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第六十二話「作戦会議。」





 レグルーザに同行するなら正体不明になるべし、って言われたんだよー。


 白魔女の衣装に着替えた理由を簡単に説明すると、あたし以上に派手な真紅の鎧とマントをまとったイールは、ひとつ確認した。


「リオ。防御魔法は使えるな?」

「うん。何種類か覚えてるよ。実際使ったこともある。」


 その返事に「よし」とうなずいたところを見ると、彼もレグルーザと同じで、あたしを連れて行ってはくれるけど、戦力として数える気はないようだ。

 まあ、同行させてもらえればそれでいいので、あたしはべつにかまわない。

 イザとなったら後方からでも届く攻撃魔法あるし。


 とりあえずイールには応接室で待っていてもらい、彼に「よしよし、良い子にしていたか?」と頭を撫でられてしっぽパタパタしてたジャックには“闇”へ戻ってもらって(今は急ぐからごめんよー。また後でね)。

 あたしはひとり支部長の執務室へ戻り、レグルーザ達に第七皇子が来たことを伝えた。


「皇子殿下がこちらに? どの部屋ですか?」


 まったく予想していなかったらしく、驚いた様子で訊いてきた『鷹の眼』のフリッツに応接室の場所を教えると、彼は急いで廊下へ飛び出していった。

 その後ろ姿を見送ってから、あたしは執務室に残った二人の反応を見る。


 レグルーザはさして動揺したふうもなくソファから立ちあがり、革製の鞘におさめられていた短剣を引き抜くなり槍の形に戻すと(あっさり武器(エイダ)変形させたなー)、支部長に言った。


「『鷹の眼(ホーク・アイ)』の次は『紅皇子(クリムゾン)』の登場。『茨姫』の身柄は、一時の間もなく帝国に持って行かれそうだな。」


 「どうする?」と淡々とした口調で訊かれた支部長は、「ふむ」とすこし考えるようにうなずいて、答えた。


「犯罪者に裁きを下す権限のない我々は、いずれ捕えたものをどこかの国へ引き渡すことになる。本来ならばその支部の所在地を領土とする国に渡すものだが、今回はヴァングレイ帝国へ渡すほかあるまい。

 しかし、事前の打ち合わせのない緊急の用件で、帝国との確かな連絡が取れていない。ゆえに契約についてはヴァングレイ帝国ではなく、第七皇子を相手としておくのが良いと思うのだが。どうかね?」


「その契約でギルドが求める対価は?」


「この件で得られる、『黒の塔』についての情報だ。

 帝国が機密事項と判断するもの以外、どんな些細なことでもすべての情報を渡してもらう。」


 ふーん?

 『傭兵ギルド』はイールに「『茨姫』が要求した人物とともに【死霊(レイス)の館】へ行く機会を提供し、『茨姫』の捕縛に協力する」。

 その対価として、「『黒の塔』の情報を求める」ということらしい。

 イールに貸し一つ、って感じかなー。


 実際に『茨姫』と戦う予定のレグルーザが「承知した」と答えたので、支部長もようやくイスから立って、三人で応接室へ移動。


 あたしは急に人型に化けたりしないよな? と(エイダ)に注意を払いつつ、レグルーザに訊いた。


「ねぇ、レグルーザ。『紅皇子』って、イールのこと?」


「ああ。北の国の次期皇帝候補二人の、通称だ。

 第二皇子は水の純属性であることから『青皇子(シアン)』、第七皇子は火の純属性であることから『紅皇子』と呼ばれている。」


 純属性? って何?


「皇子は髪と目が同じ色だっただろう。紅は火の属性を示す色だ。

 髪と目に四大精霊の属性を示す色が揃っているものを、「純属性」という。」


 そういやその辺の話は聞いてなかったな、と思ったので、ついでに色と属性の関係を教えてもらった。



 「地は緑」で「水は青」、「風は白銀」で「火は紅」。


 一つの属性を強く持って生まれると髪と目が同色の「純属性」になるけど、そういう子は竜人以外ではほとんど生まれない。


 あと、この世界の人間が宿すのは、地水風火については基本的にどれか一属性のみ。

 一人がこの四大精霊の属性を複数持つことはなく、たとえば「緑の髪に青い目」という組み合わせは存在しない。

 (幻影の魔法で髪と目の色を変える時の注意点だなー。)


 しかし、四大精霊以外でなら二つの属性を合わせ持つのはよくあることだそうで、それには二つの場合があるという。


 一つは、四大精霊とは違う他の属性を持っている場合(ほとんどの人はこれに該当する)。

 「雷の紫紺」や「土の茶色」、「花の桃色」や「金属の赤銅(しゃくどう)」など、ものすごい数の属性の色があるらしいけど、どれも力が弱く、生まれ持つことによる能力的な利点(メリット)はほとんど無い。

