第二十二話「いざ、空の旅。」
レグルーザから勝手にホワイト・ドラゴンにさわったことを叱られ、そもそもどうやってこの獰猛な魔獣を従えたのかと訊かれたが、なんとか誤魔化した。
つい“闇”を使ってしまったが、これは誰にも言ってはいけないだろう力だ。
うん。
じゃあ、使うなって話だよねー・・・
ほんと、気をつけないといけないんだよ自分・・・・・・
そういえば、ラルアークを捕まえようとしていた男たちから金品を没収した時にも使っちゃってたなー、とか思い出して。
それなりにしょんぼり落ち込んでいたのが良かったのか、レグルーザは納得してなさそうだったけど、今はまあいいと解放してくれた。
昼までに出発しないと、目的の街へ着く前に日が暮れてしまうらしい。
そんなわけでようやく出立準備。
あたしが叱られている間、ご主人さまに向こうへ行ってろと言われ、ペンギンみたいによたよたと歩いていって草原のまんなかで風に吹かれていたホワイト・ドラゴン(背中に哀愁)は、呼び戻されて首の付け根のところにおおきな鞍を置かれた。
その鞍にいくつかの荷物をくくりつけた真冬装備のレグルーザは、いつの間にか特注品っぽい黒のゴーグルをかけている。
防寒用の服を出せと言われて、亜空間に放り込んである荷物をあさっていたあたしは、それに気づくと「レグルーザ、いつもの三割増しくらいかっこいーよー」と素直にほめたたえた。
レグルーザはその言葉にはまったく答えず、「空は寒いぞ」と言ってあたしの口元にマフラーをぐるぐる巻きつけてきたので、息ができなくなった。
窒息するよー。
ぜーぜー息をしながら切実に言った。
剛腕のトラにーちゃん、テレ隠しはもちょっと穏便に願います。
睨まれただけだった。
からかったわけじゃないのになー。
ツンデレちゃんはほめ言葉を素直に受け取ってくれなくて困るよ。
・・・あれ?
レグルーザって、ツンデレ?
いやー。どっちかっていうとクーデレのような気が、
・・・うん。
止まれ、自分。
深く考えるのはやめとこう。
ホワイト・ドラゴン(それなりに立ち直ってた)の鞍には、あたしが前で、レグルーザが後ろから手綱をとる形で乗った。
そうして飛び立つ直前になって、「これを持っていろ」とレグルーザから渡されたのは、濃い色付きの空気からなかなかハイレベルな魔道具とわかる、複雑な細工のネックレス。
何の機能があるのか訊いてみたところ、[風の精霊石]とかいうのを材料に作られた[白の護符]という名前の魔道具で、所有者は風の精霊に守られるらしい。
またじーっと見つめていると魔法陣が見えてきたが、高級宿の防音水晶と同じ、あたしの知らない文字だったので、意味不明だった。
ただ、複雑な細工の真ん中にはめ込まれている大粒の真珠のような[風の精霊石]の中に、強い魔力を持つ“何か”がいるのがわかったので、「よろしくね」とつぶやいて、すこしだけそこへ自分の魔力を流して触れた。
するとその“何か”は、笑うような気配を帯びた。
[白の護符]に、ぽうっと星明かりのような淡い光がともる。
いいよ、という優しい答えのような気がして、嬉しかった。
レグルーザは突然のその光に驚いた様子で、「何をしたんだ?」と訊いてきた。
あたしは「あいさつしただけだよ」と答え、「ありがとう、借りとくね」と首にかけた。
光ってるのは不思議だけど、守る力が強くなっているだけなので、困ることではない。
レグルーザはのぞきこむようにネックレスを見おろしてから、問題無しと判断したのだろう。
手綱でホワイト・ドラゴンに合図し、出発した。
さようなら、王都。
いざ、空の旅。
空から見る世界はどこまでもひろく、大地は見渡すかぎり緑色だった。
イグゼクス王国はなだらかな山と森に恵まれた、緑の多いところのようだ。
そのなかに一筋、なんか古傷みたいな線があるなーと思ってたら、レグルーザがあれは街道だと教えてくれた。
・・・どんだけ高いトコ飛んでるんだろう。
ホワイト・ドラゴンで行く空の旅は、わりと快適だった。
たしかに寒かったけど、服を多めに着こんでいるし、落ちないようにぺったりくっついてるレグルーザがあったかいから、あんまり気にならない。
難点は、ずっと風が吹いてくるので、目が乾いて痛くなってくるというくらいで、これはまばたきするか、しばらく目を閉じて休めば大丈夫。
そうして目を休めていたら、寝ているのかと訊かれたので理由を説明。
これでも[白の護符]があるぶん、風はかなり穏やかなほうだと言われた。
普段は護符無しで飛んでいると聞いて、レグルーザの特注っぽいゴーグルの必要性に納得する。
そりゃー必需品だわ。
道中、二回エンカウント。
ゴールドイーグル(金色のでっかいトリ)が四体出現。
ホワイト・ドラゴンにひと睨みされると、あわくって逃げていく。
君たち何しに出てきたの?
ワイバーン(鋼色でトカゲっぽい、ドラゴンの小型亜種)が三体出現。
襲いかかってきたが、ドラゴン・ブレス一発でまとめて倒され落ちていく。
さよーならー。
そうしてあたしたちは、なんとか日暮れ前に、次の街の近くへ着陸できた。
ホワイト・ドラゴンは鞍と綱をはずされて(両方あたしの作った亜空間へ収納)、そのへんの森に放たれる。
食料も寝床も自力で調達して、ご主人さまに呼ばれた時にはすぐ戻ってくるらしい。
さすがはドラゴン、たくましいねー。
[白の護符]をありがとうと返そうとしたら、そのままつけていていろと言われた。
こんな高そーなモンもらえんよーと困ったら、返してほしい時に言うからいい、との返答。
淡く光っているので表にかけておくと目立つから、服の下へ入れておけと命令される。
いぇす、さー。
助言者に従うよー。
街までは徒歩。
空の上で、目の休憩のついでにうたた寝していたのに気づかれていて、何であんなところで寝れるんだ、怖くないのかとレグルーザに言われた。
あたしは首を傾げた。
ドラゴンの背に乗って、レグルーザの腕の中にいたのだ。
へたなジェットコースターより安心で、怖がる要素なんてどこにも無い。
思った通りのことを素直に言うと、「・・・お前のそれは、わざとやっているのか?」といつもより低い声で訊かれた。
それって何、と訊き返したら、不機嫌そうにうなっていた。
かわいー。
半分くらい本気だけど、残りの半分はもちろん、わざと。
やりすぎないよう気をつけるから、ちょっとくらい許してー?
すぐに後悔。
調子に乗ったせいで休みなくえんえん歩かされた。
山道を。
家畜やほかの旅人の騎獣を驚かさないよう、ある程度街から離れたところで降りるようにしているとか言われたが、あたしの足からするとその距離は「ある程度」どころではなかったのだ。
ごめんなさい。
もーしません(たぶん)。
お願いだから休ませてー・・・
鉱夫と鍛冶師の街、ローザンドーラ。
歩き疲れてくたくたのあたしは、結局、レグルーザの手荷物と化して到着した。
ぐうたらな現代女子高生に、体力なんて無いんですよ・・・
初めての旅立ちはドラゴンな裏道リオちゃんでしたー。個人的にはゴーグルかけたレグルーザがイチオシ。たぶん本人は視界が遮られてイヤだろーなーと思いつつ(笑)。あとなにげに初めてのエンカウントだったんだけど。ドラゴンに乗ってるので他人事のように過ぎました・・・。