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第六十話「皇女の鳥。」



「仮面までつけてるのに、よくあたしだってわかったねー。」


 きょとんとしている天音に、ため息をついてそう言うと。


「お姉ちゃんを見間違えたりしないよ。」


 当たり前のように返された。


 この子には魔法で動物とかに変身してても一瞬で見破られそうな気がするので、まあいいや、と意識を切り替える。



 そして「話があるから」と天音に頼んでアデレイドを呼んできてもらい、仮面の白魔女を見て目を丸くしている『星読みの魔女』と、この程度では動じない勇者な美少女に事情を説明した。



 レグルーザと一緒に動きたければ正体不明になるべし、と言われ、ブラッドレーが手配してくれた服に着替えたこと。

 【死霊(レイス)の館】から『茨姫』が招待状を出してきたので、これからレグルーザと一緒に行って、なんとかしてくる予定なこと。


 そしてその前に、ヴァングレイ帝国に戻ったイールと、[竜血珠(ドラゴン・オーブ)]を使って連絡を取るつもりでいること。



 「細かいトコは戻ってから話すよ」と言って説明を終えると、天音は「危ないところに行くのね」と心配顔でつぶやいたけど、レグルーザと一緒だからだいじょーぶ、という言葉でいちおう納得。

 まだちょっと不安そうな顔だけど、あたしの髪につけた鈴をはずしてくれた。

 もともと宿から出る前にはずすつもりだったそうで、あたしは解放されてほっとする、ハズなんだけど。


 赤いリボンに通された金色のちいさな鈴が、天音の手の中で転がってリンと鳴るのを見たら、なぜだか衝動的に右手を差し出して言っていた。


「それ、持ってるよ。髪じゃなくて、こっちに結んで?」


 離れた場所にいても、天音のことを忘れたりはしないけど、何か。

 形ある物が欲しくなったのかもしれない。

 普通の服着てる時につけるのはヤだけど、今だったら仮面な白魔女の一部として許容できそうだし。


 急に言い出したあたしに、天音はにっこり笑ってうなずいた。

 「じゃあ、無茶しないようにっていう、お守りね」と言って、赤いリボンをあたしの右手首に結ぶ。


 レグルーザに音がする物はダメって言われたらはずすよ、とひとつ天音に断っておいて、アデレイドに視線を移した。

 察しのいい銀髪の美女は、小首を傾げて言う。


「わたくしは、アマネさまのお側にいた方が良いようですね?」


「うん。できれば一緒にいてほしいな。アデレイドが天音の側にいてくれたら、安心して出かけられるし。

 あと、もしヒマな時間があるようだったら、天音の未来を視て、問題が起きないようアドバイスしてやってもらえるとありがたいです。」


 そのかわり、と言うようなことでもないけど、イールが皇族の伝承の解禁許可もらってきてくれたら、できるだけ早くアデレイドに知らせに来るから。

 と約束をすると、『星読みの魔女』は「わかりました」とうなずいてくれたので、内心すごくほっとした。

 これで天音のそばに、一人は本物の女性がいてくれる。


 その後、勇者一行の今日の予定(ニールスのさらに西にある街、シエナへ行く)を聞き、天音とアデレイドに「行ってきまーす」と手を振ってから[呪語(ルーン)]を唱えた。



「〈空間転移(テレポート)〉」



 転移先はローザンドーラの『傭兵ギルド』。

 ほぼ同時に身構えた二人のうち、部屋の奥のおじさんに「お邪魔します」とあいさつをしてから、ソファにいたレグルーザの隣へ「お待たせー」と言って座った。


 レグルーザは警戒をといて深くため息をつき、鋭い視線であたしを観察するおじさんに言う。


「こちらから手出しをしなければ、ほぼ無害だ。総長との面識もある。」


 ローザンドーラの『傭兵ギルド』を管理する支部長だというおじさんは、もうあたしについて話を聞いていたらしい。

 彼はレグルーザの言葉に、「君の私的な依頼人だと理解しているよ」とうなずいた。

 総長との面識あり、というのが良かったのか、深くは聞かず受け入れてくれるようだ。


