小鳥と泉 〜あいのひかり〜
春に生まれた小ちゃな小鳥の子は、他の子たちよりも、ずっとずっと小さくて、空飛ぶ羽も少ししかありません。
だから、みんなにくっ付いて行くのが、やっとでした。
でも、木の実や種を見つけるのは上手で、小さな身体を弾ませて
「みんな!
ここに食べ物があるよっ!」
小ちゃな小鳥の子は、 嬉しくなって鳴くのでした。
太陽がだんだんと高くなっていくころ、小鳥の群れは、食べ物がたくさんある南の森を目指して飛んでいきます。
大人の鳥たちが先頭を飛び、子供の鳥たちは、遅れないように後を元気に追いかけます。
小っちゃな小鳥の子も、みんなのいちばん後ろを一生懸命について飛びました。
すると、北からの冷たいイタズラ風が、小っちゃな小鳥の子の羽を吹き飛ばし、あっという間に、みんなから離れてしまいました。
「あっ、みんな、まってーー!!
わたしを置いていかないでー!」
小さな声でも精一杯鳴きましたが、みんなは気がつかずに行ってしまいます。
(どうしよう、、
どこに行ったのかな?
みんな、いなくなっちゃった)
小っちゃな小鳥の子は、心細くなって、泣きたくなりました。
(きっとみんな、わたしのこと、忘れちゃう、、
わたしも、いつの間にかいなくなった子のこと、はっきりと覚えてないもの。
ちょっと悲しいなって思ったくらい)
そんなことを考えていると、すっかり飛ぶ元気もなくなって、森の中の目立たない小枝にとまりました。
ひとりぼっちになった小っちゃな小鳥の子は、丸い目をつむって、泣くのを我慢しながら、怖くて震えていました。
(どうしたらいいのかな?
私に立派な羽があったら、良かったのに、、
そしたら、この大きな空を、自由に、気持ちよく、風を切って飛んでみたい。
どんな気持ちなんだろう?
きっと楽しくて歌い出すに決まってる)
小っちゃな小鳥の子は、ほんの少し、怖いのを忘れていました。
―――
大きな森には水が静かに溢れ出す、小さな泉がありました。
いつからそこにあるのか、どうしてそこにあるのかも知りません。
大きな森の、深い深いところから湧いてくる、はるかな生命の水をたたえている泉でした。
この小さな泉から溢れ出した水の流れは、小川となり、大地を潤しながら旅をして、色んな冒険を始めます。
でも、小さな泉は動かずに、ただ、やって来る動物や虫たち、まわりの草や木を、鏡のような水面に映して、静かにしているだけでした。
ずっとそのままで、時間も何も感じることもなく、穏やかに続いていたのです。
ところが、小さな泉の静かな奥の奥のほうに、何かがザワザワする感じかしました。
(なんだろう、、
これは、なにが震えているんだろう?
どうして、僕は震えるんだろう?
あれっ?
どうして僕は僕だって知ってるの?
もう今までの静かな泉じゃない。
僕は知りたい、、
この震えがどこから来るのか)
小さな泉の水面が揺れると、温かな光がキラキラと生まれて、天の空に向かい走り出します。
「僕はここにいるよ。
ずっとここにいるんだ。
君はだれ?
僕はだれだったのかな?」
どうしても思い出そうとして、小さな泉は静かに揺れていました。
―――
小ちゃな小鳥の子が葉っぱの間から、遠い空を見上げていると、あたたかい風が森を揺らしました。
風は柔らかく葉を揺らし、小ちゃな小鳥の子の身体も、そっとくすぐります。
(とっても優しい風さんね。
この風さんに乗っていったら、わたしをみんなのところに運んでくれるかも、、)
「えいっ!」
小ちゃな小鳥の子は、考えるよりも早く翼を広げ、風に身をまかせて飛び出しました。
(わぁ〜〜!
こんなにふんわり飛んだの、初めて。
なんていい気分なんだろう!)
いつも仲間たちの後ろを離れないように追いかけていたので、小ちゃな小鳥の子は、気ままに楽しく飛んだことはなかったのです。
今は、ひとりでも、胸を大きく広げて、風になっていました。
すると、遠い雲の隙間から、まっすぐに光の柱がさしているのがみえます。
光の柱は、森の木立ちの中を貫いて、まるで、小ちゃな小鳥の子に、ここに来て!と言ってるようでした。
(あれは何かな?
わたし、行ってみたい!
何があるのか、知りたいな)
「風さん、ありがとう!
わたし、あそこに行ってみる。
また一緒に飛ぼうね!」
小ちゃな小鳥の子は、風にさよならを言って、温かな光の源に、自分の嘴を向けて、ヒラリと舞い降りて行きました。
―――
小さな泉は、自分の水面に、キラキラした真っ白の小鳥が映ると、嬉しくて踊りたくなりました。
でも、一度も踊ったことはないので、頑張っても、水の底から泡をポコポコと増やしただけです。
小さな泉のふもとに、ちょこんと降り立った、小ちゃな小鳥の子の澄んだ瞳は、小さな泉をしっかりと見つめます。
「わぁ〜〜!
