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第三十八話「わりと危険だった。」




 お茶を入れたついでに亜空間からお菓子を取り出し、イールとわけて食べた。

 疲れてる時には甘いものだ。


 荷物入れにしている亜空間は時間の流れが止まっているので、お菓子はしけっても傷んでもおらず、王城からトンズラした日の朝、料理長がくれた時の味をそのまま保っている。


 イールは料理人たちが試行錯誤しながら作ったお菓子がとても気に入った様子で、こんなものは初めて食べたが、美味いなと言って喜んでいた。

 中身は七十歳だというが、味覚はわりと柔軟らしい。

 良いことだ。



 頭に糖分が届くとちょっと気力が出てきたので、イールにもうすこし詳しく訊いてみた。


「イールたちを生け贄にして死神(デス)召喚しようとしてたのって、『黒の塔』のメンバー?」


「おそらくな。だがあの男は、わたしの力を封印したものではない。

 わたしの力を封印したのは、ヴァンローレンと関係のある『黒の塔』の魔法使いだ。少女の姿をしていたが、禍々しい“影”をまとっていた。

 あの男はどうも、その魔法使いの弟子だったようだ。しかし師に忠実ではなかったようだな。隙を見てこの身にかけられていた追跡の魔法を解除し、盗み出して己の行う儀式の贄とした。」


「じゃあ今頃、その女の子の魔法使いは、イールを探してるよね?」

「ああ。探しているだろうな。あれも何らかの儀式にわたしの身を使う気でいたようだし、弟子に贄を横取りされて黙っているとは思えん。」


 ローザンドーラの『傭兵ギルド』にあの男の姿がなかったのは、そのせいだろうか?

 もしかして、『傭兵ギルド』がレグルーザを探していたのも、それと関係がある?


 ・・・・・・なんか急に心配になってきた。


 けど、居場所わかんないし。

 とりあえずイールの封印を解く方が先か。


 無事でいてね、レグルーザ。


「『夜狩り』の本拠地のここでも、探してると思う?」

「それはわからんが、注意はすべきだろうな。王都は『夜狩り』の本拠地ではあるが、王城には『黒の塔』の連中が狙う有名な禁書が保管されていると聞く。」


 う。

 嫌な予感がする。


 その先は言わなくていいよー。聞きたくないよー、というあたしの内心の思いなど当たり前のように伝わらず、親切なイールは教えてくれた。



「禁書の名は[黒の聖典(ノワール・バイブル)]。込められた魔力が強く、燃やすことも破り捨てることもできなかったために厳重に封印されて隠されたという、人間たちのあいだでは伝説的な禁書だ。」



 やっぱりかー・・・

 けっこーあっさり手に入れちゃったんだけど。



「・・・・・・もしかして、[血まみれの魔導書ブラッディ・グリモワール]も狙われてる?」

「[血まみれの魔導書]? ・・・聞き覚えがないな。著者は誰だ?」

「ブラウロード」

「ああ。それなら覚えがある。お前が言うのはおそらく[無名の書]のことだろう。」


 そういえば[血まみれの魔導書]っていうのは二つ名で、題名は無かったんだった。

 うん、とうなずくと、それも有名な禁書らしいが、おそらく狙われてはいない、という返答。

 ほっとしながら「なんで?」と首を傾げると、誰も手に入れることができないからだ、と説明された。


「[無名の書]は手にしたものをすべて殺す禁書だと聞いた。ゆえに[黒の聖典]のように隠されはせず、むしろ『黒の塔』の方が、それに手を出さぬようにと仲間に警告を出したようだ。」


