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第五十七話「声が聞こえるなら。」





 レグルーザとの話を終えると、天音たちと別れた場所へ〈空間転移(テレポート)〉で戻った。

 王都の西の街までは一本道だけど、まだかなりの距離があるそうなので、ジャックに頼んで通常サイズ(ゾウ並み)で出てきてもらう。


 レグルーザにホワイト・ドラゴンを呼んでもらうこともできるけど、傭兵の「レグルーザ」として動くと、『茨姫』に狙われるのに天音が巻き込まれる可能性があるので、今のところまだ騎士のふりをする予定だから。

 また兜を装備したレグルーザと二人、ジャックの背に乗り、魔法で姿を隠して街道沿いを走ってもらった。


 そうしたらまあ、そのスピードの速いこと。

 鞍も手綱も無い状態なので、安全バー無しのジェットコースターに乗っているようなスリルを味わったうえ、二回落ちたけど。

 最初から落下対策に〈全能の楯(イージス)〉をまとっていたし、並外れた運動能力を持つレグルーザが二回ともあたしを抱えて足から着地してくれたので、二人とも無傷。

 さすがネコ科~(拍手)。


 でも、ジャックはあたしを落っことしたことがショックだったらしくて、しゅんと耳をたらした。

 か、可愛い・・・、じゃなくて。

 君は人乗せて走るの初めてなんだし、誰もケガしてないからだいじょーぶだよ、となぐさめても落ち込んでいるので、ちょっと困った。

 見かけより繊細な子なのねー。


 そうして二回目の落下から、ジャックは少し速度をゆるめて走るようになり、日暮れ頃に「ニールス」という街へ到着。

 天音が目指す西の街シエナの、一歩手前の街だ。


 あたし達が降りると“闇”にもぐり、まるくなって「くすん」と落ち込んでいるジャックはかわいそうだったが、少し時間をおいてからなぐさめることにして姿隠しの魔法を解除、勇者一行を探す。

 天音はこの世界のことを少しでも多く知りたいという希望から、基本的に領主や町長のお宅ではなく、普通の宿屋に泊まる予定だとレグルーザが教えてくれたこともあり、勇者一行のいる宿はすぐに見つかった。


 表に人がいっぱいいる宿屋を探せば一発で当たりだから、楽なもんだ。

 が、一目勇者を見ようと集まる人々の間を抜けて、宿の中へ入るのは大変そう。


 面倒くさいなー、とため息をついていると、後ろから「リオ君」と声をかけられた。

 振り向いた先にいたのは、ブラッドレー。


 何で外に? と訊ねると、ガルム二頭を『傭兵ギルド』の支部に預けてきたのだという返答。

 宿屋の厩舎にも預けられるけど、ガルムの扱いは『傭兵ギルド』の方が慣れているので、余計なトラブルを起こさないよう配慮したらしい。

 たぶん、ガルムを預けるついでに、総長と連絡を取っていたのだろう。


 傭兵のオジサマは宿屋の前の人だかりを見て「すごい人だな」と苦笑し、「すまんが道を開けてくれ!」と周りの人々に声をかけて騎士団の鎧をまとったレグルーザを示した。

 イグゼクス王国の紋章や騎士団の威光なのか、腰に帯びた剣のせいか。

 ほとんど反射的に身を引いた人々の、わずかな隙間へレグルーザが踏み込んでいくと、そこが道になって開いたので、ブラッドレーとあたしはすかさず後について宿の中へ入る。


 おおー。楽に入れた。

 ブラッドレー、すごいねー。


 そしてここからレグルーザと別行動。

 『茨姫』捕獲は単独で行うより『傭兵ギルド』に協力してもらった方が良いだろうという判断のもと、レグルーザはブラッドレーを捕まえて内密の話をしに行き、あたしは二階の部屋にいるという天音のところへ向かった。

 わりと広めの二人部屋でアデレイドと話をしていた天音は、あたしの顔を見るとほっとした様子で息をつく。


「お帰り、お姉ちゃん。レンさんとお話できた?」

「うん。ただいま。ありがとね、天音。」


 美少女はにっこりと笑った。


「じゃあ、次はわたしの番ね。」


 ああー・・・・・・


 天音ちゃん、目が笑ってない笑顔が、とっても怖いです。


 唯一の救い手と見つめてみたアデレイドは「ではまた明日」とあっさり部屋を出ていき、あたしは「お姉ちゃん。自分がどれだけ危ないことをしてきたか、わかってるよね?」という言葉から始まるお説教にうなだれた。


 が、途中で「そういや、天音も脱走したって聞いたけど?」と反撃。


「君みたいな可愛い子があんなトコ歩いてたら、一瞬でさらわれるでしょ!」


 と叱ったら、


「わたしがお城を出たのは、お姉ちゃんが襲われそうになったって聞いて、心配で探しに行ったのが原因だからね?

