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第三十七話「夜狩りと黒の塔と帝位。」



「リオ。さっそくだが、『夜狩り』と『黒の塔』について話しておこう。お前はまったく知らんのか?」


 まだ朝だというのにいささか疲れていたが、「さっぱり」と答えて話を聞く体勢に入った。

 なんかヤバそうな言葉だから、とりあえず聞いときたい。


「なぜそうした知識が欠けているのか、話してくれる気はあるか?」


 んー・・・。


 彼は勇者召喚を否定するヴァングレイ帝国の皇子らしいが、昨日アデレイドに聞いたところ、獣人も古竜エンシェント・ドラゴン竜人(ドラグーン)も、召喚された勇者に対しては協力的だという。


 彼ならばおそらく、勇者として召喚された天音の義姉だと話しても問題無いだろう。


 そう、思考は結論したが。

 なぜか、のどに引っかかったように、打ち明ける言葉が出てこなかった。


 ごめん。

 何かわかんないけど、今すぐはムリ。


 無言で首を横に振ったあたしに、イールはすこし悲しげな顔をしたが、深くは聞かないという自分の言葉を守って退いてくれた。


「ふむ。では、歴史をたどって話すか。初代の勇者がサーレルオード公国を興したことは知っているか?」

「大公になったっていうのは聞いたけど。国作りまでしてたの?」


 イロイロ大活躍だなー、と感心しているあたしに、ではそこから話そう、とイール先生の歴史教室が始まった。







 魔王を封印した後、南の大陸に帰還した初代勇者は旅の仲間だった魔法使いの女性と結婚し、南の地に住むようになった。

 そこには彼を慕って人が集い、やがてサーレルオード公国という国となった(魔力を多く持つものは寿命が長いそうで、勇者はかなり長生きしたらしい)。

 今度は一国の導き手として初代大公の地位を受けた彼は、まず国の形を整えて法を定め、妻とともに魔法の知識を収集し始めた。

 元勇者の大公が魔法の知識を集めていると聞き、魔法使いたちはサーレルオード公国へ集まった。


 そうしてサーレルオード公国は、法によって統治される魔法国家となる。


 彼らはそうして集めた魔法の知識を、試行錯誤しながら発展させた。

 ここで旧世界の魔法の言語である[古語(エンシェント・ルーン)]の断片的な知識を元に、現在の主流である[呪語(ルーン)]が組み上げられることになる。

 大公は魔法の知識をある程度解放していたため、魔法使いは増え、便利な魔道具が次々と作りだされて、人々の生活は以前より豊かになった。


 その恩恵の反面、[古語]よりもはるかに扱いやすく作られた[呪語]の普及によって、わずかに残っていた[古語]の知識は徐々に失われていったのだが(扱いにくい[古語]を使いたがる人はほとんどおらず、次代に継承されなかった)。



 初代勇者はそうして太陽のように世界を照らし、やがて静かに没した。



 問題はその、死後のことだ。


 強大な光の力の持ち主が失われたことと、いまだ北の大陸からの魔物の侵入が尽きない(魔大陸は瘴気で穢れていて、生きものがまともに暮らせるところではなくなっており、勇者もこれは何ともできなかった)ことが、残された人々の心をゆっくりと蝕んでいった。

 さらに闇の神が失われたままだということが、「夜」に対する恐怖につながった。


 何がきっかけだったのかは、わからない。


 ただそうして溜まりに溜まった不安や恐怖が、ある時一気に爆発し、人間は“闇”の色である黒を持って生まれたものを狩りはじめた。


 それが、『夜狩り』の始まり。







 話の途中だけど、ちょっと質問。


「もしかして、髪の毛とか目の色と「属性」って関係ある?」


 何を当たり前のことを聞いているんだ?という顔には慣れました。

 わかりません、先生。

 元の世界じゃあ髪や目の色は遺伝子で決まってたんだよー。

 変な顔してないで教えてください。


「お前は常識というものをほとんど知らんようだな。」


 うん。さっぱりよー。


「・・・まあ、いい。髪や目の色は、持って生まれた属性を示すものだ。親と同じ属性で生まれることが多いが、光の属性であることを示す金や、闇の属性の黒は、突然変異のように生まれることがある。

 たいてい髪か目、片方どちらかだけで、お前のように両方とも黒を持って生まれるということは、まず無いはずだが。」


 ほほー。

 でも、天音は黒髪黒目で光の勇者サマだけどなー?