 あたしはレグルーザのくれた「野生動物につき取り扱い注意」みたいな紹介文にひとこと言いたい気分になったが、その前に思いがけない問題が起きていると知らされた。


「『鷹の眼(ホーク・アイ)』から、【死霊の館】行きを止められた?」

「ああ。先ほど本部から連絡が来た。『鷹の眼』からの使者も、すでにこちらへ向かっているそうだ。」


 初めて聞いた『鷹の眼』というのは、ヴァングレイ帝国の密偵を統括する組織の名称。

 皇帝の娘たち(イールの妹の皇女も入ってる?)が管理するというその組織が、どこからか今回の件を聞きつけ、「『黒の塔』幹部との接触を自粛してくれ」と言ってきたそうで。

 その理由が「帝国の要人の命にかかわること」だというので、あたしは早急に第七皇子と連絡を取って、ヴァングレイ帝国で何が起きているのか訊いてくれ、と頼まれた。


 帝国の要人って、行方不明の第二皇子か、さらわれた第三皇女のこと?


 とにかくイールと連絡を取ろう、ということでジャックを呼ぶため、支部長に頼んで応接室らしき部屋を借りる。

 支部長に三頭犬(ケルベロス)の姿を見せる必要はない、と判断したレグルーザの指示だ。


 結果、あたしはひとりで応接室に入ってジャックを呼んだ。

 最近だいぶ寒くなってきたので、大型犬サイズで出てきたジャックに抱きついてぬくぬくのもふもふな毛並みにうもれ、声には出さず「イール」と呼んでみる。

 が、応答なし。

 先日と同じく「おとうさん、おはなしできない」というジャックに、どうして話せないのか探ってくれと頼むと、「ねてるー」という返答。


 はい、起きようねー皇子サマ。

 のんびり寝てる場合じゃないよー。


 というわけで、ジャックの額に埋め込まれた[竜血珠]に手を置き、その中にいる火の精霊へ魔力をそそいで意識を集中。

 魔力をそそがれたことで精霊の力が強まり、同時に精霊とあたしとのつながりも強まって、何か不思議な流れを感じとれるようになった。


 地下水脈のように世界のどこかをうねり流れる、魔力の大河。


 あまりにも深く広いその流れに戸惑い、意識を押し流されそうになったあたしを支えてくれたのはジャックだ。

 「おとうさん、こっちー」と魔力の大河を迷いなく進むジャックに導かれ、ローザンドーラから遠く離れたどこかにイールらしき気配をとらえると、あたしはそこに向かって思いっきり叫んだ(もちろん、声には出さず)。



 イール! 朝だよー!!



 何かをバチッとはじく感覚があって、しばらくするとイールの気配が強くなってきた。

 んー。起きたかなー?


「リオか・・・」


 待っていると、ちょっとぼんやりしたイールの声が聞こえた。

 あたしは無事に起こせたようだとほっとして、ジャックは「おきたー」と嬉しそうにぱたぱた尻尾をふった。


 とりあえず「起こしてごめんねー」と謝ったら、「いや、助かった」と返される。

 何かあったの? と訊くと、イールは寝ていた場所から別のどこかへ移動しながら、事情を説明してくれた。





 先日連絡を取った後、皇族の伝承をあたしたちに話す許可を得るため、元老院のところへ行ったイール。

 勇者の召喚で連れてこられた異世界の姉妹について話し、アデレイドが先代の『星読みの魔女』から受けた予言についても話したが。

 結局、伝承の解禁許可は下りなかった。


 元老院は相変わらず、さらわれた第三皇女の捜索を優先しているのだ。


 何を言っても「第三皇女が戻りしだい検討する」と返されるのに、「そこまで優先される第三皇女とは、何者か?」と訊いたら、イールは疲れているようなので、しばらく眠って休んだ後に話そうという返答。


 今教えてくれ、と言って通る相手ではないと判断したイールは、すぐに起きるつもりで眠り、そのまま寝こけて現在に至る。


 もともと封印されてた影響から完全に回復していない状態でヴァングレイ帝国に戻ってたし、イールが眠った後、精霊使いが眠りの魔法を使って起きられないようにしていたようなので、まあしょうがない。

