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第二十六話「紫紺の不審者。」




 〈異世界二十二日目〉







 朝からずっと、昨日よりすごい雨が降ってる。

 また宿屋に缶詰め。

 でも、ちょーどいいかも。

 あたしはレグルーザに頼んで、魔法付きの槍を見せてもらうことにした。





「これ、槍だけど、槍じゃないみたいだね。」


 レグルーザの部屋で壁に立てかけられた槍を見たり触ったりしてから、あたしはふむとうなずいて言った。


「槍ではない?」


 ナイフの手入れをしていたレグルーザに、けげんそうに訊き返されたので説明する。


「刃の反対側に、紫色の珠がはまってるでしょ?この中に“何か”がいるんだろーね。その子と契約した人がこれを持つと、槍以外の形にも変えられるようになってるみたいだよ。」


「・・・以前、知人から「精霊に似た気配を感じる」と言われたことがあったな。」

「あー。精霊。なるほどねー。そういえば[白の護符ホワイト・アミュレット]の中にいる子と似てるかも。」

「わかるのか?」

「何となーく、ね。この子、封印されて熟睡中みたいだから、存在感がすごく薄いの。」

「その封印は、解けるのか?」

「解けるっていうか、たぶん破れる。ちょっとほころびてるトコロがあるから。封印自体は後付けの魔法だし、破っても本体には影響ないと思うよ。」


 「破る・・・。精霊の封印を・・・」とつぶやいて、なんだか背中に哀愁をただよわせたレグルーザは、ひとつため息をついて首を横に振った。

 何か葛藤することがあったらしいが、あきらめたようだ。

 妙に覚悟した眼であたしを見た。


「では、リオ。精霊を解放してやってもらえないか。」


「いいけど、この封印、破るとイロイロあるかも。」

「どういう意味だ?」


「えーとね。まず、重さ。コレ、すっごい重いでしょ?素材の重さも多少はあるんだろーけど、精霊の封印が重たいせいみたいだよ。あー、でも、加重の魔法も一緒にかかってるっぽいなー?」


 槍を眺めて言いながら、首を傾げる。


「んー?これやった人、何がしたかったんだろーね?精霊を封印して契約できないようにしたあげくに、コレそのものを重たくして、簡単には持てないようにしてあるんだよ。展示用にでもしたかったのかなー?」


 レグルーザが納得したようにうなずいた。


「その可能性はあるだろう。稀少金属(レアメタル)であるミスリル銀で作られている上、ライザーの作品だという話だったからな。おそらく使う目的でなく手に入れたものが、封印したのだろう。」


「らいざー、って名前?」


「古代の魔法使いであり、鍛冶師でもあった有名な男の名だ。魔法を込めた武具を作りだし、ただ人を一騎当千の猛者に変えたという。・・・まあ、真実の知れん昔話だ。この槍も、ライザーの作品だという話を聞いたが、作品目録には載っていなかった。」


「ふーん・・・?でもこれ、ライザーって、書いてあるよ?」


 あー、あたしの知らない呪文かと思ってたら、製作者のサインだったのか。

 なるほど、とうなずいていたら、目を点にしていたレグルーザがナイフを置いて飛んできた。


「どこに書いてある!」

「・・・いやー、レグルーザには見えないと思うよー。」


 勢い込んで訊かれても、そうとしか答えようがない。

 とりあえずこのへん、と指差すと、睨むようにそのあたりを凝視して、あきらめた。

 ありゃー。珍しい。

 レグルーザがちょっとしょんぼりしてる。


「お前の目はどうなっているんだ・・・」

「なんか見えちゃうんだよ。しょーがないでしょ。」


 それよりも、もうひとつ訊いておくべきことがある。


「あとね、レグルーザ。封印破って精霊起こすのはいーけど、その精霊と契約しないと、コレ使えなくなるかもしれないよ?」

「どういう意味だ?」


「んー・・・。持てなくなる、って言うのが正しいのかな。コレ、なんていうか、この珠に封印されてる精霊に、かなり強く影響されるようにできてるのね。だから契約してない人は拒まれて、たぶん触ることもできないと思う。」


 だからもし契約できないと、レグルーザにも持てなくなるかも。

 それでも封印破っていいの?と訊くと、わりとあっさりうなずかれた。


「ああ。かまわない。精霊は封じられるべきものではない。」

「でも、ずっと愛用してたんでしょ?」

「折れることも、盗まれることも無かったからな。」

「あー。なるほど。」


 そりゃー盗まれんだろう。

 レグルーザくらい腕力ないと、動かすこともできないのだ。

 もうほんとに、ハンパなく重くて。


「リオ、俺のことは気にしなくていい。精霊を解放してやってくれ。」

「・・・うん。わかった。」


 こっくりうなずいて、紫紺の珠の前に座りなおす。


「それじゃー、破ります。」


 あたしは封印のほころびに指をつっこんで、陶器をつつんだ包装紙をはがす感じでそれを破った。

 びりっと。


「お前、素手か!」


 レグルーザがツッコミをくれた。



 バチバチバチッ!!