 それに、召喚された時にいきなり狩られなかったってことは、騒動自体はもう落ち着いてるってことか?


 首を傾げつつ、もう一個質問。


「なんで『黒狩り』でなく『闇狩り』でもなく、『夜狩り』?」


「わたしが名付けたわけではないからな。正確なところはわからんが。

 初めは黒を持って生まれたものだけを狩っていたのが徐々に拡大していき、不安をもたらす怪しげなものはすべて狩れ、となった。

 そこから当時の人々の不安の象徴であった「夜」を狩ろうとした動きだろうと言われ、『夜狩り』になったらしい。

 まあ、ネコだけは黒くとも難を逃れたそうだが。」


 ネコだけ無事?

 魔女狩りでは、おもに黒ネコが道連れにされてたらしいけど。


「初代勇者が連れの黒ネコを溺愛していた話は有名だからな。サーレルオード公国では、今でもネコを神の使いのように崇めていると聞く。」


 あー。

 そういえば、吟遊詩人の英雄譚で聞いたかも。


 初代勇者は召喚された後、どこからか現れた黒ネコをいつも連れてて、どこへ行くにも手放そうとせずに、ものすごい可愛がってたとか。


 このじゃれてる部分がまた、けっこー長くてねー。

 ラルアークが飽きたわけです。


「当のネコは、北の大陸で魔王との決戦の時に死んでしまったらしいが。」


 そーなのか。最後まで聞いてないから知らんかった。

 でも、溺愛してるのに、なんでそんな危ないトコまで連れてくんだ?

 変なの。


 ・・・あ。ごめん。

 話の腰折った。


 続きお願いしまーす。







 西方のイグゼクス王国と南方のサーレルオード公国は『夜狩り』で荒れた。


 とくにひどかったのはイグゼクス王国で、光の女神の神殿に仕える狂信的なものたちが『夜狩り』の先頭となっていた(神殿の高位の神官たちが、光の女神の御利益を宣伝する材料に使うために狂信者たちをあおった、という話もある)。


 そしてサーレルオード公国では、夜を怖れる人々が宮殿から勇者のものを盗もうとする(お守りか魔除け的なものとしての需要による)騒動が起きていた。

 当時の大公は宮殿で守りきることが難しいと判断し、腹心の部下に命じて天空シリーズの武具を誰にも知られないよう密かに持ち出させ、各地へ隠した。



 こうした人間たちの騒動を、最も強く非難したのは精霊たちだった。


 触れることのできる実体を持たない、力そのものである彼らは言った。



 黒を持って生まれるものがいるのは、そのものに宿る“闇”の力を世界が必要としているからだ。

 一つの属性の力だけを排除しようとすることは、世界の均衡に悪い影響を及ぼすだろう。

 愚かなことは止めなさい。



 精霊たちと話すことができるのは、ごく少数の精霊使いのみだった(エイダは例外的存在らしい)。

 それでも精霊使いたちは上位の魔法使いたちに並ぶ威力の精霊魔法を使うことができるため、それなりに重用されていた。

 そこで精霊使いたちは、それぞれの仕える国で繰り返し、精霊の言葉を伝えた。


 しかし、イグゼクス王国でもサーレルオード公国でも、この騒動の危険性を警告する彼らの言葉に耳を傾けるものは、ほとんどいなかった。


 精霊と精霊使いたちは失望し、迫害されるものたちを守って国を離れた。

 そして精霊たちはこれ以降、人間と契約することはなくなり、当時の精霊使いが全員亡くなると、人間の精霊使いは絶えた。



 一方、北のヴァングレイ帝国の獣人と古竜たちは、不可侵条約を結んでいるということもあり、騒動に介入することなく冷ややかにそれを見ていた。

 しかし、一部の古竜は精霊たちに頼まれ、逃げてきた精霊使いたちを受け入れて守った(ヴァングレイ帝国の人間の家臣のなかには、こうして逃げてきた人間の子孫だという人がいる)。



 イグゼクス王国とサーレルオード公国はしばらくの間、その騒動に飲み込まれていたが、「夜」を思わせるものが国内からいなくなると、ある程度の平穏を取り戻した。


 しかし今度は大陸に侵入してくる魔物が増え、北の魔大陸へ偵察に行ったものが誰一人戻らないという事態が起き、魔王の復活が噂されるようになる。


 イグゼクス王国の国王は、神官に命じて二度目の勇者召喚を行った。




 そうして現れた二代目勇者は、黒髪黒目の青年。

 (もしかして同郷のお人かなー、と思って名前聞いてみたら、「テンマ・サイトウ」。日本人の、しかも現代っぽい感じがするのは気のせい?)




