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第二十三話「武器屋巡り。」



 〈異世界十九日目〉







 目が覚めると、見覚えのない木造の天井が見えた。

 ここどこだっけ、と思い出すのにしばらくかかる。

 あー・・・。


 鉱夫と鍛冶師の街、ローザンドーラの宿屋だ。


 とりあえずお腹が空いていたので部屋を出て下へ降りると、宿屋の女将さんに「もう起き上がっていいのかい?」と訊かれた。

 昨夜、あまりの疲れに食堂で夕飯を食べながら寝てしまったあたしを、レグルーザが部屋へ運んでくれたそうで、女将さんはその一部始終を見ていて具合が悪いのかと心配してくれたらしい。

 事情を説明して体調は良いと伝え、心配してくれたことに感謝する。


 先に起きて朝ごはんを食べていたレグルーザにも「ありがとーね」と礼を言うと、しばらくの沈黙の後で「気にするな」との答えが返ってきた。

 いやー、体力なくてごめんよー。





 朝ごはんを食べ終わると、レグルーザが槍を預けた工房へ行くというので、見物がてらついていくことにした。


 表通りに並ぶたくさんの看板を素通りして、慣れた足取りでさびれた裏通りの店へ入る。

 錆びた看板と同じ、あちこちにほこりの積もった年代物の店内には、何歳なのかわからないほど年取った老人が、窓辺の揺り椅子に座っていた。

 だいじょーぶですか。

 と、何もしていなくても心配になるほどの老人ぶりだった。

 ・・・失敬。


 店に入ってすぐ、レグルーザの鳴らしたベルで、壮年の男性が奥から出てきた。

 鍛冶師はその人のようで、レグルーザは槍のことを話しながら一緒に奥へ入っていった。


 あたしは窓辺のおじーちゃんのところへ行って、あいさつをした。

 おじーちゃんは何も言わなかったけど、あたしがそばに座ってしばらくどうでもいいようなことを喋っていると、何色なのかわからない目をすーっと細めて、ふるふるとふるえる手で、ぽむ、と頭を撫でてくれた。

