『秋のお土産、おすそわけ会 — また会える季節』
武 頼庵(藤谷 K介)様主催、25秋企画!『思い出のお土産企画』参加作品です!(≧▽≦)
(↓開催概要です)
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(; ・`д・´)<お土産というより、おすそ分けなお話になってしまったー!w
──秋が来ると、わたしの家は急に賑やかになる。
賑やかといっても、人が集まるのではない。
お土産や、おすそ分けとして食べ物が集まってくるのだ。
栗、サツマイモ、葡萄、梨……
どれもこれも、かつて教壇の後ろで「先生!」と手を挙げていた子たち——もう立派な大人だが——が、今も変わらず届けてくれるものだ。
七十を超え、ひとりの暮らしにも慣れたけれど、秋だけはどうにも独り占めができない。
季節の気配は懐かしい思い出を連れてくる。
──そして今、台所の流しに立派な魚が一本、どんと横たわっている。
秋鮭。
あの子が小学生だった頃、作文に「大人になったら漁師になる」と書いていたのを思い出す。
あれから本当に地元の漁師になって、数十年以上経っても、こうして季節の味を運んでくれる。
さすがに一人では持て余す。
けれど、「先生に食べてもらいたくて」と照れながら持ってきたのだもの……無下にはできない。
そんな今年の秋も、冷蔵庫に入りきらない自然の実りを見て思った。
——よし、今年は呼ぼう。あの子たちを。
連絡すると、驚くほど早く返事が来た。
「行きますよ、先生!」
「もちろんです!」
「仕事終わりに駆けつけます!」
あの頃と同じ、はじけるような声だった。
年賀状を書くたび、その子たちの名前をそっと撫でるように思い浮かべる。
教師を辞めて十年以上経つのに、まだ「先生」と呼んでもらえるのは、なんともくすぐったく、そして ありがたい。
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「「「先生、こんばんは!」」」
夕方になり、三人の声が時間をずらしながら、元気よく玄関をくぐる。
秋の風が冷たくなり始め、家の中に人が増えると少しだけ暖かい。
最初に来たのは、料理屋を継いだ”健太くん”。
「今日は先生のために、“秋鮭のちゃんちゃん焼き”を作りますよ」
さっそく包丁を握り、秋鮭を手際よくさばく。
「今年の鮭は脂がのってていいね!味噌は僕んとこの特製ですよ」と胸を張った。
野球帽をかぶって走り回っていた昔のやんちゃ坊主の影はもうない。
「先生、焼き立てのアップルパイ持ってきたよ!今年のは特に甘いですよ!」
二番目に来た”カナちゃん”は、腕いっぱいに温かい包みを抱えている。
「実家が青森なんです。父が毎年、初物のリンゴを送ってくれて」
教室の太陽みたいだった子は、今はカフェを切り盛りする立派な働き者になった。
「この時期だけは、なんか”帰ってこいよ”って呼ばれている感じがするんですよね」
カナちゃんの差し出す包みからは、ふんわりと林檎の香りと、どこか郷愁の匂いが混ざっていた。
「先生に会うってじいちゃんに言ったら、”この新米を持っていけ”ってさ」
最後に来たのは、社会人の”ミナトくん”。
物静かだけれど、気持ちは誰よりも優しい子だった。
スーツ姿のまま、大きな米袋を持って来たあたり、本当に仕事終わりで駆けつけてくれたらしい。
「大丈夫?、重かったでしょう?」と聞くと、
「昔、じいちゃんから”米は人の力をつなぐもんだ”って言われてたのを思い出したんです」
と彼は照れたように笑った。
その言葉だけで、喉の奥が少し熱くなった。
──鍋で溶かしていた特製味噌が、ふわりと甘く、少しだけ香ばしい香りを放つ。
味噌、バター、みりん……その湯気が立ちのぼるたび、部屋中が秋の香りに満たされていく。
大きな鉄板の上で、鮭の切り身がじゅうっと音を立てた。
味噌ダレがからまり、黄金色の液が鮭の表面をすべり落ちては、野菜に染みこんでいく。
キャベツが甘くなり、玉ねぎがとろけ、きのこが味噌を吸って輝く。
「うわ〜!この匂いたまらないね!」
と、カナちゃんがお皿を抱えながら跳ねるように言い、ミナトくんは「これ、絶対うまいやつだね!」と腕を組んで眺めていた。
その間に私は炊飯器の蓋をそっと開ける。
――もわり、と白い湯気が立つ。
ミナトくんがお裾分けしてくれた、炊きたての新米。
粒が光っている。
まるでひと粒ひと粒が“秋の宝石”みたいだ。