 まさに、『夜狩り』の対象となっていた色の持ち主である。


 神官たちは混乱し、彼を勇者として認めるべきか否か論争が起きた。


 が、それ以上に、勇者として召喚された青年は、唐突にこの世界の事情に巻き込まれたことに「ふざけんな!」と激怒していた(そりゃー怒るわ)。


 初代勇者は最初から受け入れていたらしく(改めて考えてみると、こっちの人の方が謎)、召喚した相手に勇者になることを拒まれるという予想外な状況に、人間たちはますます混乱した。


 その混乱の隙をついて、光の女神が選んだ勇者として青年を支持するものたちは、彼を【目覚めの泉】へ案内。

 青年の持つ光の力を覚醒させる。


 それを見た支持者たちは言った。


 これほど強い光の力を持っているのだから、間違いなくあなたが勇者だ。

 光の女神が初代勇者に与えた武具を探し出し、魔王を倒すべくともに戦おう。


 青年は「てめぇらでやれ!」とイグゼクス王国を飛び出した(うかうかしていると彼を否定する過激派に暗殺されそうな状況だった)。

 そして、人間たちがまた勇者を召喚しようとしているらしいと察知し、様子を見に来ていたヴァングレイ帝国の密偵と出くわし、保護された。


 獣人と古竜は激怒している青年をヴァングレイ帝国で手厚く保護し、勇者としての責務など求めることなく、「勇者を返せ」という人間たちの手から守り、元の世界へ戻すべきだとイグゼクス王国へ何度も使者を送った。


 しかし、イグゼクス王国もサーレルオード公国も、黒髪黒目の勇者を認めるべきか否かで論争を続けており、まともに話が通じない。


 獣人や古竜は世界を渡る術など知らず、長く光の女神と決別していたために、調べることもままならない。


 そうして時間が過ぎるうち、勇者として召喚された青年も冷静さを取り戻し、自分を保護してくれた獣人と古竜たちのために魔王を倒そう、と決意するようになる。


 獣人や古竜はそんなことをする必要はないと止めたが、「あんたたちには恩がある」という彼の意志はかたく、仲の良くなった竜人と獣人に付き添われ、天空シリーズの武具を求める旅へ出た。


 その旅にはどうやら『星読みの魔女』がかなり手を貸したらしく、青年は順調に武具を集めて仲間を増やし、この世界の人間にはできなくなった精霊との契約もやってのける。


 しかし、予想外のことが一つ起きた。

 天空シリーズの武具をすべて揃えて完全装備した時、「第二の覚醒」が起き、青年の髪と目の色が金色に変わってしまったのだ(初代の勇者は最初から金色だったので、そうしたことは起きなかったらしい)。


 「俺の髪と目はこんな色じゃねぇ!」とふたたび激怒して近隣の魔物を狩りまくった(八つ当たり?)青年とは真逆に、当代勇者支持者たちは「やはり彼こそが光の勇者!」と喜び、否定過激派は劣勢に立たされた。


 好機を掴んだ勇者支持者たちの動きは素早く、当時のイグゼクス王国の王とサーレルオード公国の大公を退位させて、勇者を支持する人物を後継にした。

 そうして一気に実権を握った支持者たちは、「元は黒だったからアレは違う」という否定過激派のかたまりである『夜狩り』の人々を捕縛し、影響力の強い大物を処刑。


 長きにわたる『夜狩り』騒動は、幕を閉じた。







 アデレイドが「二代目の勇者さまは、むしろ獣人と古竜たちのために戦われた方です」と言ってたのはこのためか、と納得した。


 それにしても、二代目の勇者は、初代とはまた違った事情で苦労している。

 とりあえず、天音が召喚されたのが二番目でなくて良かったー。


「・・・あれ?『夜狩り』は捕まって処刑されたんだよね?じゃあ今はもう、問題なし?」

「表向きはな。裏では今も、神殿に異端審問官として飼われている。」


 ああー・・・

 『夜狩り』から「異端審問官」に転職(ジョブチェンジ)

 中身はほぼそのまんまっぽいなー。

 それで今もイグゼクス王国には黒の色を持つ人がいないのか?


