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第六十九話「皇女たちの宿命。」




 しばらく考えてみて、神話の舞台裏な話から、あたしが理解しておくべき三つの要点と、そこから出てくる三つの疑問をまとめた。



 要点その一。


 あたし(の魂?)の中には、「魔王」を内包した『空間の神』がいて、あたしが怒りに支配されて“闇”を使うと、それは「魔王」復活のエネルギー源になる。

 そうしたエネルギーが十分にたまると、あたしが死んで「魔王」が復活する。

 その他、怒り状態でなくとも“闇”の力の使用は体を変質させ、強制死亡につながるので、基本的に使わない方がいい。


 もしキレそうになったら、あわてず騒がず頭のなかの本を開こう。

 とくに[血塗れの魔導書ブラッディ・グリモワール]には、相手を殺さず苦痛を与える鬼畜系魔法がたくさんある。

 他人に見つかるとヤバいうえに死亡フラグにつながる“闇”より、魔法を活用していこう(そして時間が空いたら、良い杖がないかどうか探してみよー)。



 ここで一つ目の疑問。


 あたしが身につけてる黒の腕輪は、「魔王」復活の媒体になるみたいだけど、もしかしてずっと身につけてるのって、危険?


 (すごく気に入ってて手放したくないから、壊したり遠くに置き去りにするのはイヤだけど、「魔王」復活の危険度が上がる物なら常時着用してるわけにもいかない。

 近いうちに『空間の神』に訊いてみよう。)



 要点その二。


 『空間の神』の望みは「魔王と化した『闇の神』を正常な状態に戻すこと」で、そのためには『闇の神子』が必要。

 だから『闇の神子』と推測されるヴァングレイ帝国第三皇女を、なんとかして保護しないといけない。



 これに関連して出てくる、二つ目の疑問。


 「『闇の神』を取り戻す」というのは、あたしが生きている状態でできることなのか?


 もし「ムリ」って言われたら、あたしは『闇の神子』より先に死ななければならない、てことになるんだよねー。

 イールの話じゃ「竜人の娘は命が短い」らしいし、そのへんかなり本気で心配。



 続けて三つ目の疑問。


 竜人の娘さんの寿命は、だいたい何歳くらいまで?

 (これはイールに訊いてみよう。)



 最後、頭が痛くなる要点その三。


 世界を渡る力を持っているのは『空間の神』だけで、その力はあたしが死んでからじゃないと正常に使えない。

 (だからって簡単に諦められるわけもないので、なんとか別の方法で帰ることはできないか考えてみるつもりだけど、一人でやるのはしんどいよなー・・・)





 とりあえず今はこれくらいで、まとめは終わり。


 アデレイドに会えたらこの話を知っているかどうか確認して、今回も大精霊の聖域に魔物が侵入しているのか訊いたり、天音が勇者をやっていることについて相談にのってもらったりしよう。





 お昼の休憩をはさみつつ、ずっとそんなことを考えている間に日が暮れてきたので、レグルーザが合図してホワイト・ドラゴンを山のなかへ着地させた。

 天音たちの所まで最短ルートで行くため、今日は野宿。

 近くに細い川の流れているすこし開けた場所を選び、レグルーザは鞍と荷物を降ろしてドラゴンを放すと、用意を始める。


 あたしは野宿初心者なので、レグルーザは魔法でどこかの街へ行って宿屋に泊まり、明日の朝にまたここへ来てもいいぞ、と言ったけど、彼は一緒に街の宿屋へ行くつもりはなさそうだったので、あたしも野宿することにした。

 どこででも寝られるからだいじょうぶだよ、と言って、レグルーザに教わりながら乾いた木の枝を集め、火を熾す。


 その火の中へ、レグルーザが荷物から取り出した虫避けの香木を入れると、かすかにミントみたいな香りがして羽虫がいなくなったので、すごい効き目だねと驚いた。

 この香木は虫以外の生き物には何の影響もなく、燃え尽きるのが遅く、効き目が長く続くよう加工してある物なので、一本焚き火に入れておけば一晩はもつというスグレモノだそうだ。


