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第七十二話「四連戦と予言とナゾ。」




〈異世界四十日目〉







 朝。


 昨日よりだいぶスッキリした顔で鍛錬をする天音と騎士たちのなかに、なぜだかレグルーザとバルドーが入っていた。

 天音が起きるのにつられて起きたあたしは、くぁ~とあくびしながら寄っていって「何してんのー?」と質問。

 訓練用の木剣(ぼっけん)を手にした天音が教えてくれた。


「レグルーザさんとバルドーさんに、稽古の相手をお願いしたの。それでこれから、レグルーザさんとギルベールが試合式の稽古をするのよ。」

「おおー。『神槍』対、第一騎士か。レグルーザ、がんばってー。」


 ひらひら手をふりながら応援すると、「お前の声を聞くと気が抜けるのだが」という失礼なつぶやきが聞こえたので、期待にこたえてもっと応援してあげようとしたらヴィンセントの「始め!」という声で試合が開始された。

 おもしろそうだったのでそのまま見物していたのだが、試合と呼べる試合にならないのに思わず苦笑。



 元気な熱血騎士くんは威勢の良い声をはりあげて攻撃するのだが、レグルーザは最初の立ち位置からほとんど一歩も動かないまま、すべてを軽々と受け流してしまう。

 二人が使っているのは天音が持っているのと同じ木剣なのだが、もともとの身体能力も経験も技量も、第一騎士は『神槍』の足下にもおよばないらしく、まるで試合にならないのだ。


 一方、レグルーザは完全に「剣の稽古の相手役」という意識みたいで。

 血気盛んな騎士くんをあっちこっちへ転がして振りまわし、いくらか付き合ってやるうちに疲れた様子が見えたところで、ごく自然な動作ですいと青年の喉元へ剣先をつきつけ。

 ヴィンセントが「そこまで!」と宣言するのに、木剣を引いて終わらせた。



 比べる相手が悪いのかもしれないけど、なんともはや、圧倒的。

 膝から崩れ落ちてはぁはぁと肩で息をする第一騎士とは正反対に、それまで座ってでもいたかのように平然としている傭兵。


 ランクS強ぇー。


 と、思ったのはあたしだけじゃなかったみたいで、闘争心かなにかを刺激された他の三人がいっせいに次は自分が! と主張し、話し合いの結果、勇者パーティのリーダーである天音が次の挑戦権を手に入れた。


「よろしくお願いします!」


 きらきら輝く瞳で元気よく言う美少女に、ものすごくやりにくそうな顔でうなずくトラの獣人。



「始め!」



 ヴィンセントの声で試合開始。


 天音の技量は見たところ、先の第一騎士くんとほぼ同レベルか、彼よりちょっと上くらいだったけど、試合としてはさほど変わらず。

 レグルーザが受け流し方をすこし変えたため、天音が膝をつくほどおおきく振りまわされることがなかっただけで、ランクSの傭兵はやはり最初の立ち位置からまったく動かないし、自分からは攻撃しない。


 そうしてしばらく後、天音の動きがほんのすこし鈍ってくると、頃合いを見計らってレグルーザが動いた。


 木剣が当たる、コン、という軽い音がして。

 天音の手から木剣がすっぽぬけ、ぽーんと空を飛んで離れたところにカランと転がり。



「そこまで!」



 試合終了。

 肩を上下させる荒い呼吸をしながら空っぽになった自分の手を見おろし、「え?」と不思議そうな顔をする天音に、「指を痛めなかったか」とレグルーザが訊いた。


 大丈夫ですと答え、「ぜんぜん相手にならなかった・・・」としょんぼり帰ってきた天音の頭を、よしよしと撫でてやる。

 鍛錬のための試合とはいえ、見あげるほどでかいトラの獣人相手に、ためらいなく突撃できるだけでじゅーぶんスゴイとおねーちゃんは思います。


 君はできるだけみんなの後ろにいて、突撃はしないようにしてほしいんだけどなー、とため息をつきながら、次の挑戦者となったヴィンセントが木剣を構えるのを、天音とならんで座って見守った。



 バルドーの「始め」という声で試合開始。


 ヴィンセントの剣は第一騎士の熱血あんちゃんより一撃が重く、しかも受け流されても即座に体勢を立て直して連続した攻撃を叩きこめるだけの安定感がある。

 レグルーザは相変わらずその場から動かなかったけど、ヴィンセントの攻撃を受け流す合間に、初めて自分からも攻撃した。

 それを避けたヴィンセントは、避けるその動作を利用して勢いを乗せた一撃を返すも、レグルーザに見抜かれて空振り。


 先の二人よりだいぶ善戦したが、結局レグルーザには勝てず、剣をはじきとばされて試合終了。

 手合わせ感謝する、と一礼して、バルドーと交代した。



 さすがに四人目ともなると「なぜ俺だけ連戦なんだ」とレグルーザはやや不満げな顔をしたけど、バルドーは「ただの朝飯前のお遊びじゃねぇか。もう一戦、オレとも遊んでくれ」と言って、ニヤリと好戦的に笑った。

 レグルーザはしかたがないなと軽く息をつき、白髪赤眼の『守り手』に視線をすえる。


 そうして目を合わせると、二人はどちらからともなく木剣をほうって素手になった。

 静かに高まる緊張のなかで、ヴィンセントの声が響く。



「始め!」



 すぅっと、音もなくバルドーが動いた。

 かなりのバネがあるらしく、助走もなしにほとんど一瞬で高速化。

 長身で大柄な体からは信じられないほど速く、流れるようにしなやかな動作で拳が打ちこまれるのに、最小限の動きで避けたレグルーザは初めて試合開始時の立ち位置から動いて反撃した。