 桃色の子は花を育てるのが上手で、赤銅の子は金属の扱いが得意、になるかも? という程度。

 生まれ持った才能の方向性がちょっとわかる、というのは利点だと思うが、特性と呼べるほどのものではないらしい。


 そしてもう一つが、属性の中でも別格な、四大精霊より強い力を秘めた「光の金色」か「闇の漆黒」を持っていた場合(これはすごく少数)。

 そういう子は、必ずもう片方が四大精霊のどれかの色になって、たとえば「金色の髪と緑の目」だったら、「光と地」の二属性を持つことになる。

 特性として、そうした子は生まれ持つ魔力が多く、その魔力の量に応じて寿命が長くなるが、体の成長も遅くなる。


 ただし、獣人の毛並みや羽根の色は、これに当てはまらない。

 (魔法使いや学者が研究してるらしいけど、今のところ理由は不明。)


 たとえばレグルーザの毛並みは銀色に黒の縞模様だけど、「風と闇」の属性があるわけじゃない、というふうで。

 種族ごとに毛並みとか羽根の色は決まってて、色と属性が結びつかないから、獣人が二つの属性を宿すことはほとんどない。

 唯一、光と闇だけは別格で、最近では光の属性を持つ「黄金のヘラジカ」や、闇の属性を持つ「漆黒のオオカミ」が生まれたりしているらしいけど。

 基本的に、獣人の属性については目の色だけで判断する。



 つくづくファンタジーな世界だねー。

 レグルーザの話に「ほほー」と興味深くうなずき、支部長の後について応接室へ入った。


 『傭兵ギルド』のローザンドーラ支部長と傭兵レグルーザ、ヴァングレイ帝国第七皇子と『鷹の眼』のフリッツ、それにあたしを入れた五人が席に着く。


 まずは初対面の人たちがあいさつを交わし、その後は当然のように竜皇子が話の主導権をとって、『傭兵ギルド』支部長と話し合い。

 彼らが口頭での簡単な契約を結ぶと、ようやく「対『茨姫』」についての作戦会議となった。

 (ちなみにイールと支部長の契約は、だいたい先ほど支部長がレグルーザに言った通りの内容で結ばれた。)





「ではまず、『茨姫』の戦闘能力について確認を。フリッツ。」


 イールに呼ばれ、フリッツが説明する。



「『茨姫』は地の属性の魔法使い。毒物や薬品への耐性があります。

 魔法耐性も高いので精神干渉系の魔法はほぼ無効ですが、おそらく魔法を使いすぎて魔力が少なくなった時や、ケガなどで体が弱った時には有効になると推測されます。


 配下は四人の弟子と複数の植物兵(グリーン・ソルジャー)、洗脳された魔獣。

 弟子については先日一人『茨姫』に殺されましたので、現在はおそらく三人に減っているはずです。

 しかし配下より、『茨姫』の体に寄生している『野茨の王』が、最も厄介な敵となるでしょう。」



 知らない名称が出てきたので、ちょっと質問。


「植物兵と『野茨の王』って、何?」



「植物兵は、獣人や人間の体に種を入れて植物化させ、『茨姫』のための兵士にされたものです。

 自我はなく、『茨姫』の命令によって動くだけの道具と化していますが、養分にされた獣人や人間の能力が高かった場合、それなりに強いので油断できません。

 弱点は体内のどこかにある核で、これを破壊すれば倒せます。核のない部分を斬ったり燃やしたりしても、すぐに再生してしまいますので、ご注意ください。


 『野茨の王』は『茨姫』に作られた魔法生物、その姿は鋭いトゲを持った動くツタです。

 [地の精霊石]をはめ込んだ黄金の冠、[大地の宝冠(アース・クラウン)]を持っていることから「王」と呼ばれる、そこらの魔獣より厄介な相手ですよ。

 『茨姫』の体に寄生し、魔力のある限りツタを再生させることができる上、火に対する耐性が高いそうで。通常の火の魔法での攻撃では、ほとんどダメージを与えられないと聞いております。」



 ははー。「生け捕りにしよう」というには、かなり面倒くさそうな相手だなー・・・

 んで、イール。どうやって攻略するの?



