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* Side Story.01 「きっと、だいじょうぶ。」

 本編主人公リオの義妹、アマネ視点の番外です。




 全身鎧(フルメイル)の騎士に捕まり、その腕へちょこんと座らされたお姉ちゃんは、緊張した様子で背筋をのばしていた。


「お姉ちゃん。レンさんと話すことがあるんでしょう?」


 どうにも落ち着かないようだったので、わたしはできるだけやわらかい口調で訊いて、様子を見ながら言葉を続けた。


「ちゃんと話してきて。

 でも、それが終わったら、すぐに戻ってきてくれなくちゃダメだからね?」


 こくん、とうなずくのを見て、レンさんと話す覚悟はできているようだから、また姿をくらましたりはしないだろうと、内心ほっとする。


 自由気ままでネコみたいなお姉ちゃんが、こんなにピリピリしているところを見るのは久しぶり。

 どうでもいい相手にはほとんど感情を動かさない人だから、ここまで動揺するのは、レンさんのことをかなり気に入ってるってことなんだろう。


 ・・・ちょっと妬けるけど、レンさんは良いひとだからガマン。

 姿と名前を変えてまで他人を探してくれるひとなんて、そうそういない(それに協力するためにレンさんって呼んでるだけで、私や一部の人は、本当の名前を教えてもらってる)。


 わたしも話したいことがいっぱいあるから、すぐ戻ってきて! と祈りながら見守っていると、お姉ちゃんは不思議な力を持つ『星読みの魔女』さんと私を両方に紹介してから、いつも通りのんびりと笑ってみせた。


 小柄で女性的なまるみのあるお姉ちゃんの笑顔は、陽だまりでうたた寝をするネコによく似ていて、ふっくりした頬をぷにぷにしたくなるくらい可愛い。

 数日ぶりに見るその笑顔に、状況を忘れて思わずほんわりと和んでいると、お姉ちゃんが言った。


「話が終わったらすぐ戻るけど、休けいが終わっても来なかったら、次の街に行っててね。」


 そして「絶対に追いかけるから」と約束し、不思議な響きの言葉を唱え。



「〈空間転移(テレポート)〉」



 レンさんを連れて、姿を消した。





 ・・・・・・お姉ちゃん。

 話してきて、とは言ったけど。



 だからって、どこまで行くのー!!



 しかも「今のって難しい魔法だよね?」と魔法使いのルギーに訊くと、かなり驚いた様子で「高位魔法だよ。しかも普通、単唱発動(ワン・スペル)なんかできないハズの」という答えが返ってきた。


 会えたばかりでまた姿を見失った上、どうもとんでもない魔法使いになっちゃってる感じのお姉ちゃんに、思わず深いため息がこぼれる。


 元の世界にいた頃から、木の上で寝ていたり、マラソンの途中で行方不明になったり、わたしの知らない女の人の車でどこかへ行っちゃったりしていた人が、この世界に来てさらにパワーアップ。

 その力でこれから何をするつもりなのか、考えるのがちょっと怖いけど。

 お姉ちゃんの良い所は「何があっても、最後には必ず家族の元へ帰ってくる」ことだから、そこだけはしっかりと信じている。


 最後にはちゃんと、わたしの所へ帰ってきてくれる。


 だからわたしは、今、自分にできることをして、待っていよう。





 意識を切り替えて顔をあげ、目の前の『星読みの魔女』アデレイドさんに改めてあいさつをして、お互いの仲間を紹介した。


 わたしの仲間は七人。


 イグゼクス王国の第一王子、アースレイ・ライノル・イグゼクスさま。

 第一騎士のギルベール・アルマンディン。

 第二騎士のヴィンセント・ロウ。

 魔法使いのルギー・イリングワース。

 神官のアルフレッド・クラーク。

 メイドのオルガ(ヴィンセント以外の皆には秘密なんだけど、実は密偵として訓練された少年で、宰相との連絡役)。

 ネコの獣人の、ラクシャス。


 それに、仲間として数えちゃいけないらしいんだけど、馬車を管理してくれる騎士団のロバート・ダウロさんも、旅を助けてくれる大事な人。


 それぞれの紹介を終えると、お茶を飲んで馬たちを休ませ、すぐに出発した。

 次の街へ日没までに着くには、あまり長く休けいをとれないから。

 お姉ちゃんが無事に次の街へ来られるかどうか心配だったけど、アデレイドさんが「リオさまは地図をお持ちですし、一本道ですから、まず迷うことはないでしょう」と言ってくれたので、ちょっと安心する。