 焚き火が順調に燃え始めると、水を入れた鍋をそこにかけてから、レグルーザは辺りの様子を見に行くと言って出かけた。

 自動的に火の番となったあたしは、周りに誰もいないのを確かめ、白魔女の衣装を脱いでいつもの気楽な男物の服に着替えた。

 ふー、と息をつくとジャックを地上へ呼び、時々拾い集めてきた枝を火の中へ放り込みながら、久しぶりのブラッシング。

 あたしがブラシを持っているのに気づいて小型化し、地面にほよーんと寝転がって上機嫌でしっぽを揺らすジャックの毛並みをすきながら、ついでにイールと連絡を取る。


 あたしが無事に目を覚ましたことを「良かった」と喜んでくれたイールは、当然「何があった?」と訊いてきたけど、あたしはレグルーザにしたように「話せるようになったら話す」と約束して後回しにしてもらった。

 そして、お互いの現状報告。





 イールは今、ヴァングレイ帝国のどこかをレッド・ドラゴンで移動中。

 今のところ『黒の塔』の幹部たちの動きは掴めていない。


 状況の確認ついでに、あたしは竜人の娘について質問した。


「前に竜人の娘は短命だって聞いたけど、第三皇女はその辺、どうなの?」


「第三皇女についてはいまだ謎が多い。彼女が暮らしていた離宮の者たちを呼んで話を聞いたが、誰も皇女の姿を見たことが無いらしくてな。姿絵もなく、まだ顔すらわからん状態だ。

 記録によれば第三皇女シシィ・リーンが生まれたのは二十二年前の事になるが、離宮で暮らす二十二年の間、彼女は誰にも姿を見られず、精霊使いが呼ばれることもなかったらしい。」


「うーん? 誰にも姿を見られてない、っていうのが変なのはわかるけど。

 精霊使いが呼ばれない、っていうのも、何かおかしいの?」



「以前、竜人の娘は病弱で短命だと言ったが、竜人の娘がかかる病は人間のそれとは根本的に異なる。

 まれに獣人の精霊使いもかかることがあるが、竜人の娘には精霊との力の波長が合いすぎて、時々力を抑えきれずに暴走して精霊化しそうになる、“精霊同調症”と呼ばれる病の発作が起きるのだ。

 小康状態を保っている時に精霊同調症を防ごうと何らかの干渉をすると、体内の力のバランスが崩れて他の病にかかり、逆に命を危うくする・・・


 その精霊同調症の発作を唯一抑えられるのが、娘と同じ属性の精霊使いだ。

 ゆえに皇女が生まれると、同じ属性の精霊使いが数名、専属の侍医として選ばれる。

 だが、第三皇女について風属性の侍医が選ばれた記録はあるのだが、彼らが実際に呼び出された様子が無い。」



「その発作が起きると、絶対に同じ属性の精霊使いが必要なの?」



「属性の異なる精霊使いでは、発作をおさめることはできない。

 自力で抑えこむのは、ある程度成長していれば可能ではあるが。自力での抑制は体力と精神力をひどく削り、精霊化の時期を早めることになると言われている。

 よほどの事情がなければ、皇女が発作を起こした場合、即座に侍医として選定された精霊使いが呼ばれるはずだ。


 しかしどれほど手を尽くしても、寿命は・・・、よく生きて三十年。記録に残された最長年齢ですら、三十二歳だ。

 竜人の男は、最高で五百年を生きるというのに・・・」



 イールの異母姉である第一皇女も、十六歳の時、連続して起きた発作で体力がもたず精霊化し、肉体を失って世界へとけた。

 二代目勇者が大精霊と契約した際、大精霊が若くして亡くなった竜人の娘たちの記憶を持っていることがわかったため、現在は「精霊同調症で精霊化したものは大精霊の一部になる」と言われてはいるが。

 二代目勇者の失踪以降、誰も大精霊と契約することはできず、それが本当のことなのかどうか、確かめる術はない。


 そして、イールの実妹であるネルレイシアは、今年で二十八歳。


 返す言葉が見つからないでいるあたしに、イールは話題を変えた。



「ともかく今は、第三皇女の捜索が最優先だ。」



 おそらくヴァングレイ帝国の国内にはいないので、イールとしては『傭兵ギルド』と本格的に連携して『黒の塔』の動向を探りたいのだが、彼らと契約を交わすには元老院の承認が必要。