 ちなみに元老院の部下と思しきその精霊使いは、あたしがイールを起こそうとして送り込んだ魔力に魔法ごとはじき飛ばされ、イールの寝ていた部屋の隅で気絶していたそうだ。

 あー。何かバチッていう感覚あったの、それか。

 まあ、不幸な事故だった、てことで。ごめんよー。



 イールはそうしてあたしと話しながら、第三皇女について話すと言っていた元老院のメンバーを探していたようだけど、議会が開かれる部屋にも、その建物のなかにも誰もいないので(逃げられた?)、妹のところへ移動することになった。

 ・・・なんかイールから静かに怒ってる気配がヒシヒシと伝わってきて、ちょっと怖い。



 とりあえずイールの話が終わったので、今度はあたしの話。

 アデレイドは無事にバルドーをつかまえたし、あたしは天音とレグルーザに再会できたと言うと、それは良かったと喜んでくれた。

 そして本題の「『茨姫』から【死霊の館】に招待されて、『鷹の眼』から行くのを止められた」という話については、ふむ、と考えこむように沈黙する。


 そうして起きたことをだいたい話し終えたところで、あたしは気になっていたことを訊いてみた。


「『鷹の眼』のトップって、今は誰がやってるの?」

「統括しているのは第二皇女ネルレイシア。わたしの妹だ。収集された情報の管理については、異母妹の第五皇女アマルテも関わっている。」


 おおー。イールの妹ちゃんスゴイな。

 でも、なんでまた皇女たちがスパイの元締めしてんの?



「『鷹の眼』が、皇女のために作られた集団だからだ。

 竜人の娘は病弱で短命に生まれることが多いが、好奇心旺盛でいろいろなことを知りたがる。しかし、体が弱いために自分で動くことはできない。

 そこで皇女の眼となり、耳となって世界を巡り、皇女のために様々な話を持ち帰るべく鳥の獣人たちが集められた。

 それが『鷹の眼』の始まり。


 ゆえに、他国からはヴァングレイ帝国の密偵を統べる機関として『鷹の眼』と称されるが、国内でそれを知る者からは『皇女の鳥』と呼ばれている。」



 なんか密偵が皇女のヒマつぶし的に扱われてるような気が。

 ヴァングレイ帝国は他国の情報を集めることについて、あんまり熱心じゃないのかなー?


 不思議に思ったけど、それをイールに訊こうとしたところでレグルーザが来た。


「リオ。今『鷹の眼』から使者が来て、お前に会いたいと言っているんだが。第七皇子と連絡は取れたか?」

「うん。だいたいのことは話したよ。んで、イールはこれから『鷹の眼』トップの第二皇女サマ、って言ってもイールの妹ちゃんだけど。その子に会いに行くところ。」


 答えてから、うん? と首を傾げる。


「レグルーザ。『鷹の眼』の使者が、なんであたしに会いたがってるの?」

「第二皇女からお前に宛てた手紙を預かっているのだそうだ。本人以外には渡さないよう厳命を受けている、というので様子を見に来たのだが。」

「ふーん? イールと話してみるから、ちょっと待ってー。」


 首を傾げたままイールに「妹ちゃんがあたしに手紙くれたみたいなんだけど?」と訊くと、「お前に助けられたことを話したから、おそらく礼の手紙だろう」とのこと。

 なんだ、良い子じゃないかと思っていると、「ひととおりの礼儀はしつけられているからな。問題は儀礼的なあいさつが終わった後に出てくる、あの厄介な性格だ・・・」と頭痛そうな口調で言った。


 うーん。話聞いてるだけじゃ、そういうのはわからんし。

 困った時はイールを呼べばいいや、と結論して、とりあえず手紙をもらいに『鷹の眼』の使者のところへ行くことにする。


 お互いまた何かあった時はジャックを通して連絡を取ろう、と確認して、いったんイールとのお話は終了。

 ジャックに“闇”へ戻ってもらい、あたしはレグルーザと一緒に部屋を出た。





 鈴は白魔女装備の一部となって残りましたー。そしてようやく北の皇子と話。まだ遠く離れてるんで、声だけですが。『茨姫』をなんとかすべく、それぞれの場所で動きますー。

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