 『黒の塔』向けの死の罠(デス・トラップ)でしたか。

 うん。

 どおりで、簡単に取れましたよ。


 死なずに踏み倒して、そもそも罠だなんて思いもしませんでしたが。


 はー・・・・・・


「そんな禁書、さっさと処分しとけばいーのに。」

「処分できなかったために封印されたと言っただろう。」

「ふーん。・・・ん? それって、イールの“初源の火”でも燃えないってこと?」

「いや、“初源の火”であれば、おそらく燃やせるだろう。だが、それをイグゼクス王国がヴァングレイ帝国の皇族に望むことはあるまい。」


 変なトコで意地張らずに、素直にお願いして燃やしといてもらえば良かったのにねー。


 あーあ。

 どっちも無くなってるのに気づいたら、みんな大騒動だろーなー。

 そんで、持ってるのがあたしだってバレたら、今度はあたしが狙われるんだろーなー。


 まあ、片方は誰も知らなさそうな【忘れられた禁書庫】にあったし、自分から言いふらしたりしないから、まずバレないだろうけど。

 禁書に関しては、それなりに気をつけるようにしよう。



 あと、もうひとつは。



「もし、あたしの“闇”の力が知られたら、どうなると思う?」



「『黒の塔』は間違いなくお前を欲しがって取り込もうとするだろう。

 『夜狩り』の連中は、問答無用で殺そうとしてくるかもしれんが。」



 ですよねー・・・・・・



「だが、連中は少数派だ。単独で襲われる程度なら、お前の力であればたやすく退けられよう。警戒するに越したことはないが、過度に恐れる必要はない。


 案じるべきは、不特定多数の人間に知られた時の、総体としての彼らの反応だ。

 どう考えても、お前にとって良い方向にむかうとは思えん。


 いにしえに、人間たちは闇の神とともに生きていた。それが唐突に失われ、次に現れた魔王は闇の神とよく似た“闇”の力を使って、彼らを虐殺したのだ。

 もう何千年も前の出来事ではあるが、人間たちの“闇”への不信と恐怖は、根深い。」



 アデレイドには訊き忘れてたけど。

 魔王の属性って、やっぱり“闇”なんだねー。



「人間以外の種族は、どう反応すると思う?」



 イールはしばらく考えてから、慎重に答える。



「長く失われていた力、それも魔王と同じ属性の力だからな。

 皆、警戒し、お前が何者であるのか見極めようとするだろう。

 おそらく、お前が何もしなければ、むやみに敵対しようとはしないはずだが。


 これはあくまで、わたしの推測だ。断言してやることはできん。


 出自はどうあれ、お前は「“闇”の力を持つ人間」だ。

 そのような力を、何をしでかすかわからない人間が持っているのは危ういと判断して、排除しようとする短気なものもあるやもしれんからな。」



 うーん。


 レグルーザは、どうだろう?

 短気な性格では、なかったと思うけど。



「ともかく、あの力は使わぬようにすることだ。」



 今までさんざん使ってたけど(誰にも見られないよう注意はしてたよ?)。

 うん。

 これからはあんまり使わないようにします。


 でも、そうなると別の力が要るなー。


 [血まみれの魔導書]の魔法は失われたはずのものみたいだから、あんまり使わない方がよさそうだし。

 [黒の聖典]は『黒の塔』に狙われてるらしいし、そもそも使い勝手のいい魔法が無いし。


 [琥珀の書(アンブロイド)]、開けてみよーかなー。


 できればレグルーザに、[白の護符ホワイト・アミュレット]返せる時があれば、一緒に渡したかったんだけど。

 有名なものみたいだから、売ればそれなりのお金にはなるだろうし。


 けど、まずは自分の身の安全を確保しとかないと、レグルーザを探すどころじゃない。

 探す手段で変なのに目をつけられたら、彼まで巻き込みかねないし。


 どーしたもんかと悩みかけるのに、イールの声で現実に引き戻される。



「わたしが言えるのはこの程度だが。


 リオ。

 お前がこの国にいるのは危険だということが、理解できたか?」



 うん。それなりに。

 ・・・あ。


「三代目の勇者って、二代目と同じ黒髪に黒目なんだけど。『夜狩り』に狙われたりしないよね?」


「三代目だと?」


 イールは三代目の勇者召喚を知らなかったらしい。

 驚いた様子でオウム返しにしてから、深々とため息をついた。


「王城にある神殿で、何か用意をしているようだという話は聞いたが。

 本当にまたやったのか、イグゼクスは。

 まだ魔王が復活したと決まったわけでもない、この時期に。」


 え?

 魔王復活してないの?