 でも、もし黒という色で危険があるのなら、王城で暮らしてた時とか、幻影の魔法を解除して見せた時のレグルーザとか、誰かが何か言ってくれててもよさそうなもんだけど。

 彼らは『夜狩り』のことを知らなかったのだろうか。


「そういえば、『黒の塔』はいつから出てくるの?」

「『夜狩り』が始まってしばらく後のはずだが、いつから連中がそうした組織を作ったのか、正確なところはわからん。」



 『黒の塔』は『夜狩り』の標的となった人たちが身を寄せあい、なんとか生きのびようとして作られた組織らしい。

 しかし、「何人たりとも使ってはならない邪悪な魔法」と言われる邪法や、そうした魔法を記した禁書を持っていたせいで追われた魔法使いくずれが多かったため、『黒の塔』はしだいに怪しげな方向へ進み始める。


 我らは力が足りないせいで追われるのだ。

 数による正義を掲げる愚か者どもに、いずれ絶対的な力による制裁を与えてやろう!



 立派な過激派地下組織の誕生である。



「神殿も『夜狩り』の連中をいつまでも飼っていたくはないようだが、暗躍する『黒の塔』と戦わせるものとして、手放すことができんようだな。」

「じゃあ今は、神殿の異端審問官と、『黒の塔』の戦い?」

「異端審問官など仮の姿にすぎん。連中は今も『夜狩り』の狂信者だ。」

「はいはい。『夜狩り』対『黒の塔』の戦いって言えばいい?」


 イールは気難しげな顔でうなずいた。


「二代目勇者の召喚は、二千年ほど前のことだ。

 騒動自体はずいぶん昔に鎮静化し、今ではどちらも数を減らしている。普通に生活しているだけならば出くわしはしないし、おそらく人間たちの記憶もだいぶあいまいになっているだろう。

 『夜狩り』は人間たちにとって、できれば忘れたい過去、歴史の暗部だ。

 イグゼクス王国もサーレルオード公国も、時によって人々の記憶が風化し、消えていくよう情報を操作していたふしがある。

 今ではそうしたことがあったと知っている人間など、『夜狩り』と『黒の塔』の連中をのぞけば、数えるほどしかおるまい。」


 じゃあやっぱり、レグルーザも知らなかったのだろうか。


「獣人や竜人も忘れちゃったの?」


「二代目の勇者についての話を聞くなかに、人間がまた愚かなことを考えついて、今度は自分たちが召喚した勇者を迫害した、と伝えられている程度だな。

 獣人や竜人はもともと、人間たちがしでかすことに警戒はしているが、さほど興味を持ってはおらん。

 かく言うわたしも、ヴァンローレンが『黒の塔』の連中と関わりと持ったと聞いて調べることがなければ、知ることはなかっただろう。

 二千年という時間は、人間より寿命の長い獣人や竜人にとっても、じゅうぶんに長い。」


 ヴァンローレンというのは、イールの異母兄のヴァングレイ帝国第二皇子の名前。

 三十年前にアデレイドの母親である『星読みの魔女』ルシェリーをさらい、殺そうとした人物だ。


「そういえば、その第二皇子。アデレイドのお母さんをさらって殺しかけたことは、罪に問われなかったの?」


「あれは狡猾でな。皆は、『星読みの魔女』に執心して無法に及んだのは第五皇子だと思っている。

 実際、あの件で処罰を受けて処刑されたのは第五皇子だ。」


 処刑って、殺されたのか?

 そりゃー確かに、悪党だろうけど。


 過激だなーと目を丸くしていると、イールはそれをやったのが皇子で、相手が『星読みの魔女』だったのがたいへんマズかったのだと教えてくれた。

 『星読みの魔女』というのは丁重に扱わなくちゃいけない、なかなかすごい存在らしい。


「じゃあ第二皇子は、極刑になるってわかってて弟に濡れ衣着せたの?」


「第二皇子と第五皇子は母親が違うからな。お前が思うような家族的な関係は無かったはずだ。

 それにおそらく、完全なる濡れ衣というわけではない。第五皇子は確かにルシェリーに執着してさらい、自身の屋敷に閉じ込めたのだ。

 しかしわたしがそこへ踏み込んだ時、ルシェリーを殺しかけていたのはヴァンローレンだった。


 おそらくヴァンローレンは、第五皇子のルシェリーに対する執着心を利用して、自分が彼女を手に入れるためにさらわせたのだろう。

 しかしわたしたちが踏み込んでルシェリーを取り戻すと、これまでだと判断した。そしてわたしが二人を国外へ逃がしている間に、すべては第五皇子の罪だと皇帝に報告し、処罰させてしまった。」