「絶対鮭に合うやつじゃん!」
健太くんが嬉しそうに笑う。
しゃもじを入れると、つやつやの米がふわりとほぐれ、立ちのぼる香りだけでもう幸せになれる。
やがて、ちゃんちゃん焼きが鉄板の上で完成すると、部屋は一瞬、みんなの「わぁ〜……」という息で満たされた。
健太が取り分けてくれた一皿目。
味噌が照り、鮭のピンク色が柔らかく、湯気が立っている。
カナちゃんが我慢できずに箸をつけ、
「……っ、なにこれ、めちゃくちゃ美味しい!!」と目を丸くした。
ミナトくんも大口で頬張り、
「この味噌、反則だろ……鮭がめっちゃ甘い……!」と感動したようにつぶやく。
健太くんは照れ隠しに鼻をかきながら、
「秋鮭に合うように、ちょっと甘めにしてるんすよ。先生も食べてください」
私は箸を取り、鮭をひと口。
ほろり、と簡単にほどけた。
味噌がやさしい甘さで包み込み、バターの香りが広がり、秋鮭の旨味が口いっぱいに広がる。
「……本当に、美味しいわねえ」
新米をひと口。
噛むごとに甘みが増えて、味噌と鮭の味を優しく受け止める。
(――ああ、これは贅沢だ。)
三人が嬉しそうに箸を進めている顔を見ているだけで、胸の奥があたたかくなる。
「先生、覚えてます? 健太がずっこけて机ひっくり返したやつ」
「いやいや! あれは椅子のほうが悪いんですよ!」
「ミナトが初めてスピーチしたとき、泣きそうになってたよね」
「カナ、言わないでよ〜」
食卓はまるで絵本の一頁みたいに色づき、会話は次々に弾む。
「しょっぱいモノの後は、甘いアップルパイはいかがですか~?」
程よくお腹が落ち着いた頃、カナが持ってきたアップルパイを切り分けてくれた。
パイ生地はサクッと軽く、中の林檎はとろり、シナモンとバターの香りが優しくひろがり、「「カナちゃん、天才!」」とふたりが褒めたので、本人は真っ赤だ。
私もつい笑ってしまう。
調理実習室で頑張っていた昔の彼女を思い出してしまった。
あの頃から、人を幸せにする食べものと向き合う姿勢は変わっていないようだった。
――教え子たちが、こんなにも力強く、そして優しい大人になっている。
四人で食卓を囲むと、昔の放課後の続きを見ているようだった。
食事が終わり、みんなが食器を片付けてくれて、私は冷蔵庫からタッパーを取り出した。
――中には、ついさっき剥いて切ったばかりの、瑞々しい梨がぎっしり。
「先生、デザート第二弾?」
「ええ、口直しに一切れどうぞ」
健太が「うわ、甘っ!」と笑い、カナは「シャリシャリ最高…」と幸せそうにし、ミナトは「秋の梨って、なんでこんなにみずみずしいんでしょうね」と目を細めた。
笑い声が重なる中、ふと、この場にいない子たちの笑顔が一瞬よぎった。
若くして逝った子も、遠くの街で頑張っている子も――今日はきっと、この食卓にいるだろう。
そんな思いが梨の甘さと一緒に込みあげ、胸の奥がじんとしたけれど、涙にはならなかった。
なぜだろう。
(――ああ、私はこんなに良い仕事をしていたんだ。)
この子たちが目の前で笑っているからだ。
あの頃の教室と変わらない、真っ直ぐな笑顔で。
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「「「お土産ありがとうございます!」」」
私が食べきれない秋の実りをおすそ分けした帰り際、三人が口々に言った。
「また来ますからね、先生!」
「来年も秋にやりましょうよ!」
「次はもっとおいしいの持ってきます!」
玄関に並んだ笑顔は、秋の夕日みたいに優しかった。
扉が静かに閉まると、部屋に戻った静けさが、さっきより柔らかく感じられた。
なんだか、心の中に明かりが一つ灯ったようだった。
今年の秋は、ひとりじゃなかった。
(──今年の秋も、いいお土産をもらったわ。)
笑い声が混ざるこの部屋に、私はいつか立てなくなる日があるのかもしれない。
でも、それは怖いことではない。
季節が巡っても、思い出が薄れても、今日の笑顔はきっとずっと残る。
今日の時間がちゃんと残るのなら──そのことが、何よりの“豊かさ”だと思った。
(了)
秋の味覚の美味しさが伝わりましたでしょうか~?(*´▽`*)<今度、ちゃんちゃん焼きをしますw
世代を超えてつながるもの……美味しい食べ物を作ってくださる方々、教育に連なる方々に深く感謝して・・・またお読みくださった方へも・・・ありがとうございました!(≧▽≦)




