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第七話「血まみれの魔導書。」





 〈異世界三日目〉







 タヌキオヤジの何匹かに「天音もあたしも甘いものが好き」と吹き込んだだけで、翌日の朝、あたしたちの元には大量の甘味が集まった。

 その多くは生の果物とか、果物の蜜漬けとか。



 どうにもこの世界、クッキーとかケーキは無さそうだ。

 現代女子高生にはちょっと厳しいトコロである。





 とりあえず遠慮なくいただいたその甘味で姉妹二人、朝のお茶をしながら話をする。

 天音は今日、選定した従者たち全員と顔合わせをしてから、彼らに何を教わるのか予定を組むのだそうだ。


 へー。修行すんのねー。


 しばらくして迎えにきた王子に天音を引き渡して見送ると、あたしは甘味を手みやげに、メイドさんたちの懐柔にとりかかった。



 どこの世界も女性の情報網というのは最強である。

 そして彼女たちは甘いものが好きだ。



 さぼっているのを見つかると叱られるだろうと思い、秘密のお茶会でメイドさんたちに甘味を提供。

 そうしてあたしは一日が終わる頃にはこの城のだいたいの勢力図と、図書室がどこにあるのか、図書室に置いておけないヤバそうなものがどこに隠されているのか(これは真偽不明)など、イロイロと聞くことができた。







 〈異世界四日目〉







 修行を開始したという天音を見送り、図書室へ行って本を開いてみたが、肝心の字が読めないことに気づいてアホみたいに落ち込んだ。(考えとけよ自分。)

 口語が通じるだけありがたいが、これはものすごく困る。



 どうしたものかと思いつつ、またメイドさんたちとのお茶会をして情報を収集していたところ、興味深い話を聞いた。


「[血まみれの魔導書ブラッディ・グリモワール]?」

「それは文字のない魔導書(グリモワール)で、意志を持つそうです。けれどあまりにもその意志が強いので、従わせることのできる魔法使いはひとりもおらず、みんな死んでしまったとか。」


 話してくれたメイドさんはぶるりとふるえた。

 周りのメイドさんはちょっと怖そうな、わくわくした顔。

 怪談話のひとつのようだ。


「文字がないのに本なんだー」

「気にされるのはそこなんですね・・・。おそらく、資格のないものには見えないだけなのだろう、と言われていますよ。」


 そのへんは魔導書の“意志”が選定するらしい。

 もし資格があったら、字を教えてくれたりするだろうか。





 あたしはまた好奇心・・・、いや、知的探求心につき動かされ、昔の変人な貴族が国王に献上したとかいうそれを探すべく、深夜の宝物庫へコッソリと忍び込んだ。




 変質した目を使って魔法で閉ざされた宝物庫の抜け穴を探し、“闇”を渡って入り込む。

 それなりにどきどきして警戒していたのだが、誰に気づかれることもなく、侵入は成功。

 金銀財宝、という言葉がふさわしい宝物庫をぐるりと見渡し、気になるものが二つあることに気づいた。




 ひとつは、すぐそばにある金貨に埋まった黒い腕輪。


 黒燿石(オブシディアン)で作られたようなそれは、天使の羽のようなデザインの美しい、とても繊細な透かし彫りがほどこされている。

 普段、アクセサリには何の興味もないのだが、なぜだか妙に気に入ったのでひょいと取りあげて腕にはめてみた。

 サイズぴったり。いいわこれ。

 そのまま服の下へ隠してお持ち帰り決定。

 (罪悪感?なにそれおいしいの?)




 もうひとつは奥の方にあるガラスケースのなかの、古びた本。


 分厚い表紙にはめ込まれているのはエメラルドとルビー、サファイアとトパーズ、ダイアモンドと様々な色のクリスタル・・・、とまあ、なんとも豪華な本だ。

 しかもその宝石にはそれぞれ濃い色付きの空気があるので、たぶんかなり強い魔力がこもっている。

 そして何よりも濃い色の空気を持っていたのは、本を十字にぐるぐる巻きにして封じている白い布だった。



 噂話のなかにあった特徴と一致する。

 これが封じられし魔導書、[血まみれの魔導書]か。





「おいで。」





 手のひらを伸ばして“闇”を操り、ガラスケースの中の本を呼ぶ。

 ふっとかき消えるように姿を消したそれは、一瞬後にあたしの手へと落ちてくる。

 本を縛っていた白い布はあたしに触れた瞬間にすうっと黒く染まり、灰のようになってさらさらと崩れ落ちていった。







 ・・・ああ。

 あたしも本格的に人外っぽくなってきたなー・・・・・・







 なんとも感慨深くため息をつきつつ本を開いた、瞬間。

 あたしはまた、どこだかわからない場所に立っていた。





 もとは石造りの巨大な建物だった、廃墟みたいなところだ。

 空は暗く、月も星もない。

 ただ崩れた柱や壁にくっついているコケが、淡く光っている。









 ―――――― 扉を開きし者に問う。









 その言葉は頭の中に直接響いてきた。

 幼くも老いてもおらず、男とも女とも言えない、不思議な声。

 ・・・いや。


 “意志”。









 ―――――― 汝、知識を望むか?









 欲しいねー。

 とりあえず、くれるんならもらっとくよー?









 ―――――― 承知した。









 答えはあっさりと返ってきた。



 え?

 それだけ?









 ―――――― 我は水瓶。汝の器へ、我に記されし知識(みず)をそそごう。









 ふと、ひそやかに笑う“意志”。









 ―――――― 狂わず受けきれるかは、汝の器しだい。









 これが資格の選定か。

 ・・・って、オマエ選んでないよな?

 狂わず生き残ったら資格あり?

 ムチャだねー


 急激に流れ込んできた膨大な知識に、意識が潰されそうになる。








 なんてー乱暴な・・・・・・








 あたしはそれだけ思って、流し込まれる知識のなかに沈んだ。





 正統派勇者な修行開始のアマネちゃんの隣で、一冊目の魔導書(怪談級)と自分から遭遇しに行くリオちゃん。ちなみにこの二人がお化け屋敷に入ると、ホラーもスプラッタもスルーするリオちゃんに、きゃーきゃー騒ぐ涙目のアマネちゃんが抱きつきます(そしてアマネちゃんファンから睨まれるはめに・・・)。

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