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第二話「巻き込まれました。」




 ドシャッと石造りの床に落っこちて、うっとうめく。

 とっさに受け身をとったが、天音を上に抱きかかえていたので、当たり前のように落ちてきた彼女の体に押しつぶされたのである。

 天音が軽かったのは不幸中の幸いか。



 体の上から転がり落ちないように天音を隣へおろし、息をついてなんとか起きあがると、周りの異常な風景に目を丸くする。



「・・・・・・撮影中?」



 現実逃避気味につぶやいたあたしに答えてくれる人はいなかった。





 数本の太い柱に支えられた、白い石造りの神殿。



 ここの第一印象はそんな感じ。

 がらんとしてひろく、あたしと天音がいるのはその中央。

 床には天音の背中に展開していたのと同じような円陣が、何かの塗料で描かれている。





 けれど何よりも驚いたのは、あたしたちの前にずらりと並んだ人々。





 ・・・・・・ふぁんたじーですか?







「二人も召喚されるとは・・・」



 数十人を越す神官っぽい人やら騎士っぽい人やらを従えた、やたらとキラキラしい金髪碧眼の美青年が、天音とあたしを見比べて困惑したように言った。


 あれ?この人、珍しいな。

 天音と並ぶと十人中、九人は確実にあたしのことスルーしてくれるんだけど。

 十人のなかの一人。


 珍獣を見る目で眺めていると、彼は美しい低音の声で訊ねた。





「勇者さまは・・・?」





 はい。

 厄介事でした。





 あたしは一秒の迷いもなく隣で呆然としている天音を指さした。





「このひとです。」





 美青年はまだ困惑していた様子だったが、あたしが確信を持ってうなずくのを見ると、天音に向かってひざまずき、深く頭を下げた。





「勇者さま。我らが国へのご来訪、心より感謝申し上げます。」


「・・・・・・え?」





 えらいものに祭りあげられたと、それでようやく気づいた天音がちいさな声で非難した。



「お姉ちゃんひどい・・・!」



 なにがひどいものか。


 容姿端麗。

 頭脳明晰。

 スポーツ万能。


 神に愛されまくった君以外の、誰が“勇者”だと?



 大勢の人に囲まれている上、キラキラ美青年に頭を下げられているという状況で、涙目の天音はあたしの腕にぎゅっとしがみついてきた。





「わたしはイグゼクス王国第一王子、アースレイ・ライノル・イグゼクスと申します。」



 膝をついたまま、アースレイ王子は小鳥のように怯えている可憐な天音を熱っぽい眼差しで見つめて言った。





 あー・・・・・・

 またか。



 義妹はどこででも速攻で惚れられる。

 それが異世界であろうと。

 すっげー(なげやり)



 あたしは心の中でため息をつきながら王子の説明を聞いた。

 いわく。







 魔王が復活したっぽいから倒してください勇者さま。







 ・・・まあ、もっと遠回しに色々言ってたんだけどね。

 要するにものすごい王道なRPGみたいな感じで「勇者召喚!」とかやられてあたしたちはここにいるらしい。





 喚ばれたのは確実に天音。





 はい。

 巻き込まれました。









 義妹は超人だけど、あたしはただの凡人ですよー・・・?



 遠い目でうつろに高い天井を見上げている間に、王子が話を終えた。



 遠回しでアホらしく身勝手な王道的要求の合間に、魔王とその配下の魔物がやったとかいう極悪非道な所行をはさみまくってくれたせいで、正義感の強い天音はいつの間にか「ひどい・・・!」と静かに怒っている。



 のせられるの早いよなー。

 まあ、君の性格くらい知ってるけどねー・・・



「ところで、お二方のお名前をおうかがしてもよろしいでしょうか?」

「わたしは天音と言います。こちらはわたしの姉で、里桜です。」

「アマネさまと、リオさまですね。では、どうぞこちらへ。」



 こっくりとうなずいた、流されやすい天音の腕を掴んで引き止めた。



「ちょっと待ってくれるかなー?」



 王子はあたしがいることに驚いた様子で、ちょっとびくっとしてからこちらに焦点を合わせてうなずいた。



「・・・はい。何でしょうか、リオさま。」

「あたしのことはリオで結構。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「どうぞ、何なりと。」





「質問したいのは四つ。」





「まず一つ目。元の世界に帰る方法は?」


「ここの召喚陣を起動すれば、元の世界へお返しすることができます。しかし、たいへん膨大な量の魔力がなければ動かすことができません。今日と同じ“双子月の満る時”が四年後に訪れますので、その時に十人の魔術師と二十人の神官の力でお帰しするつもりでおりました。」


「帰ったら四年経ってるってこと?」

「いえ、たしか、召喚された直後の時間にお帰りいただけるはずです。」





 「たしか」と「はず」って何だろうね。

 一応、タイムラグなく帰すつもりではあるようだけど。

 それにしても四年後って、ふざけてるよねー?





「次、二つ目。天音は確かに優れた人間だけど、特殊能力があるわけじゃない。そんな女の子が本当に魔王を倒せる勇者だと思ってる?」


「それは、これよりご案内いたします【目覚めの泉】で、眠れるお力を覚醒させていただければ問題ないかと思います。それに、我々はアマネさまを一人で魔王に立ち向かわせようなどとは思っておりません。十全に準備を整え、我が国の最精鋭を護衛におつけいたします。」





 護衛の話は耳を素通りした。


 覚醒。かくせい?


 あー。そう。“かくせー”ね?

 ・・・とうとう人間やめるのか、天音。

 もとから超人だったけど。


 あたしの内心の考えを見抜いたかのように、天音が睨んできた。

 そんな顔しても可愛いだけだぞ?


 ・・・・・・こほん。





「三つ目。この“勇者の召喚”が行われたのは誰の決定?」


「無論、我が国の国王陛下にございます。」





 誇らしげに言う王子に、よしとうなずく。

 闇討ちすべき相手が判明した。





「最後、四つ目。“勇者の召喚”は、これで何回目?」


「・・・・・・歴史書にあるかぎりでは、三度目のことです。」





 かすかに驚いたような顔で王子は答えた。



 天音、君、三代目の「勇者」さまなんだって。

 つまりこの世界の勝手な事情に巻き込まれた人が、過去に二人はいたってことだよね。

 へー。かわいそー(他人事)。



 それにしても、何だろうねー?ここの人。

 へたれって遺伝するんですかー?



 言いたいことは色々あったが、とりあえず今すぐ彼らに文句を言って険悪な雰囲気になるのは得策ではない。

 当面の衣食住は世話してもらうつもりだし。

 あたしは質問に答えてくれたことに「ありがとう」と礼を言い、【目覚めの泉】へ向かう王子と天音についていった。





 家族以外にはわりと厳しいリオちゃん。アマネちゃんが無防備なぶん、けっこー苦労してたりするお姉ちゃんです。

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