第五十四話「魔女と総長の会談。」
未来は変わることがあるが、過去は変わらない。
そして未来視ができる『星読みの魔女』には過去を視る力もあるそうで、未来より視やすい過去についてなら、よほどの失敗がなければ間違えることは無いという。
じゃあ、まず確実に。
レグルーザは、天音のところにいるのだ。
しばらくぽかんと驚いてたけど、考えてみればあたしを見つけようとした場合、天音のところで待ち伏せてるのが一番確実。
・・・ってことは、あたしを探してるんだよね。
どうして探してるのか、その理由が気になるところだけど、今はそれよりも。
「『茨姫』には見つかってない?」
もう一度占ってもらい、「見つかっていない」という結果を聞いて心底ほっとした。
良かった。レグルーザも天音も、とりあえず今は安全だ。
その後はバルドーにあたしの素性を話し(無関心に「それで何も知らんのか」と言われて終わった)、アデレイドに天音の状況を占ってもらうことで時間が過ぎた。
が。
占いの結果を聞いたあたしは、最後にはひざを抱えてまるくなった。
アデレイドの占いによると。
天音はしばらく前、人間と獣人の争い(条約違反が何とか、っていうあれか?)に首をつっこんだ。
そして、そのことでイグゼクス王国の上層部と(たぶん宰相くらいの人)、何らかの取り引きをした。
この取り引きのせいで、二日後の【試練の森】行きが決まったらしい。
天音は急な旅立ちについて冷静に受け入れたようだが、それは取り引きとは別に、何か考えを持っているから。
そしてその考えとは、おそらく「これだけにぎやかに旅立てば、どこかで行方不明の義姉が出てくるはず」というもの。
以上、占い終了。
・・・・・・はぁー。
何してんの天音ちゃん。
こんな短期間のうちに、よりによって一番厄介で面倒くさそうな、種族間の問題に首をつっこむとは・・・
それに。
自分の身を危険にさらすことで、おねーちゃんを釣ろうとしてるのか?
そんなことをするなら、おねーちゃんは頭に血が上って、本気で怒りそうですが。
そこまでして呼び戻そうとする理由が、何かあるの?
ひょっとして、レグルーザが何か話した?
ううむ、と考えこんでいるあたしの前で、アデレイドとバルドーはどうやって天音と会うか、話し合っていた。
アデレイドの体調とか、『星読みの魔女』とイグゼクス王国の関係とか、いろいろ考えないといけないことがあるみたいだ。
そうしてしばらく相談した二人は、『傭兵ギルド』の力を借りて天音たちの行く道を先回りし、街道の途中で待つ、という計画を立てた。
アデレイドの占いで、『傭兵ギルド』の総長は『星読みの魔女』の力を借りるかわりに、こちらの願いをきいてくれるだろう、と出たからだ。
(『傭兵ギルド』の本部は、イグゼクス王国の王都にあるらしい。)
バルドーは夕ごはんを買ってきて一緒に食べた後、さっそく『傭兵ギルド』の総長に会いに行った。
でも、あたし達が総長と会うのは明日の早朝になるだろう、とのことだったので。
アデレイドは体力回復のため早めに休み、あたしもジャックのブラッシングをしてから、毛布にくるまって寝た。
〈異世界三十一日目〉
朝早く、バルドーに起こされた。
予定通りこれから『傭兵ギルド』の総長と会うそうで、「忘れ物はないか?」と訊かれて首を傾げた。
わすれものー?
ぼけーと寝ぼけているあたしに、バルドーは昨日、総長と話し合って決まったこれからの予定を教えてくれた。
今から総長の用意した家へ行き、午前中は『星読みの魔女』と総長の会談、午後は『傭兵ギルド』に用意してもらう物のチェックをして、夜はその家で一泊。
そして明日は夜明け前に出発し、勇者たちの先回りをする。
・・・家。を、用意されてるの?
おおー。スゴイ待遇だねー。
了解です。
あたしは「従者その二」って感じで、『星読みの魔女』さまについてくよー。
アデレイド(だいぶ回復したみたい)が荷物をトランクにつめるのを待ち、同じく旅支度のバルドーについて廊下へ出る。
もう戻ることのない部屋のカギは、家主さんへのあいさつの手紙と一緒に、テーブルへ置かれた。
道に出ると、まだ薄暗いのに意外と人が多い。
勇者旅立ちの前日だからかなー?
そしてちらほらと動く人々のなかで、黒ずくめのアデレイドと帽子で顔を隠す長身のバルドーは、当たり前だがアヤシイひとだった。
・・・なんかこの二人と一緒にいると、普通なあたしの方がヘン?
ゴソゴソと亜空間から帽子を取り出してかぶりながら、「姿隠しの魔法でもかけよーか?」とアデレイドに訊いてみた。
『守り手』には魔法がきかないって言ってたけど、やり方を工夫すれば、彼の姿を見えなくすることもできると思うのだ。
アデレイドはあたしが申し出たことにお礼を言ってから、丁寧に断った。
布で髪や顔を隠して動くのと、姿隠しの魔法で透明になって動くのとでは、相手やまわりの人に与える印象が違う。
今日は協力を求める相手のところへ行くので、悪い印象を与えるようなコトはできるだけ避けたい、という考えのようだ。
なるほどー。
でも、『星読みの魔女』も総長も会談は内密に行いたいと思っているので、こうして朝早くにコッソリ動いているらしい(わりと目立ってると思うけど)。
話のついでにアデレイドから、総長の様子を見て、問題無ければあたしの素性を話しておきたいがかまわないか、と訊かれた。
うん。そのへんはお任せします。
それからしばらく歩き、案内された家で『傭兵ギルド』の総長だという男の人に会った。
名前は、クローゼル。
バルドーと比べると小柄なおじーさんだけど、今でも現役で傭兵やれそうながっちりした体格で、いかつい顔に鋭い目つきをしている。
でも、話してみると豪快な笑い方をする、気さくな感じの人だった。
あたしはとりあえず「旅の仲間」と紹介され、用意されていた朝ごはんを一緒にいただいた。
その後、アデレイドが総長のための占いをする間は、ひとり別室で待つ。
バルドーは『守り手』だから同席を許されるけど、基本的に『星読みの魔女』が占いをする時、そこにいていいのは魔女と相手の二人だけだからだ。
ヒマだったので紙とペンを取り出し、先ほど話していた、「バルドー(魔法のきかない相手)に姿隠しの魔法をかけるには?」というのを考えてみる。
そのついでの連想で、「魔法のきかない相手がいたらどう倒すのか?」というのもイロイロ組み立てていたら、話し合いを終えたアデレイドたちに呼ばれた。
急用ができたとかで、総長の姿はすでになく、バルドーの隣にはなぜかランクAの傭兵だというおじさんがいた。
彼が「ブラッドレー」と名乗って「よろしく」と言うのに、意味がわからず首を傾げる。
よろしくって、何を?
わりとイロイロやってるアマネちゃんと、再会の手助けをしてくれる人たちの登場ですー。いやはや。今回更新にえらい時間かかった上になんか短くって、申し訳ありません(汗)。最近、暑かったり寒かったりでぐてーんとしてます。季節の変わり目はちょっとしんどいですねー。サンマとか梨とかサツマイモとか美味しいんですけど(家族があちこちから買ったり貰ったりしてきます)。・・・んー。食欲の秋がきてる?