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第五十八話「とことこ歩くと、リリンと鳴る。」



 〈異世界三十三日目〉







 目が覚めると天音がいた。

 横に寝そべって頬杖をつき、あたしの顔をじーっと見ている。


 ・・・あれ?

 君、隣のベッドで寝てたのに、何してんの?


「お姉ちゃんがちゃんといるかなぁって、確かめてたの。」


 あー。

 この間いなくなったの、夜だったからね。

 天音にしてみれば、「寝てる間に消えちゃった」ことになるわけだ。

 ごめんね、とよしよし頭を撫でてやりながら、ちょっと言い訳してみた。


「あの時は何人かに監視されてたし、先に話したら天音、あたしと一緒に行こうとするでしょ?」

「うん。」


 何の迷いもなく即答され、「だから言えなかったんだよ」と苦笑した。

 あたしとしては、何が起きるかわからない場所へ連れていくより、「勇者さま」と大事にしてくれる王城に天音を置いておきたかったのだ。


 そうしてひそひと話している間に外が明るくなってきたので、起きて服を着替える(ラクシャスはまだ熟睡中)。

 すると天音が「お姉ちゃん、編み込みしてあげる」と言いだし、短くなったあたしの髪にさわりながら「ああ、こんなに短く・・・」と悲しそうにつぶやいた。


 あたしの髪は時々、天音とおかーさんのオモチャになってたからなー。

 というか、そのせいで長く伸ばしてたようなもんだし。

 髪が短いまま帰ったら、おかーさんにも何か言われそう。


 そんなことをぼーっと考えている間に天音が髪を結い終わり、もういいよ、と言われて立ちあがったら、後ろからリン、とちいさな音がした。

 「ん?」と振り向いても、やっぱり後ろからリリン、と音がする。


 ・・・・・・まさか。


「天音。なんか鈴の音がするんだけど?」


 イヤな予感がして訊ねると、天音はにっこりと笑って答えた。


「大丈夫。すごく似合ってるから。」


 その言葉と満面の笑みに、反論が許されないことを察して部屋の片隅でしょぼんとまるくなる。


 昨日ちゃんとお説教聞いて謝ったのに、それだけじゃ足らないのか。

 でも、ネコじゃないんだから、鈴なんかつけなくても・・・


 落ち込むあたしにまるでかまわず、上機嫌の天音は銀色のベルを鳴らしてメイドくんを呼んだ。

 そして彼が部屋に来ると、ラクシャスがよく寝ているのを確認してから言う。


「お姉ちゃん、メイドのオルガだよ。でもね、彼は宰相との連絡役で、男の子なの。」


 オルガは天音があっさりバラしても顔色ひとつ変えず、「どうぞよろしくお願いいたします」と優雅に一礼した。


 天音は彼が男の子だって知ってたのね。

 なら良かった、けど。

 ふーむ。宰相との連絡役ねぇ?


 内心で首を傾げながら、頭の後ろの鈴については忘れておくことにして、「こちらこそよろしく」とあいさつを返して訊いた。


「だから天音の一番近くにいられるメイドになってるの?」


「はい。それもありますが、アマネ様は勇者とはいえまだ若い女性。

 従者に選ばれた青年たちでは、生活の中の細やかな心遣いをすることは難しいだろうとの宰相閣下のご判断により、女性のなかにとけ込む術を学んだわたくしが置かれることとなりました。」


 天音はたいていのことは一人でできるけど、近くで守ってくれる人がいるのといないのとでは、精神的にだいぶ違うだろう。

 そういう意味では、実際の性別が男の子とはいえ、女性として天音を守ってくれるオルガの存在はありがたい。


 まあ、タヌキ宰相の部下だから、信用するかどうかはまた別問題だけど。


 今目の前にいるオルガは、初対面の時にひどく怒った様子で睨んできていたのが幻だったかのように、何を考えているのかわからない、穏やかな笑みを浮かべている。

 美しく整った顔立ちをした細身な子なので、口を閉じてそんなふうに笑っていると、まるで人形みたいだ。


 うん。

 これだけ上手に内面を隠せるなら、それほどバカなことはしないはず。


 とりあえず今は様子を見よう、と考えて[守りの花飾り]を取り出し、「天音の髪につけてやってー」とオルガに渡した。

 一度きりだけど、どんな攻撃からも身を守ってくれるという装備品。

 天音はその効果にちょっと驚いてから、「ありがとう、お姉ちゃん! 大事にするね」と可愛らしい髪飾りのプレゼントを喜んでくれた。

 気に入ってもらえたみたいで、良かったー。





 朝食には天音と別々に行くことになって、あたしが先に降りた。


 勇者一行はあたしのことを知ってるけど、表向き、宰相が「義姉は神殿の奥で勇者の無事を祈っている」としているらしいので、今はそれに合わせておこう、ということになったのだ。


 なので、人が多いところでは、あたしは『星読みの魔女』の付き人の魔法使いとして動く。

 勇者の義姉の名前は王城の人以外あまり知られていないはずだから、名前はそのまま「リオ」。

 いきなり作った偽名で呼ばれても、反応する自信なんか無いからねー。




 食堂に行くと、ルギーに捕まって「昨日の〈空間転移(テレポート)〉、どうやって単語詠唱で発動させたの?」と訊かれた。

 どうやって、って言われても。普通に?

 首を傾げて答えれば、あきれたような声で言われる。



「あんたバカ? 〈空間転移〉の魔法は、転移先の場所をちゃんと指定しないと発動しないし、発動したとしても事故るんだよ。

 変な場所に出たり、体が分解されたりするの。

 わかる? かなり幸運じゃないと、確実に事故死。


 だから〈空間転移〉の魔法は、魔法陣で転移先を指定することが絶対に必要になる。

 でも、昨日のアレは魔法陣無しなのに、正常に発動してた。


 同じ場所に何回も転移してる、熟練の魔法使いならまだわからなくもないけど、あんた初心者でしょ?