 なんかえらい満足した。

 おじーちゃん、ありがとー。

 うるさかったら、ごめんねー。



 銀色の不思議な光沢を持つ、金属質な槍を持って奥からレグルーザが出てきた。

 刃がついているらしい槍の先端には、房飾りのついたおおきな革袋がかぶせられている。


 あ。この槍、魔法付きだ。


 興味をひかれて、あたしはじーっとそれを見つめた。

 浮かび上がるように見えてくる魔法陣は[古語(エンシェント・ルーン)]で構築され、槍に魔法を込めている。

 そして刃と反対の端、石突きにはめ込まれた紫紺の珠は、これまた[古語]が絡みついた強い魔力のこもった物だ。

 しかも[風の精霊石]みたいに中に“何か”いるっぽいし、絡みついている[古語]はそれを封印しているような構成。


 おもしろそー。

 後でゆっくり見せてもらおう。


 ふむ、とうなずいてから、そういえばと思い出す。

 これは先日の会話で出た、あたしより重いという愛用の槍だったはずだ。

 ためしに持ってみたいと言ったら、鍛冶師のおいちゃんに豪快に笑われた。

 レグルーザは何も言わずカウンターに槍を置いた。

 あたしははりきって柄を掴んだのだが、持ち上げようとした瞬間、あきらめた。

 まず、その場から動かせもしなかったので。

 へたするとこれ、レグルーザより重いんじゃないだろうか。

 こんなん愛用って、どんな筋肉よ。

 当たり前のようにまた槍を持ったレグルーザを呆れ気味に見あげ、おじーちゃんとおいちゃんに手を振って店を出た。



 レグルーザの用事が済んだので、あたしの手に合う武器を探そうということになり、小奇麗な店の並ぶ表通りに戻った。

 さっきの店は修理専門だそうで、新しい武器は扱っていないんだとか。

 いろんな店があるもんだ。

 ふーんとうなずきながら、レグルーザについて店に入る。



 大剣、長剣、細剣、短剣。

 ナイフ、槍、弓、ハンマー、ナックル、フレイル、ムチ。

 それに加えて、それぞれの変型。



 あたしは天音と違って、剣道も弓道もやってなかった。

 体術の基本は天音の鍛錬のついでにおかーさん(強いのよー)に仕込まれ、実際にケンカして勝手に腕がみがかれただけ。

 まともに武器を扱った経験が無いのだが、何がいいのだろうか。


 そう話すと、とりあえず使い勝手の良さそうな短剣かナイフをすすめられたので、軽めの短剣を一本買ってベルトにひっかけた。

 刃物は一本あると便利だし、短剣には柄があるから使い道がひろいだろうと思ったのだ。

 短剣の手入れの仕方を教えてもらってから、他にもいくつかの武器にさわらせてもらったが、どうにもしっくりくるものがなかったので店を出た。





「そういえば、攻撃魔法を使えるとは聞いたが、どんな魔法なんだ?」


 休憩がてら昼ごはんを食べながら、レグルーザが訊いた。

 あたしは塩からい味付けの多いローザンドーラの料理を食べながら答えた。


「〈隕石落し(メテオストライク)〉とか〈大地震(アース・クエイク)〉とか〈大渦嵐(ヴォルテックス)〉とか。」


 レグルーザは無言でうなずき、数秒の沈黙の後、鋭い口調で厳命した。


「街の近くで使うなよ。」


 うん。

 ぜんぶ地形が変わっちゃう感じの無差別攻撃だもんねー。


「ほんと、どーしたもんかね。一番威力が弱そうなので〈火焔の吐息(フレイム・ブレス)〉だからさー。」

「地形は変わらんだろうが、周りが焦土になるぞ。」

「あー。〈氷雪の吐息(ブリザード・ブレス)〉だと氷づけになるんだろーね。だいじょーぶ。必要無ければ使ったりしないよー。」


「・・・・・・俺より前に出るな。」


 ため息まじりに言われた。

 ありがとう。

 その時がきたら、きっと遠慮なく頼ります。


「防御魔法は?」

「〈全能の楯(イージス)〉だけ。」


 レグルーザは何ともいえない目であたしをじっと見た。


「・・・お前は、第二の魔王にでもなりにきたのか?」


 “闇”属性なあたしとしては、ほめ言葉として受け取るのにかなり無理のあるひとことだったので、冗談として流させてもらうことにした。


「世界なんかいらんさー。」


 そんなもん手に入れたいと思う情熱はもとから無いし、もしくれると言われたとしても、面倒くさそうだから即答でパスすると思うよ。

 いいかげんな口調で苦笑気味に答え、かるく息をつく。


「あたしが欲しいのは、元の世界へ帰るための魔法だけなんだよ。」


 あ。それで思い出した。

 ラルアークと吟遊詩人の歌を聞いた時、勇者の足取りを訊ねたのだが。

 衝撃のあまりに頭がきちんと働かなくて信じ込んでしまったが、よく考えてみたら、あれって本当のことなんだろうか?


「英雄譚の結末?・・・・・・そういえば、聞いたことがないな。」


 レグルーザは、でっかいのにラルアークと一緒だった。

 英雄譚のことは知っているが、あんまり長いので最後まで付き合って聞いたことが無く、最後は勇者が魔王を倒して終わる、ということくらいしかわからないらしい。


 みんなに最後まで聞いてもらえないなんて、何のために作られたんだか、意味のわからない英雄譚だ。

 まあ、吟遊詩人とかの芸術家の情熱でなければ、(まつりごと)と貴族の道楽で作られてるんだろーけど。



「では、サーレルオード公国へ行くか。」



 レグルーザが言った。

 そーだね。

 初代勇者が本当に大公になってたら、何か記録が残っているはずだ。

 それに、サーレルオード公国の首都にはレグルーザの魔法使いの知り合いがいるそうなので、事情を説明して頼めば、もっと使い勝手のいい魔法を教えてくれたり、帰るための魔法を一緒に探してくれるかもしれない、とのこと。

 いささか変わり者だが、と付け加えられた言葉に少々の不安を覚えたが、溺れる者はワラをも掴む。

 今ならピンクのワラでも掴んじゃうよ。

 あたしは真剣に言った。


 ぜひ会わせてください。





 話していたせいで長くなった昼ごはんを終え、武器屋巡りに戻る。


 剣は直線的すぎてあたしに向いてないし、弓は矢が的に当たらないし、ハンマーは重すぎる。

 槍とフレイルとムチはなかなか良かったんだけど、素振りしてたらレグルーザに止められた。


「お前は無差別攻撃しかできんのか。」


 たまたまかすっちゃっただけだだよと言ったら、今の攻撃は避けなければ致命的な直線コースだった、と冷たい目で返される。

 ・・・すいませんでしたー。


 あーあ。

 シューティング・ゲームなら、ゲームセンターでおとーさんとやりこんでるから、銃があればわりとイケると思うのに。

 自分で作るだけの頭も知識も無いから、しょーがないけど。

 おとーさんのムダ知識、もうちょっと真剣に聞いといてあげれば良かったなー。



 結局、素手でのケンカだけは経験があるということで、ナックルをひとつ買った。

 装備しようとしたらレグルーザに止められ、「俺がそばにいない時だけにしてくれ」と言われた。

 さすがに素手で無差別攻撃はせんよと思ったが、なんだか冗談を言える空気ではなかったので、武器の装備はあきらめた方が良さそうだなーとため息をついてうなずいた。





 時間は早かったけど宿に戻り、夕食をとるのにレグルーザが葡萄酒(ワイン)によく似た色の、お酒っぽいのを頼んでいた。

 異世界の醍醐味ふたたびーとわくわくしながら「あたしも」と頼んでみたが、「これは駄目だ」とレグルーザに止められた。


 トラにーちゃんきびしいよ。

 自分ひとり飲んで、ずるいじゃないか。


 久しぶりにかなり腹が立ったので、あきらめたふりをして油断させてから、横取りして飲んだ。

 「リオ!」とレグルーザが焦って叫ぶ声を聞きながら、この酸味もおいしー、とか思ってたら。



 何これ強すぎ。

 カップに口をつけたまま、記憶がとんだ。





 のんびり街巡り。山あいの街だからきっと街中にも高低差があって、リオちゃんにはしんどかったでしょう。ぐうたらな女子高生だったし。瞬発力はあっても、持久力はあんまりない。学校のマラソンは、きっと最初からサボりにいくタイプです。

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