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第九話「キッチンへ行こう。」





 〈異世界七日目〉







 珍しく早い時間に起きたのでヒマだ。

 朝ごはんの時間まで、あたしの当面の目的を考えようと思う。






 第一に、元の世界へ戻る方法を探す。


 第二に、魔王と勇者について調べる。






 とりあえず、この城にある図書室の本を読んでみたり、ヤバイ本が隠してあるとかいう場所を探してみよう。

 [血まみれの魔導書ブラッディ・グリモワール]のおかげで字が([古語(エンシェント・ルーン)]のみ)読めるようになったのを言いふらすつもりはないから、コッソリ。


 ・・・と、そんなことを考えていたらいつの間にか二度寝していて、朝ごはんの時間だよと呼びに来た天音に起こされた。

 まあ、こんなこともあるよねー。





 朝食を終えると天音を修行に送り出し、また城内をふらつこうとしたところで、うっとーしい気配に気づいた。



 後ろからつけてきているのが一人。

 遠くから監視しているのが一人。



 こちらが気づいていると悟られないよう、いつもと同じ調子でふらつきながら、早かったなーと思った。

 連日タヌキオヤジたちが付け届けをしてくるのを遠慮なくもらっていたので、権力争いに巻き込まれかけているのだ。

 メイドさんたちからも忠告をいただいていたのだが、思ったより早く、しかも激しい反応を起こされてしまった。



 もともとそれほど長居するつもりはなかったから、もらえるものは遠慮なく全部いただいてたんだけど。

 考えてたより早めにトンズラした方が良さそうだ。



 今朝考えていた目的のための行動を起こすにも、このままの状態では制限が多すぎて、動きづらいことこの上ないし。

 “闇”を使えることも、どこでバレるかわかんないし(バレたらやっぱり、一瞬で「敵」認定だよねー?)。





 んーむ。

 そしたら今日は、厨房(キッチン)へ行っとこー。





 まずはメイドさんに頼んでメイド服と古びたメガネを入手。

 この国には黒髪黒目の人間がいないらしいので、髪の毛を隠してメガネで目を隠して、メイド服に着替える。


 で、お城のひろい厨房へ潜入。

 片隅でイモの皮むきをしている無愛想な料理人に目をつけ、皮むきを手伝いながらこの世界の甘味事情について情報収集。

 そうして判明したのは。



 ・・・う~ん、おしい!



 という感じの状況だった。


 小麦粉っぽいのはあるけどパン(かたいのよー)を作るために使われていることが主で、焼き菓子もあるけど岩のようなクッキーもどきをお茶でふやかしたりして食べるとか。


 事情をぼかしていてはいつまで経っても話が進まないので、天音の姉だということを話したら、あたしは「勇者さまの“地味な”姉」として一部では有名だと判明した(メイドに化けて入り込んだのを叱られた後で)。

 あー、はいはい。

 ほめてくれてありがとー。



 それはさておき。

 元の世界にあったケーキやクッキー、マカロンやパウンドケーキ、生クリームやカスタードクリームの話はかなり興味を持ってもらえた(おかげで厨房から追い出されずに済んだ)。

 とくに「天音の大好きなもの」という一言が、彼らの情熱に火をつけたらしい。

 それはどのようなものですかっ!と詰め寄られ、原料から精製方法、精製する機械から調理道具などなど・・・、根掘り葉掘り聞かれたって、あたしがそんなに知るわけないんだけどねー。

 作ってもらったのを食べる専門だったし。

 たまーに手伝いくらいはしてたけど、エンドウマメのさや取りとかジャガイモの皮むきとかだからさー。



 それなりにお菓子は好きだから、ちょっとは知ってるけど。

 とぼしい知識をひねりだし、いろんな人を巻き込んでうんうんうなりながら、とりあえずパウンドケーキとキャラメル作りに挑戦してみた。



 ・・・・・・うーん?



 かなりぱっさぱっさしてるけど、まあ、パウンドケーキ。

 だいぶ甘すぎる上にかたいけど、まあ、キャラメル。



 シロウトの初挑戦だからねー・・・







 昼前には部屋へ戻り、服を着替えて天音と昼ごはんを食べた。

 朝は二人で、昼は王子とか天音の従者とかの人たちと一緒に、夜は王子を入れた三人で食べるのが最近の習慣。


 ・・・・・・あー。

 昼ごはんに行くと、日に日に逆ハーレムが形成されていく様子がよくわかる。

 “従者=取り巻き”で、それぞれの個性によって立ち位置が決まっていくわけだ。


 天然アイドル健在。



 まあ、それはいつものことだから、べつにどうでもいい。

 当人である天音は、とくに誰を気に入っているというふうもないし。


 それよりあたしとしては、さまざまな手法で彼らに挑戦(アプローチ)しているメイド(ハンター)さんたちを応援したいところだ(たまに“ランク外”ヴィンセントに挑戦する剛の者がいたりすると、思わずコッソリ見守ってしまう)。







 午後からはまた着替えて厨房に入りこみ、お菓子作り再開。



 と思ったら、なんか人が増えとる。

 朝やってたことの噂がひろがったとかで、非番の料理人が来たり、商人(王家御用達とかいう)が来たりしているらしい。



 まあ、人が多いのはいいことだ。

 アイデアも増えるだろうし。



 そう思ってたら、なんと夕飯までに天音に食べさせてもいいと思えるパウンドケーキが完成。

 料理人は大喜びで、商人も商売チャンスであることに気づいてほくほく顔。



 あたしはひとり、天音に叱られた。



「お姉ちゃん!なんでそんな楽しそうなこと、ひとりでしてるのー!」



 一緒にやりたかったらしい。

 そーいえば、お菓子作りわりと好きだったね。

 でも君、修行しなきゃーいかんでしょー?

 とりあえず、帰る方法が見つかるまでは、「勇者」さまやってもらわないといけなさそーだし。

 生きのびる確率を上げてもらわねば、だからねー。



 あたしは不満げな声を「まあ、いーじゃないの」と聞き流し、今日一日の努力(主に料理人と商人がしていた)の結晶であるパウンドケーキを「はい、あーん」と食べさせてやる。


 むぅっという拗ねた顔をしながらも、お菓子につられて素直に口をあける天音は、鳥のヒナみたいで可愛かった。





 影ながらキッチンで奮闘したリオちゃん。そろそろ本格的にドロップアウトすることを考えつつ、アマネちゃんを心配してます。ヴィンセントは見守られてます。ああー・・・。リオちゃんの春は、もちょっと先になりそうです。

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