「二代目の時と同じだ。侵入してくる魔物が増え、偵察に行ったものが戻らない。

 最近、光の女神の守護が弱くなってきているという懸念はあるが。」


「女神の守護?・・・ああ、そういえば、光の女神の力で魔物の侵入を防いでるんだっけ。」


「そうだ。しかし、最近になって侵入してくる魔物が強くなってきている。光の女神の守護の力が弱くなってきているためではないか、と一部のものが言いだしていてな。」


 魔王復活の確証はないけど、不安が高まってきて三度目の「勇者召喚!」となったらしい。

 ほんと、二代目の時と同じ流れ。

 進歩ないなー・・・。


「しばらく前に、人間の街が魔物の群れに襲われて壊滅したと聞いたからな。それなりの脅威であることはわかる。しかしやはり、無関係のものを安易に巻き込むことには賛同できん。」


 そのお考えは何回か聞いたので、とりあえずさっきのあたしの質問に答えをください。


「うん?三代目の勇者も黒の色を持っていたのか。ふむ。・・・おそらく、そのものが『夜狩り』の標的となることはあるまい。

 二代目の例で、光の女神が授けた武具さえ揃えば第二の覚醒が起き、金色に変わると予測しているだろうしな。


 それに『夜狩り』は今、二代目勇者を肯定したものたちの後継者によって管理されている。黒を狩ることも、今はしていないはずだ。彼らの獲物は『黒の塔』のような、外道の魔法使いたちに絞られているのだろう。」


 なるほど。

 それなりに納得。


 でも、「第二の覚醒」か。

 金色の髪と目の天音って、似合いそうだけど、ますます人間離れしてきそうだ。

 おとーさんとおかーさんが見たら、何て言うだろう。


 ・・・・・・早く帰る方法見つけなきゃなー。


「リオ。お前は三代目勇者の縁者か?」


 ああ。

 やっぱりそうくる?


「言っただろう。髪と目が揃って黒いものが生まれることはまず無いと。

 しかし、二代目の勇者はどちらも黒かったという。そして今、お前は三代目の勇者もそうだと言い、その身を案じた。

 ではお前も異世界のもので、三代目勇者と縁のあるものかと推測するのは、自然の流れというものだ。」


 そーだよねー。

 さっきは何でか言いだせなかったけど、もう腹くくるしかなさそうだし。

 ここまできたら、言っとくか。


「あたしは三代目勇者の、義理の姉なの。

 巻き込まれて来ちゃっただけなんだけどねー。」


 イールは目を細めてあたしを見た。


「お前の力を見たわたしには、お前がただ巻き込まれただけとは思えんが。」


「元の世界じゃあこんな力、ぜんぜん無かったんだよ。【目覚めの泉】の裏側に入ったら、なんでか使えるようになっちゃっただけで。」


「【目覚めの泉】の、裏側?」


 うん。黒い神殿のなかにある水晶の草花のなかの泉。

 そういえば、イール、あれが何か、知らない?


「わたしは知らんな。アデレイドに訊いてみるか。

 光の女神が作り出した【目覚めの泉】の裏側にあるということは、何らかの神の力が関わっているはずだ。

 神代の知識で、『星読みの魔女』の右に出るものはおらん。」


 おおー。

 やっぱりいい先生だったんだなー。


「それにしても、お前の力は失われし闇の神を思わせるのだが。お前のもとに闇の神が訪れたことはないのか?」


 そういえば、天音は光の女神に会ったんだっけ。

 でもあたしには、そんなん無いです。


 あえて言うなら、腕輪に“闇”喰われたくらい?


「ほう?その腕輪、見せてくれないか。」


 反射的に服の上から腕輪を押さえて身を引いていた。

 「取り上げはしない」となだめるように言うイールに、自分の過剰な反応を説明できずやや困惑。


 イールに取り上げられると思ったわけじゃないんだけど。

 なんかね、ダメなの。


 困ったままかたまっているあたしに何を思ったのか、イールは「そういえば二代目勇者の話が途中だったな」と言って、続きを語り始めた。





 実はわりと危険だった道のりを、イロイロ踏み倒してきてたリオちゃんでした。あと世界背景のお話が、次話でなんとかいちおう終わりそうです。イールが語り始めてるので、冒頭が二代目勇者の話になりそうですが。もうちょっと!と思って見直しを頑張りまーす。

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