 だというのに、第七皇子を強制的に眠らせておいてトンズラした元老院のメンバーは、現在それぞれの領地へ引きこもって直属の部下達を動かしているようで。

 イールが部下を送っても、第二皇女が『皇女の鳥』の使者を送っても、「今忙しいから邪魔するな」と門前払い。


 「ならばわたしが会いに行こう」と決めたイールは、『黒の塔』の情報収集を引き続き第二皇女に任せ、数人の部下を連れてドラゴンで飛び立った、ということらしい。



 ひととおり話を聞いたあたしは、ちょっと迷ったけど、『空間の神』から聞いた話の一部をイールに伝えることにした。

 異世界の神について彼が知っているかどうかわからないので、できるだけ話を複雑にしないようなトコだけ。


「イール。まだうまく話せないんだけど、あたしが三日間寝てたのは初代勇者の黒ネコっていう、サーレルオードと会って話をしてたからなんだよ。

 それで、サーレルによると、第三皇女は闇の純属性の竜人として生まれた『闇の神子』っていう、大事な存在らしくてね。

 あたしは天音に会いに行くのと、アデレイドに第三皇女の捜索を手伝ってもらうよう、話そうと思って移動中なの。」


 「闇の純属性だと?」と驚いたイールから、サーレルと話したことについていろいろ訊かれたけど、「詳しくは今度ちゃんと説明するから」ともう一度約束して、また後回しにさせてもらった。


 本当なら「第三皇女が『闇の神子』」説も、アデレイドに異世界の神についての話がどのあたりの人達の知識なのか、確認してから話すつもりでいたんだけど。

 今後も長く、イールが元老院からの情報提供を受けられず、連携もとれない状態が続くというのは、現在彼だけが北の情報源であるあたしにとっても好ましくないので、彼に交渉で使えそうな情報を渡しておくことにしたのだ。



 そうしてお互いの状況報告を終えると、これから元老院のメンバーのところへ乗り込んで話をするという、徹夜になりそうなイールへ「がんばってね」とあたしが言い。

 今日が初めての野宿なあたしに、イールは「ジャック。わたしの代わりに母が体調を崩さぬよう温め、守ってやるのだぞ」と言った。

 素直な三頭犬(ケルベロス)はしっぽをぱたぱた振って「はーい」と答え、「おとうさんの、かわりー。おかあさん、あっためる、まもるー」とイールの言葉を繰り返した。


 くぅ! なんて可愛いんだいジャック!

 と、あたしは心ひそかに身悶えしたが。

 いや、そうじゃなくてね。


「イール。なんかその言い方、あたしとイールが夫婦みたいだからやめようよ。」

「ジャックからすればわたしとお前が第二の父母だろう。何もおかしくはないと思うが、そう呼ばれるのは嫌なのか? リオ。」

「イヤっていうか、ヘンでしょ。あたしお母さんて意識ないし。」

「その程度であれば問題ないだろう。親という意識は子ができてからでなければ育たない、と聞いたことがある。」

「ああ、それはあたしも聞いたことあるなー。・・・て、うん? なんか話ズレてない?」


 首をかしげながらふと、竜人の娘の寿命が短いなら、竜人はどうやって生まれるのだろう? と思って、イールに訊いてみた。

 人間や獣人は、必ず母親となる女性の種族の子どもが生まれると聞いたけど、竜人の娘が短命なら、竜人はどうやって今まで血を繋いでこられたのか。


 イールは「竜人の場合、親となる男女のどちらかが竜人でありさえすれば、竜人の子どもが生まれる」と教えてくれた。

 なるほど、そうでもなければ竜人の血統はずっと昔に途絶えてるよな、と納得し、他の種族と異なる絶対優勢遺伝子みたいなのを組み込んだらしき『空間の神』と『光の女神』へ、どうして竜人の女性がかかえる深刻な問題だけ放置してるんだ、とはがゆく思った。