なんて綺麗な光なんだろう、、
ここは、どんな音や光も優しく、静かにしてくれる場所なんだね。
ここ来てよかった」
小さな泉はそれを聞いて、小ちゃな小鳥の子を安心させるように、静かに優しくなろうとしました。
―――
小さな泉を覗き込んだ、小ちゃな小鳥の子は、きちんと挨拶をします。
「こんにちは。
あの、、わたし、ここにいてもいいですか?
みんなと離れて、ひとりなの。
すこし疲れちゃった、、
お水を飲んでも大丈夫かな?」
小鳥の子の問いかけに、泉は、ポコポコと、水の底から返事をして、水面にキラキラの輪っかを、いくつも描きました。
「わぁ~!
飲んでもいいのね。
泉さん、どうもありがとう!」
小鳥の子は、そっと泉を覗き込んで、水に顔を近づけると、なめらかな水面に自分の姿が映りました。
(わたしって、こんな姿なんだ!
みんなより小さいし、羽も少ない、、)
いつも、仲間たちの元気な姿を見つめていた小鳥の子は、自分のことが頼りなく思えて、しょんぼりしてしまいました。
それを映した泉も、小鳥の子がいっそう小さく見えて、悲しくなります。
(君はどんな姿でもいい。
ここに来てくれたのは、今の君だから。
僕が知りたかったのは、会いたかったのは、君なんだ)
泉は、静かに祈りました。
(君は、そのままで素晴らしい。
いつまでも君が自然にいられますように、、)
その祈りは、泉の水を揺らし、キラキラの光が生まれ、小鳥の子の瞳に映りました。
「すごいなぁ!
こんな色んな光が生まれて、なんて綺麗なんだろう」
小鳥が喜ぶと、泉は自分が何か特別な泉のような気がしました。
小鳥の子が、そっと水に口をつけると、泉も、くすぐったい喜びに満ちあふれます。
(なんでこんな気持ちになるんだろう?
丸い何かが湧き出して、どこまでも静かに広がっていく感じ……)
泉の水は、とても澄んでいて、小鳥の小さな身体に、じんわりと染み渡りました。
瞳は大きく輝いて、身体が少し力強くなった気がします。
小鳥の子は、大切なことに気がつきました。
「食べ物を探さなくちゃ!
じきにお日様が隠れて、見えなくなっちゃう」
それから周りを見回すと、陽のあたる藪の中に野いちごを見つけて、小躍りしました。
「わぁ、嬉しいな~!
あんなに沢山、食べ物がある。
あと、安全な寝床があれば、今夜はきっと大丈夫」
真っ赤に熟れた野いちごをひとつ食べると、小鳥の子はたちまち元気が出ました。
寝床になりそうな場所を探すと、泉のそばに小さな木のくぼみを見つけます。
小鳥の子は、枯れた葉っぱや柔らかな苔を、小さな嘴でくわえて、何度も何度も窪みに運びます。
夕暮れまでに小さな寝床ができました。
「うん、ふわふわして、いい感じね!」
寝床にうずくまって確かめていると、太陽はいつのまにか沈んで、森はすっかり薄暗くなりました。
ひとりで過ごす初めての夜、夜風は森を揺らすし、フクロウの大きなため息や、キツネがネズミを追いかけている音も聞こえます。
小鳥の子は、大人の鳥たちから教えられていました。
夜は決して動かないように。
じっとして、お日様が昇るまで、深く深く眠るように。
でも小鳥の子は、今夜は怖くて眠れません。
いつも仲間たちと一緒に丸くなって、みんなの温かさや鼓動を感じながら、安心して眠っていたのです。
(どうしよう、、
なんにも見えない。
怖くて眠れない、、
夜は、いつまでも続くの?
どうしたらいいのかな?
誰か、そばにいて欲しい、、)
小鳥の子は、そっと目をあけて、恐る恐る、外をのぞいてしまいました。
辺りは何も見えない真っ暗闇の中、泉だけは差し込んだ月の光を、ゆるやかに灯しています。
昼間ほどはっきり見えないけれど、確かに、変わらず、泉は静かに湧き続けていました。
耳を澄ますと、泉から溢れている水の音も聞こえます。
「泉さんは、昼でも夜でも、私が見てなくても、ちゃんとお水が出てるのね」
泉の流れ出す音に耳を傾けていると、小鳥の子は、なんだかとっても良い気持ちになってきました。
自然とまぶたが落ちてきて、いつの間にか怖いのも忘れて、そのままぐっすり眠りに落ちていきました。