 それにルギーと一緒だったし、ちょっと離れてヴィンセントが尾行してくれてたから大丈夫。

 でも、お姉ちゃんはどうだった?」


 と対抗される。

 おねーちゃんは目立たないし、そう簡単にはさらわれませんよ、と返せば「自信過剰は事故の元!」と一言でバッサリ。

 あう~。


 ・・・というか、ヴィンセント。

 脱走した天音を、ちょっと離れて尾行してくれてたのか。

 なんか予想以上にうまく守ってもらえてて、その分かなり迷惑かけてるっぽいなー。

 おみやげ買っといて良かった。


 そしてそこで、天音にもおみやげがあったな、と思い出す。

 でも、たまったストレスが爆発してる感じの今出すと、ご機嫌取りのアイテム的な扱いになりそうだから、後で渡そう。



 反論をあきらめ、しばらく天音の話を聞いてから「ごめんなさい」と素直に謝り、「おねーちゃんお腹すきました」とうったえてみた。

 ここまで直行で来たから、まだ夕ごはん食べてないんだよー。

 そう考えたらどんどんお腹がすいてきて、今にも「ご~は~ん~」と遠吠えしそうになったあたしに、天音はひとつ約束をさせると、ため息をついてお説教を終わらせてくれた。


「もう二度と、あんなふうに突然いなくなったりしないでね?」

「うん。今度出かける時は、ちゃんと言ってから行くようにするー。」


 そうしてようやく一階の食堂で夕ごはんをもらい、二階の部屋へ戻って天音と話しながら食べた。

 話の内容は、アデレイドに天音の行動を占ってもらった時からずっと気になっていた、面倒くさそうなやつ。


「天音。人間と獣人の問題に首つっこんだって聞いたけど。具体的に何の問題に巻き込まれてんの?」


 天音がそれに首をつっこんでいるのは、数人しか知らない秘密だそうで、あたしが知っているのに驚かれたけど「アデレイドに占ってもらった」という一言で説明完了。

 『星読みの魔女』ってすごいねー、と姉妹であらためて感心してから、天音の話を聞いた。


「お姉ちゃんを探しにお城から出た時、奴隷商人に売られかけたラクシャスっていう獣人の男の子と会ったの。

 わたしはこの国に奴隷制があるなんて知らなかったから、すごくびっくりして。

 お城へ戻ってからヴィンセントに詳しい話を聞いたら、そういう制度は無いけど、かなり昔から奴隷にされてる人たちがいるらしいって話でね。」


 それは公然の秘密。

 奴隷を所有しているのは有力な貴族や大金持ちの商人といった権力者で、公的な場でそれを非難すると消される(つまり殺されるのだ)、という危ない噂。


 これに対して国王をはじめとするイグゼクス王国上層部は、上位貴族や豪商とのトラブルを恐れてか、昔からその問題に背を向けているらしい。

 近年、奴隷商人が獣人まで商品にするようになったせいで(他国から誘拐してきてるって疑惑もある)、一気に種族間紛争の火種になりかけていて、いつまでも「そんなことは知らん」とは言っていられなくなってきているはずなのだが。


 そしてこの話を聞いた天音は黙っていられず、ヴィンセントに頼んで内密に宰相と会い、奴隷の解放と保護、今後の対策を早々に行うべきなのに、どうして何もしないのか? と訊いた。


 すると宰相は、「今奴隷を所有している上位貴族や豪商を敵に回すと、現国王の力では対抗しきれない」と嘆き、「そこまでこの国を憂いてくださるのなら、アマネさまが奴隷解放の旗印となってくださいましょうか?」とすがろうとして。


「ああ。大精霊との契約もしておらず、光の女神からさずかった武具を一つも手にしていない貴女に、お願いできることではございませんでしたね。」


 などと言いはなったという。




 あたしは心の中で「了解です」とつぶやいた。

 闇討ちリストに一名追加。

 イグゼクス王国の宰相ねー。




 一方、普段は温厚な天音も、さすがにこれにはカチンときたそうで。

 売り言葉に買い言葉。


「大精霊と契約をするか、光の女神がさずけた武具を一つでも手に入れれば、奴隷解放のために動いていただけますね?」


 などという発言をしてしまい、「おお、もちろんでございます!」と満面の笑顔で答えた宰相の手配によって、予定より早く旅立つこととなってしまった。




 うん。

 まんま、「正義感の強い若者、タヌキオヤジの思うつぼ」の図だ。


 しかし、そこは頭脳明晰な天音。

 もう何歩かねばり、奴隷解放後には「奴隷だった人々を保護し、就職先を斡旋する」、「奴隷の売買と所有に関わった者達に罰を与え、再発防止策をとる」、そして「獣人への謝罪(あるいは賠償)を行う」ことを、書面にして約束させたというから立派なもんだ。


 まあ、厚顔なタヌキ宰相が、異世界から来た人間との約束をどこまで守るかはわからんけど。

 場合によってはおねーちゃんも喜んで暗躍するから、心配無用よー。



 ・・・・・・て。

 いやいやいや。そーでなく!


