表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/117

第五十五話「妹よ。」




「総長に紹介していただいた、護衛の方です。」


 アデレイドにそう教えてもらって、首を傾げていたあたしは突然あらわれたブラッドレーの立場について、ようやく理解した。


 『星読みの魔女』と『傭兵ギルド』総長をつなぐ、パイプ役。

 アデレイドに同行して、直接サポートしてくれる人のようだ。


 身長は高いけど細身で、優しげな顔立ちにふさふさしたヒゲをはやしたおじさんは、それほどスゴイ傭兵には見えなかったが。

 総長に選ばれたくらいだから、たぶんかなり強い方なんだろう。

 よほどの実力か、何らかの功績がある傭兵にしか付かないという二つ名は、『(くさり)』というのだと教えてもらった。


 あたしのことは勇者の義姉だと紹介してあるそうなので(総長にも話してあるらしい)、「よろしくお願いします」と簡単なあいさつをして、四人でお昼ごはんを食べた。


 その後は『傭兵ギルド』が用意してくれたバルドーの装備と、旅に必要な物について確認。

 あたしは彼らの話を聞きながら、ブラッドレーにお願いして旅に役立ちそうな道具をいくつか、個人的に買わせてもらった。


 まずは燃やすと魔獣が嫌う匂いがする[霧の香木](青白い小枝)。

 次に魔物を遠ざけ、瘴気を浄化する[光のしずく](小ビンに入ったぼんやり光る水)。


 うん。ヴィンセントへのおみやげは、これで決まり。


 そして最後に「これもどうかね?」とブラッドレーにすすめられ、天音へのおみやげとして[守りの花飾り]を買った。

 これはかわいいピンクの花を髪飾りにしたもので、装備しておくと一度だけ攻撃から身を守ってくれるという消耗品(役目を終えると花びらが散る)。


 こうして購入したおみやげ三種は、どれも『傭兵ギルド』か一部の特殊な店でしか買えない貴重品だそうで、値段は高いけど効果も高いらしい。


 いい買い物させてもらいましたー。

 満足してほくほくしていると、バルドーがいきなり訊いてきた。


「使い魔のエサや手入れ用品は買ってあるのか?」


 ジャックはまだお腹空いてないみたいだし、ブラシはあるよ。

 ・・・・・・て、あれ?


 何も言ってないのに、バルドー、どうして使い魔(ジャック)のこと知ってるの?


 驚くあたしに、「匂いと気配でわかる」と軽く言う。

 前から思ってたけど、バルドーは獣人(シェイプシフター)なのかなー?