 どちらの動きもおそろしく速いうえ、一撃にこめられている力がかなり強いようで、攻撃がぶつかり合った時の迫力がものすごい。

 空気がビリビリふるえるのが、離れたところにいても肌で感じられるほどだ。


 が。

 しばらく様子を見ていると、拳を使った打撃だけじゃなく蹴りも入ってたりするけど、『神槍』対『守り手』の格闘戦はお互いうまく間合いを取りながら適度に体を動かす、バルドーが言った通りの「遊び」なんだな、と気づいた。

 ちょっと(というか、だいぶ)レベルの高い準備運動(ストレッチ)、みたいな。

 どちらも真剣だけど本気ではなく、勝敗を決めるために戦ってるわけじゃない感じだ。


 でも、「遊び」でこの迫力って、なんかもう別世界だねー・・・


 天音とならんで「わー」と見物していると、それはヴィンセントの合図なしに終わった。

 ひとしきり激しくぶつかり合った後、すっとお互い後退して距離をとると、またどちらともなく両者が構えをといたのだ。


 そして「え? これで終わり?」と頭の上に疑問符を浮かべている見物人たちの前で、数秒で呼吸を平静に戻したバルドーが言った。


「しばらく動いてなかったせいで、体がだいぶ鈍っちまってな。ヒマがあったらまたいいか?」


 レグルーザが「かまわない」とうなずいて答えると、バルドーは感謝のしるしか軽く手をあげて見せてから、アデレイドのところへ戻っていった。


 どうやら本当にこれで終わりらしい。

 あたしはレグルーザに「お疲れさまー」と声をかけてから、ひとつ質問した。


「ねぇ、レグルーザ。なんでバルドーの時だけ素手?」

「彼とやるには、この木剣ではもろすぎる。」


 借り物の木剣を壊さないように、ということで格闘戦になったらしい。


 それは木剣の強度の問題なのか、獣人たちの筋力の問題なのか?

 よくわからずに「ふーん?」と首をかしげていると、ブラッドレーが来た。



「ちょっといいかい? 総長から連絡が入ったんだが。」



 『傭兵ギルド』の総長はレグルーザに何か用事があるそうで、彼の現在の依頼人であるあたしも一緒に来てくれと言われたので、鍛錬を続ける天音たちから離れて二人でブラッドレーの話を聞いた。


 といっても、話という話ではなく。

 ブラッドレー経由で『傭兵ギルド』の総帥から呼び出しがあり、レグルーザは急用がなければ、できるだけ早くイグゼクス王国の王都にある本部へ行かなければならなくなった、とのこと。


 何の用件で呼ばれてるのかは不明だけど、今のところあたしの希望は「しばらく天音たちと同行する」ことなので、その間にレグルーザが王都へ行くことには何の問題もない。


 あたしはすぐこっちに戻るけど、王都まで〈空間転移(テレポート)〉で送ろうか? と提案したら、ブラッドレーが「それはいい」と賛成し、総長と連絡をとった。



 ちなみにこの連絡手段、「どうやって連絡するの?」と訊いたら「秘密」とにっこり言われたので、やり方は不明。

 あたしたちからは見えないところで連絡とってたから推測のしようもないし、あたしものぞき見しなかったし。

 遠距離の連絡方法には興味があるんだけど、ランクA傭兵の『鎖』((トラップ)による生け捕りが得意です)にケンカ売るほど無謀にはなれなかったから、まあ、しょーがない。



 そうしてブラッドレーが総長と連絡をとった結果。

 朝食後に〈空間転移〉でレグルーザを王都にある『傭兵ギルド』所有の館へ送り(総長が『星読みの魔女』と会うのに用意してくれた広い家)、夕方迎えに行く、ということになった。



 日帰りですむ話なんだなーと考えていると、今度はふらりとアデレイドが来た。

 なんだかいつもと歩き方が違うのに気づいてよく見ると、銀髪美女はあわい虹色の光を帯びた瞳にレグルーザを映して何かつぶやいている。



「『(キィ)』が目覚めた。『歴史書(レコード)』も連動する・・・?

 どちらも前に視た時よりだいぶ早い。そう、まだ、早すぎるはずなのに。

 『茨姫』の一件の影響が・・・」



 前に見た『調和の女神』からの啓示より虹色の光が弱いから、これはアデレイドが女神の力を使って予知をしているのか?


 状況がわからず様子を見ていると、『星読みの魔女』が急にはっきりとした声で言った。



「『神槍』、杖は受け取ってください。無垢なる『鍵』に悪意はない。」



 言い終わるなりアデレイドはくらりと倒れかけ、いつの間にかそばにきていたバルドーの腕に受け止められる。

 そしてあたしたちが見守るなか、難しい顔をして口のなかで何かをつぶやき続ける『星読みの魔女』をふわりと抱きあげると、『守り手』は無言で焚き火の方へと歩き去った。



 ・・・・・・


 えーと。

 なんかよくわからんけど、今のは「予言」と思えばいいのか?



 首をかしげ、あたしは誰にともなく訊いた。


「『鍵』とか『歴史書』って、何?

 ・・・ん? 目覚めた、ってことは、正確には「誰」と訊くべき?」


 『神槍』と『鎖』がそろって知らんと首を横にふったので、ナゾはナゾのまま残された。





 人間と獣人は単体のスペックがだいぶ違うので、一対一で戦うとなると人間側がとってもキツいです。団体戦で魔法・魔道具ありだと、けっこー勝率変動するんですが。・・・それにしても主人公、ただの見物人(笑)。基本的にやる気ないですねー。

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