 なんで正常に発動するわけ? どうしてそんな平然と生きてんの?」



 理解できない現象を前に怒っている魔法使いをてきとうになだめ、ごはんをもらってテーブルに座るが、彼は「納得できるように説明しろ」という顔でついてきた(アデレイド達は部屋で食べているのか、姿が見えない)。


 うーん。

 〈空間転移〉の魔法が、それほど難しいものだとは思わなかったから、普通に使ってたけど。

 そういう空間に対する把握能力みたいなのは、あたしの場合“闇”の力を手に入れてる影響かもしれない。

 影を通って“闇”を渡り、長距離を移動する本能みたいな力があるから、その応用で魔法陣無しに転移先の場所の指定ができるんじゃないかと。


 思うが、ルギーにそれを正直に説明する気はないので、またてきとうにごまかす。

 魔法使いの美少年は他にも「そんな面倒で危険で難しい魔法、誰に教わったの?」とかイロイロ訊いてきたけど、どんな質問ものらくらとかわすあたしにイライラしたようで、数分後には「もういい!」と言い捨てて後から降りてきた天音のところへ行った。


 彼には悪いが、これでのんびり朝ごはんが食べられる、とほっとしたところで入れ替わりにヴィンセントが向かいのイスに座った。


「おはよう、リオ。・・・さっそく付けられたな。」

「おはよー、ヴィンセント。つけられたって、鈴のこと? 知ってたなら、止めといてほしかったんだけど。」

「言って止まる方ではないだろう。」

「ああー・・・。うん。そうだった。」

「それに、アマネさまは本当に心配していたんだ。それくらい付き合ってやれるだろう?」

「んー」


 不機嫌にうなるのに、似合っているから大丈夫だ、と微妙な笑みを含んだ声で言われてへこむ。

 ちっちゃい女の子ならまだいいかもしれんけど、十七でコレはわりとキツいのよー?


 早く外してもらいたいなーとため息をつきながら、そういえばヴィンセントにもおみやげがあったと思い出す。

 向かいでごはんを食べている彼に、こっそり亜空間から取り出した二品を渡した。


「[霧の香木]と[光のしずく]?

 ・・・妹のそばには、魔獣も魔物も近づけるな、という意味か?」


 苦笑ぎみに言われるのに、「そのとーり」と笑顔でうなずいた。

 こちらの意図を正確に見抜いてもらえて、たいへん嬉しいです。

 もちろん、ヴィンセントが自分用に使ってくれてもかまわないんだけど。


「わたしはアマネさまの従者だからな。使うとなれば同じこと。

 これはありがたくいただいておこう。どちらもイグゼクス王国では手に入りにくい物だ、感謝する。

 まあ、お前がそばにいて、アマネさまを止めてくれれば済みそうな気もするが。

 またどこかに出かけるつもりだろう?」


 いやはや、すごいね。

 ヴィンセント、どこまで見抜いちゃってるの?


「うん、まあ。ちょっと面倒くさいのに首つっこんじゃっててね。出かけることになるかどうかは、まだよくわかんないけど。

 早めに片づけときたいコトだから、必要なら動くよ。」


 『茨姫』との一件について、「話は彼から聞いている」とうなずいたヴィンセントは、どうも天音と一緒にレグルーザの話を聞いたようだ。


「その件で、アマネさまは早く姉を見つけだして無事を確認したいと望まれてな。

 今回の旅立ちを国民に知らせるべくお披露目(パレード)をしたいという宰相の言葉を、最初は拒まれていたのだが、広く知らせればお前が戻ってくる可能性が高まるかもしれないと、同意なされた。」


 そんなことがあったのか。

 なんか、心配かけちゃったなー。


「ごめんね、ヴィンセント。何にも言わずにいなくなっちゃって。

 あと、天音を守ってくれて、ありがとう。」


 ヴィンセントはすこし目を細めて、微笑んだ。


「わたしは自分の役目を果たしているだけだ。気にする必要はない。

 まあ、お前が突然いなくなった時は、さすがに驚いたがな。」


 「姉妹そろって度胸が良すぎる」と、ヴィンセントは微笑みを苦笑に変えて言う。


「リオは姉だろう。あまり妹を心配させるようなことはするなよ。」

「うん。できるだけ気をつけます。」


 心配してくれてありがとう。

 笑顔でうなずいて答えたところで、足早に宿屋へ入ってきたブラッドレーに呼ばれた。

 どうしたの? と訊ねると、今から『傭兵ギルド』へ来てほしいという。


 彼は昨日の夜、レグルーザから彼の事情と『茨姫』のことを聞いて、『黒の塔』幹部捕獲への協力を求められたはず。

 何か進展でもあったのだろうか?


 『傭兵ギルド』でレグルーザが待っているというので、急いで残りの朝ごはんを食べ、ヴィンセントに天音とアデレイドへの伝言をお願いして、ブラッドレーについて行き。

 とことこ歩くのに合わせて頭の後ろでリリンと鳴るちいさな鈴に、「それは?」と訊かれた。

 大人なら見て見ぬふりしてー! と内心で叫びつつ「天音につけられたの」と短く返答。


「・・・ふむ。可愛らしいですな。」


 また微妙な笑みを含んだ声で言われ、あたしはしょぼんと肩を落とした。





 主人公の装備に鈴が追加~。とりあえあずアマネちゃんからお許しが出るまでは(笑)。そしてようやくヴィンセントともきちんと再会。おみやげも無事に渡せました。続きは天気予報でイルミネーションを見ながら、こたつにもぐってちょこちょこ進めますー。

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