「何でそんなトコまで首つっこんでんのー!」


 と思わず怒ったら、静かな怒りを宿した瞳で冷静に返された。



「お姉ちゃん。奴隷にされかけたラクシャスはわたしの友達で、仲間なの。

 彼が実際に巻き込まれて、被害者になりかけたことだよ? 知らん顔なんてできないし、そもそも人間でも獣人でも、命を売り買いするなんて間違ってる。

 でも、商人はそんな商売をしていて、この国はそれを取り締まる法律を持っていない。種族間紛争の火種になりかねない、とても大変な問題だっていうのに、対応も遅い。


 もちろん、この世界の政治的な問題に、必要以上に口出しすべきじゃないっていうのはわかってるけど。

 これは一刻も早く解決すべきことだし、この機会に官吏も商人も、値段をつけてはいけないものについてもっと学んで、もうこんなことが起きないようにするにはどうすればいいのか、考えていってほしいと思うの。」



「うーん・・・」


 背中がむずがゆくなるような言葉に、どうしたもんかとうなり、考えながら言った。


「まあ、天音の言ってることは、正しいと思うよ? いつも通り。」


「・・・でも?」


 頑固そうな表情で、ちょっと身構えて続きをうながす天音に答える。


「でも。でもね。

 それはイグゼクス王国の人たちの問題で、彼らが何とかすべきことでしょ。

 いきなり違う世界に呼び出されて、勇者なんて面倒な役押しつけられた君が、どうしてそこまでしてやらなきゃなんないのさ?」


「やらなきゃいけない、と思ってるわけじゃないの。

 ただこれは、月や星みたいに、手の届かない場所にあるものじゃないでしょう?

 手が届くなら、声が聞こえるなら。

 わたしにだって何かできるはずだと思うし、できることがあるなら、少しでも何かしていきたいの。」


 それで種族間紛争の予防に奔走するわけですか。


 あたしは思わずソファの上にパッタリ倒れた。


 君の手が届く範囲は広すぎるんだよ・・・!

 この良心と道徳心のカタマリめー!


 そーゆーのは引き出しにしまって鍵かけとけって、手紙に書いたのに、まるで無意味だったなー。

 はー・・・



 一度これと決めた天音を言いくるめるのはものすごく難しいし、今日はもう疲れた、ということでお話終了。


 “闇”のなかでまるくなっていたジャックを呼んで大型犬サイズで出てきてもらい、天音に紹介しがてらブラッシングをしてごろごろ遊ぶ(もふもふ~)。


 天音は頭が三つある魔獣を見てびっくりしていたが、すぐに慣れて「きゃ~! すごいふわふわ~!」とジャックの毛並みに感激して撫でまくり。

 にぎやかな部屋をのぞきに来たラクシャスにそれを目撃されて、「ボクの方がふわふわだもん!」と涙目で拗ねられ、あわてていた。


 ケルベロスに怯えることもなく、そんなことに拗ねられるラクシャスは、どうもまだ幼いらしい。

 中型犬サイズで、ネコとしてはでっかいけど、天音よりも年下。

 ラルアークと同じでまともな人の姿になれないし、服や靴もキライということで、いつも獣型でいるそうだ。


 あたしは「そんな子どもなのに、勇者の仲間?」と首を傾げたが、どうも彼は「仲間」というより「マスコット」。

 天音になついて離れなくなってしまったラクシャスを、ネコの獣人のところへ帰すまで勇者一行の中で保護している、ということらしい。

 そういう話なら、納得。


 一方、ジャックは騒ぐラクシャスとなだめる天音のことなどまるで気にせず。

 ひと休みしたら昼間のことはコロリと忘れたらしく、ほえ~という緊張感の無い顔でブラッシングされると、満足そうな足取りで“闇”へ戻っていった。

 忘れっぽい子で良かったわー。



 二人部屋だったので、灯りを消してからも隣のベッドの天音とラクシャス(一緒に寝てる)と話をしていたら、いつの間にか眠りこんでいた。





 あっちこっちでイロイロ巻き込まれてる姉妹。どっちもどっちだろう、というツッコミがいないので「むー」と睨みあい(笑)。とりあえず脱走姉が義妹に叱られましたので、次は何かしら先に進みたいなー、と思いつつ。ぽちぽち書いていきますー。

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