「まずは『茨姫』以外のものを倒し、逃走を防ぎながら魔力の消耗を待つ。

 これは『野茨の王』を攻撃してツタを再生させることで、宿主『茨姫』の魔力を使わせるよう仕向けられるだろう。

 そして精神干渉系の魔法が有効になる程度まで弱らせることができたら、フリッツに眠りの魔法をかけてもらう。」


 イールの言葉をフリッツが補足した。


「ちなみにワタクシの眠りの魔法、その場で音を聞いたものすべてに影響を与えますので、あしからずご了承ください。」


 無差別か。


 一緒に寝ちゃったらどーしよう、と思ったが、みんな平然としてるので、わかりましたとうなずいておいた。



 そうして眠らせた後は、フリッツが持ってきた魔法を使えなくする[戒めの首輪]で、『茨姫』を無力化(彼女の魔力を封じれば『野茨の王』も無力化できるらしい?)。

 今こちらに向かっている『鷹の眼』の獣人たちと合流して、ヴァングレイ帝国へ運ぶ予定。



 ふむ。

 わりとざっくりした作戦だけど、一緒に戦うの初めてなメンバーでやるんだし、あんまり細かく決めるより動きやすそう。

 捕まえる手段がフリッツの眠りの魔法一本、てのがちょっと気になるけど、弱らせても眠り薬とかの薬系は効かないらしいから、まあしょーがないか。

 えらい疲れそーな消耗戦になりそうだけど、了解です。


 そうして作戦が決まると、今度は味方の戦力とそれぞれの配置の確認。



 『紅皇子』イールは火の精霊魔法が使用可能(かなりの高威力)。

 装備は火属性付きな石の一族(ドワーフ)製の鎧と剣(どちらも素材は稀少金属(レアメタル)オリハルコン)。

 前衛の攻撃役。暴れる気満々だ。



 『神槍』レグルーザは雷の上位精霊エイダと契約した影響で、[形なき牙]装備時のみ、雷の精霊魔法が使用可能(威力は中程度)。

 装備は槍形の[形なき牙]と、風属性が付いたドワーフ製の鎧(素材はミスリル銀)。

 中衛。イールの補佐(サポート)と後衛への攻撃を防ぐ役を兼ねる。



 『鷹の眼』のフリッツは水の属性で(コゲ茶色の髪に青い目をしてる)、タカの獣人の精霊使い。

 装備はロングコートの下に着込んだ水属性付きな[青の鱗鎧(スケイルアーマー)]と、氷の矢を放って射抜いたものを凍りつかせる[氷の弓]。

 他には[戒めの首輪]と、精霊魔法を使う時に奏でるのだという小さい竪琴(ハープ)、[さざなみの竪琴]を持っていく。

 後衛の遠距離攻撃役。で、最後の眠りの魔法のために魔力は温存。



 ドワーフに作られた見事な武具よりも、「フリッツが猛禽類?!」というのが個人的に一番の驚きだった(失礼)。

 たれ目でちょー平凡顔のオジサンなのに。

 ひとは見かけによらないもんだなー。



 そして最後にあたしの役割の確認。

 後衛でフリッツを守る、防御魔法の担当をするよう言われた。

 「攻撃魔法は?」と訊いたら「防御魔法に専念してくれ」とレグルーザに即答されたので、そんじゃー今回は防御役に集中しとくか、と了解。


 ちなみに装備しているものは風属性付きの[銀狐(ウィンド・フォックス)のマント]と、集中力を高める効果があるという[魔法使いの帽子]なのだと、教えてもらってようやく知った。



 あ。そういえばあたし、魔法使いなのに杖がない。


 ルギー(天音の従者の魔法使い)が木製の杖持ってたから、この世界の魔法使いの装備品として杖はあるはず。

 とんがり帽子までかぶってるんだから、どうせなら杖も欲しいなー、と思って「『傭兵ギルド』で杖って売ってない?」と訊いてみると。


「杖の売買は『魔法協会』の許可が要る。『傭兵ギルド』では扱っていないが、探せばあるだろう。

 しかし、慣れない杖で魔法を使うと、制御(コントロール)が難しくなると聞いたが。大丈夫なのか?」


 レグルーザに訊き返されて、答えにつまった。


 うーん。そもそも杖装備して魔法使ったことがないからなー。

 練習してる時間もないし、今回は杖なしで行くしかないか。

 またヒマができたら探してみよー。



 そうしてだいたい決まったところで、「【死霊の館】へ行くのはあたしの〈空間転移(テレポート)〉の魔法でいい?」と訊くと、フリッツに驚かれた。


「いやいや、リオさま。殿下を〈空間転移〉でお連れするのは、ちょっとムリでは?」

「何で? 危ないからダメってこと?」


 〈空間転移〉で移動させたことあるけどなー、と思いつつ訊いてみると。


「危険なのもありますが、前提として魔力の量の問題ですよ。魔法学校で習いませんでしたか?

 ワタクシは知人から聞いただけなのですが、「なぜ勇者は歩いて旅をしなければならなかったのか?」という、有名な講義があるはずですが。」


 何その講義?


 いきなり出てきた「勇者」という言葉に、あたしは思わず首をかしげた。





 話し合いが長引いてしまいました。説明くさかったらすいません(汗)。装備品とか魔道具とか考えるのも好きなもので、ついつい。次こそは対戦を~と思いつつ、ちょこちょこ書いてきますー。

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