 破れて崩れた封印が、いくつもの魔力の小爆発を起こして閃光を発する。

 それは封印を破った手の近くで起こったが、あたしの魔力の方が純度が高いので無害。

 が、レグルーザはとっさにあたしの襟首を引っつかみ、ベッドの上に放り投げた。

 べしゃ、とベッドに落っこちたあたしは、のどをつまらせ、げふげふセキこむ。

 完全に不意打ちで、受け身がとれなかった。


 剛腕のトラにーちゃん、もちょっと手加減を願います。


 なんて言ってるヒマはなく、カッ!と最後に一度、強い光を放って封印は完全に壊れた。

 そして、しんと静まり返った宿屋の部屋に、槍と入れ替わりでふわりと舞い降りたのは。



 ・・・・・・綺麗なおねーさん?



 淡い紫紺の髪は長く、滝のように背を流れ落ちて足元で渦を巻いている。

 肌は透き通るように白く、まどろんでいるような瞳は紫紺。

 浮世離れした端正な美貌のなかで、あざやかに紅い唇がふと、艶めいた笑みを浮かべ。


 ベッドの上でぽけっと座っていたあたしを押し倒してきた。



「ひーーーっ?!」



 美女の下敷きにされ、唇を寄せられて情けない悲鳴をあげる日がこようとは、夢にも思わなかった。


 完全なパニックにおちいって硬直したあたしを、美女の下から間一髪で引き抜いたレグルーザが、片腕で持ちあげて避難させてくれた。

 その肩にふるえながらひしっと抱きつくあたしに、ベッドの上に座った美女は、よくわからない、という様子で小首を傾げた。



《 そなた、わらわと契約を交わしたいのではないのか? 》


 どこか無邪気な子どもを思わせる、不思議な響きの声だった。


《 はよう、魔力をおくれ。わらわは、そう、なんと言うたか。 》


 うむ、とひとりうなずく。


《 お腹が空いておるのじゃ。 》



 ・・・・・・だからって、なんで押し倒すんだい?!


 意味わかんないよ!

 このひとコワイよ!



 ネコだったら全身の毛並みを逆立てて「フシャーッ!!」とうなっているだろうあたしに、「リオ、威嚇するな」となだめるように言って、レグルーザが紫紺の不審者を見おろした。



「人型をとれるほど高位の精霊が封じられているとは思わなかったが・・・。聞いてくれ、この娘はお前を封印から解放しただけだ。契約を望んでいるわけではない。」


《 さようか。ならば、わらわが望もう。娘、戻りや。 》



 かろやかに言って、ひらひらと細い手でまねく。


 誰が戻るか!!

 こんなわけわかんないのに喰われるのはヤだよ!


 うまく口が動かなくて言葉で言えないので、全身で拒絶する。

 レグルーザはぽふぽふとあたしの背中を叩いて「落ち着け」と繰り返した。


 じゃあコレなんとかしてー!(半泣き)


 お前が解放した精霊なんだが、とかつぶやいたが、レグルーザはため息をついて不審者に言った。



「精霊よ、契約を望んでいるのは俺だ。」


《 さようか。ならば、わらわにその娘を捧げよ。 》



 イケニエですかっ?!


 捧げられてたまるかと、ますますひしっとレグルーザにしがみついた。

 うう・・・。

 このままじゃどうなるやら。


 あたしはふるえながら口を開いた。



「あ、あたしは契約しないし、イケニエにも、なりたくない」


《 魔力をわけ与えてくれるだけで良いのじゃ。はよう、おくれ。 》


「ど、どーやって・・・?」





《 うむ。わらわと交わるか、そなたの血を飲ませておくれ。 》





「・・・・・・」


 にっこり微笑む、浮世離れした美貌にすぱっと言われて思考停止。







 ほんと今、何て言ったの、この不審者・・・・・・?







 数十秒後。

 あたしはかつてなく真剣に訊いた。






「レグルーザ。これは〈隕石落し(メテオストライク)〉の出番だよね?」






 やめてくれ、と疲れた声が返ってきた。





 ファンタジーに必須(?)の要素。第三弾は美形の人型精霊さーん。まあ、裏道に出てくる精霊なので、だいぶんイロイロ違いますが・・・。R15担当で、レグルーザの苦労が増えそうな感じ?とりあえずリオちゃんには威嚇されました。夜の歓楽街は平気で歩くのに、意外とそのへんの経験値は低かったねー。

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