 まあ、思うだけでどうにもならないので、とりあえず連絡終了。

 ちょうどブラッシングも終わったので、久しぶりにお散歩へ行っておいでと、元のサイズに戻ったジャックの巨体に姿隠しの魔法をかけて送り出した。





 一人で火の前に座って留守番をしていると、しばらくしてレグルーザが戻ってきた。

 辺りの様子を見に行くついでに狩りをしてきたレグルーザの、見事な獲物と携帯用の食料で簡単な食事をして、沸かした湯でお茶をいれる。


 夜空の下で燃える炎をながめながら、街にいるよりリラックスしている様子のレグルーザに、イグゼクス王国は南大陸のなかで一番安全な国だから野宿も楽だ、と聞いて不思議に思った。


「なんでイグゼクス王国が一番安全なの?」


「さてな。人間たちは、この国が最も『光の女神』の恩寵を受けているために魔物の侵入が少なく、魔獣たちも穏やかな性質のものが多いからだと言っている。

 その言葉の真偽はわからんが、確かに北大陸から見てイグゼクス王国とほぼ同距離の東にあるバスクトルヴ連邦は、ヴァングレイ帝国の次に強い魔物がいる国だ。

 イグゼクス王国には本当に、何らかの加護があるのかもしれんな。」


「一番安全なのがイグゼクス王国で、次に安全なのはサーレルオード公国?」


「そうだ。サーレルオード公国は北大陸から最も遠く離れているせいか、さほど強い魔物は出現しない。そのかわり火の大精霊がいるという聖域がある影響で、気性の荒い火属性の魔獣が多いのだが。

 そして三番目がバスクトルヴ連邦、最も危険なのがヴァングレイ帝国だ。」


「ひょっとして、国に住んでるひとたちの強さの順も、そんな感じ?」


「いや、それは簡単には判断できない。

 ヴァングレイ帝国とバスクトルヴ連邦の者達は、日々の自衛のために個人の戦闘能力が自然と磨かれていくが、イグゼクス王国やサーレルオード公国の者達は、日々の平和な時間で魔法についてのより深い研究を進め、騎士団等といかに連携して脅威を排除するか試行錯誤している。

 それぞれに一長一短があり、実際に彼らが戦ったという記録がない以上、どの国のものが最も強いのかは誰にも判断できないことだ。」



 ほほー、と興味深くうなずいてから、国名が出たついでに以前レグルーザが言っていた、サーレルオード公国の魔法使いの知り合いについて訊いてみると。


「今もサーレルオード公国の首都に住んでいるはずだ。人間の・・・、人間?

 ・・・・・・ふむ。正確に言うなら“元、人間の男”か?

 まあ、そういう魔法使いだ。少々変わってはいるが、博識だぞ。」


 自分で言うのに途中で首をかしげたレグルーザは、ちょっと困ったように耳をぴこぴこ動かして考えてから、簡単にまとめて紹介したが。


「・・・レグルーザ。元人間て、今は人間じゃないってコトだよね?」


「詳しいことはよくわからない。見た目はごく普通の人間の男だ。会いに行くたび若くなったり年老いたりしていて、年齢がまるで違うが。

 亡くなった師匠の古くからの友人で、俺は師匠からたまに会って様子を見るよう、言われているだけだからな。」


 なんだかかなりの変わり者っぽいけど、レグルーザが知るなかでは魔法についての知識が最も深く、特定の権力者に仕えているというわけでもない自由人で、相応の報酬を支払えば気軽に協力してくれる人(?)らしい。

 報酬支払ったらあたし達が元の世界へ帰る方法、一緒に考えてもらえるかなー? と思いつつ、「いつか紹介してね」とまたお願いしておいた。



 そうして話している間にホワイト・ドラゴンが飛んできて、ちょっと離れたところへ降り、のしのしと歩いてきてレグルーザの後ろへ座った。

 レグルーザは話を終えると「そろそろ休むか」と毛布を取り、慣れた様子でドラゴンの元へ歩いていくと、首筋のところへもたれて落ち着く(ドラゴンも慣れてるから、これが彼らの野宿スタイル?)。


 あたしも「うん、おやすみー」と答えて毛布にくるまり、散歩から帰ってきたジャックのお腹にもふもふとうもれて眠った。





 そしてそのまま朝までぐっすり・・・

 と思っていたら、夢のなかに黒ネコが出てきた。





 リオちゃんはジャックと、レグルーザはホワイト・ドラゴンと一緒におやすみー。もふもふベッドは憧れです(笑)。

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