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第三話「好奇心は猫を殺す。」




 案内された【目覚めの泉】は本当に泉だった。

 召喚された石造りの建物の奥。

 そこだけ中庭のようになっていて天井がなく、四角く切り取られたぬけるように青い空から、まぶしい陽射しがさんさんとふりそそいでいる。



「きれい・・・」



 天音がうっとりとつぶやいた。

 確かに綺麗だ。

 ひとすじのさざ波もない、磨き抜かれた鏡のようなちいさな泉と、その周りには宝石でできたような幻想的な草花。



「アマネさま、どうぞあの泉にお入りください。」

「・・・このまま入るの?」

「あれは普通の泉ではありませんので、お召し物が濡れることはございません。」



 不安げな天音に、にっこりとやわらかな笑顔で王子が答える。

 とくに害のありそうなものはなかったし、勇者と祭りあげる相手をわざわざ窮地に立たせることもなかろうと思ったので、あたしは立ち止まったままの天音の背を「いっといで」とかるく押した。


 天音はあたしを振り返りながら緑の草のなかをゆっくりと歩き、おずおずと泉に入った。

 瞬間。









 ------ カッッ!!!!









 夜明けの空のようにひろがる、爆発的な白い光。



「おお・・・!!」

「さすが伝説の勇者さま!」

「まさかこれほどの力をお持ちとは!!」



 王子とつき従ってきた人々が感嘆の声をあげる。

 しかし、泉のなかの天音はそれに気づいた様子もなくそっと瞼を閉じると、ひざまずいて何かに祈るように両手を胸の前で組んだ。




 あたしはしばらくその様子を見守っていたが、あまりに長くかかるので大丈夫だろうかと不安になり、中庭に一歩踏み入った。

 ・・・はずが。









「あれー・・・?」









 一瞬にして風景が変わり、奇妙な場所に立っていた。


 白い石造りだったはずの神殿が、いつの間にか黒い石造りの神殿になっていて、あたりを見回しても誰もいない。

 びっくりしたままふと足下を見てみて、はっと気づいた。



「裏側?」



 床の向こうに、さっきまで近くにいた人たちの足下が見えた。

 彼らは泉のなかの天音に夢中で、あたしがいなくなったことに気づいている様子はない。

 前を見れば、水晶でできたような草花のなかにある“裏側”の泉の向こうには、“表”の泉でいまだ祈るように瞼を閉じている天音の姿。





 あれは【目覚めの泉】。

 なら、この“裏側”にあるのは、何?





 こちらの泉もさざ波ひとつない透き通った水をたたえている。

 あたしは好奇心につき動かされ、透き通った神秘的な草花の間を歩いていくと、ちゃぽんとその泉に入ってみた。

 瞬間。









 ーーーーーー バキィィィンッ・・・!!!!









 巨大で分厚いガラスが割れるような、凄まじい破壊音がとどろいた。

 電気ショックを受けたように体がびくんと激しくけいれんし、糸の切れた操り人形(マリオネット)のように泉のなかへ倒れて沈む。

 そして。









 闇が、生まれた。









 空間のすべてが無光の闇に飲み込まれてゆくのに、あたしは不思議なほど冷静な頭で、奇妙な感覚のひろがりを理解する。



 視覚。

 聴覚。

 触覚。

 嗅覚。



 闇とともにひろがっていく、あたしの感覚。

 今や、この“裏側”にある神殿のどこに何があるのか、あたしには手に取るようにはっきりとわかった。



 ここに人はおらず、“外”もない。

 家具もなく、ただこの建物だけの、閉じた世界。





「・・・・・・」





 静寂が心地よいが、いつまでもひたっているわけにもいかない。

 ゆっくりとまばたきをして、ふるえるようにため息をつき、そろりと体を動かした。

 腕も足もまだうまく動かなかったが、あたしは苦もなく立ちあがる。



 “闇”を操って、自分の体を支えているからだ。



 はっきりとそれを理解しているせいか、全身からザァッと音を立てて血が引いていくのが耳に聞こえた気がするほど、青くなった。








 ・・・・・・なんかヤバイことになったぞ?








 “闇”っていったら“光”の対極、敵対する関係だったはず。

 【目覚めの泉】で閃光を爆発させた天鳥が「勇者」なら、たぶんその敵の「魔王」は“闇”・・・・・・








 あたしって人類の敵ですかーーーっ?!!!








 こんな泉になんて入らなきゃよかった・・・・・・

 混乱してぐるぐるになっている脳裏に、「好奇心は猫を殺す」ということわざが浮かんで、消えた。





 はい。リオちゃんようやく裏道へ踏み込みました。これからどんどん正規ルートをはずれていきまーす。

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