 と、それはともかく。

 バレてるんなら、紹介しとこう。

 旅先で何があるかわからないし、今のうちに説明付きで顔見せをしておいた方が安心だ。


 三人とちょっと離れてから、「たまたま三頭犬(ケルベロス)になっちゃった合成獣(キメラ)なんだよ」と説明。

 「できれば、他の人には言わないでね」とお願いしてから、うとうと寝ていたジャックを起こし、小さいサイズで出てきてほしいと頼んだ。


 そうしてあたしの影からのっそりと登場したケルベロス(大型犬サイズ)を、『守り手』と傭兵は本能的に警戒。

 武器に手をかけたりはしなかったけど、いつでも動ける姿勢になった。

 ケルベロスは南の大陸に存在せず、伝承では魔王の城を守る魔物として出てくるらしいので、まあ、しょーがない。


 そうして警戒する二人の後ろで、『星読みの魔女』はその魔獣の額にある[竜血珠(ドラゴン・オーブ)]に気づいたようだ。

 驚いた様子で「あれは、殿下の・・・?」と指さすので、イールとの通信手段としてもらったのだと、説明を追加しておいた。


 一方、注目の的になっているジャックは。

 右の子は三人をじいっと見て、真ん中の子は興味なさそうに「くあー」とあくび、左の子はとろーんとした目で「ねむたい」と伝えてきた。


 あー。お昼寝の邪魔しちゃって、ごめんねー。


 「ちゃんと契約してるし、良い子だからだいじょーぶだよ」と腕のタトゥーとジャックの首輪を見せ、顔合わせは終了。

 ジャックは“闇”へ戻り、あたしは何やら話し合っていた三人から、ジャックは戦力外として考えるので、人目のあるところでは表に出さないように、という注意を受けた。

 はーい。

 とりあえず受け入れてもらえたみたいで、良かったー。


 それから残りの荷物を見て、明日の予定を確認。

 バルドーに聞いた通り、明日は「夜明け前に馬車で出発、街道の途中で勇者を待つ」らしい。


 予定の確認を終えると、男二人は用事があるとかで部屋を出ていく。

 自由時間のようなので、あたしはアデレイドに頼み、イグゼクス王国の地名を教えてもらった。


 市場で買った絵本の挿し絵みたいな地図をひろげ、あたしの知らない文字で書かれた地名をひとつずつ読んでもらって、それをカタカナで書きこんでいく。

 ついでにアデレイドが教えてくれる地図にない村やちいさな集落、それぞれの土地で注意すべき魔獣なども書きこんだので、地図はちょっとにぎやかになった。


 お茶をいれてもらってひと休みしながら、サーレルオード公国の地図についても同じように教えてもらって書きこみ、夕方にバルドーが戻ってくると、三人で軽めのごはんをいただく。

 今日は夜明け前に起きたし、明日の朝も早いので、食後はすぐに解散。

 一人一部屋用意されていたので、それぞれの部屋へ入った。


 天音は今頃パーティかなーと思いつつ、見に行くこともできないので(今から出かけたら確実に寝坊する)、亜空間からブラシを取り出す。

 いつの間にか目を覚ましていたジャック(夜行性?)は、あたしが呼ぶとしっぽをふりふりしながら出てきた。


 夜寝る前の習慣になってきたブラッシングをしながら、「あたしが寝てる間は何をしてるの?」と訊いてみると、影をとおして周りのものを見ているのだという返答。

 退屈はしてないけど、またお散歩に行きたいと言うので、時間ができたら行こうねと約束した。


 しばらくブラッシングをして、終わると寝た。







〈異世界三十二日目〉







 早朝。

 アデレイドに起こされてぼーっとしていると、バルドーに引きずられて家の前にとまっていた馬車のなかに放り込まれた。

 二頭のガルム(四つ目のでっかいイヌみたいな魔獣)が引くその箱馬車は、『星読みの魔女』と付き人ふたりを乗せると、御者台に座ったブラッドレーの指示で王都を離れる。


 「パレードの時、天音に何か起きたりしない?」と訊ねると、アデレイドは「危険なことはないようです」と言ってくれたので、ほっと安心。

 ガタゴト揺れる馬車のなか、丸くなってうとうとしていると、うっかり寝てしまった。


 次に起こされた時はもう昼頃で、「外で食事にしましょう」と言われてふらふらと馬車を降り、街道からすこし離れた川のほとりに落ち着く。

 そこは街道の様子が見えない位置だったので、天音が来てもわからないんじゃないかと思ったんだけど、アデレイドの占いでは勇者一行はここへ休けいに来るそうなので、その点は問題なし。


 火をおこしてお茶をいれ、四人でごはんを食べる。

 あたしはブラッドレーに元の世界のことを訊かれたので、車とか電話の話をしたら、バスクトルヴ連邦にはそれに似た魔道具があると言われてびっくりした。

 二代目勇者の功績?

 だとしたらテンマくん、スゴイなー。


 食べ終えると、話しながら後片づけ。

 それからさほど経たず、アデレイドが予見した勇者一行が、二台の立派な馬車で現れた。


 それぞれ二頭の馬の手綱をとる御者は全身鎧(フルメイル)の騎士で、美しい銀の髪の『星読みの魔女』を見てとても驚き、慌てて馬車のなかへ呼びかける。

 すると一台の馬車のドアが開き、まだ動いているその中から、小柄な影がひらりと地上へ飛び降りた(奥の方から男たちの悲鳴が)。


 そうして現れたのは、ほっそりとした体に不似合いな鎧をまとった少女。

 ネコのようにしなやかに着地して立ち上がり、まっすぐにこちらを向く。

 腰までとどく艶やかな黒髪が風にゆれ、気品のある完璧な美貌のなかで、宝石のように輝く漆黒の瞳があたしの姿をとらえた。


「お姉ちゃん!」


 いつもは優しく響く声で怒ったように叫び、瞬間移動かと思うほどのスピードで走ってきた天音は、そのままの勢いでドンッ! と抱きついてくる。

 とりあえず元気そうだな、と安心していたあたしはとっさに受け止めきれず、「のわっ」と後ろに倒れた。

 その拍子に思いきり打った腰や後頭部の痛みにうめきながら、上に乗っかっている天音の悲鳴を聞く。



「なんで髪の毛がないのーっ!」





 ・・・・・・妹よ。


 おねーちゃんは、ハゲてないです。





 ようやくの旅立ちで、姉妹再会できましたー。自分の髪の長さにまるで無頓着なおねーちゃんは、妹の第一声に変な顔をしておりますが(笑)。他の人も出てくるはずですが、次は姉妹の攻防かなー?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