 そして一台の馬車へアデレイドさんとわたしの二人だけで乗り、到着するまで話をすることになった。


 ちなみに御者は『守り手』のバルドーさんひとりで、私の仲間たち(ヴィンセントとアルフレッド以外の全員)はこれに反対したんだけど、アデレイドさんが目を合わせて「お願い」すると、間もなくみんな「はい」とうなずいた。

 意思の強い彼らを、こんなふうにあっさり説得してしまうなんて。

 アデレイドさん、すごいです。



「アマネさま。『星読みの魔女』は良き未来を導くため、過去を語り継ぐ者でもあります。

 まずは『星読みの魔女』が、どこの国からの圧力も受けないよう伝えてきたこの世界の歴史について、お話させていただきたいのですが。」


 だいたいの歴史なら王城でも聞いたけど、「真実も事実も、語り手の立場によって変わるもの」とお父さんに教えてもらったことがある。


 お父さんは他にも、「大切なのはその変化を善悪や正否で判断することじゃなくて、語られた言葉が相手にとってどんな意味を持つのか、理解しようと努力することなんだよ」と言っていた。

 そうして相手を理解しようと努めることで、語られる言葉をより深く読み解くことができるようになるのだと。


 そして歴史についても、「一つの情報源に頼って断定してはいけない」という忠告をくれた。

 「歴史は人の手で作られたあいまいなもの」だから、「複数の情報をもとに推測することしかできない、と最初に意識しておく必要がある」という。


 (とっても参考になる考え方だけど、その続きに「父さん今良いこと言ったよ! 母さん、ほめてくれ~」と、お母さんを探して言いに行くのはどうかと思う。)


 つまり、二つ目の視点からの歴史を聞くのは、この世界がどんな道をたどってきたのか、推測する情報が増えるという良いこと。


 馬車のなか、向かいに座ったアデレイドさんと視線を合わせ、うなずいた。


「はい。ぜひお聞きしたいです。

 でも、わたしのことはただ「天音」と呼んでいただけませんか?

 敬称をつけられることには、慣れていないんです。」


 王城でも、何も成していない今から「勇者さま」や「アマネさま」と呼ばれることに、違和感と居心地の悪さがあったのでお願いしてみたけれど、ものやわらかな表情で「申し訳ございませんが」と断られてしまった。

 そして逆に「アデレイドさん」ではなく「アデレイド」と呼んでほしいと言われたので、こちらもやんわりと「アデレイドさん」でお願いしますと答えた。


 結局呼び方はどちらも変わらず、わたしはアデレイドさんが受け継いだ歴史を聞いた。





 途中、昼食の休けいもはさみながら話を聞いた後。

 わたしは「今までの勇者は、二人とも召喚された時の魔法陣で帰っていない」という点を取りあげ、思いきってずっと疑問に思っていたことを訊いてみた。

 (他にもいろいろ、イグゼクス王国で聞いた歴史には『夜狩り』という言葉さえ無かったこと、とかも気になったけど。)


