた小鳥の子は、自分のことが頼りなく思えて、しょんぼりしてしまいました。


それを映した泉も、小鳥の子がいっそう小さく見えて、悲しくなります。


(君はどんな姿でもいい。


ここに来てくれたのは、今の君だから。


僕が知りたかったのは、会いたかったのは、君なんだ)



泉は、静かに祈りました。



(君は、そのままで素晴らしい。


いつまでも君が自然にいられますように、、)



その祈りは、泉の水を揺らし、キラキラの光が生まれ、小鳥の子の瞳に映りました。


「すごいなぁ!


こんな色んな光が生まれて、なんて綺麗(きれい)なんだろう」


小鳥が喜ぶと、泉は自分が何か特別な泉のような気がしました。


小鳥の子が、そっと水に口をつけると、泉も、くすぐったい喜びに満ちあふれます。


(なんでこんな気持ちになるんだろう?


丸い何かが湧き出して、どこまでも静かに広がっていく感じ……)


泉の水は、とても澄んでいて、小鳥の小さな身体に、じんわりと染み渡りました。


瞳は大きく輝いて、身体が少し力強くなった気がします。


小鳥の子は、大切なことに気がつきました。


「食べ物を探さなくちゃ!


じきにお日様が隠れて、見えなくなっちゃう」



それから周りを見回すと、陽のあたる藪の中に野いちごを見つけて、小躍りしました。


「わぁ、嬉しいな~!


あんなに沢山、食べ物がある。


あと、安全な寝床があれば、今夜はきっと大丈夫」


真っ赤に熟れた野いちごをひとつ食べると、小鳥の子はたちまち元気が出ました。


寝床になりそうな場所を探すと、泉のそばに小さな木のくぼみを見つけます。


小鳥の子は、枯れた葉っぱや柔らかな苔を、小さな嘴でくわえて、何度も何度も窪みに運びます。


夕暮れまでに小さな寝床ができました。


「うん、ふわふわして、いい感じね!」


寝床にうずくまって確かめていると、太陽はいつのまにか沈んで、森はすっかり薄暗くなりました。


ひとりで過ごす初めての夜、夜風は森を揺らすし、フクロウの大きなため息や、キツネがネズミを追いかけている音も聞こえます。


小鳥の子は、大人の鳥たちから教えられていました。


夜は決して動かないように。


じっとして、お日様が昇るまで、深く深く眠るように。



でも小鳥の子は、今夜は怖くて眠れません。


いつも仲間たちと一緒に丸くなって、みんなの温かさや鼓動を感じながら、安心して眠っていたのです。



(どうしよう、、


なんにも見えない。


怖くて眠れない、、


夜は、いつまでも続くの?


どうしたらいいのかな?


誰か、そばにいて欲しい、、)


小鳥の子は、そっと目をあけて、恐る恐る、外をのぞいてしまいました。


辺りは何も見えない真っ暗闇の中、泉だけは差し込んだ月の光を、ゆるやかに灯しています。


昼間ほどはっきり見えないけれど、確かに、変わらず、泉は静かに湧き続けていました。


耳を澄ますと、泉から溢れている水の音も聞こえます。


「泉さんは、昼でも夜でも、私が見てなくても、ちゃんとお水が出てるのね」


泉の流れ出す音に耳を傾けていると、小鳥の子は、なんだかとっても良い気持ちになってきました。


自然とまぶたが落ちてきて、いつの間にか怖いのも忘れて、そのままぐっすり眠りに落ちていきました。



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