「皇帝は第二皇子のしたことを見抜けなかったの?」


「・・・・・・陛下のお考えを理解することは難しい。だが、第五皇子が罪を犯したことは事実だったのだろう。結果として、陛下は第五皇子の処刑を命じられた。」


「イールは何も言わなかったの?」


「第二皇子が『星読みの魔女』を殺しかけたところへ踏み込んだのは、わたしとガウェインだけだった。」


「ガウェインって、アデレイドのお父さんだっけ。

 あー・・・。

 『星読みの魔女』と竜騎士は、一緒に国外へ出たんだよね。

 第二皇子の罪を証言する人がイールしかいなくなったから、追求できなかったってこと?」


「そうだ。しかもわたしが戻った時にはもう、ヴァンローレンが関与した証拠は消されていた。残っていたのは第五皇子がルシェリーをさらって閉じ込め、無理やりその身を汚そうとしていたという証拠だけだ。」


 でも、それで引き下がるの?

 不満なあたしの顔を見て、イールは苦笑した。


「お前がそんな顔をすることはあるまい。」

「しょーがないの。あたしそういうの嫌いだから。」


 諸国漫遊をする白ひげのおじいちゃんや、白馬に乗った将軍さまの出てくる時代劇みたく決着しといてくれれば気楽なのに。


「そうか。・・・わたしもあの件について、納得はしておらん。

 まあ、わたしが手を出す前に、ルシェリーになついていた妹が裏から手をまわして報復していたからな。ヴァンローレンも、それなりの打撃は受けたはずだ。」


「へー。妹がいるの?」


 訊ねると、イールはなぜだか深いため息をつき、遠い目をしてうなずいた。


「そう。妹だ。しかも同じ父と母から生まれたはずなのだが・・・」

「イールと似てないの?」


「似ていると思うところがあったら言え。直す。」


「いやー・・・。あたし、会ったことないから。わかんないよ?」

「・・・・・・そうだったな。すまん。」


 なんか強烈なひとらしい。

 詳しく話したそうな雰囲気ではなかったので、話を戻した。


「それで結局、第二皇子は公的には罰を受けなかったの?」

「ああ・・・。公的な場でわたしとヴァンローレンが正面からぶつかると、内乱を引き起こす可能性があるからな。すでに第五皇子が処刑されるという決着がついていたこともあって、表立って追求することはできなかった。」


「皇子二人がぶつかっただけで、そんなすぐ内乱になるの?」


 イール。

 やはりそれも知らんのだな、というなまあたたかい目で見てないで、教えてください。

 あたしは何も知らんのよー。


「ヴァングレイ帝国の帝位を継ぐのは、“初源の火”を持つ竜人のみと決まっている。

 “初源の火”は、古竜の血をとくに濃く継ぐ竜人にしか顕われない力だ。

 そして現在、“初源の火”を持つ皇子は、わたしとヴァンローレンの二人のみ。


 つまり、わたしたちが争うということは、帝位継承権を持つ二人の皇子の対決として、それぞれの支持者を巻き込んだ内乱を引き起こす可能性があるのだ。」



 ・・・・・・うん。



 そんなような予感はあったよ。

 でも、はっきり言われると、さすがにげんなりするね。



 現在進行形で権力争いをしてる渦中のひとに、協力するって言っちゃったんだなー、と。



 まあ、封印を解くのを手伝うって約束しただけで、権力争いにまでのこのこ巻き込まれるつもりはないけど。


 なんかどんどん面倒くさそうな話になってくねー・・・





「イール。もう一杯お茶飲む?」


 いまさら騒いでも、どうにもならんし。

 とりあえず一服することにしたあたしに、イールは「頼む」と空のカップを差し出した。





 リオちゃんはドラマより時代劇の方がお気に入りのようです。作者の趣味もありますが、現実の生活がドラマのような状態になっているせいかと思われます(おもにアマネちゃん周辺)。そんなわけで、越後屋だけ処分されてお代官様が生き残ったような話に、ご機嫌ナナメになりました。まあ、「正義感が強い」からじゃないんですけどねー・・・。

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