「アデレイドさん。わたしたちは召喚された時、四年後に元の世界へ帰してもらえると聞いたんですが、これは本当のことなんでしょうか?」


 なぜそれを疑問に思ったのかと訊き返されたので、お姉ちゃんが王城から出ていった時の、置き手紙を思い出しながら理由を話す。



「姉は「帰る方法を探す」と手紙に書いて、一人で行ってしまいました。

 元の世界にいた頃から、姉はカンが鋭くて、ウソを簡単に見破ってしまう時があったから、もしかして今回もそうなのかもしれない、と思ったことがきっかけです。


 でも、第一王子が「この魔法陣で帰せる」と断言していることですから、彼の言葉を疑うようなこの質問を、イグゼクス王国の人たちにするのは適切ではないでしょう。

 姉の手紙を読んでから、ずっと疑問に思っていましたが、わたしも今まで訊くのに良い相手を見つけられませんでした。


 だから姉は誰にも頼らず、一人で探す道を選んだのだろうと思います。」



 アデレイドさんはすこし考えてから、穏やかにうなずいた。


「良い判断をなされたと思います。

 その疑問はおおきな不安をもたらしたでしょうに、よく耐えられましたね、アマネさま。」


 優しい気遣いに、思わずうつむいて。

 ちいさく答えた。


「・・・わたしには、お姉ちゃんがいますから。」


「はい。リオさまは、アマネさまと一緒に元の世界へ帰ろうと、その方法を懸命に探されておいでです。

 ・・・・・・ただ。」


 急に声が暗くなったのが気になって顔をあげると、どこか悲しげな目をしたアデレイドさんが言葉を続けた。


「申し訳ないのですが、イグゼクス王国の魔法陣でアマネさまたちの世界へ戻れるか否か、その答えは少々お待ちいただきたいのです。」


「待てば、教えていただけますか?」


「わたくしではなく、イグゼクス王国からの使いが、アマネさまの言葉にお答えする時が来ます。

 今日、勇者と『星読みの魔女』が会った、ということが王城に知れれば、彼らは必ず動きますから。」


 それはすぐに伝わると思う。

 メイド兼宰相との連絡役であるオルガが、今頃もう情報を送っているかもしれないし、ダウロさんも次の街へ着いたら騎士団へ連絡を入れるはず。


 けれど、それよりも。


「わたしが今、アデレイドさんからこの質問の答えを聞くよりも、イグゼクス王国の使いから聞いた方が良い、と思われるのはなぜですか?」


 アデレイドさんは悲しげな目をしたまま、静かに答えた。


「彼らの言葉を聞く機会を、持っていただきたいのです。」





 ・・・・・・ああ。やっぱり。


 思って、体からすこし、力が抜けた。

 ゆっくりと視線がさがり、膝の上に置いた自分の手を、ぼんやりと眺める。





 イグゼクス王国は、召喚した人間を元の世界へ帰す手段を、持っていない。





 そうかもしれない、と思ってはいたけど、遠まわしにそれを肯定されて頭が働かなくなった。





 帰れない。


 家に、帰れない。





 ぐるぐると、そんな言葉だけが心をめぐり、沈みかけた気持ちは、ふと。

 お姉ちゃんのほんわりした笑顔を思い出して、やわらいだ。



「・・・・・・アデレイドさん。」


「はい。」


「姉はそのことを、知っていますか?」


「・・・はい。おそらく。」



 お姉ちゃんは、それでもあきらめずに、帰る方法を探している。

 それなら、わたしだけ勝手に落ち込んでいるわけにはいかない。




 うん。

 お姉ちゃんが、いるから。




 きっと、だいじょうぶ。




 わたしは、自分にできることをしよう。

 まずは、大切なことなのにウソをついたイグゼクス王国の上層部がどう動くかを見て、それなりの責任をとってもらう、とか。


 考えながら、無言でひとつうなずいて。

 顔をぐっとあげる。


「教えてくださって、ありがとうございます、アデレイドさん。」


 真剣にお礼を言ってから、にっこり笑って続けた。


「これからも、よろしくお願いしますね。」


 スミレ色の目をかすかに見開き、驚いた様子でまばたきをしてから。

 アデレイドさんは、華やかなほほ笑みをうかべて一礼した。





 本編で再会しましたので、予定通り義妹視点の番外を書かせていただきました。従者たちは名前のみで、『星読みの魔女』とのお話でー・・・、あれ? ううー、ん。どうしてこっちの方に転んだかなー、とつぶやきつつ、次は本編に戻りますねー。

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